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コラム

虚偽告訴。被害者が逆に加害者に。

簡単に言うと…
  • 虚偽告訴の成立には、被告訴人に対して刑罰を科す目的が必要である。
  • 虚偽告訴の罪の認知・検挙件数は1年で40件程度と比較的少ない。
  • 告訴事実が虚偽であることについては確定的な認識がなくても故意は認められるが、故意の有無に関する慎重な判断が検挙数の小ささに影響しているものと考えられる。
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 先日から「虚偽告訴」というキーワードがインターネットを騒がせています。報道でしか事案の内容を知れませんので、その事案の内容には触れません。
 もっとも、もし、何も罪となるような行為に及んでいないにもかかわらず、被疑者として捜査機関の捜査対象とされた場合、被害申告をした者に対して強い憤りを感じるのは自然な感情だと思います。逮捕・勾留等の身体拘束を伴う捜査を受けた場合には、社会的な地位を失うことにもなりかねませんから、その憤りはさらに強いものになるでしょう。
 そして、そのような虚偽の被害申告をした者に対して成立する罪として、「虚偽告訴」の罪が定められているのです。
 何らかの罪で捜査を受けている被疑者が、その容疑を否認している場合、被害者の供述は誤りだという主張になる訳ですから、否認するのと同時に常に「虚偽告訴」が問題になるように感じられるかもしれません。
 被害を申告している方からすれば、被疑者による「虚偽告訴」だという主張が虚偽の内容な訳ですから、「虚偽告訴」が「虚偽告訴」だということになりそうですし、そのような主張が双方からされるのであれば、「虚偽告訴」は極めて取扱件数の多い犯罪になりそうです。
 しかしながら、「虚偽告訴」の罪について弁護活動を行ったり、逆に「虚偽告訴」の罪で告訴するために代理人弁護士として活動を行ったりしたことのある弁護士は少ないように思います。
 何故なのでしょうか。
  今回は、「虚偽告訴」の罪について解説したいと思います。


1.刑法の定め

弁護士
岡本 裕明
「虚偽告訴」について解説します。

 まずは、刑法が「虚偽告訴」という罪についてどのように定めているのかを確認してみましょう。妨害の罪が成立し得ることを解説する記事が散見されますので、まずは偽計業務妨害の罪とは、法律上どのように定められているのかについて確認してみましょう。

刑法

(虚偽告訴等)

第172条
 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。
(自白による刑の減免)
第173条
 前条の罪を犯した者が、その申告をした事件について、その裁判が確定する前又は懲戒処分が行われる前に自白したときは、その刑を減軽し、又は免除することができる。

 虚偽告訴の罪は刑法第172条で定められています。「虚偽の告訴」をした者が「虚偽告訴」の罪となる旨が定められており、あまり具体的な要件が定められている訳ではありませんが、「刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」でなければ、「虚偽告訴」の罪は成立しません。
 つまり、警察の業務を妨害することを目的とするような場合には、少なくとも「虚偽告訴」の罪は成立しないこととなります。もっとも、主たる目的が被告訴人に対して刑罰を科すことではなかったとしても、被告訴人に対して刑罰が科されてしまうかもしれないことを認識していれば、「刑事…の処分を受けさせる目的」があったと解釈されておりますので、この目的が理由で「虚偽告訴」の罪の成立が否定されるような事案は限られているように思います。

2.そもそも「告訴」とは

弁護士
岡本 裕明
「告訴」とは、犯罪の被害者が、警察官や検察官に対して、自身が被害に遭った犯罪の犯人の処罰を求める行為のことです!

 では、「告訴」とは何なのかを確認すると、刑事訴訟法第230条が「犯罪による害を被った者は、告訴をすることができる。」と定めています。  
 そして、「告訴」の内容については、最高裁判所昭和26年7月12日判決が、「告訴ありとするには、被害者から、司法警察員又は検察官に対し犯罪事実につき犯人の処罰を求める旨の意思表示あるを以て足りる」と判示しています。
 つまり、犯罪の被害者が、警察官や検察官に対して、自身が被害 に遭った犯罪の犯人の処罰を求める行為を「告訴」ということになります。
 実際に、刑事訴訟法第241条1項は、「告訴…は、書面又は口頭で…しなければならない」と定めており、口頭で伝えるだけでも、「告訴」に当たり得るのです(とはいえ、基本的には告訴状等の書面を提出する形式で申し立てられるケースがほとんどだといえます)。
 更に、犯罪捜査規範第63条1項は、「司法警察員たる警察官は、告訴…があったときは…これを受理しなければならない。」と定めており、原則として捜査機関は告訴を受理しなければいけません(実際には、捜査機関に告訴を受理してもらうことには困難が伴う場合も少なくないのですが、今回のテーマとはズレてしまうので、省略させていただきます)。

3.何故「虚偽告訴」の罪は珍しいのか

弁護士
岡本 裕明
「虚偽告訴」の罪は珍しい!

 冒頭でお伝えさせていただいたとおり、「虚偽告訴」だとして告訴したくなるシチュエーションは珍しくないように感じるのではないでしょうか。
 警察庁が公表している統計によると、令和3年度は認知件数42件に対して29件が検挙されています。同程度の認知件数があるものとしては、賄賂の罪が47件認知されています。
 窃盗罪の認知件数は38万件を超えていますし、器物損壊罪は5万件を超えており、詐欺罪についても3万件を超えています。今回報道されているのは準強制性交の罪で告訴されたことに対する「虚偽告訴」ですが、準強制性交の罪を含むわいせつ犯罪の認知件数は、7000件を超えています。
 したがって、「虚偽告訴」の罪は、比較的珍しい部類の事件だということができるでしょう。 何故でしょうか。
 一つの理由としては、故意の立証が困難であることが挙げられるかと思います。
 先程、「刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的」については、被告訴人に刑罰が科されることを認識できていれば、主たる目的でなくても「虚偽告訴」の罪は成立する旨をお伝えさせていただきました。
 しかし、過失虚偽告訴の罪は刑法では定められていませんので、「虚偽告訴」の罪の成立には故意が必要となります。つまり、捜査機関に申告した被害の内容が虚偽であることを認識している必要があるのです。
 この認識については最高裁判所昭和28年1月23日判決が、虚偽であることを確定的に認識している必要はなく、未必的な認識があれば十分であることを判示しています。しかし、確実に犯人だと被害者が把握できていない場合において、事後的な捜査によって犯人ではないことが明らかになった場合に、常に被害者に「虚偽告訴」の罪が成立し、逆に犯罪者と扱うことが妥当ではないことも常識的に理解できるのではないでしょうか。
 この点について慎重な判断がなされていることが、「虚偽告訴」の罪の大きな原因だと考えられます。
 また、別の原因としては、「虚偽告訴」の罪の被害者が、被疑者や被告人である点も影響しているものと考えられます。捜査機関としては、「虚偽告訴」の被害者は、別の犯罪についての嫌疑が認められる者であって、そのような立場にある者からの申し出に耳を貸し難い状況は否定できないように思います。

4.虚偽告訴における弁護活動

弁護士
岡本 裕明
弁護活動について解説します!

 まず、虚偽の事実によって告訴された場合の弁護活動については、様々な内容が考えられます。これは、どのような内容で告訴されたかにもよるところですし、被害者の供述の信用性を争うことになることが想定されますが、「虚偽告訴」が問題となる場合のみに限らず、全ての無罪主張事件に通じる内容になろうかと思います。
 逆に、「虚偽告訴」の罪で告訴された場合はどうでしょうか。
 この場合、被告訴人は、他の犯罪の被害者となっていることが多いように思います(被害者以外にも告発ではなく告訴できる立場は存在しますが省略させていただきます)。他の犯罪の被害に遭ったことを捜査機関や裁判所に認めてもらうことができれば、告訴は虚偽でなかったことを明らかにすることができる訳ですから、「虚偽告訴」の告訴人による犯罪を明らかにするような活動が求められることになるでしょう。
 また、仮に、告訴した事実が誤っており、客観的に虚偽であることが明らかとなった場合には、告訴した内容が真実であると誤解していた理由や根拠を明らかにした上で、故意を争うことになります。

5.裁判例

弁護士
岡本 裕明
裁判例を一緒に確認してみましょう!

 先程、虚偽告訴の罪として検挙されるのは比較的珍しい事態である旨を説明させていただきました。では、実際にどのような事案で適用されているのかについて裁判例を確認してみたいと思います。
 千葉地方裁判所平成30年1月30日判決は、 無実の者が強姦殺人の罪を犯したとする内容の書面を捜査機関に送付したという事案です。被害者として告訴した事案ではありませんが、刑法第172条が適用される典型的な事案のように感じます。
 次に大阪地方裁判所平成20年10月24日判決は、電車内の男性客を痴漢犯人に仕立て上げて、示談金の名目で多額の現金を獲得しようと計画して行われたものです。判決文の中では、被告人が漫画本からヒントを得て行われた犯行である旨も判示されているのですが、「虚偽告訴」という単語を聞いた時に、皆様が最初にイメージするような類型の事案といえるのではないでしょうか。
 この事案では痴漢の被害者を装った人間に加えて、目撃者を装った人間も虚偽告訴の犯人として有罪判決を宣告されているのですが、告訴が虚偽だと判明した契機は、「虚偽告訴」に及んだ者による自首でした。
 告訴人が、実際は虚偽だったと認めていないケースにおいては、「虚偽告訴」の罪の成立を認めるためには、告訴された内容が虚偽であることについて、相当に厚い証拠が求められることになるでしょう。

6.まとめ

弁護士
岡本 裕明
まとめです!

 今回は、「虚偽告訴」の罪について解説させていただきました。
 多く認知・検挙されていてもおかしくなさそうな内容であるにも関わらず、現実には多く検挙されていない理由について、少しでも理解が深まったのであれば幸いです。

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