「闇バイト」には絶対に手を出すな!
- SNSを通じて「闇バイト」を募集するような犯罪累計に対する捜査を強化するプランが策定された。
- 「闇バイト」は単なる「バイト」ではなく犯罪行為である。
- 関与してしまった場合、捜査機関による接触の有無にかかわらず、早期に弁護士に相談するべき。
岡本 裕明
私達は、痴漢や暴行のように日々発生している犯罪から、殺人や強盗致傷のように、重い刑罰が科される事件についてまで、幅広く弁護活動を行ってまいりました。
反社会的勢力に所属していたり、同種の犯罪を繰り返してきた方の弁護も担当させていただきましたが、支えてくれる家族がいらっしゃったり、真面目に会社員として勤務されている方など、犯罪と何ら関係なく生活されている「普通」の方と大きく変わらない方からの依頼が圧倒的多数といえます。ちょっとしたきっかけで、犯罪に一歩踏み出してしまう方が非常に多いのです。
とはいえ、そのような方々が、たった一度の過ちで直ちに刑務所に服役しなくてはならないような重罪を犯すことは、あまり多くありません。
もっとも、例外的にこれまで犯罪に関与したことがなく、前科前歴が一切ないにもかかわらず、たった1度の過ちで服役することになってしまうケースもあります。その代表的なケースが「闇バイト」として、詐欺等の犯罪に関与してしまうケースです。このようなケースでは、犯罪組織に所属しておらず、犯罪を遂行するための手駒として利用されたに過ぎない「受け子」等の役割を担った若者であっても、執行猶予が付されることなく、直ちに服役を命じる判決が宣告されることが多いのです。
このような立場の被告人は、友人から「闇バイト」を紹介されるケースもありますが、多くはSNSを通じて犯罪組織として関与し、そのまま流れに身を任せて、犯罪行為に至ってしまうケースが目立ちます。
このような事案が増加傾向にあることを踏まえて、令和5年3月17日、犯罪対策閣僚会議において、「SNSで実行犯を募集する手口による強盗や特殊詐欺事案に関する緊急対策プラン」が策定されました。
今回は、このような動きを踏まえて、SNSで「闇バイト」や「裏バイト」等と呼称して、犯罪の実行役が募集されているケースについて、解説をさせていただきます。
目次
1.「闇バイト」の内容
岡本 裕明
「闇バイト」や「裏バイト」は、組織的な犯罪が行われる際に用いられることがほとんどです。自分で行えば、バイト料等を渡すことなく行うことが可能であるのに、SNSを用いて「闇バイト」等を募集するのは、実際に行わせる行為が、捜査機関に露見する危険性が高く、犯罪組織に所属する人間として、逮捕等のリスクを負わずに、犯罪を遂行することができるからです。
犯罪組織が行う犯罪として、例えば特殊詐欺の事例ですと、「受け子」や「出し子」、「リクルーター」や「見張り」行為等があげられます。「受け子」や「出し子」は、少し考えれば違法な行為に関与しているのではないかと気付ける内容ではあるものの、行う行為自体は、物を受け取ったり、金銭を引き出したりするなど、一般的にも行い得る行為であることから、犯罪に関与しているという意思が小さいまま、犯罪に関与してしまうことになるのです。
そして、一度犯罪に関与してしまうと、犯罪組織から脅されることもありますし、徐々に感覚が麻痺して、高額な報酬につられて、同じ行為を繰り返してしまうことになるのです。
そうなってしまうと、最初は犯罪に関与するつもりがなかった場合でも、徐々に、犯罪であることが明らかな「たたき」と呼ばれる強盗のような行為についても、軽い気持ちで関与してしまい、気付いた時には、服役が命じられてもおかしくない状態に陥ってしまうのです。
2.「闇バイト」の募集行為
岡本 裕明
「闇バイト」に応募して、犯罪の片棒を担いでしまうことになってしまった場合、犯罪の実行行為者となってしまいますから、そのような方にも責任が認められることは明らかです。
一方で、もっとも違法性が高く、捜査機関として検挙したいと考えているはずなのは、「闇バイト」を募集している犯罪組織側です。
では、「闇バイト」として、犯罪を行わせてしまう前に、「闇バイト」が募集された段階で検挙することはできないのでしょうか。 この点については、職業安定法の適用が問題となります。
職業安定法
第63条 次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する。 1号 暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、職業紹介、労働者の募集若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したとき。 2号 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で、職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事したとき。
「公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務」がどのような業務を含むものかについては、法解釈上の問題はあるように思いますが、少なくとも犯罪行為に該当する行為を業務として行わせる場合には、「有害な業務」に該当するものと思われます。
3.緊急対策プラン策定の影響
岡本 裕明
冒頭で、緊急対策プランが、犯罪対策閣僚会議で策定された旨をお伝えさせていただきました。新たな法律が制定された訳ではありませんが、このプランの策定によって、刑事事件に何らかの影響があるでしょうか。
緊急対策プランの内容の中には、「闇バイト」という呼称が、「闇バイト」への応募の心理的ハードルを低めているものと考え、「闇バイト」が犯罪行為であることを周知する活動等も定められています。
しかし、緊急対策プランの中には、「闇バイト」に従事してしまった実行犯に対する適切な科刑を実現するために、余罪を積極的に立件することや、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(犯収法と略します)を適用することなども掲げられています。
「闇バイト」が必要となるのは、犯罪組織が裏に存在しているケースがほとんどです。そして、犯罪組織は同種の犯罪を常習的に行っています。ですから、「闇バイト」に応募した実行犯が逮捕される時には、既に何件もの被害者から金銭等を受領してしまっているケースが多いのです。 従前から、余罪の存在については、捜査機関によって綿密な捜査が行われてきましたが、改めて積極的に余罪を立件する方向性が明らかになったことによって、余罪を余罪のままにして捜査を終わらせるのではなく、一つの被疑事実として立件される可能性が高まったといえるでしょう。 その結果として、一度、逮捕されてしまった場合、余罪が芋づる式に明らかになることで、再逮捕が繰り返され、身体拘束期間が長期化する可能性も高まっているといえます。
また、詳細な紹介は差し控えますが、組織的犯罪処罰法が適用された場合、より一層、重い刑罰が科されることが予測されます。
4.「闇バイト」と弁護活動
岡本 裕明
私達は、刑事事件が発生してから選任され、弁護活動を行うことになります。しかし、これまでお伝えさせていただいた通り、私達に弁護をご依頼いただくような事態を避けていただくのが一番です。このコラムも、「闇バイト」に安易に応募していただくことがないように願って執筆させていただいております。
しかし、十分な知識を持たないまま、高額な報酬と「バイト」という語感に騙されて、犯罪に加担してしまった場合、直ちに御相談ください。
「闇バイト」として犯罪に及んでしまうケースにおいて、自分一人でも違法な行為によってお金を稼ごうという考えを抱いている方は多くありません。誰かに命じられた内容だからこそ、違法な行為に至るまでの心理的なハードルが低くなっている訳です。
したがって、まずは人間関係の清算が必要不可欠です。
また、特殊詐欺のような事例においては、詐取した金額については犯罪組織に上納してしまっており、手元にお金が残されていないことがほとんどだと思いますが、部分的であっても被害者の方に被害金の返済を行い、可能な限り示談をまとめることが重要となってきます。
逆に、犯罪組織が巧妙に「闇バイト」を募集した結果として、犯罪に関与しているという認識を抱けないまま犯罪に関与してしまっていた場合、故意が欠けていることなどを理由に、犯罪の成立を否定することもあり得るかもしれません。
「闇バイト」に関与してしまったことについて反省していただくことは必要かもしれませんが、取調べに応じることだけが反省する手段ではありませんから、弁護士による適切な助言を得られるまでは、取調べに対して黙秘していただくことが極めて重要になろうかと思います。
5.まとめ
岡本 裕明
私達は刑事事件の弁護士として、被疑者・被告人の方の力になれるように日々励んでおります。しかしながら、何度も繰り返すようで恐縮ですが、本来的には、私達に依頼するような事態にならないことが、最も重要です。
特に、「闇バイト」との関係では、安易に「闇バイト」に応募してしまい、後戻りができない状態に陥り、犯罪組織の指示に従い続けてしまった結果、刑務所に服役することになってしまった方が散見されます。
改めて、犯罪行為とは思えないような募集要項であっても、SNSを通じて高額な業務を探すことは慎んでいただければと思います。
そして、もし御自身や御家族が「闇バイト」に関与したことで、捜査機関の取調べを受けるような事となった場合には、直ちに弁護士にご相談ください。捜査機関による取調べを受ける前であっても、犯罪組織との手の切り方や、自首をするかどうかの判断等、弁護士がアドバイスできることは多くあるはずです。