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コラム

賄賂が犯罪になるのって公務員だけなの

簡単に言うと…
  • 刑法は公務員との関係についてのみ、収賄罪を規定している。
  • 私人に対するものであっても、会社法上の収賄罪が適用され得る。
  • 会社法の収賄罪の適用範囲は狭いが、特別背任罪や独占禁止法違反等の犯罪該当性も検討しなければならない。
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 ここ数年、大きな国政選挙が立て続けに行われました。その度に、政治と金の問題が大きく議論されているように感じます。
一部の政治家やその秘書との関係では、政治資金規正法違反の容疑で捜査が行われるなども報道されました。
 もっとも、このような裏金問題について、一般の方の感覚からすれば、「賄賂」として収賄罪や贈賄罪が成立するように感じられるのではないでしょうか?
 また、一般的に裏金と呼称されるお金の動きについては、相手が政治家や公務員でなくても、違法なもののように感じられるのではないでしょうか?では、「賄賂」を受け取った私人は処罰されるのでしょうか?
そう考えると、どのような行為が「賄賂」として犯罪になるのかについては、一般的に正しく理解されている訳ではないように感じます。
 そこで、今回は、公務員や政治家以外に、裏金が渡されるような行為も含めて、どのような行為が何罪として処罰され得るのかについて考えてみたいと思います。

1.政治家や公務員に対する行為について

 まず、「賄賂」について、日本の刑法は収賄罪と贈賄罪を定めていますので、これらの罪がどのように定められているのかについて確認してみましょう。

刑法

(収賄、受託収賄及び事前収賄)

第197条1項
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の拘禁刑に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の拘禁刑に処する。
(贈賄)
第198条
 第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の拘禁刑又は250万円以下の罰金に処する。

 このように、刑法上の収賄罪の主体となれるのは、「公務員」に限定されています。そこで、公務員以外の人間が裏金を受け取ったとしても、刑法上の収賄罪は成立しませんし、収賄罪が成立しない以上、贈賄罪も成立しないことになります。もっとも、「公務員」の中には、「みなし公務員」として公務員とみなされる職員も含まれることに注意が必要です。例えば、日本銀行の職員(日本銀行法第30条)や弁護士会の会長や副会長は(弁護士法第35条3項)は、公務員という訳ではありませんが、刑法の適用に際しては、公務員とみなされる旨が定められていますので、「賄賂」を受け取った場合には、収賄罪が成立することになるのです。
 このような収賄の罪と政治資金規正法がどのように違うのかについても確認しておきましょう。

政治資金規正法

第23条
 政治団体が第8条の規定に違反して寄附を受け、又は支出をしたときは、当該政治団体の役職員又は構成員として当該違反行為をした者は、5年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金に処する。
第24条
 次の各号のいずれかに該当する者…は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
1号 第9条の規定に違反して会計帳簿を備えず、又は…第9条第1項の会計帳簿に記載すべき事項の記載をせず、若しくはこれに虚偽の記入をした者
2号 第10条の規定に違反して明細書の提出をせず、又はこれに記載す べき事項の記載をせず、若しくはこれに虚偽の記入をした者

 政治資金規正法はザル法と指摘されることもあり、法改正が必要だと理解されております。それでも現行法も十分に複雑な定めとなっていますので、気になる方は法律の原文をご確認ください。
 先程の収賄罪は、単に裏金を渡すだけでは成立せず、「その職務」に関するものである必要がありました。そこで、何のためのお金だったかがハッキリしない場合には適用が難しいという側面もあります。
 しかし、政治資金規正法の場合、「裏金」として、帳簿に記載しない行為や、届出に及んでいない主体としてお金を受け取っただけで、処罰することができるという点で、刑法上の贈収賄罪よりも適用し易いものといえるでしょう。
 もっとも、政治資金規正法は、全ての公務員に適用されるわけではなく、一定の政治団体にしか適用されない点に注意が必要です。

2.会社の役員に対する行為について

 以上のとおり、収賄罪というと基本的には、公務員を相手にする犯罪として理解されてきました。しかし、あくまで刑法上の収賄罪が公務員の身を対象にしているだけで、公務員以外の収賄行為に対する処罰を定める法律は存在します。

会社法

(取締役等の特別背任罪)

第960条
 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1号 発起人
2号 設立時取締役又は設立時監査役
3号 取締役、会計参与、監査役又は執行役
(取締役等の贈収賄罪)
第967条
 次に掲げる者が、その職務に関し、不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金に処する。
1号 第九百六十条第1項各号又は第2項各号に掲げる者

 会社法は、会社の任務に違背し、会社に損をさせて、自身や第三者に利益を生じさせるような行為を特別背任罪と定めています。そして、この特別背任罪の主体となり得る役職を制限しているのですが、この特別背任罪の主体となりうる取締役や監査役等については、会社法第967条で収賄罪の対象ともなっているのです。
 他方で、刑法において、「請託」(裏金を渡す対価としての何らかの行為や不作為を要求すること)は、収賄罪の成立要件ではなく、その罪を重くするか加重要件として定められていましたが、会社法上の贈収賄罪との関係では、「不正の請託」が存在しなければ、成立しない旨が定められています。
 国民全体からの信頼が問題となっている公務員と異なり、会社の経営者との関係では、利益をあげることができていれば株主等の信用には一応応えており、「不正の請託」を伴って初めて、株主等の信用を害することに伴うものと考えられるでしょう。

3.民間企業間におけるキックバックについて

 政治家に対してお金を渡す代わりに、自分が経営する企業に公共の事業を受注させてもらおうというシーンは、裏金が使われる典型的なシーンとして、皆様も思い浮かべることができるのではないでしょうか。
先述したとおり、このようなケースでは、刑法上の収賄罪が成立することになります。
では、民間企業間で同種の行為が行われるということはあり得るのでしょうか。例えば、A社がB社の取引先として選んでもらうために、いくらかの金銭を支払ったとしても、それは純粋な経済活動として犯罪には該当しないのではないでしょうか?
 このようなケースは取締役等による行為というより、現場の担当者レベルで行われることが散見されます。もっとも、そのようなケースでは、B社側の担当者が、A社に対して、取引を継続させるための条件として、Bに別個の金銭を払うように要求したり、B側の担当者が実際の価格よりも高額な価格でAと取引をした旨をB社に報告して、その差額を着服するようなケースが多いです。
 このような場合、会社を被害者とする、従業員による背任又は横領行為であって、収賄罪という感じはしません。
同様の行為を、B社の役員が行った場合も同様に、特別背任又は横領行為が問題となるのであって、収賄が問題となることはないでしょう。
 それは、これらの行為があくまでも会社に損害を与える行為ですから、収賄罪の適用よりも前に、背任罪や横領罪の適用が検討されるべきケースだからです。

4.会社の役員に対する贈収賄罪が成立するケース

 このように考えると、会社法上の収賄罪が成立するケースはそこまで多くないことがわかります。また、実際に適用されたケースも多くありません。
 しかし、会社法上の特別背任罪の成立には、会社へ損害が生じたことが求められますので、そのような損害が明らかにならないようなケースにおいては、贈収賄罪の適用に意味があるようにも思われます。
 例えば、数年前の話になりますが、関西電力の会長や社長らが原子力発電所のある自治体の元助役から計約3億2千万円の金品を受け取っていたことが問題視されたことがありました。しかし、このケースも結局、不起訴処分で終結しております。
 この点について、東京高等裁判所昭和37年5月17日(高等裁判所刑事判例集15巻5号335頁)は、「涜職罪の規定は、株式会社役員…の清廉性を要求する面も存するが、第一義的には、営利を目的とする株式会社の財産的損失を防止することを立法目的としたものであり…同条の規定は特別背任罪を規定した同法第486条第1項の規定を補足したものと解すべきである。」と判示しており、清廉性を損なわせるだけでは、犯罪が成立しないものと解しています。

5.贈収賄と弁護活動

 以上のとおり、贈収賄とは、公務員や政治家との間でだけ問題になる訳ではないことを解説させていただきましたが、会社法上の贈収賄の規定はあまり一般的に適用されるケースが少ないことも分かりました。
 そうすると、このような事案の弁護活動を依頼された弁護人としては、まず、会社法上の贈収賄罪が適用されるべき問題なのかどうかについて検討する必要があるでしょう。一定程度の金銭の流れが明らかになったとしても、政治家や公務員が問題となっている訳ではない以上、許容されるべき経済活動としての側面が認められ得る可能性があるからです。
 他方で、贈収賄罪ではなく、役員の特別背任罪の適用についても検討する必要があります。こちらは、決して適用が珍しいケースとまではいえないからです。特に、取締役等の行為によって、会社に損害が生じていると判断できる場合には、
特別背任罪の適用が問題となり得ますので、短期的にマイナスが生じる場合であっても、将来的なリターンを考えれば、会社に損失が生じないと考えられることや、個人的な利益のための活動ではなかったことを主張していくことが考えられるでしょう。

6 まとめ

 以上のとおり、公務員や政治家に対する贈収賄罪と、会社の役員らに対する贈収賄罪については、その守備範囲が異なることもあり、後者については、あまり適用数が多くないのが現状です。
 一方で、今回は解説の対象にし切れませんでしたが、如何に会社には損害を与えておらず、短期的に見れば会社に利益を与えるような行為であっても、市場における適切な競争を阻害する行為として認定された場合には、独占禁止法違反の行為として認定される可能性は残ります。
 そもそも収賄罪の成立が認定されなくても、裏金のやり取りが明らかになった場合のレピュテーションリスクは小さくないものと思われます。
 一般的に許容される取引行為との差異は、社会が複雑化し、新たな取引形態が生まれる中で、どんどんと不鮮明になってきていると思われます。このような点について、お悩みがある場合には、どうぞ御気軽にご相談ください。

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