偽ブランド品に関与すると犯罪?商標権侵害について
- 商標法にも罰則規定があり、極めて高額な罰金刑が定められている。
- 真正品の転売は原則的に商標法に違反しないが、偽ブランド品の転売は商標法違反の犯罪が成立し得る。
- 真正品と誤解していた場合には故意が否定されるが、偽物かもしれないと認識していた場合には、故意が否定されない。
弁護士
岡本 裕明
つい先日、偽物のブランド品を店舗で販売していたとして、当該店舗の店長が逮捕されたという事案が報道されていました。この事案においては、ステューシーやクロムハーツといった、有名ブランドの商品が問題となっていたようです。
このような事案は珍しいものではなく、「偽ブランド」のような語句でニュース検索していただければ、同種の報道が数多く見つかると思います。同じような有名ブランドの装飾品だけでなく、有名なスポーツチームのユニフォームのようなものや、寝具やカー用品のように実用的なものまで、色々な物品についての偽物が問題となっていることが分かります。
商標権がどのような権利で、どのような行為に及ぶと商標権を侵害することになるのかについて詳細に理解していなくても、正規品と類似するような外観の商品を製作し、正規品として販売した場合には、犯罪にあたりそうだということはイメージし易いのではないでしょうか。
そして、商標権侵害を理由に刑罰が科されるのが、そのような行為に限られるのであれば、うっかり商標権侵害の罪を犯すということは考え難く、計画的に偽ブランド品を製作しているような犯罪組織に対してのみ適用される刑罰ということができそうです。
逆に、もし偽ブランド品を販売しただけで犯罪が成立するということになると、偽ブランド品と気付かずに自分が使っていた物を転売することによって、知らぬ間に犯罪行為に及んでしまうという事態が考えられます。
今回のコラムでは、商標権侵害について科される刑罰について、偽ブランド品に関する内容を中心に解説させていただこうと思います。
目次
1.商標権とは
弁護士
岡本 裕明
まず、商標権の侵害を理解するにあたっては、そもそも商標権という権利が、どのような権利なのかを理解する必要があります。
商標法
(商標権の効力)
第25条
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし…。
(定義等)
第2条1項
この法律で「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であって、次に掲げるものをいう。
1号 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
2号 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用を するもの(前号に掲げるものを除く。)
ただし書きは一度無視しましょう。商標法第25条の本文は、「指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利」を商標権者が専属的に有している旨を定めています。
そして、その「商標」とは何かという点について、第2条1項が定めており、ザックリ表現すると、目印となるマークのようなものが商標となります。
もっとも、文字や図形等を組み合わせて何かしらのマークを作成することは簡単にできてしまいますから、誰かが以前作成したことのあるマークを他の人が一切使えないということになると、過去に類似するマークが使用されていないかどうかを調査する必要が生じてしまい、何かにマークを付けるという行為が不可能になってしまいます。
そこで、商標権として保護されるマークとするためには、設定の登録が必要となるのです。この点が、そのような登録がなくても保護される著作権とは大きく異なります。
また、商標として保護されるためには、ビジネスとして利用することが予定されているものである必要があります。芸術的な図柄のマークを作成した場合であっても、そのマークが著作物として保護される可能性はあっても、そのマークを利用して商品を販売するようなことが予定されていなければ、商標権が生じる余地はないことになります。
商標権者は、このような商標を商品に付することによって、自社の商品であることを消費者にアピールすることができます。そして、消費者としても、そのマークがついていれば、特定の会社が提供している商品だと分かりますので、安心して購入することができる訳です。
2.罰則規定
弁護士
岡本 裕明
さて。では、このような商標権を侵害したとして、刑罰が科されるのはどのようなケースなのでしょうか。商標法の罰則規定をみてみましょう。
商標法
(侵害の罪)
第78条
商標権又は専用使用権を侵害した者…は、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第78条の2
第37条又は第67条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行った者は、5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(虚偽表示の罪)
第80条
第74条の規定に違反した者は、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金に処する。
(両罰規定)
第82条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号で定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
1号 第78条、第78条の2…3億円以下の罰金刑
2号 …第80条…1億円以下の罰金刑
商標法で定められている罰則規定の中で、代表的なものを列挙させていただきました。他にも、不当な方法で商標登録を得る行為などについて、商標法は罰則規定を設けております。気になる方は原文を御確認ください。
まず目を引くのが、刑法で定められている罪と比較すると、罰金額が極めて高額に設定されている点です。特に、法人に対して科し得る罰金額の上限は、3億円と定められており、刑法で目にする罰金刑の法定刑よりも著しく高額となっていることが分かります。
このような多額の罰金を定める必要があるほど、商標を不当に利用することにより得られる経済的利益が大きいということでしょう。
特に、商標権侵害の罪(第78条及び78条の2)については、罰金と拘禁刑を併科できる定めとなっています。つまり、拘禁刑を科す場合であっても、同時に罰金刑も科すことができるのです。
多くの刑法犯については、罰金刑を科す場合には罰金刑だけを科し、拘禁刑を科す場合には拘禁刑のみを科すこととなっているものが多いです。このような場合、比較的軽い犯罪については罰金刑が科され、重い犯罪については拘禁刑が科されることになることが多いです。しかし、商標法違反については、先程もお話ししたとおり、違法な商標の利用によって得られる金額が大きいことから、拘禁刑を科すべき比較的重い犯罪が行われた場合であっても、財産的な制裁を与える必要があるため、このような規定となっているのです。
3.商標権侵害とは
弁護士
岡本 裕明
以上のように商標法は、それぞれ1000万円以下の罰金を内容とするもの、500万円以下の罰金を内容とするもの、300万円以下の罰金を内容とする罰則規定が定められていますので、行為の悪質さに応じて、段階的に刑罰が定められているような印象を受けます。
そうすると、第78条が1000万円以下という最も高額な法定刑を定めている以上、同条が禁止する行為が、商標法違反の中で最も重篤な違反行為といえる訳ですが、同条は「商標権…を侵害した者」に刑罰を科す旨しか定めておらず、具体的にどのような行為が「侵害」にあたるのかハッキリしません。
この点、一段落軽い法定刑が定められている第78条の2は、第37条で規定されている、「侵害とみなす行為」に対して刑罰を科しています。
(侵害とみなす行為)
第37条
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
1号 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
2号 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であって、 その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
3号 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
5号 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
6号 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
他にもいくつかありますが代表的なもののみ列挙しました。
第78条の2は、侵害とみなす行為として第37条に列挙されている行為に対して刑罰を科す規定です。そして、このみなし侵害行為に関する定めを確認していただくと、「類似する商標の使用」という文言が何度も用いられていることに気付くと思います。つまり、類似はしているものの、正規品の商標とは微妙に異なる場合には、直接的に商標権を侵害している訳ではなく、侵害をみなす行為として処罰されることになるのです。
そうすると、偽ブランド品については、正規品の商標とは異なるものが用いられることになる訳ですから、「みなし侵害」事案として取り扱われることになりますし、多くの裁判例も「みなし侵害」として商標法第78条の2が適用されています。
4.真正品の転売
弁護士
岡本 裕明
商標法違反で起訴されている刑事事件の裁判の中では、被疑者や被告人から、自分達が取り扱っていたのは正規品であった旨の反論や、実際には偽物だったとしても正規品だと信じていた旨の反論がなされることがあります。
しかし、正規品を販売していたのだとすれば、それは「類似する商標の使用」ではなく、商標そのものを使用していることになりそうで、自身の罪を余計に重くするような主張になってしまうのではないでしょうか。
このような理解が正しいとすると、正規品を転売する行為が全て商標法違反ということになりかねません。
しかし、この点については、商標権者が適法に販売した商品については、商標権者が利益を得ることができていますので、その商標権は目的を達して消尽する(消尽理論)と理解されています。
この消尽理論という問題は、商標法を理解する上での一つの大きな争点ですので、ここでは深入りしません。さしあたり、単に正規品を転売するだけは、原則として商標法に違反しないとだけ御理解いただければと思います。
しかし、転売行為が商標法に違反しないのは、購入した商品をそのまま転売する場合です。商品を改変して販売する行為などについては、偽ブランド品を販売した訳ではなくても、商標法違反が成立しますので注意する必要があります。
一方で、偽ブランド品については、商標権者に利益が生じていませんし、何かが消尽する訳ではありません。ですから、偽ブランド品を製作した訳ではなくても、偽ブランド品を転売するだけで、「類似する商標の使用」に該当することになるのです。
他方で、偽ブランド品を販売していたことが明らかとなった場合であっても、そのブランド品が真正なものだと認識していた場合には、意図的に商標権を侵害しようとしている訳ではありませんから、商標法違反の故意がないものとして、犯罪は成立しないことになります。
ですから冒頭で紹介したような反論が多くみられることになるのです。
5.商標法違反と弁護活動
弁護士
岡本 裕明
まず、商標法違反の犯罪が成立するかどうかについて慎重に吟味する必要があります。偽ブランド品は、真正品だと誤解させるために作られている訳です。中には、一見して明らかに真正品ではないような商品もあるかもしれませんが、真正品として販売できるように、一定程度のクオリティを有していることが多いように思います。
自ら偽ブランド品を作成している場合などについては、問題となっている商品が真正品でないことは明らかですが、そうでない場合については、本当に偽物なのかどうかについて検討する必要があります。捜査機関による接触がある以上、捜査機関としては偽ブランド品であることが明らかだと考えているのだと思います。もっとも、真正品かどうかの鑑定は、商標権者の従業員等、内部の人間でなければできないケースが多く認められます。薬物の鑑定等と異なり、自社製品かどうかは、内部で働いている方でなければ、判断できないことが多いからです。
したがって、ある意味では、被害者自身が鑑定を行うようなものといえます。弁護人として、捜査段階においてそのような鑑定の信用性を確認できる機会は基本的にないように思いますので、真正品であるとの主張が成立し得るのかについて、入手経緯等から慎重に検討する必要があるでしょう。
そして、鑑定結果等から真正品ではないことについて争う余地がない場合であっても、入手経緯等から、真正品だと御認識していたという主張が成立し得るかどうかについても十分に検討が必要でしょう。
逆に、偽ブランド品であることを認識して転売していたという容疑を否定できない場合には、減刑を目指して活動することになりますが、偽ブランド品が作成されるようなケースは、著名なブランドがターゲットになることが多く、示談交渉に応じていただけないことがほとんどですし、その賠償額も極めて高額になることが多いように思われます。
また、商標権者とは別に、真正品だと誤解して真正品を購入した方等に対する賠償等も考えられます。
上述したように、商標法違反について高額な罰金が定められているのは、多額の犯罪収益を得られると解されている点にありますから、賠償等を通じて犯罪収益と評価され得るものを、できる限り吐き出すことが求められるでしょう。
6.まとめ
以上のように、商標法違反については、偽ブランド品を作成した上で流通させるような行為だけでなく、偽ブランド品を転売するような行為においても成立します。偽ブランド品だという認識がなければ、商標法違反の成立を否定できる余地はありますが、偽物だということについて未必的な故意(語弊のある言い換えになりますが、偽物かもしれないという認識)さえあれば、犯罪は成立してしまいます。
ブランド品を商標権者以外から購入した際に、自分の思っていたものと違うと感じて転売することによって、商標権を侵害してしまう可能性は否定できないのです。
今回は、様々な態様がある商標法違反に関する刑事責任について、ひとまとめに解説させていただきましたので、やや内容が大雑把なものになっています。
もし、過去の行為で御心配事がある場合や、既に捜査機関や商標権者からの接触を受けている場合には、御気軽に弊所まで御相談ください。