目次
1 公然わいせつ罪とは
公然わいせつ罪とは、公然、つまり、不特定または多数の人が認識することのできる状態で、わいせつな行為をすることで成立する犯罪であり、刑法174条に規定されています。
公然わいせつ罪は、公の性風俗を取り締まるという目的を持っていますので、その場にいる人たちが全員同意していたとしても、成立します。
2 公然わいせつ罪の成立要件
(1)「公然と」わいせつな行為をすること
公然とは、実際に、不特定または多数の人が認識する必要はなく、その認識の可能性があれば「公然と」にあたるとされています。
(2)公然と「わいせつな行為」をすること
性器の露出や性交を行うなど、いたずらに人間の性欲を興奮または刺激させる行為で、一般人の善良な性的道義観念に反するものをいいます。
(3)公然わいせつが故意であること
行為者が、公然わいせつをしているとの認識・認容していることが必要です。
なお、行為者自身が公然わいせつ罪を犯しているという認識がなくとも、その行為(性器の露出等)とその客観的状況(公然であること)の認識があれば、その行為がわいせつ行為であり、公然といえるのかを、知っている必要はないとされています。
また、公然わいせつ罪は、公然とわいせつな行為をすることによって直ちに既遂となるため、未遂を処罰する規定は刑法に置かれていません。
3 公然わいせつ罪に関連する犯罪
(1)わいせつ物頒布等罪
公然わいせつ罪に関連する犯罪として、「わいせつ物頒布等罪」というものがあります。 有償・無償を問わず、わいせつな画像や動画、音声などを不特定又は多数の人がインターネットを通じて交付するような行為がそれにあたります。 インターネットが主流となった現代では、WEBサイトやSNS、チャットやアプリなどでこういった犯罪が身近に発生しております。
刑法第175条
第1項 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者
第2項 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者
4 公然わいせつ罪で逮捕・起訴される、よくある行為(具体的態様)
(1)公共の場での全裸や下半身の露出する行為
こういった公然わいせつの場合、目撃者により通報が入り、警察が現行犯逮捕することがほとんどです。
また、被害届を受けた警察の捜査において、防犯カメラに露出行為などが録画されていた場合、特定され、公然わいせつ罪として逮捕につながるということもあります。
(2)車の中や公園、マンガ喫茶などでの性行為または性能類似行為
車の中などであっても、不特定多数が認識できる状況で、性行為または性交類似行為に及べば、公然わいせつ罪となり得ます。
(3)ストリップなどの性風俗店での、陰部なとの露出行為
たとえ、ストリップなどの性風俗店であっても、不特定多数が見ることのできる状態で陰部などを露出したのであれば、公然わいせつ罪に該当します。
ここで逮捕されるのは、営業をしていた店側と、露出した本人であり、客として来ていた人が公然わいせつ罪で逮捕されることはまずありません。
5 公然わいせつ罪の弁護方針
(1)公然わいせつの犯罪事実を認める場合
ア 弁護方針
公然わいせつ罪の場合,同じような地域で複数回公然わいせつ行為をしているようなケースが多く、被疑者が逮捕・拘留される可能性が高いと言えます。逮捕・拘留されてしまうと、職場に知られてしまう可能性が非常に高くなってしまいます。
そこで、早期に弁護士を介入させ、①再犯の可能性、②被害者(目撃者)との接触の可能性という点を排除し、勾留されないよう、弁護士から、検察官や裁判官に意見書を提出してもらうことが非常に効果的です。
また、警察がいきなり逮捕しない場合もあるので、その場合には、任意での事情聴取の話が来た段階で、弁護人を付けるのをお勧めします。
イ 目撃者等精神的被害を被っている人への被害弁償
被疑者・被告人が公然とわいせつな行為をしたことによって、精神的被害を被っている人がいる場合(わいせつ行為の目撃者が特定されている場合)には、その人に対して被害弁償をしていくことも重要です。
公然わいせつ事件においては、法的には被害者という立場の人はいないのですが、公然わいせつ行為の目撃者は、多くの場合、実質的に被害者と同様に扱われますので、その人に被害弁償して、示談書を取り交わすことは、被疑者の処分や、被告人の判決に一定程度の意味を持ちます。
ウ 再犯防止策
性犯罪の場合には,加害者に性依存症が疑われることもあります。この場合には,二度と同じ過ちを起こさないために専門の医療機関に通院するということも,重要になります。アルコールによる犯罪の場合にはアルコール依存症対策なども重要です。
(2)公然わいせつの犯罪事実を否定する場合
そもそも公然わいせつ行為がない場合や、わいせつ行為には当たらない場合などは、事情聴取の際に作成される供述調書の内容が非常に重要になってくるため,早期に弁護士をつけることが必要です。この時点で作成される供述調書が防犯カメラなどの客観的な証拠と矛盾していると,それだけをもって被疑者・被告人の主張が退けられてしまう可能性があります。
また,公然わいせつ罪で被疑者を起訴したり,被告人を有罪にしたりするためには,目撃者の供述が重要な役割を果たしますので,嫌疑不十分を理由とした不起訴処分や無罪判決を勝ち取るためには,目撃者の供述を弾劾していく必要があります。目撃者の供述を弾劾するためには,早い段階で弁護士を付けて,こちらに有利な証拠をかき集めておくことが重要になってきますので,できるだけ早い段階で弁護人を付けた方がいいでしょう。
6 公然わいせつ罪の法定刑一覧(参考条文)
①刑法174条(公然わいせつ)
公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
②刑法175条(わいせつ物頒布等)
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
<公然わいせつ罪に関する法定刑一覧>
犯罪の種類 | 法定刑 |
---|---|
公然わいせつ罪 | 6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料 |
わいせつ物頒布等罪 | 2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料。または懲役および罰金を併科 |