給与ファクタリングとは何か。犯罪となってしまうのか。
- 給与ファクタリング業者が全国で初めて摘発された
- 給与ファクタリングは「借金ではない」と謳われているものの、実際には借金と同じであり、法的にも貸付と扱われている。
- 給与ファクタリングについても貸金業法等の適用が認められ、今後も同様の事件の摘発が予想される。
先日、給与ファクタリングと呼ばれる方法でお金を貸していたとして、数名の男女が逮捕されたというニュースが報道されていました。給与ファクタリングを理由とする逮捕は、全国で初めてのケースだったということで、社会的耳目を集める事案となっています。
しかしながら、給与ファクタリングと聞いても、実際にどのようなことをしていたのか分からない方も多いと思いますし、何故そのような行為が犯罪となるのかについて正確に理解できている方も多くないように思います。
今回は、給与ファクタリングを行っていた被疑者に対して、貸金業法違反の罪が適用されたようですが、貸金業法違反の内容についても、刑法で定められている窃盗や強盗等のように、どのような行為を内容とするものなのか一見して明らかではありません。
今回のコラムでは、給与ファクタリングの内容や、どうして犯罪行為とされているのかという点について解説し、今回適用された貸金業法違反の内容についても解説したいと思います。
目次
1.給与ファクタリングとは
(1)給与ファクタリングの仕組み
まずは、給与ファクタリングといわれる行為について考えていきたいと思います。
給与ファクタリングは、簡単に説明すると給料の現金化です。給料は、勤務先の会社に対する労務の対価として支払われるものですから、一定期間働いた後、月末等にまとめて支払われることになります。この将来的にもらえる給料債権を業者に売却し、その対価として現金を受け取るという仕組みを、給与ファクタリングと呼んでいるのです。
この仕組みを用いることによって、給料の先払いを受けられることになるため、緊急の支出が必要となる方が、このような仕組みを利用されていたようです。
特に、給与ファクタリングの業者が、「借金ではない」ということを謳い文句として強調しているのも、この仕組みの利用を誘引する一つの原因となっています。
この仕組みは、あくまでも形式的には給料債権の売却となっていますから、給料を担保にお金を借りるという訳ではないからです(そのような説明が否定されていることについては後述します)。
仕組みだけ聞くと問題ない制度のように聞こえますが、独立行政法人国民生活センターが注意喚起のための報告書を作成する等、極めて問題のある仕組みと理解されていますし、同センターにも多くの相談が寄せられているようです。
(2)給与ファクタリングの問題点
給与ファクタリングの問題点は、実質的には給料を担保とした借金とほぼ同じような内容であるにもかかわらず、給料債権を売却した対価としてお金を渡しているという形式をとっているため、お金の貸し借りに関する規制が及ばないかのように扱われている点にあります。
例えば、お金の貸し借りに関する規制として、金利の問題が思いつく方は多いように思います。
利息制限法
第1条
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
1項 元本の額が10万円未満の場合 年2割
2項 元本の額が10万円以上100万円未満の場合 年1割8分
3項 元本の額が100万円以上の場合 年1割5分
このように利息制限法は、利息の上限を定めているのですが、給与ファクタリングの利用が借金ではない(消費貸借ではない)とされた場合、この法律が定めている利息の上限の規制は適用されないこととなります。
給与ファクタリング業者は、違法な金利として扱われることのないように、手数料という名目で、将来的に支払われる給料から金額を差し引いています。そして、手数料は金利とは異なるという理由で、利息制限法が規制している金額を超える手数料を求めているのです。
また、次のとおり、お金を貸す業務を行う場合には、貸金業法の規制が適用され、貸金業者としての登録が求められることになります。
貸金業法
第2条
この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介…で業として行うものをいう…
第3条
貸金業を営もうとする者は、2以上の都道府県の区域内に営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあっては内閣総理大臣の、1の都道府県の区域内にのみ営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあっては当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。
ここでも、給与ファクタリングは、金銭の貸付けではないと扱われてしまった場合、給与ファクタリング業者は、貸金業法の適用を受けないこととなる訳です。
貸金業法は、消費者の生活を破壊させてしまう危険性の高い、所謂闇金と呼ばれるような機関に貸金業を営ませないようにすることを1つの目的としていますから、貸金業法が適用されないということになると、これまで闇金として貸金業を営むことができなかった業者も、給与ファクタリング業者として営業できることとなってしまう訳です。ここでも、給与ファクタリングは、金銭の貸付けではないと扱われてしまった場合、給与ファクタリング業者は、貸金業法の適用を受けないこととなる訳です。
(3)給与ファクタリングは本当に借金ではないのか
では、給与ファクタリングの仕組みは、実際に借金ではないと評価することができるのでしょうか。
この点については、金融庁監督局総務課金融会社室長が、金融庁における一般的な法令解釈についての見解を明らかにしており、その中で給与ファクタリングの仕組みは、「経済的に貸付けと同様の機能を有しているものと考えられる」として、貸金業法の適用を受ける行為だとしています。
このように結論付けた理由は、小難しい話になってしまいますので、要約して解説させていただきます。
もし、給与ファクタリングが、形式的にも実質的にも借金にあたらず、給料債権をファクタリング業者に譲渡した対価を渡しているに過ぎないというのであれば、譲渡された給料債権はファクタリング業者のものとなっている訳ですから、譲渡された給料の金額については、利用者が勤めている会社からファクタリング業者に直接支払われることになります。
しかし、実際にはそのような形にはなっていません。それは、労働基準法第24条1項が適用されることによって、給料債権を譲渡するような契約が締結されている場合であっても、会社は従業員に対して直接給料を支払わなければならないとされているからです。
そうすると、結局、利用者は、給料を受け取った後に、譲渡した金額を業者に支払うことになりますから、結局、支払われた給料を原資に、ファクタリング業者から受け取った金額を返済するのと全く同じだということになります。
2.貸金業法とは
(1)登録制であること
以上のような説明によると、会社に雇用されている訳では無く、委任契約によって仕事を行い、その対価として報酬を受けている方との関係において、会社がファクタリング業者に対してその報酬を支払うような仕組みとする等、給与ファクタリングと同様の方法によって、貸金業法等の規制の抜け道を作ることは考えられそうですが、少なくとも現在の給与ファクタリングの大半については、ファクタリング業者の謳い文句である「借金ではない」という内容は誤ったものであり、通常の借金と同様に扱われるべきものであり、貸金業法の適用を受けることになるのです。
そして、上述したとおり、貸金業を営もうとする者は、貸金業者としての登録を受ける必要があり、この登録を受けることなく営業した場合には刑罰が科されることになります。
貸金業法
第11条
1項 第3条第1項の登録を受けない者は、貸金業を営んではならない。
2項 第3条第1項の登録を受けない者は、次に掲げる行為をしてはならない。
1号 貸金業を営む旨の表示又は広告をすること。
2号 貸金業を営む目的をもつて、貸付けの契約の締結について勧誘をすること。
第47条
次の各号のいずれかに該当する者は、10以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2号 第11条第1項の規定に違反した者
今回の事件との関係についても、貸金業法違反(無登録営業)によって立件されたと報道されていましたから、この規程が適用されたものと考えられます。
特に、違法な方法によってお金を稼ごうとする目的による犯罪であることから、その罰金刑の金額の上限が極めて高いものとなっています。
(2)その他の規制について
また、上述したとおり、貸金業法は、一般的な消費者を破壊させるような闇金業者が跋扈することがないように制定された法律ですから、貸金業を適性に営むための様々な規制が設けられています。その中でも、取立て行為に関する規制は、お金を借りた方の日常生活を脅かすものになりますから重要なものと言えそうです。
貸金業法
第21条
1項 貸金業を営む者又は貸金業を営む者の貸付けの契約に基づく債権の取立てについて貸金業を営む者その他の者から委託を受けた者は、貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たって、人を威迫し、又は次に掲げる言動その他の人の私生活若しくは業務の平穏を害するような言動をしてはならない。
1号 正当な理由がないのに、社会通念に照らし不適当と認められる時間 帯として内閣府令で定める時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること。
2号 債務者等が弁済し、又は連絡し、若しくは連絡を受ける時期を申し出た場合において、その申出が社会通念に照らし相当であると認められないことその他の正当な理由がないのに、前号に規定する内閣府令で定める時間帯以外の時間帯に、債務者等に電話をかけ、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の居宅を訪問すること。
3号 正当な理由がないのに、債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所 に電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は債務者等の勤務先その他の居宅以外の場所を訪問すること。
4号 債務者等の居宅又は勤務先その他の債務者等を訪問した場所において、債務者等から当該場所から退去すべき旨の意思を示されたにもかかわらず、当該場所から退去しないこと。
5号 はり紙、立看板その他何らの方法をもってするを問わず、債務者の借入れに関する事実その他債務者等の私生活に関する事実を債務者等以外の者に明らかにすること。
6号 債務者等に対し、債務者等以外の者からの金銭の借入れその他これ に類する方法により貸付けの契約に基づく債務の弁済資金を調達することを要求すること。
7号 債務者等以外の者に対し、債務者等に代わって債務を弁済すること を要求すること。
8号 債務者等以外の者が債務者等の居所又は連絡先を知らせることその他の債権の取立てに協力することを拒否している場合において、更に債権の取立てに協力することを要求すること。
9号 債務者等が、貸付けの契約に基づく債権に係る債務の処理を弁護士…等に委託し、又はその処理のため必要な裁判所における民事事件に関する手続をとり、弁護士等又は裁判所から書面によりその旨の通知があつた場合において、正当な理由がないのに、債務者等に対し、電話をかけ、電報を送達し、若しくはファクシミリ装置を用いて送信し、又は訪問する方法により、当該債務を弁済することを要求し、これに対し債務者等から直接要求しないよう求められたにもかかわらず、更にこれらの方法で当該債務を弁済することを要求すること。
10号 債務者等に対し、前各号(第六号を除く。)のいずれかに掲げる言動をすることを告げること。
第47条の3
次の各号のいずれかに該当する者は、2年以下の懲役若しくは300円以下の罰金に処し、又はこれを併科する…。
3号 第21条第1一項…の規定に違反した者
1号や4号、6号等については、漫画やドラマ等において見たことのある光景のように思う方もいらっしゃるように思いますが、これらは全て貸金業法で禁止されている取立て行為なのです。
そして、そのような禁止行為に違反した場合には、刑罰も予定されています。
3.給与ファクタリングと弁護活動
給与ファクタリングについて、刑事事件の弁護士がどのように関与することがあるのかという点については、双方向からの関与の仕方が考えられます。
まずは利用者側の代理人としての活動です。給与ファクタリングの利用者としては、借金には当たらないという謳い文句を信用している方が多く、ファクタリング業者と御自身と勤務先の会社の法的な関係について十分に整理できていない方が多いように思います。
この点を十分に整理した上で、不必要な支出を取り戻し、ファクタリング業者からの不当な請求を防ぐという活動が考えられますが、この場合、あまり刑事事件としての側面は強くないように思います。
逆に給与ファクタリングによってお金を貸す側として関与してしまった場合には、上述したような各種業法に違反してしまう可能性があります。そして、実際に報道が為されているように、給与ファクタリングについても、基本的には単独で犯せる罪ではなく、組織的な背景が存在する犯罪であることから、逮捕・勾留がなされてしまう可能性が極めて高いのです。
もし、給与ファクタリングを理由とする容疑を掛けられている場合、組織の上位者でない場合には、末端の構成員であり、十分に違法性を認識できていなかったことについて、関与するに至った経緯等を理由に主張することになろうと思います。その結果として、末端の構成員として利用されていたに過ぎないと認めてもらえた場合には、逮捕・勾留を回避できるかもしれません。必ずしも全ての構成員を逮捕・勾留する訳ではないからです。
逆に、組織の首謀者としての位置付けになってしまう場合には、その事業の悪質性を否定するような弁護活動を行うことが考えられます。
いずれにしても、刑法が定めているような、一般的な犯罪とは異なりますから、刑事事件についての知見を十分に有する弁護士のサポートが不可欠といえます。
4.まとめ
以上のように、給与ファクタリングは、「借金ではない」ことを謳い文句として広まっているようではありますが、その内容は借金と何ら変わりありませんし、法的にも貸付けと評価されています。
当然、今回報道されたケースが全国で初めての摘発例という事ですから、給与ファクタリングについての裁判例等は存在しませんが、今回の件について無罪となることはあまり想定されません。
給与ファクタリングという仕組みを使って、利用者を募っている業者は他にも多数存在すると考えられ、今後も摘発が予想されます。