目次
1 傷害罪とは
傷害罪とは、人の身体に傷害を負わせる行為に関する犯罪で、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます。傷害罪といえば、他人を殴って怪我をさせるというのが一般的なイメージですが、実際はこれだけにとどまりません。例えば、相手に精神的苦痛を与え続け、相手をうつ病にしてしまうのも傷害罪になります。対して、被害者が怪我をしなければ暴行罪になります。暴行か、傷害かの判断は相手が怪我をしたかどうかによります。また、被害者が傷害の結果として死亡したのであれば、傷害致死罪になります。このように、行う行為が同じでも、結果によって関連犯罪が成立することもあります。傷害罪に関連する罪についての条文は下記関連条文もご参照下さい。
2 傷害罪の成立要件
(1)傷害罪の保護法益は人の身体の安全です。
人の身体の安全を護るために、この罪が定められていて、これが害された時に、この罪で罰せられるということです。
(2)傷害罪の実行行為(加害者が行う行為)は人の身体を「傷害」することです。
「傷害」の意義について、判例は「人の生理機能に障害を与えること、または人の健康状態を不良に変更すること」と解する生理機能障害説に立っていると言われています。
要するに、医学的に何らかの処置を要する状態にすることと考えれば良いでしょう。
相手に唾を吐きかけても、傷害とはいえない一方、相手を殴って骨折させたりすれば、これは傷害に当たります。
(3)傷害罪の結果は、当然、人の身体が傷害を負ったこと、ということになります。
相手の生理機能に障害が与えられたか、又は健康状態が不良になった場合に、傷害の結果が発生したといえるので、この観点から確認する必要があります。
3 傷害罪の故意
傷害罪の故意について、「相手に怪我を負わせるつもりではなかったけれども、結果として怪我を負わせてしまった場合」の取り扱いがよく問題となります。
たとえば、相手を脅かすつもりで殴ったけれども、怪我を負わせるつもりはなく、軽めに殴ったつもりだったが、予期に反して相手が怪我をしてしまった、というような場合です。
判例は、傷害罪は故意犯であると同時に、暴行罪の結果的加重犯を含むから、傷害罪の故意としては暴行の故意だけで足りるとする見解に立っています。
つまり、人の身体を傷害した場合は、暴行の故意しか有していなかったとしても傷害罪が成立することになります。
上の具体例でいえば、加害者は相手を脅かすつもりで殴っているのであり、怪我を負わせるつもりはなかったのですから、暴行の故意にとどまります。
しかし、故意に相手を殴っており、結果として相手は怪我を負ってしまいました。
この場合には、判例の考え方からすれば、傷害罪の故意が認められることになります。
4 良くご相談いただく行為態様
暴行罪や傷害罪は、ささいなトラブルが原因で刑事事件に発展するため、弁護士へのご相談も多い類型の犯罪です。
傷害罪についていえば、飲酒の上でのトラブルや、満員電車内でのトラブルなど、身近に起こりうるささいなトラブルがきっかけとなり、結果として相手に怪我を負わせてしまうというケースが多いように思います。
相手の怪我がそれほど大きくない場合であっても、医師が診断書を書いてくれる程度の生理的障害があれば、暴行罪ではなく傷害罪となってしまいます。
傷害罪については、上の「傷害罪の故意」のところに記載した通り、相手に怪我を負わせようと思って攻撃することが要件となっていないので、怪我を負わせるつもりなく相手に接触したところ、結果的に相手が怪我を負ってしまった場合、傷害罪が成立してしまいます。また、相手に傷害があるか否かは、一般的に医師の診断書によって判断されますので、自分が相手を突き飛ばしてしまい、相手が怪我を負ったと主張して診断書が警察に提出されれば、暴行罪ではなく傷害罪として捜査を受けることになります。
5 傷害罪の弁護方針
(1)逮捕の可能性
傷害罪の場合、加害者の行為態様が悪質ではなく、被害者の怪我の程度が軽微であれば、逮捕にまでは至らないケースも多くありますが、路上で見ず知らずの人に対して暴行を加えた場合や、男女関係のもつれから暴行を加えた場合などには、警察に逮捕される可能性が高くなります。
(2)逮捕されたら
傷害罪の場合、逮捕されたとしても、弁護士が弁護人として受任して、検察官や裁判官に意見書を提出すれば、勾留がされずに釈放されるケースも少なくないので、早い段階で弁護士をつけて対応することが望ましいといえます。
傷害罪の場合、被害者に身体的なダメージを与えており、被害者に病院での治療費や精神的苦痛などがかかっているため、被害者に対する被害弁償が必須であり、被害者と示談できるかどうかが重要になってきます。
そして,被害者との示談ができれば、不起訴処分(起訴猶予)になる可能性が高くなりますが、通常は被害者は、加害者である被疑者と直接会うことを拒否しますから,弁護人を介して被害者と示談交渉をしていくことになります。
弁護士は、警察官、検察官(捜査機関)に対して、被害者の連絡先を教えるよう要請します。捜査機関は被害者側に連絡を取り、加害者側からの示談交渉の要請があったことを被害者に伝え、連絡先を弁護士限りで教えて良いかどうか被害者に確認します。被害者と示談交渉ができて、被害者と示談が成立すれば、被疑者が逮捕・勾留されていても、すぐに釈放されることが通常ですので、被疑者の早期釈放という意味でも、被害者との示談には早急に着手すべきです。
また、もし傷害罪で起訴されてしまったとしても、被害者と示談できているかどうかは、執行猶予判決をもらえるかどうかに大きく関わってきます。
起訴後であっても積極的に弁護士を弁護人として示談交渉を行った方がいいでしょう(なお、被害者側に示談の意思がない場合など弁護士を通しても、被害者との示談交渉が難しい場合には、しょく罪寄附や供託を行っていく場合もあります)。
また、飲酒の上でのトラブルから傷害を行なった場合には、アルコール依存症であればその治療をしたり、被疑者の生活態度を具体的に改善させていく必要があります。
傷害事件の中には、反社会性の強い共犯者と事件を起こしてしまう場合もありますが、このような場合には、被疑者が共犯者や反社会性の強い人間との関係を断ち切っていくことが必要になります。
6 法定刑一覧(傷害罪の関連条文)
刑法第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は,十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法第205条(傷害致死)
身体を傷害し,よって人を死亡させた者は,三年以上の有期懲役に処する。
刑法第208条(暴行)
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは,二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
刑法第208条の2(凶器準備集合及び結集)
1 2人以上の者が他人の生命,身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合 した場合において,凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者 は,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において,凶器を準備して又はその準備があることを知って人を集合 させた者は,3年以下の懲役に処する。刑法第206条(現場助勢)
前2条(傷害,傷害致死)の犯罪が行われるに当たり,現場において勢いを助けた者は,自ら人を傷害しなくても,1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法第209条(過失傷害)
1 過失により人を傷害した者は,30万円以下の罰金又は科料に処する。
2 前項の罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない。業務中の過失で他人に怪我を負わせた場合には,業務上過失致傷罪,過失の程度が重い場合には,重過失致傷罪になります(刑法第211条,5年以下の懲役若しくは禁錮,又は100万円以下の罰金)。