略式罰金処分とは何か?前科になるの ?
- 罰金刑は過料と異なり前科となる刑罰の一種である。
- 略式罰金処分は、法廷における裁判手続が省略されているだけで、刑罰の内容としては通常の罰金刑とかわらない。
- 略式命令が下された場合も、正式な裁判を求めることが可能なこともあるため、慎重な判断が必要となる。
岡本 裕明
犯罪行為に及んだ結果として、刑務所に服役することとなってしまった場合、刑法等の法律を具体的に認識できていなくても、前科がついてしまうことは常識的にご理解いただけると思います。そのことは執行猶予を付してもらえた場合も同じかと思います。
しかし、罰金刑については、前科になるのか正確に理解できていないと思われる御相談者様が多くいらっしゃいます。特に、略式罰金手続によって、罰金刑が言い渡される場合、実際に裁判を受けることがありません。ですから、単なる過料との違いを理解し難いのだと思います。
今回は、略式罰金処分とはどのような処分なのかについて解説をさせていただきます。
目次
1.刑法の定め
岡本 裕明
様々な法律や条例に、罰金を科すことができる旨の罰則規定が設けられています。もっとも、「罰金」とは何かという、刑罰の内容については、刑法がその内容を定めています。
略式罰金処分については、「罰金」そのものではなく、「罰金」刑が科されるまでの手続を指すものですが、まずは「罰金」自体の定めを確認してみましょう。
刑法
(刑の種類)
第9条
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
(罰金)
第15条
罰金は、1万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、1万円未満に下げることができる。
(科料)
第17条
科料は、1000円以上1万円未満とする。
以上のとおり、「罰金」は「刑の種類」の一種として刑法9条に定められています。そして、刑罰として科されるものである以上、刑事訴訟法の定める手続によって、科されなければなりません。
同様に、科料は「1万円未満」という比較的少額な金額を内容とする制裁になりますが、こちらも「刑の種類」の一種として定められていますので、罰金と同様の手続が求められることになります。現行法において、科料が問題となるものとしては、「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する」と定めている軽犯罪法等があります。
一方で、科料ではなく過料として定められている制裁も存在します。例えば、「柏市ぽい捨て等防止条例」は、「ぽい捨て又は路上等喫煙をした者は、1万円以下の過料に処する」と定められています。
こちらは、「刑の種類」の中に定められた制裁ではありませんから、刑事訴訟法の定める刑事手続を経なくても科すことができる内容になります。
交通違反等において問題となる「反則金」も、「刑の種類」として定められていませんから、同様に刑事手続によらずに科すことができるのです。
2.刑事訴訟法の定め
岡本 裕明
では、「罰金」や「科料」については、刑罰の一種であるため、刑事訴訟法が定める刑事手続によらなければ科すことができないとはどのような意味をもつのでしょうか。
原則としては、他の刑種である「死刑」や「懲役刑」と同じように、裁判所における裁判を通じて宣告されたものでなければ、「罰金」や「科料」を定めることができません。
とはいえ、「罰金」や「科料」は、比較的軽微な犯罪行為を対象に科される刑罰です。全てを実際の法廷で裁いていたのでは、裁判所の業務がパンクしてしまいかねません。
そこで、「略式手続」と呼ばれるものが用いられることになるのです。
刑事訴訟法の定めを確認してみましょう。
刑事訴訟法
第461条
簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、100万円以下の罰金又は科料を科することができる。…
略式手続による場合、被疑者は裁判官と直接対面することはありませんし、裁判所に赴くことが不可欠という訳ではありませんから、検察庁限りで処分しているものと感じてしまいそうですが、刑事訴訟法461条が定めているとおり、略式命令によって罰金を科すことができるのは、あくまでも検 察官ではなく裁判所になります。
したがって、被疑者としては裁判所に赴くことなく事件が処理されているとしても、あくまでも刑罰を言い渡すのは裁判所の役割とされているのです。
また、刑法は罰金の上限額を定めていません。しかし、略式命令の対象とできるのは100万円以下の金額に限ります。したがって、100万円を超える金額の罰金が科される場合には、略式手続によることはできず、「死刑」や「懲役刑」が科される際と同様に、実際の裁判を受ける必要があるのです。
3.略式手続の内容
岡本 裕明
上述したように、全ての罰金刑が略式手続によって宣告される訳ではなく、あくまでも原則としては、罰金刑であっても、正式な裁判の中で宣告されることになるのです。
では、略式手続とはどのような手続となるのでしょうか。
刑事訴訟法
第461条の2
1項 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
2項 被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。
第463条
第462条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
第465条
略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求をすることができる。
略式手続において、何が略されるかというと、実際の裁判手続を省略することになります。刑罰は、法律の定める手続によらなければ科すことができませんし、裁判を受ける権利も憲法上認められています。
ですから、法廷における裁判を経ることなく、罰金刑が科されることについて被疑者が納得しなければ略式手続をとることができません。したがって、略式手続をとる前に、検察官は十分にそのことを説明した上で、被疑者から略式手続によることを承諾する書面を得る必要があるのです。
そして、一度略式手続によることを承諾した後であっても、事後的に弁護士に相談したことなどを理由に、正式な裁判を受けたいと考えた場合には、14日以内であれば略式手続で終わらせるのではなく、正式な裁判を受けることを請求することも可能になっているのです。
また、被疑者や検察官が略式手続によることに同意していた場合でも、裁判官が略式手続で刑罰を科すべきでないと考えた場合には、裁判官の判断によって正式裁判を行うことも可能です。このことについて、刑事訴訟法463条は略式手続によることが「相当でないものであると思料するとき」と定めていますが、例えば、事案が複雑であることを理由に正式な裁判で慎重な判断が求められる場合や、100万円以下の罰金刑を科することが量刑として低すぎる場合などが考えられます。
4.略式命令が下された後
岡本 裕明
では、正式な裁判を求めることなく、略式手続で罰金刑が科されることが決まった場合にはどうなるのでしょうか。
略式命令によって罰金刑が科される旨については、裁判所から書面で告知されることになります。一方で、罰金の徴収については検察官の役割となっております。徴収事務規定第14条は、「検察官は…速やかに納付期限を定め、徴収担当事務官をして納付義務者に対し、納付告知書…に納付書…を添付して送付さ せ、徴収金を直接日本銀行…に納付すべき旨を告知させる。」と定めています。
したがって、書面を確認した上で罰金を納付することになります。
例外的に、逮捕・勾留されている被疑者に対して、略式手続によって罰金刑を科す場合、釈放日に罰金の納付を求められることがあります。この場合、裁判所において先程の書面が直接交付されることとなり、釈放と同時に罰金を支払うことになりますので、被疑者本人ではなく御家族らに罰金相当額を持参していただくことになります。
5.弁護方針
岡本 裕明
以上のとおり、罰金刑は前科がつきます。略式手続による場合でも、それは変わりません。しかし、罪を認めている場合には、正式裁判を回避できることで、精神的な負担は大きく取り除かれることになるでしょうし、逮捕・勾留されている場合には、略式手続によって罰金刑が科されることによって手続が終結しますから、早期釈放に繋がる可能性もあります。
ですから、正式な裁判(起訴)を回避する弁護方針をとるケースは十分に考えられます。その場合には、早期に罰金を納付することができるように、事前に金策について検討しておくことが求められます。
逆に、逮捕・勾留されていない事件の場合、略式手続によって罰金刑が科されることが決まる前の段階では弁護士に相談する機会がなかった方も一定数いらっしゃいます。その場合、正式な裁判を求めることが、その方の求める結果を得るにあたって有効かどうかについて、検討することになるでしょう。
6.まとめ
岡本 裕明
今回は、略式罰金処分について解説させていただきました。
警察官から事件の送致を受けた検察官は、事件を処理するにあたって、大きく分けて3つの選択肢をもっています。最も重い処分が起訴です。そして、最も軽い処分が不起訴です。略式罰金処分はその中間的な処分と理解されています。
ですから、略式罰金処分とされることが、被疑者にとって好ましいのかそうでないのかは、事案によって異なり得ることになります。
とはいえ、前科がついてしまうことには変わりありませんから、本当に略式罰金処分として事件を終わらせていいのかどうかについてお悩みの方は、残された時間も多くありませんから、一度御相談いただければと思います。