フリーランス法違反とは?指導・勧告から刑事罰までの流れと指摘されたときの対応
- フリーランス保護新法に違反した場合、多くは指導・勧告などの行政上の措置で扱われ、刑罰が科されるのは命令違反や報告・検査の拒否などに限られる。
- 刑罰は50万円以下の罰金のみで、会社も罰せられる両罰規定がある。
- 勧告等の行政処分には公定力が認められるものの、刑事裁判の中でその違法性を争い得る。
フリーランス保護新法(以下「フリーランス法」といいます。)に違反した場合、多くはまず行政による指導・勧告で扱われ、従わなければ命令と公表に進みます。刑事罰が科されるのは、命令に違反した場合や、行政からの報告の求め・立入検査を拒んだ場合などに限られ、その刑も50万円以下の罰金のみです。
フリーランス保護新法という法律について耳にしたことがある方は多いのではないかと思います。令和5年4月28日に成立し、令和6年11月1日に施行された法律ですが、厚生労働省が、フリーランスとして業務を行う側にも、フリーランスに業務を委託する側にも、広く周知されるように努めていたことが窺われます。私も、タクシーに乗車した際に、後部座席に設置されたタブレットで、同法を遵守するように求める映像を何度か目にしました。
この法律は、フリーランス人口が大幅に増加しているにもかかわらず、その保護が不十分だった点を是正しようというものです。
具体的には、ランサーズ株式会社が公表している「フリーランス実態調査2024年」によると、10年前と比較して39.1%も人口は増加しており、経済規模も38.8%も増加しているそうです。
一方で、労働基準法等で強く保護されている労働者等と比較すると、それ以上に弱い立場であるにもかかわらず、フリーランスを保護する法制度が十分ではありませんでした。
したがって、フリーランスを保護するための法律として新たに立法されることになったのです。
フリーランス法の対象となるのは、従業員を使用しない個人や、代表者一人だけの法人に対して、事業者が業務を委託する取引です。デザイン、ライター、システム開発、配送、講師など、業種は問いません。
このように説明すると、刑事罰とは無関係にも思えますが、何故、人を罰するための罰則まで設けられているのでしょうか。
内容を早速確認してみましょう。
目次
1.法律の定め(罰則)
まずは、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス保護新法)の罰則規定を確認してみましょう。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
第24条
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、50万円以下の罰金に処する。
1号 第9条第1項又は第19条第1項の規定による命令に違反したとき。
2号 第11条第1項若しくは第2項又は第20条第1項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したとき。
第25条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して同条の刑を科する。
第26条
第20条第2項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処する。
以上のように罰金か過料についてしか定められていませんから、比較的軽微な刑罰が予定されているものといえます。とはいえ、前科は前科ですから、このような刑事罰が科されるようなことがないようにする必要があります。
なお、第26条の過料は、行政上の秩序を守るための制裁であり、刑罰ではありませんので、前科にはなりません。また、フリーランス法には、拘禁刑(旧懲役)は定められていません。
他方で、第25条は、いわゆる両罰規定です。違反行為をした担当者や役員が罰せられるだけでなく、会社にも同じく50万円以下の罰金が科されることになります。
それでは、第24条及び第26条が刑罰の対象としているのは、どのような行為なのでしょうか。こちらも条文を確認してみましょう。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
(命令)
第9条1項
公正取引委員会は、前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
(報告及び検査)
第11条1項
中小企業庁長官は、第7条の規定の施行に必要な限度において、業務委託事業者、特定業務委託事業者、特定受託事業者その他の関係者に対し、業務委託に関し報告をさせ、又はその職員に、これらの者の事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
以上のとおり、何らかの勧告を無視したことによって、その勧告に従うように出された命令に違反した場合や、同法の順守状況についての報告違反等について刑罰が定められていることが分かります。
つまり、刑法で定められている窃盗や暴行のように、何らかの行為に及んだ場合に、直ちに刑罰が科されることが予定されているのではなく、何らかの勧告等を受けたのにもかかわらず、その内容に従わなかった場合に、刑罰が科されるという建付けになっているのです。
処罰の対象となる行為を整理すると、次のとおりです。
| 処罰される行為 | 条文 | 刑 |
|---|---|---|
| 命令に違反した | 24条1号(9条1項・19条1項の命令) | 50万円以下の罰金 |
| 報告をしない・虚偽の報告をした、検査を拒んだ | 24条2号(11条1項・2項、20条1項) | 50万円以下の罰金 |
| ハラスメント対策に関する報告の求めに応じない・虚偽の報告をした | 26条(20条2項) | 20万円以下の過料 |
2.公表された勧告・指導の事例
以上のとおり、勧告等が出された段階で、その勧告に従うことができれば、刑罰が科されることは回避できることになります。
では、これまでフリーランス保護新法との関係で、どのような勧告が出されているのでしょうか。公正取引委員会は、出版社、楽器教室、郵便関連などの事業者に対する勧告を公表しています。
公表されている中で最初の事例については、出版社に対する勧告となっています。報酬額や支払期日等の事項について、フリーランスである委託先に書面で明示しなかったことに加え、支払うべき期日に報酬を支払わなかったという事案に対するものです。
そして、勧告の概要としては、今後の業務委託に際して上述した内容等を書面で明示することなどについて取締役会の決議で確認することや、他のフリーランスとの関係で同様の問題が生じていなかったかの調査を行うことなどが求められています。
他の事例との関係でも、上述した例と同様に、書面での明示がなされていなかったことや、報酬についての支払期日が遅いことが指摘されているようです。
問題が明らかとなっているフリーランスとの間で、契約内容を見直すだけであれば、早期に対応は可能なのかもしれませんが、他の委託先であるフリーランスとの関係でも、調査及び改善が求められることになります。
ですから、勧告に従うことができれば刑罰を科されることはないのですが(刑罰が定められていなくても従うべきものでもあります)、勧告に従うこと自体、簡単なものではありません。
また、2025年3月28日には、ゲーム制作、アニメーション制作、リラクゼーション、フィットネスの4業種について、一斉調査に基づく指導が公表されました。対象は45名で、事業者名は公表されていません。
公正取引委員会の公表によれば、令和7年度(2025年4月から2026年3月まで)のフリーランス法に基づく勧告は10件、指導は1,542件でした(2026年9月時点の公表内容)。勧告に至る事案は一部ですが、指導の件数は多く、多くの事業者が調査の対象になっていることが分かります。
3.違反になる行為(フリーランス保護新法の定める内容)
以上のとおり、勧告に直ちに従うこと自体、相当に労力がかかることになるでしょうし、そもそも勧告については公正取引委員会が企業名を含めて公表していますので、刑罰を科されなくても、企業にとっては大きなレピュテーションリスクとなり得ます。
そこで、できる限り勧告を受けること自体も避ける必要があります。
どのような場合に勧告を受けることになるのか、法律の定めを再度確認してみましょう。
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
(特定受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)
第3条1項
業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法…により特定受託事業者に対し明示しなければならない。
(報酬の支払期日等)
第4条
特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日…から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
他にも、フリーランスに業務を委託する際に求められる遵守事項についての定めは存在しますので、主なものは後ほど表にまとめています。今回は、先程の勧告例においても指摘されていた条文等を抜き出しました。
3条1項は、契約内容について口頭で知らせるだけでは足らず、書面(電磁的方法でも可)によって明らかにすることを求めています。
そして、4条は、フリーランスに依頼した業務が完成した日から60日以内に、報酬を支払うように定めています。
これまでの慣行通りに、契約を締結していると、このような条文に抵触する可能性があるのです。特に、自社に有利な規定として設けたつもりではなくても、報酬の支払時期が、法律の定める内容よりも遅い時期に定まっている契約書は多く散見されます。うっかり違法な内容の契約を書面化してしまわないように注意する必要があるでしょう。
また、一定期間以上継続する業務委託では、成果物の受け取りを拒むこと、後から報酬を減らすこと、相場より著しく低い報酬を一方的に決めること、不当にやり直しをさせることなどが禁止されています(5条)。
さらに、フリーランス法は、取引の内容だけでなく、働く環境を整えるための義務も定めています。募集情報を正確に表示すること、育児や介護との両立に配慮すること、ハラスメントの相談体制を整えること、長期の取引を中途で解除する場合に予告することなどがこれに当たり、これらは厚生労働省が担当しています。
主な義務をまとめると、次のとおりです。
| 義務 | 条文 | 違反の例 | 担当する行政機関 |
|---|---|---|---|
| 取引条件の明示 | 3条 | 報酬額や支払期日を書面・メールなどで示さず、口頭だけで依頼する | 公正取引委員会・中小企業庁 |
| 報酬の支払期日 | 4条 | 給付を受け取った日から60日を超える支払期日を定める、期日までに支払わない | 公正取引委員会・中小企業庁 |
| 禁止行為 | 5条 | 受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、不当なやり直しなど | 公正取引委員会・中小企業庁 |
| 就業環境の整備 | 12条〜14条・16条 | 募集内容の虚偽表示、ハラスメントの放置、予告のない中途解除など | 厚生労働省 |
公正取引委員会の公表によれば、令和7年度に違反とされた行為の8割強を、取引条件の明示義務違反と支払期日の違反が占めています。
4.違反が疑われた後の流れ
では、違反が疑われた場合、どのような流れで手続が進むのでしょうか。一般的には、次のとおりです。
1 フリーランスからの申出や、行政による調査
2 報告の求めや立入検査
3 指導・助言
4 勧告
5 命令(勧告に従わなかった場合)
6 命令違反に対する刑事罰
行政は、違反の有無を確認するために、発注事業者に報告を求めたり、事務所に立ち入って帳簿などを検査したりすることができます(11条・20条)。この権限は、犯罪の捜査のために認められたものではないと法律で定められています(11条4項)。もっとも、前述のとおり、報告を拒んだり虚偽の報告をしたりすると、それ自体が刑事罰の対象になります。
違反の程度が軽い場合などには、指導や助言が行われます(22条)。指導は、事業者名を公表しない扱いとされています。
これに対して、勧告を行った場合には、公正取引委員会は企業名を含めて報道発表しています。これは法律で義務付けられたものではなく、運用として行われているものです。命令については、命令をしたときに公表することができると法律で定められています(9条2項・19条2項)。
5.違反を指摘されたときの対応
行政から報告を求められたり、立入検査を受けたりした場合には、誠実に対応することが何より重要です。報告をしない、虚偽の報告をする、検査を拒むといった対応は、それ自体が刑事罰の対象になるからです。
また、公正取引委員会は、発注事業者が、調査が始まる前に違反を自ら申し出て、違反行為をやめ、フリーランスが受けた不利益を回復する措置をとるなどの事情が認められる場合には、勧告を行わない取扱いをしています。違反に気づいた場合には、このような自発的申出を検討する価値があります。
未払いの報酬がある場合はすぐに支払い、取引条件を書面で示していなかった場合は改めて示すなど、改善措置を先に進めることも大切です。他方で、申出をしたフリーランスに対して、申出の取下げを求めたり、取引を打ち切ったりすることは、申出を理由とする不利益な取扱いとして禁止されています(6条3項)。
再発を防ぐためには、発注書や契約書のひな形に明示事項が漏れなく入っているか、社内の締め日や承認手続のせいで支払期日を過ぎることがないかなどを点検しておく必要があります。なお、下請法は、2026年1月1日から「取適法」に改められており、取引の内容によっては、取適法とフリーランス法の両方が問題になる場合があります。
6.弁護活動
以上のとおり、刑事罰としての罰金を科すための、取調べが行われるとした場合、その前提には行政処分としての勧告や命令が出されていることになります。この命令に従わなかった場合に、刑事手続が開始されることになる訳です。
すなわち、このようなシチュエーションに陥っているケースでは、勧告や命令に不満を有しているケースになるものといえるでしょう。
ですから、刑事手続が開始された段階でのアドバイスとしては手遅れになってしまいますが、まずは、勧告には従っておくべきでしょう。というのも、行政処分には「公定力」が認められるため、その内容が不適切で不当であったとしても、取り消されるまでは有効な処分として扱われることになるからです。
では、刑事手続が進捗してしまった場合には、どのような主張も行えないのでしょうか?
勧告自体を取消す訴訟を提起することも考えられますが、刑事手続が進捗してしまっている場合には、その刑事訴訟の中で勧告の違法性を主張できた方が直截です。この点について、最高裁判所昭和53年6月16日判決は、刑事裁判の中で、「本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり…効力を有しない…。そうだとすれば…被告会社に無罪の言渡をすべき」と判示しており、刑事裁判との関係では公定力が及ばないことを前提としているように理解できます。
したがって、刑事裁判の中で、勧告の違法性を主張していくことは可能です。
とはいえ、勧告自体が違法であることを主張するのは、専門的な知見がなければ困難ですし、極めてハードルが高いものといえます。このような主張で戦うかどうかの判断に際しては、専門家と十分に協議の上で決断する必要があるでしょう。
行政への報告や説明の内容を法的な観点から整理することも、刑事手続に進む事態を防ぐうえで重要です。相談先としては、公正取引委員会などの相談窓口のほか、刑事手続に進むおそれがある場合には、刑事事件を扱う弁護士にご相談ください。
7.まとめ
以上のとおり、フリーランス保護新法との関係で、刑罰を科する旨の条文は定められているものの、基本的には刑罰を科するのではなく、勧告等によって対応することが予定されているものといえます。
だからこそ、刑事罰を科すための刑事手続に進捗してしまった場合には、事態が極めて深刻な状況になっているといえますので、大至急専門家への相談が必要となります。
違反を指摘された段階で、報告や検査に誠実に対応し、是正を早く進めることが、刑事手続に進む事態を防ぐ最善の方法といえます。
既に、勧告等の処分について相談されている場合であっても、刑事手続と行政手続は同じではありません。一度、刑事を専門とする弁護士に御相談いただければと思います。









