目次
1 廃棄物処理法違反事件とは
廃棄物処理法(正式名称は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」といいます。)とは,廃棄物の排出を抑制,また,適正な処理をし,生活の環境を清潔にし,生活環境を守ること,公衆衛生の向上を図ることを目的として制定されている法律です(廃棄物処理法第1条)。
「廃棄物」とは,同第2条により,『ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であつて、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによつて汚染された物を除く。)』と定義されています。
廃棄物処理法は,「廃棄物(ごみ等)」を排出するすべての人に対して,規定を定めている法律であり,これに違反すると,刑罰が科せられることとなります。
2 廃棄物処理法違反の成立要件
廃棄物処理法違反の罪は,「廃棄物」の排出および処理(分別,保管,収集,運搬,再生,処分等)について,一般人・事業者・土地又は建物の占有者(管理者)・国及び地方公共団体が,廃棄物処理法において規定されている,一定の責務を果たさなかった場合に,成立します。
よく耳にする「不法投棄」も,廃棄物処理法違反のひとつであり,5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金という重い罰則が科せられることがあります。
3 廃棄物処理法違反の罪の故意
廃棄物処理法の規定を知らなかった場合であっても,「廃棄物」の処理に関する責務を免れることはなく,例えば,壊れた家電製品を捨て方がわからなかったため,道端に放置した等の場合も,廃棄物処理法違反が成立します。
また,廃棄物処理法違反事件において,その処分した物が「廃棄物」にあたるのかどうかが争われることもありますが,当事者がその処分したものが「廃棄物」にあたるのかを知らなかった場合であっても,規定により「廃棄物」に該当する時は,廃棄物処理法違反の罪に問われてしまうことになります。
4 よくご相談いただく行為態様
(1)不法投棄,不法焼却
不法投棄とは,「廃棄物」をみだりに捨てることを指します。廃棄物処理法第16条では,『「何人も」みだりに廃棄物を捨ててはならない。』と規定しており,つまり,一般の方であるか,事業者であるか等関わらず,「誰でも」不適法に「廃棄物」を捨てた場合,逮捕される可能性があるということです。
よくあるケースとして,粗大ゴミを自治体のルールに従わずに,道端に捨てる行為がこれにあたります。なお,一般のゴミであってもルールに従わずに捨てると,これも不法投棄となります。
また,不法焼却とは,廃棄物処理法の基準に従わずに,「廃棄物」を焼却する行為で,例えば,田畑や庭で家庭ごみを燃やすこともこれにあたり,廃棄物処理法により,5年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金が科せられることがあります。なお,焼却炉での焼却についても,規定の構造基準に満たない焼却炉であった場合,罰則の対象となりますので,ちょっとしたゴミだから,自治体のルールに従って処分するのは面倒だから,といって,安易に焼却もしくは投棄することはせずに,必ずルールを確認した上で,処理することが大切です。
(2)無許可営業,無許可営業者への委託
「廃棄物」の処理を事業として行う場合,市町村長等からの許可が必要となります。この許可を得ずに,「廃棄物」の収集・運搬をした場合,廃棄物処理法違反となり,5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金が科せられます(廃棄物処理法第25条)。なお,廃棄物処理法違反は,そのほとんどが両罰規定(従業員が違反をした場合,従業員および,その雇い主である法人にも罰が科されること)が適用され,法人について,3億円以下の罰金が科せられます(廃棄物処理法第32条)。
また,無許可営業者へ「廃棄物」の収集・運搬の委託をした場合も罰則の対象となりますので,注意が必要です。
(3)許可に関する義務違反
「廃棄物」の処理を事業として行うために,市町村長等からの許可を得ていた場合であっても,許可を出した機関からの命令に背いたり,事業についての変更があったにも関わらず,変更についての許可を受けなかった場合は,罰則の対象となります(廃棄物処理法第15条,26条,29条,30条,31条)。
5 廃棄物処理法違反の弁護方針
(1)犯罪事実を認める場合
ア 弁護方針
廃棄物処理法違反で逮捕されてしまうと,半数以上が起訴されてしまう傾向にあります。起訴されてしまうと,判決により刑罰が科され,例え罰金刑にとどまった場合でも,前科がついてしまいます。
また,廃棄物処理法違反については,両罰規定のため,違反者が従業員である場合,会社全体の問題となります。
公の利益に関する犯罪のため、直接の被害者がいないため示談手続き等ができない場合もありますが、きちんとした処理を講じたこと、費用捻出者がいる場合には被害弁償すること、並びに、再発防止策を講じたことなどを捜査機関にアピールするなどして、不起訴に向けた弁護活動を行うこととなります。そのため、早期に弁護士へ相談し,不起訴処分を得るために,迅速に対処することをお勧めいたします。
イ 身柄拘束からの早期解放
逮捕・勾留されてしまった被疑者について,早期解放を目指すために,弁護士から警察や検察に保釈の請求をします。その際,例えば不法投棄により,逮捕されている場合には,その投棄した廃棄物を適切に処理し,原状回復をする,既に処理されている場合には,処理対応した個人・機関に対して処理にかかった費用を弁済し,その事実を警察や検察に示します。
その他,不法焼却・無許可営業・義務違反等で逮捕されてしまった場合には,その原因や環境を清算し,再犯のおそれがなくなったことを示し,保釈の請求をします。
ウ 再犯防止策
廃棄物処理法違反において,再犯防止策を明確に警察や検察に示すことは,不起訴処分を得るために重要なこととなります。
具体的には,不法焼却を可能とする環境を手放すこと,また,不法投棄・焼却をしないためにも,許可を得ている業者との委託契約を結ぶことなどがあります。
なお,無許可営業については,会社を清算する,もしくは転職するなどして,営業が不可能な状況にする等が挙げられます。
(2)犯罪事実を否定する場合
廃棄物処理法違反事件において,否認をする場合は,まず,①そもそも「廃棄物」にあたるのかどうか,そして,②条文に違反した処理方法であったのかが論点となります。
廃棄物処理法は,改正が度々にある法律である上,理解が難しくもあります。
法律の専門家である弁護士にて,事案を検討・的確なアドバイスをさせていただきますので,警察より廃棄物処理法違反についての捜査を受けた際には,お早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。
6 法定刑一覧(参考条文)
①廃棄物処理法第15条
廃棄物処理事業に関する規定等(省略)
②廃棄物処理法第16条(投棄禁止)
何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない。
③廃棄物処理法第16条の2(焼却禁止)
何人も、次に掲げる方法による場合を除き、廃棄物を焼却してはならない。
④廃棄物処理法第25条〜34条(罰則規定)
第25条
次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第25条の2
前項第十二号、第十四号及び第十五号の罪の未遂は、罰する。
第26条
次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第27条
第二十五条第一項第十二号の罪を犯す目的でその予備をした者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第27条の2
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第28条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第29条
次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
第30条
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
第31条
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした情報処理センター又は廃棄物処理センターの役員又は職員は、三十万円以下の罰金に処する。
第32条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。
第33条
次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の過料に処する。
第34条
第二十条の二第三項の規定に違反して、その名称中に登録廃棄物再生事業者という文字を用いた者は、十万円以下の過料に処する。
<廃棄物処理法違反に関する法定刑一覧>
犯罪の種類 | 法定刑 |
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不法投棄 | 5年以下の懲役若しくは1000万円の罰金またはこの併科 |
不法焼却 | 5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこの併科 |
無許可営業 | 5年以下の懲役若しくは1000万円の罰金またはこの併科 ※法人については3億円以下の罰金 |
無許可営業者への委託 | 5年以下の懲役若しくは1000万円の罰金またはこの併科 |
許可に関する義務違反 | ・3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金またはこの併科 ・6ヶ月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金 ・30万円以下の罰金 |