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コラム

検察審査会とは何か

簡単に言うと…
  • 安倍晋三元首相の「桜を見る会」夕食会費補填問題に対して、検察審査会が不起訴相当と議決した。
  • 検察審査会はくじで選任された一般人の方から構成され、審査の際には弁護士が審査補助員に委嘱されることもある。
  • 被疑者の扱いや審査方法等、制度設計上の不備と解される部分が少なくなく、改正が望まれる制度といえる。
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 先月の話になりますが、世間を賑わせた「桜を見る会」における夕食会費補填問題について、安倍晋三元首相に対して「不起訴相当」との議決がなされた旨が報道されていました。
 「不起訴相当」の議決は東京第5検察審査会が行ったものなのですが、検察審査会という組織がどのような組織なのかについては、一般的に周知されているようには思われません。
 どのような人間がどのような手続で「不起訴相当」という判断をくだしたのかについて、今回は解説させていただこうと思います。

検察審査会とは

検察審査会法

 検察審査会については、検察審査会法というそのままの名前の法律が定められていますので、まずはその内容について確認してみましょう。

検察審査会法

第1条
1項 公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため、政令で定める地方裁判所及び地方裁判所支部の所在地に検察審査会を置く…。
第2条
1項 検察審査会は、左の事項を掌る。  1号 検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項  2号 検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項 2項 検察審査会は、告訴若しくは告発をした者、請求を待って受理すべき事件についての請求をした者又は犯罪により害を被った者(犯罪により害を被った者が死亡した場合においては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)の申立てがあるときは、前項第一号の審査を行わなければならない。 3項 検察審査会は、その過半数による議決があるときは、自ら知り得た資料に基き職権で第一項第一号の審査を行うことができる。
第3条
 検察審査会は、独立してその職権を行う。を逮捕することができる。
第4条
 検察審査会は、当該検察審査会の管轄区域内の衆議院議員の選挙権を有する者の中からくじで選定した11人の検察審査員を以てこれを組織する。

 検察審査会法の総則部分からわかることは、検察審査会は、裁判員裁判における裁判員と同じように、くじで選定された一般の方から構成され、検察官が不起訴処分とした事件について、不起訴処分とすることが妥当かどうかを審査するための組織だということです。
 なお、第2条1項2号で、検察事務の改善について勧告等も行える旨が定められていますが、裁判所が公表している統計によると平成28年から令和2年までの間、勧告等は一度も行われておらず、検察事務の改善についての審査はほとんど行われていないのが実情のようです。

不起訴処分に納得できない方のための手続

 日本の刑事手続は、捜査機関と被疑者・被告人を中心に定められており、被害者は手続の当事者とされておりません。
 被害者の権利等を保護するために、刑事裁判においては、刑事訴訟法第316条の33以降等で、被害者を刑事裁判に参加させる手続等が定められていますが、起訴される前の段階では、被害者を刑事手続に関与させることは想定されておりません。
 唯一、被害者が告訴をしていた場合にのみ、次のような定めが置かれています。

刑事訴訟法

第260条
 検察官は、告訴、告発又は請求のあった事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない…。
第261条
 検察官は、告訴、告発又は請求のあった事件について公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは、速やかに告訴人、告発人又は請求人にその理由を告げなければならない。
第263条
 刑法第193条から第196条まで又は破壊活動防止法…第45条若しくは無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律…第42条若しくは第43条の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に事件を裁判所の審判に付することを請求することができる。

 以上のとおり、被害者は、被害を被った事件について告訴をしていた場合には、検察官から不起訴とする理由の告知を求めることができます。
 しかしながら、その理由に納得がいかなかった場合であっても、刑事訴訟法第262条が定める付審判請求が行えるのは、極めて限られた犯罪行為でしかありません。
 そこで、被害者は検察官の不起訴処分が不当だと感じた場合には、検察審査会に対して審査を行うことを請求することになるのです。
 冒頭で紹介した安倍晋三元首相の事件については、被害者による告訴ではなく、学者による告発が契機となっているようですが、不起訴処分に納得がいかなかった方による請求によって、検察審査会は動き出すことになります。
 なお、誰からも請求がなくても、検察審査会が職権で審査を行うこともありますが、検察審査会で審査を行った数の1割未満しか職権での審査は行われていないようです。

検察審査会における手続

審査の方法

 検察審査会においては、検察審査会に選ばれた一般の方が、検察庁から取り寄せた記録をもとに、本当にその事件を不起訴処分として終結させるのが適切なのかどうかを検討することになります。
 裁判員裁判の場合には、どのように審議を進めるのかについて、裁判官が裁判員に対して助言することができますが、検察審査会の場合にはそのような存在がいないのが原則となっています。
 複雑な法解釈等が問題となるケースもあり得ますので、専門的な知識が必要となる場合には、弁護士を審査補助員として委嘱できることとなっていますが、審査補助員は検察審査会の自主的な判断を妨げないように求められていますので(検察審査会法39条の2第5項)、検察審査会に選任された一般の方の判断が、裁判員裁判以上に重要になる手続だと言えます。
 審査する過程で、結論を出すのに更なる情報が必要だと感じた場合、検察審査会は、検察官に必要な資料の提出を求めたり、被害者を呼び出して尋問したりすることも可能になっています。

第1段階の議決

 検察審査会の議決は、  ・不起訴相当  ・不起訴不当  ・起訴相当 の三種類に分けられます。
 不起訴相当の場合には、検察官の判断が正しかったことになります。また、不起訴不当の議決を行う場合、検察官は検察審査会の議決を踏まえて、再度、事件について起訴するかどうかを検討することになりますが、検察官が検察審査会の議決を踏まえても不起訴処分が相当であると判断した場合には、改めて不起訴処分とすることで事件は終了することになります。
 一方で、起訴相当の議決がなされた場合、検察官が再び不起訴処分とすることで事件が終結することはなく、検察審査会において第2段階の議決を行う事になります。

第2段階の議決(起訴議決)

 検察審査会は第2段階における議決において、起訴議決をするかどうかを判断することになります。
 起訴議決が行われた場合、検察官が起訴しない旨を判断しているにもかかわらず、検察審査会の判断によって、被疑者は起訴されることとなり、被告人として刑事裁判を受けることになるのです。

検察審査会法の問題点

 以上が検察審査会における手続の概要です。 検察審査会の起訴議決によって行われる刑事裁判は、検察官ではなく指定弁護士が被告人の訴追を行うことになります。ですから、普通の刑事裁判とはこの点においても大きく異なりますし、問題点も多く指摘されているところではありますが、検察審査会の議決後の話になりますので、この点の解説は省略させていただきます。
 検察審査会は、裁判員裁判制度と異なり、社会的耳目を集めることもありませんでしたから、何度かの改正を経ているものの、検察審査会を適切に機能させるために十分に内容が定められているとはいえないように思っています。
 まず、被疑者が蔑ろにされ過ぎているという点です。検察審査会はあくまでも検察官の判断の当否を判断する組織ですから、被告人の刑事責任を判断する裁判所とは立場が違います。とはいえ、被疑者からすれば自身が訴追されるかどうかを決める手続になりますので、検察審査会の手続に全く関与できないのは不当だと感じています。
 また、検察審査会における審査の方法についても、現時点では検察審査会に選任された方の負担が大きすぎるように思います。どのような事案においても、どういった内容を重点的に審査すべきかについて助言を行う審査補助員に委嘱を行うべきですし、検察審査会の自主的な判断を妨げないというだけでなく、審査補助員が行える助言の範囲を明確にすべきように思います。そうでなければ、審査補助員が助言に躊躇する事態が生じるからです。

検察審査会と弁護士の役割

 せっかく不起訴処分となったのにもかかわらず、再度、被疑者として不安定な立場に犯されることは避ける必要があります。しかしながら、検察審査会法は、被疑者が手続に参加することを想定した条文を設けていません。
 そこで、示談が成立していないケース等、刑事罰が科されないことに被害者が不満を抱く可能性があるケースについては、検察審査会において不起訴処分が相当である旨が一般市民にも分かり易いように弁護活動をしておく必要があります。
 一方で、示談交渉が成立したことを理由として起訴猶予処分を狙うのではなく、嫌疑不十分等を理由とする不起訴処分を目指す場合には、捜査機関の取調べに対して黙秘しているケースが多いように思われます。そうすると、一般人にも分かり易い形で、被疑者に犯罪が成立しない事や被疑者が犯人でないことを、検察官にどこまで伝えるべきかという点は極めて微妙な判断が求められます。 検察審査会が行われるケースが極めて多い訳ではないことを考えれば、原則としては、一般市民にも分かり易い形で捜査段階で弁護活動を行い、その内容を検察官に報告する必要性は高度には認められないでしょう。
 もっとも、捜査段階で被害者側にも代理人弁護士が選任されており、弁護士同士でのやり取りがなされている場合等については、例外的に、こちらの主張の正しさについて具体的に検察官に説明しておく合理性も認められます。 刑事事件の弁護士のアドバイスを求める必要がある局面だといえるでしょう。

まとめ

 検察審査会については、他にも様々な問題点があるのですが、今回の解説はここまでとさせていただきます。なかなか、注目されることの少ない手続ですので、一般の方々に制度の問題点を御理解いただく機会もなかったように思います。
 元首相の在職期間中の行動についての審査という点で、本件は大きく報道されることになりましたし、今回の件を機に、検察審査会制度が適切に機能するように、議論が活発化されることを望んでいます。

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