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議員の先生方―選挙犯罪についてー

選挙犯罪について

議員の先生方との関係で問題となる刑事事件といえば、最初に思いつくのはやはり選挙犯罪かと思います。2018年版の検察統計調査によると、同年においては138件の公職選挙法違反被疑事件が受理されています。この数字だけ見ると少ないように思えますが、2015年には1000件以上受理されていますから、捜査機関が選挙に関する犯罪について及び腰であるとの評価は妥当しません。
 むしろ、民主主義の根幹にかかわる犯罪ですから、捜査の端緒が認められる場合には、徹底的な捜査が予想されます。

そして、選挙違反についての内容について見てみると、平成29年度版の犯罪白書では、次のような数字が掲載されています。

違反態様

件数

人員

買収、利害誘導

47

60

選挙の自由妨害

22

19

投票の秘密侵害、投票干渉

1

1

選挙事務関係者、施設等に対する暴行・騒擾等

5

4

虚偽事項の公表

4

3

詐偽登録、虚偽宣言等、詐偽投票、投票の偽造・
増減、代理投票における記載義務違反

4

4

運動期間の違反

2

2

選挙権、被選挙権を有しない者の選挙運動

2

2

選挙事務関係者・特定公務員の選挙運動

1

1

文書図画に関する制限違反

8

10

寄附に関する制限違反

12

12

2桁の人員を受理しているのは、「買収、利害誘導」、「選挙の自由妨害」、「文書図画に関する制限違反」、「寄付に関する制限違反」の4種となります。選挙違反については、意図的に行われるものもあれば、過失によって違法な選挙活動を行ってしまうこともあり得ますので、十分な知識をもって行う必要があります。
 そこで、今回は、この4つの犯罪類型について解説させていただきます。

第1.買収・利害誘導の罪

1.「買収・利害誘導の罪」に関する公職選挙法上の定め

買収、利害誘導の罪は、選挙犯罪の中の半数を占めており、犯しやすい罪であるものといえます。公職選挙法は、買収、利害誘導の罪について、次のように定めています。

公職選挙法

第221条 1項 次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。 1号 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。 2号 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対しその者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をしたとき。 3号 投票をし若しくはしないこと、選挙運動をし若しくはやめたこと又はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し第1号に掲げる行為をしたとき。 4号 第1号若しくは前号の供与、供応接待を受け若しくは要求し、第1号若しくは前号の申込みを承諾し又は第二号の誘導に応じ若しくはこれを促したとき。 5号 第1号から第3号までに掲げる行為をさせる目的をもつて選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。 6号 前各号に掲げる行為に関し周旋又は勧誘をしたとき。 2項 中央選挙管理会の委員若しくは中央選挙管理会の庶務に従事する総務省の職員、参議院合同選挙区選挙管理委員会の委員若しくは職員、選挙管理委員会の委員若しくは職員、投票管理者、開票管理者、選挙長若しくは選挙分会長又は選挙事務に関係のある国若しくは地方公共団体の公務員が当該選挙に関し前項の罪を犯したときは、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100円以下の罰金に処する。公安委員会の委員又は警察官がその関係区域内の選挙に関し同項の罪を犯したときも、また同様とする。 3項 次の各号に掲げる者が第1項の罪を犯したときは、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100円以下の罰金に処する。 1号 公職の候補者 2号 選挙運動を総括主宰した者 3号 出納責任者 第222条 1項 左の各号に掲げる行為をした者は、5年以下の懲役又は禁錮に処する。 1号 財産上の利益を図る目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者のため多数の選挙人又は選挙運動者に対し前条第1項第1号から第3号まで、第5号又は第6号に掲げる行為をし又はさせたとき。 2号 財産上の利益を図る目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者のため多数の選挙人又は選挙運動者に対し前条第一項第一号から第三号まで、第五号又は第六号に掲げる行為をすることを請け負い若しくは請け負わせ又はその申込をしたとき。 2項 前条第1項第1号から第3号まで、第5号又は第6号の罪を犯した者が常習者であるときも、また前項と同様とする。 3項 前条第3項各号に掲げる者が第1項の罪を犯したときは、6年以下の懲役又は禁錮に処する。 第223条 1項 次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 1号 公職の候補者たること若しくは公職の候補者となろうとすることをやめさせる目的をもつて公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者に対し又は当選を辞させる目的をもつて当選人に対し第221条第1項第1号又は第2号に掲げる行為をしたとき。 2号 公職の候補者たること若しくは公職の候補者となろうとすることをやめたこと、当選を辞したこと又はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもつて公職の候補者であつた者、公職の候補者となろうとした者又は当選人であつた者に対し第221条第1項第1号に掲げる行為をしたとき。 3号 前2号の供与、供応接待を受け若しくは要求し、前2号の申込みを承諾し又は第1号の誘導に応じ若しくはこれを促したとき。 4号 前各号に掲げる行為に関し周旋又は勧誘をなしたとき。 2項 中央選挙管理会の委員若しくは中央選挙管理会の庶務に従事する総務省の職員、参議院合同選挙区選挙管理委員会の委員若しくは職員、選挙管理委員会の委員若しくは職員、投票管理者、開票管理者、選挙長若しくは選挙分会長又は選挙事務に関係のある国若しくは地方公共団体の公務員が当該選挙に関し前項の罪を犯したときは、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。公安委員会の委員又は警察官がその関係区域内の選挙に関し同項の罪を犯したときも、また同様とする。 3 第221条第3項各号に掲げる者が第1項の罪を犯したときは、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 第224条  前4条の場合において収受し又は交付を受けた利益は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。

買収、利害誘導の罪は、公職選挙法第221条以下に規定されています。非常に長々と定められていますが、選挙で当選するために、選挙運動者等に対してお金を支払う等の行為が問題となっています。例えば、選挙運動や投票を行う又は行わないことを求めて直接お金等を支払うだけでなく、何らかの利害関係に基づいて誘導を行う場合や接待をする場合等も含まれます。
 なお、公職選挙法は、これらの金銭等を要求した側にも刑罰を科す旨を定めています。

2.「買収・利害誘導の罪」に関する実例

(1)最高裁平成16年12月21日決定(平成16年(あ)第2031号)

事案の概要

 衆議院議員総選挙に際し、立候補者の支援組織となった労働組合の幹部らが、共謀の上、その立候補者を当選させるために、電話により有権者に投票依頼を行ういわゆる電話戦術を実施するため、電話による通信販売業務の企画、実施、労働者派遣事業等を営む会社の支店長や従業員に対し、電話をかける人員を労働組合の施設に派遣することを依頼し、その報酬として金員を支払う旨を約束した。

結論

投票を電話により依頼する要員を確保して派遣する行為、投票を電話により依頼する行為は、いずれも選挙運動であり、当該行為にそれぞれ従事する者は選挙運動者に該当する。そのような選挙運動者に対し、選挙運動の報酬として金員を支払う旨の意思を表示したことは、労働組合と支店との間の金員支払関係という特殊の直接利害関係を利用して選挙運動者に対し誘導をしたものということができる。
したがって、公職選挙法第221条1項2号の罪の成立を認めた原判断は相当である。

(2)東京地裁平成13年12月19日判決(平成13年(特わ)第3836号)

事案の概要

被告人は、〇〇議会議員選挙に当選した。

被告人の選挙運動員であるA、B及びCは、被告人の選挙運動者であるEほか27名に対し、Eらが被告人を当選させるための電話による投票依頼の選挙運動をしたことの報酬とする目的をもって、現金を供与した。
 被告人は、選挙運動員による上述の行為について認識していなかったとして、無罪を主張した。

結論

被告人は、アルバイト動員をCに依頼することに関し、I区議からクレームが付いたことや、そのため電話作戦事務所の変更を余儀なくされたことについて、選挙終了まで知ることはなかった旨供述するが、その具体的な実行状況を何ら確認せず、把握もしなかったというのも不自然、不合理である。

このような不自然さをはらむ被告人の公判供述に比して、その捜査段階における供述は、ほぼ一貫してCに対しアルバイト動員を依頼した点を自認している点など、他の共犯者の供述と一致するものであり、その限りにおいて、信用性がある。
 被告人、A及びCが会合した時点において、Bを含めた4者間における、本件選挙において電話作戦のアルバイトを集めた上、当該アルバイトに対して電話作戦の報酬として金員を供与する旨の共謀が完遂したというべきである。

(3)東京地裁平成15年8月28日判決(平成15年(特わ)第3079号)

事案の概要

被告人Aは、自己の選挙運動者であるCと共謀の上、次のような選挙運動を行った。

・Dに対し、選挙運動用自動車による街頭宣伝において、進路の決定、指示等をするなどの選挙運動をすることの報酬として、現金を供与する旨の約束をした。

・E及びFに対し、のぼり旗を差すなどした自転車に乗って隊列を組み、移動しながら拡声器で政策等を訴える街頭宣伝において、同人がAの氏名を繰り返し言いつつ政策等を訴えるなどの選挙運動をすることの報酬として、現金を供与する旨の約束をした。

・Gに対し、街頭でのぼり旗を持ちながら政策等を訴える街頭宣伝において、被告人Aの氏名及び顔写真のあるパネルを掲げるなどの選挙運動をしたことの報酬として、現金供与した。

・Bに対し、区議会の活動内容等を報告する書面をポスティングすることの報酬として、現金を供与する旨の約束をした。

本件においては、D等が「選挙運動者」に該当するかどうかが問題となった。

結論

選挙活動をする者の行為が選挙民に対する投票の直接的な勧誘を内容としないものであっても、特定の候補者に投票を得させるのに必要、有利な行為であれば、その行為をする目的いかんによっては、公職選挙法上の選挙運動に当たる。

うぐいす嬢、自転車部隊のカラス、朝立ち・スポット・応援演説の演説者の行為は、選挙民に対し直接に投票を勧誘する行為に当たることが明らかである。

また、被告人Bが立候補届出前に行ったポスティングについては、直接に被告人Aへの投票を求める体裁を取っていないものの、本件選挙に備え、前号と比べて飛躍的に大量に印刷されていることなどに鑑みれば、被告人Aに投票を得させるのに必要、有利な行為と評価することができ、公職選挙法上の選挙運動であるというべきである。

3.「買収・利害誘導の罪」に関する小括

買収、利害誘導の罪は、選挙で当選するために、積極的に選挙運動者等に対して金銭等の利益を供与することによって成立する犯罪です。立候補者としてはクリーンな選挙戦を心がけていたとしても、選挙を行うにあたっては多くの人の協力を仰ぐ必要がありますから、その中には立候補者を当選させるために手段を選ばない人間がいるかもしれません。
 自ら指示した選挙運動ではないとしても、立候補者の当選を目的として行われたものである以上、捜査機関としては立候補者の意思と無関係に当該行為が行われたと考えることはまずありません。

(2)の事例は立候補者自身も捜査段階で自白していたことが窺われますが、捜査機関の誘導にのって供述調書に署名してしまったとの弁解が真実であるとすれば、立候補者自身の意向とは異なるところで犯罪行為が企図され、立候補者が犯罪行為に巻き込まれてしまった事案といえます。

そこで、立候補者としてはこのような事態となることを絶対に避けなければなりません。全てを把握することは難しくても、選挙資金の使途など、買収、利害誘導の罪に関する内容については、適宜確認すべきだと言えます。

また、それ以前に、選挙活動についてのルールについて確認できていなければ、適法な選挙運動と違法な選挙運動の違いを理解することができません。

(3)の事例は、「選挙運動者」に該当するかどうかが主として争われた事案です。政治家として活動する以上、選挙とは無関係に自身の活動を周知する必要性も認められますが、選挙に関する内容が記載されていなければ、「選挙運動」にあたらないという訳でもありません。その具体的な内容に即して目的から判断されることになるのです。
 せっかく当選しても、その後に選挙犯罪として起訴されてしまったのでは意味がありませんし、再起を図ることも非常に困難になります。
 選挙を行う際には、弁護士等も含めて、選挙の専門家からのアドバイスを十分に受ける必要があるものといえます。

第2.選挙の自由妨害の罪

1.「選挙の自由妨害の罪」に関する公職選挙法上の定め

選挙の自由妨害の罪については、買収・利害誘導の罪の次に立件されている数の多い犯罪です。この罪は、他の犯罪が、選挙運動の内容に関する行為を犯罪行為として定めているのに対して、選挙運動者等に対する威迫行為等に対する処罰を定めている点に特徴があります。
 したがって、選挙運動者等を対象としなくても、通常の脅迫行為等として処罰可能な行為であることが多く、通常の犯罪行為をより重く処罰する規定としての意味合いが強く認められます。
 まずは条文を確認してみましょう。

公職選挙法

第225条 1項 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。 1号 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。 2号 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。 3号 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。 第226条 1項 選挙に関し、国若しくは地方公共団体の公務員等が故意にその職務の執行を怠り又は正当な理由がなくて公職の候補者若しくは選挙運動者に追随し、その居宅若しくは選挙事務所に立ち入る等その職権を濫用して選挙の自由を妨害したときは、4年以下の禁錮に処する。 2項 国若しくは地方公共団体の公務員等が選挙人に対し、その投票しようとし又は投票した被選挙人の氏名等の表示を求めたときは、6月以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。

このように、選挙について対立する候補者の選挙運動を妨害するような行為を処罰対象としています。選挙運動者に対する威迫行為等については、その違法性は明らかと言えますが、選挙の自由に対する妨害行為の中には、違法性が軽微なものも含まれており、軽はずみな言動によって選挙犯罪を犯すことのないように注意が必要となります。

2.「選挙の自由妨害の罪」に関する実例

(1)東京高裁昭和54年1月26日判決(昭和53年(う)第1056号)

事案の概要

被告人は立木に針金で結びつけられていた選挙ポスターを立木から取りはずして傍らに放置した。この選挙ポスターは、被告人があらかじめ右立木の幹に巻きつけておいた営業用の広告ポスターを邪魔するように取りつけられており、被告人は広告ポスターを見えるようにするために選挙ポスターを外した。

結論

選挙ポスターを取りはずして草むらの中に放置することは選挙ポスター掲示の効用を失なわせるものである。被告人が選挙ポスターの掲示によりその利益を害されたとはいえ、その被害の回復をはかるため選挙管理委員会や警察などによる法の保護を求める余裕がないほどの急迫性は認められないし、選挙ポスターを直ちに取りはずして傍らに放置した行為が被告人の利益をまもるための已むを得ない行為とも相当な自救行為とも認めることはできない。

(2)最高裁平成17年7月6日決定(平成17年(あ)第764号)

結論

公職選挙法225条1号及び3号が、選挙に関し、その各所定の者に対して暴行又は威力を加え、あるいは特殊の利害関係を利用して威迫することなどを禁止し、もって選挙人につき投票の自由を保護するとともに、広く公職の候補者等の選挙運動の自由を保護しようとする趣旨に照らせば、いまだ選挙運動を行っていなくても、特定の候補者のために将来選挙運動を行う意思を有する者は、上記各号にいう「選挙運動者」に当たると解するのが相当である。

3.「選挙の自由妨害の罪」に関する小括

選挙の自由の妨害についての罪は、選挙の立候補者に対する規制というよりは、選挙権者等の一般市民に対する規制としての側面が強いように思いますが、当然に選挙の立候補者等の関係者にも適用されます。  したがって、特に自身が立候補している或いは立候補者の選挙運動員となっている場合には、これらの罪を犯すことがないように配慮しなければなりません。  特に(1)の事案については、自身の掲げた広告ポスターに被さるように選挙ポスターが掲示されていたようであり、このような状況において選挙ポスターを外す行動というのは、特にそのポスターが政治思想的に対立する陣営のものでなかったとしても、してしまいがちな行動であるものといえます。  また、(2)の最高裁決定は、選挙運動を行う前であっても、選挙の自由の妨害に対する罪は成立する旨を判示しており、選挙運動を行っていない者に対する言動についても注意が必要であることを示唆しています。  選挙犯罪については、立候補を決める前の段階から、立候補者自身だけでなく、選挙運動者等の支援者との関係でも、犯すことのないように十分な配慮が求められるのです。

第3.文書図画に関する制限違反の罪

1.「文書図画に関する制限違反の罪」に関する公職選挙法上の定め

公職選挙法第243条及び第244条は、選挙運動に関する各種制限違反についての定めをおいているところ、その中で文書図画に関するものは次のとおりです。

公職選挙法

第243条  次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の禁錮又は50円以下の罰金に処する。 3号 第142条の規定に違反して文書図画を頒布した者 3号の3 第142条の6の規定に違反して広告を文書図画に掲載させた者 4号 第143条又は第144条の規定に違反して文書図画を掲示した者 5号 第146条の規定に違反して文書図画を頒布し又は掲示した者 5号の2 第147条の規定による撤去の処分(同条第1号、第2号又は第5号に該当する文書図画に係るものに限る。)に従わなかつた者 8号の2 第164条の2第1項の規定に違反して立札若しくは看板の類を掲示しなかつた者又は同条第2項若しくは第4項の規定に違反して文書図画を掲示した者 第244条  次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。 3号 第145条第1項又は第2項(第164条の2第5項において準用する場合を含む。)の規定に違反して文書図画を掲示した者 4号 第147条の規定による撤去の処分(同条第3号又は第4号に該当する文書図画に係るものに限る。)に従わなかつた者 第142条 1項 衆議院(比例代表選出)議員の選挙以外の選挙においては、選挙運動のために使用する文書図画は、次の各号に規定する通常葉書及びビラのほかは、頒布することができない。この場合において、ビラについては、散布することができない。 1号 衆議院(小選挙区選出)議員の選挙にあつては、候補者一人について、通常葉書 3万5000枚、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に届け出た二種類以内のビラ 7万枚 5項 第1項の通常葉書は無料とし、第二項の通常葉書は有料とし、政令で定めるところにより、日本郵便株式会社において選挙用である旨の表示をしたものでなければならない。 6項 第1項から第3項までのビラは、新聞折込みその他政令で定める方法によらなければ、頒布することができない。 7項 第1項及び第2項のビラは…当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会の交付する証紙を貼らなければ頒布することができない。この場合において、第二項のビラについて当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会の交付する証紙は、当該選挙の選挙区ごとに区分しなければならない。 8項 第1項のビラは長さ29・7cm、幅21㎝を、第2項のビラは長さ42㎝、幅29.7㎝を、超えてはならない。 9 第1項から第3項までのビラには、その表面に頒布責任者及び印刷者の氏名(法人にあつては名称)及び住所を記載しなければならない。

このように選挙に際して頒布する文書や図画に関しては、その枚数やサイズ等について厳格な定めが設けられており、記載内容や証紙の貼付等の要件も課されております。したがって、公職選挙法に定められた内容を正確に理解できていないと、頒布したビラや葉書が公職選挙法に違反してしまっていたという事態が生じかねません。

 文書図画に関する制限違反の罪については、その行為自体に違法性が高く認められる訳ではありませんから、違法な行為だという認識を十分に自覚することなく及んでしまう可能性があります。

 特に、その規制内容は多岐にわたるため、その全ての条文を引用することはできませんが、郵送による場合だけでなく、ウェブサイトを利用する場合等についての規制も設けられており、ウェブサイト等を利用して行う選挙活動との関係では、簡単に掲載することが可能であるため、事前に十分な確認を行うことができず、安易に犯罪行為に及んでしまうことが懸念されます。

2.「文書図画に関する制限違反の罪」に関する実例

(1)大阪高裁昭和50年8月20日判決(昭和47年(う)第1086号)

事案の概要

無証紙の選挙用ポスターを配布したという事案。このポスターは、地区会所属の各部会長に配布されたものであるところ、このポスターを掲示するためには、各部会長よりさらに同部会所属の各特定郵便局長に配布することが必要であった。
 各部会長へ配布される段階は、未だ準備過程に過ぎないため、未だ文書や図画を頒布したとは評価されないのではないかとして争われた。

結論

公職選挙法第142条、243条3号にいう頒布とは、選挙運動のために使用する法定外の文書図画を不特定又は多数の者に配布する目的でその内の一人以上の者に配付することをいい、特定少数の者を通じて当然又は成行上不特定又は多数の者に配布されるような情況のもとで右特定少数の者に当該文書図画を配付した場合もこれにあたるものというべきである。

(2)最高裁昭和49年11月6日判決(昭和47年(あ)第1168号)

事案の概要

被告人ら3名は一般職の国家公務員であった。

被告人らは、藁半紙を半載にした用紙の表面に、「都議選いよいよ始まる」「=我々の真の代表を選ぼう=」と比較的大きな文字で表題を付し、「組合としては…都議選において次の候補者を推せんいたしましたのでお知らせいたします。」と比較的小文字で記載された文書について、組合員数名に手渡した。

結論

本件各行為が、裁量権のない機械的職務に従事する非管理職の公務員により、その職員団体が日常活動として行つていたいわゆる朝ビラの配布の方法で、主として同団体の日常行動として行う意識でなされたものであり、文書の内容が同団体の候補者推薦決定を記載したものであり、各被告人の配布した文書の枚数が6枚ないし14枚であり、かつ、同僚に対して配布した場合であっても…公職選挙法第146条1項違反による同法第243条5号の各罪の違法性を失わせる事情となるものということはできない。

3.「文書図画に関する制限違反の罪」に関する小括

選挙に際して頒布する文書や図画に関して、その枚数やサイズ等について十分に確認したとしても、上述した(1)や(2)の事例のように、思わぬところで選挙違反が生じてしまう可能性はあり得ます。
 選挙活動は、不特定多数に対して自身への投票を募るものを中心にするものであることが想定されますが、身内の中での言動についても、選挙犯罪が成立する余地があることについて、十分に注意する必要があるのです。

第4.寄付に関する制限違反の罪

1「.寄付に関する制限違反の罪」に関する公職選挙法上の定め

寄付に関する制限違反の罪は、買収・利害誘導の罪、選挙の自由妨害の罪に続いて、3番目に多く立件されています。買収等のように投票に直結するものではない場合であっても、お金で票を買うような行為については、厳罰が科されており、注意が必要です。
 具体的には、次のような定めが存在します。

公職選挙法上

第199条 1項 衆議院議員及び参議院議員の選挙に関しては国と、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に関しては当該地方公共団体と、請負その他特別の利益を伴う契約の当事者である者は、当該選挙に関し、寄附をしてはならない。 第199条の2  1項 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。 2項 公職の候補者等を寄附の名義人とする当該選挙区内にある者に対する寄附については、当該公職の候補者等以外の者は、いかなる名義をもってするを問わず、これをしてはならない。 3項 何人も、公職の候補者等に対して、当該選挙区内にある者に対する寄附を勧誘し、又は要求してはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対する寄附を勧誘し、又は要求する場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償としてする寄附を勧誘し、又は要求する場合は、この限りでない。 4項 何人も、公職の候補者等を寄附の名義人とする当該選挙区内にある者に対する寄附については、当該公職の候補者等以外の者に対して、これを勧誘し、又は要求してはならない。ただし、当該公職の候補者等の親族に対する寄附を勧誘し、又は要求する場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会に関し必要やむを得ない実費の補償としてする寄附を勧誘し、又は要求する場合は、この限りでない。 第199条の3  公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)がその役職員又は構成員である会社その他の法人又は団体は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体又はその支部に対し寄附をする場合は、この限りでない。 第199条の4  公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)の氏名が表示され又はその氏名が類推されるような名称が表示されている会社その他の法人又は団体は、当該選挙に関し、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)に対し寄附をする場合は、この限りでない。 第199条の5 1項 政党その他の団体又はその支部で、特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)の政治上の主義若しくは施策を支持し、又は特定の公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、若しくは支持することがその政治活動のうち主たるものであるもの(以下「後援団体」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。 2項 何人も、後援団体の総会その他の集会(後援団体を結成するための集会を含む。)又は後援団体が行なう見学、旅行その他の行事において、第4項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該選挙区(選挙区がないときは、選挙の行なわれる区域)内にある者に対し、饗応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)をし、又は金銭若しくは記念品その他の物品を供与してはならない。 3項 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、第199条の2第1項の規定にかかわらず、次項各号の区分による当該選挙ごとに一定期間、当該公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)に係る後援団体(政治資金規正法第十九条第二項の規定による届出がされた政治団体を除く。)に対し、寄附をしてはならない。 第200条 1項 何人も、選挙に関し、第百九十九条に規定する者に対して寄附を勧誘し又は要求してはならない。 2項 何人も、選挙に関し、第百九十九条に規定する者から寄附を受けてはならない。

2.「寄付に関する制限違反の罪」に関する政治資金規正法の定め

また、寄付に関する制限については、公職選挙法だけでなく、政治資金規正法でも定められており、こちらの規定を確認する必要もあります。

政治資金規正法

第22条 1項 政党及び政治資金団体以外の政治団体のする政治活動に関する寄附は、各年中において、政党及び政治資金団体以外の同一の政治団体に対しては、5000万円を超えることができない。 2項 個人のする政治活動に関する寄附は、各年中において、政党及び政治資金団体以外の同一の者に対しては、150万円を超えることができない。 第22条の3 1項 国から補助金、負担金、利子補給金その他の給付金の交付の決定を受けた会社その他の法人は、当該給付金の交付の決定の通知を受けた日から同日後1年を経過する日までの間、政治活動に関する寄附をしてはならない。 2項 国から資本金、基本金その他これらに準ずるものの全部又は一部の出資又は拠出を受けている会社その他の法人は、政治活動に関する寄附をしてはならない。 5項 何人も、第1項又は第2項(これらの規定を前項において準用する場合を含む。)の規定の適用を受ける者であることを知りながら、その者に対して、政治活動に関する寄附をすることを勧誘し、又は要求してはならない。 6項 何人も、第1項又は第2項(これらの規定を第四項において準用する場合を含む。)の規定に違反してされる寄附であることを知りながら、これを受けてはならない。 第22条の4 1項 三事業年度以上にわたり継続して政令で定める欠損を生じている会社は、当該欠損がうめられるまでの間、政治活動に関する寄附をしてはならない。 2項 何人も、前項の規定に違反してされる寄附であることを知りながら、これを受けてはならない。 第22条の6の2 1項 何人も、政治資金団体の預金又は貯金の口座への振込みによることなく、政治資金団体に対して寄附をしてはならない。ただし、その金額が1000円以下の寄附及び不動産の譲渡又は貸付け(地上権の設定を含む。)による寄附については、この限りでない。 2項 政治資金団体は、その寄附を受ける者の預金又は貯金の口座への振込みによることなく、政治活動に関する寄附をしてはならない。前項ただし書の規定は、この場合について準用する。 3項 何人も、前2項の規定に違反してされる寄附を受けてはならない。 第22条の7 1項 何人も、政治活動に関する寄附に係る寄附のあっせんをする場合において、相手方に対し業務、雇用その他の関係又は組織の影響力を利用して威迫する等不当にその意思を拘束するような方法で、当該寄附のあっせんに係る行為をしてはならない。 2項 政治活動に関する寄附に係る寄附のあっせんをする者は、いかなる方法をもってするを問わず、寄附をしようとする者の意思に反して、その者の賃金、工賃、下請代金その他性質上これらに類するものからの控除による方法で、当該寄附を集めてはならない。 第22条の8 1項 政治資金パーティーを開催する者は、一の政治資金パーティーにつき、同一の者から、150万円を超えて、当該政治資金パーティーの対価の支払を受けてはならない。 2項 政治資金パーティーを開催する者は、当該政治資金パーティーの対価の支払を受けようとするときは、あらかじめ、当該対価の支払をする者に対し、当該対価の支払が政治資金パーティーの対価の支払である旨を書面により告知しなければならない。 3項 何人も、政治資金パーティーの対価の支払をする場合において、一の政治資金パーティーにつき、150万円を超えて、当該政治資金パーティーの対価の支払をしてはならない。 第26条  次の各号の一に該当する者(団体にあっては、その役職員又は構成員として当該違反行為をした者)は、1年以下の禁錮又は50万円以下の罰金に処する。 1号 第21条第1項、第21条の2第1項、第21条の3第1項及び第2項若しくは第3項又は第22条第1項若しくは第2項の規定に違反して寄附をした者 2号 第21条第3項の規定に違反して寄附をすることを勧誘し、又は要求した者 3号 第22条の2の規定に違反して寄附を受けた者

政治資金規正法については、選挙の際だけでなく、政治活動における寄付についても問題としています。そして、政治資金についての報告義務等を細かく規定していますが、寄付金の額や寄付を受ける先等についての制限に加えて、そのあっせん行為等についても規制しており、こちらの法律についての正確な知識も求められます。
 このような金銭的な流れ等についても、政治を行う以上、杜撰に行っていると、政治生命にかかわることになりかねません。

3.「寄付に関する制限違反の罪」に関する実例

(1)東京地裁平成30年1月22日判決(平成27年(特わ)第2148号)

事案の概要

被告人は、選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべきAの収支報告書について、Cに5000万円の政治活動に関する寄附をしたにもかかわらず、E党参議院比例区F支部に対して5000万円の政治活動に関する寄附をした旨虚偽の記入をして提出した。
 また、その結果、既に寄付していた金額と併せた総額が5000万円を超えてしまった。

被告人及び弁護人は、もともとFからCに寄付されることが決まっており、意図的に寄付金を迂回させたものではないことに加え、実際の入金先はFであり、その記入内容に虚偽はないものと主張した。

また、別の口座に入金を予定していたところ、入金先を誤解していたために、5000万円を超える金額が寄付されてしまっていたにすぎず5000万円ルールの規制を免れるために行ったものではないと主張した。

結論

関係者の供述等から、「年5月13日のFからCへの資金移動は、AからCに対する寄附であり、AからCへ合計1億円の寄附がされたものと認められる。」と認めた上で、収支報告書に記載すべき事項が客観的資料や帳票類に基づいている必要があることはもちろんのことであるが、そもそもそのような資料が政治資金の収支の実態と一致していることは当然の前提というべきである。政治資金規正法は、収支報告書に記載すべき政治資金の収支について、形式と実態がかい離するなどということ自体およそ想定も許容もしていないものと解されると判示した。

被告人及び弁護人の主張は排斥され、虚偽の記入に関する罪についても成立を認めた。

4「.寄付に関する制限違反の罪」に関する小括

選挙等の政治活動には一定程度のお金が必要になります。一方で、資金力によって選挙の結果が左右されるのでは、民主主義が適切に機能しているとは言えません。したがって、公職選挙法に加えて、政治資金規正法においても、寄付金についての制限が課されています。
 そして、寄付金の制限については、上述した事案のように、形式面を正確に報告することも必要ですが、資金を迂回させて入金させるようなケースにおいては、実質的な寄付先等が認定されることによって、政治資金規正法違反が成立することとなります。
 ですから、寄附に関しては、安易に受け入れるのではなく、特に大きい金額の場合には、正確にその資金源等についても把握しておくことが求められます。

第5.その他の問題点

1.記者会見対応

冒頭で少し触れましたが、議員の先生方を含む著名な方が刑事事件の被疑者や被告人として扱われる場合、捜査機関や裁判所に対する主張の他に、有権者等を含む一般市民に向けた活動についても検討しなくてはなりません。  そして、この内容については、一般市民に対して明らかにしたい内容に加えて、検察官に対して明らかにすべきではない内容についても考慮して決定する必要があります。  また、インターネット上に掲載するなど、一方的に通知する内容であれば、当該内容を詰めることで足りるケースもあり得ますが、その場合であっても、HPに掲載する方法をとるのか、SNS上にも掲載するのかなどの方法について検討する必要があります。  昨今では、文字ではなく表情等も十分に伝えるため、YouTube等で、文字ではなく音声でこちらの主張を伝えるようなケースもあるようです。  一方で、捜査機関による発表を受けてマスコミ各社が事件の内容を既に報道している場合、捜査機関が発表する内容は、基本的に被疑者・被告人にとって悪い情報ばかりであることが多いため、そのような内容を聞いている一般市民の印象を回復するためには、一方的にこちらの主張を列挙するだけでは不十分な場合が想定されます。  その場合、一方的な主張だけではなく、質疑応答も含めて双方的なコミュニケーションの方法として、記者会見の場を設定することも考えられます。  この場合、一方的にこちらの主張を掲載する場合と異なり、どのような質問がなされるのかによって、回答すべき内容も変わってきますので、事前に発表する内容を確定させることが困難になります。もっとも、検察官との関係等を踏まえれば、記者会見の中で全てを説明することは望ましくありません。  さらに、身体拘束を回避するにあたって、罪証隠滅行為と評価されるような行為に及ばないことを条件とする誓約書を提出している場合や、保釈条件として、記者会見等を行わないこと等が定められるケースも存在します。  したがって、記者会見の質疑応答についても、質問に対して誠実に答えるというだけでは足りず、どのように記者会見を進めるのかについて事前に十分に打ち合わせをしておくことが求められます。刑事事件に関する弁護士が、どのように携わるのかについても決めておく必要があるでしょう。  例えば、司会進行を弁護士が行うことも考えられますが、御依頼者様と常に話せる距離にいれないことが想定され、質疑応答の内容について、十分にコントロールを行えないことが考えられます。逆に、司会進行を他の人間に任せて、刑事事件の弁護士も回答を行う側の立場で行うこともあります。この場合、御依頼者様の隣に座るような形になろうと思われますので、質疑応答について細やかなフォローが可能となりますが、口を出し過ぎることによって、公正な記者会見ではないとの印象を与える可能性があります。 このような様々な可能性を踏まえて準備をする必要があるのです。

2.御家族・御友人のサポート

議員の先生方御自身が被疑者や重要参考人として扱われるケースの他にも、御家族や御友人、支援者等の方々が、刑事事件に巻き込まれるケースも考えられます。  また、議員の先生方は、多くの支援者を募る必要があることに加え、日々の業務の過程で様々な方と接する機会があるでしょうから、知人・友人が刑事事件に関与するという事態は、一般の方より頻繁に起こり得るものと言えそうです。  刑事事件は、犯罪行為を内容とする事件ですから、被疑者・被告人としても、あまり多くの人に知られたい問題ではありませんから、近しい友人や御家族までにその内容は止め、それらの方の協力によって、弁護活動を行うケースがほとんどだと考えられます。  もっとも、近しい友人や家族によるサポートを受けられない等の事情から、相談を受ける機会というのも、議員の先生方の人脈の豊富さを考えると、一般の方よりも多いように思います。実際に、弊所においても、議員の先生方経由で友人・知人の弁護を御依頼いただいた場合があります。  このような場合において、議員の先生方に弁護士費用をご負担いただいて弁護活動を行うケースもありますし、上述するような贈収賄に該当するような例外的なケースでなければ、特に弁護士費用を負担することが問題になることはありません。  もっとも、事後的に何らかの問題が生じるリスクは最小限に止める必要性もございます。このような場合、まずは逮捕・勾留されている被疑者・被告人と面会して、御家族等の他の協力者を探すことも可能です。  どのようなサポートが可能なのかについて、改めてご相談させていただけるケースがほとんどだとは思いますので、御自身のケースではない場合であっても、まずは御相談いただければと思います。

まとめ

以上のとおり、選挙犯罪と一口に言っても、意図的に行わなければ適用されることのなさそうな行為から、うっかり犯してしまいかねない行為まで幅広い行為が処罰対象として挙げられています。
 また、立候補者自身が廉潔な人物であっても、その支援者全員がクリーンな選挙活動を心掛けているとは限りません。
 選挙犯罪に関与したと疑われ、有罪判決が下されるようなことがあれば、当該選挙において議員としての地位を勝ち取ることができないばかりか、その後の政治家生命を絶たれかねない程の大きなダメージを負うことになります。
 以上のことから、選挙戦においては、このような選挙の仕組みについても十分に理解している弁護士等の専門家のサポートが不可欠と言えます。
 一方で、選挙犯罪を犯したとして捜査機関による取調べを受けることとなった場合、自身の関与まで疑われてしまい、最終的に有罪判決を下されてしまえば、上述した通り政治家生命を絶たれることになりかねません。
 特に、支援者がよかれと思って行ったことが犯罪行為に該当していたというようなケースの場合、共謀を否定することによって、刑事罰が科されることを回避できるケースも十分に想定できます。
 このような場合には一刻の猶予もありません。できる限り迅速にご相談いただければと思います。