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コラム

日本人の多国籍軍への参加について

簡単に言うと…
  • ウクライナの多国籍軍に参加するための義勇兵として、約70名の日本人が志願した。
  • 多国籍軍に参加する目的で渡航を試みた場合、私戦予備・陰謀の罪が成立する可能性があり、国外における殺人行為にも日本の刑法は適用される。
  • 実際に、日本の刑法が適用される可能性は大きいものとはいえないものの、他の方法で支援することを模索すべきである。
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先月、ロシア軍がウクライナへの侵攻を開始しました。その後、ウクライナは徹底的に抗戦しており、停戦交渉が実施されたものの、この記事を書いている段階においては、合意の目途は立っておらず、ミサイル攻撃及び砲撃が続いております。
 一刻も早くこのような状況が改善されることを祈るばかりです。
 一方で、日本国内においては、ウクライナ義勇兵に、元自衛官の方を中心に、約70人が志願されたという報道がなされました。
 自らの命を危険に晒してでも、危険な地域に赴こうとする心意気に心打たれるところもあるのですが、どのような形で行動することになるとしても、戦地に兵士として赴く以上、対峙する兵士の命を直接奪う行為に加担することになる可能性が極めて高いものといえます。
 このような行為を日本の法律は許容しているのでしょうか。
 今回は、この点について解説させていただこうと思います。

私戦予備・陰謀罪

刑法上の定め

外国の義勇兵に参加するといった報道がある際に話題にあがるのが、私戦予備・陰謀の罪です。どのような罪なのかについて確認しましょう。

刑法

私戦予備及び陰謀)
第93条
 外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、3月以上5年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する

 

 義勇兵として現地に赴く以上、外国であるロシア連邦に対する戦闘行為をする目的であることは明らかに認められそうです。ですから、ウクライナの義勇兵として志願する行為がこの条文に該当するかどうかを検討するにあたっては、「私的に」という部分と「予備又は陰謀」という部分が一番の問題になりそうです。
 適用される機会の少ない条文ですし、この点について判断された裁判例も見当たりませんでしたから、あくまでも私見になりますが、それぞれの要件に該当するのかどうかについて考えてみましょう。

「私的」といえるのか

 今回の件は、ウクライナのゼレンスキー大統領が多国籍軍を編成することを発表し、在日ウクライナ大使館が、公式Twitter上で義勇兵への参加を呼び掛けたことが契機となっているようです。
 志願された方々も、あくまでも多国籍軍への参加を志願していたものと考えられ、個人的に戦闘行為を行おうと考えている訳ではないはずです。
 そうすると、「私的」ではないようにも思えます。
 しかしながら、刑法93条は、刑法の中の国交に関する罪の中で定められたもので、日本の国際関係上の地位等を侵害する行為を処罰するものです。日本が国家として多国籍軍への参加を決めた訳ではない以上、多国籍軍への参加については個人の判断であり、その結果として、日本の国際関係上の地位が脅かされる危険性が生じるのであれば、「私的」な目的によるものと判断される可能性が高いものといえます。

「予備又は陰謀」といえるのか

 「予備」とは、私的な戦闘行為を行うための準備行為をいいます。武器や資金の調達行為が典型例です。そして、「陰謀」とは、私的な戦闘行為のための話し合いを行うことなどを意味します。
 義勇軍への志願にとどまる場合、戦闘行為を行うための具体的な準備行為といえるかは微妙なところです。しかし、既に戦闘が行われている状況下において、多国籍軍を編成する準備が整えられているのであれば、特に国内で準備をしなくとも、身一つで現地に赴くだけで、戦闘行為を始めることは可能なはずです。
 特に、刑法は私戦予備だけを処罰しており、外国での戦闘行為自体については処罰を予定していません。また、後述する国外犯についての規定も、私戦予備・陰謀罪については適用されませんので、国外における予備行為についても刑罰を科せません。
 このような点を踏まえた上で、私戦予備・陰謀の罪が定められていることを考慮すると、志願行為だけをもって「予備」と評価することは難しそうですが、今回のような環境下において渡航の準備を行った場合には、「予備」に該当するものといえるように思います。

殺人罪等

国外犯の規定

これまで、日本国内における行動に対して、私戦予備・陰謀の罪が成立するかどうかを検討してきました。上述したとおり、私的な戦闘行為については、予備・陰謀の罪しか定められておらず、戦闘行為自体に刑罰は予定されておりません。
 では、実際に戦地に赴いて戦闘行為に及んだ場合には、何の刑罰も科されないのでしょうか。刑法は、この点について、国外犯についての規定を設けています。

刑法

(国内犯)
第1条1項
 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
(すべての者の国外犯)
第2条
 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
  2号 第77条から第79条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
(国民の国外犯)
第3条
 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
  7号 第199条(殺人)の罪及びその未遂罪
(国民以外の者の国外犯)
第3条の2
 この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。
  2号 第199条(殺人)の罪及びその未遂罪

 

 大幅に省略させていただいておりますが、基本的には、1条1項が定めるとおり、刑法は日本国内における行為に対して適用されます。そして、例外的に、国外の行為に対しても適用される旨が定められており、国外において日本人が他人を殺害した場合でも、日本人が殺害された場合でも、日本の刑法を適用することは可能である旨が定められているのです。

国外犯の捜査

 とはいえ、外国の主権を侵害することになりますから、国外に警察官を派遣して殺人犯を逮捕することはできません。 
 帰国後に日本の刑法を適用して刑罰を科すことは可能ですが、殺人罪を証明するための証拠が外国にある以上、裁判を行うのに必要な証拠を十分に集めることができるかは難しいところがあるでしょう。
 一方で、証拠が国外に存在する場合に、証拠を一切集めることができないというわけではありません。証拠が存在する国に対して捜査の協力を求めることを捜査共助といい、米国等との間では捜査共助についての条約が締結されています。
 ウクライナとの間では捜査共助の条約は締結されていないようですが、ウクライナも日本も国際刑事警察機構(インターポール)に加盟しており、同機構を通じた捜査共助に基づいて捜査が行われることは考えられます。
 自国の多国籍軍に参加した兵士に対する刑事訴追に協力する可能性も、戦地において殺人罪に関する証拠を収集できる可能性も、あまり現実的なものではないかもしれませんが、可能性が0だとまでは言い切れません。

想定し得る弁護活動について

 弊所において私選予備及び陰謀等の罪で取調べを受けている方から相談を受けたことはありませんし、海外において殺人の罪を犯したことで取調べを受けている方から相談を受けたこともありません。このような罪で取調べを受けること自体、極めて例外的だといえるでしょう。
 ですから、このような事実を疑われ、捜査の対象となってしまうと、広く報道される可能性があります。そして外国との関係が問題となる訳ですから、政治的な道具として用いられる可能性も否定できません。
 また、国外との関係性が問題となる犯罪行為であることから、国外への逃亡を疑われる場合には、逮捕、勾留の要件を充足するものと判断されることもあり得るように思います。
 そこで刑事事件の弁護士としては、逮捕、勾留を回避できるように活動を行うことが求められるでしょう。そして、通常の事案と異なり、海外渡航の可能性を強く疑われる事案であることから、単に同居の家族の身柄引受書を提出するのではなく、既に海外に渡航する動機がなくなっていることなどを具体的に明らかにするような活動が求められるはずです。
 このような弁護活動は、逮捕、勾留を避けるだけでなく、犯罪自体の悪質性や再犯可能性を否定する事情にも繋がるはずです。どのような具体的な事実を理由に、何を主張するのかについては、刑事事件の弁護士のアドバイスが必要になるでしょう。
 

 

まとめ

 以上のように、義勇兵への参加に志願してウクライナへ渡航しようとする行為や、ウクライナにおいて敵国の兵士を殺害するような行為に対しては、日本の刑法が適用されるものといえます。
 実際に、そのような行為について起訴される可能性は大きなものではないかもしれません。しかし、イスラム国へで戦闘員として働くことを目的としてシリアへ渡航しようとした大学生が、私戦予備・陰謀の罪の容疑で書類送検されたケースもあります。
 弁護士としては日本法に抵触する危険性が高い以上、義勇兵への参加という方法以外で、窮地に陥った外国の人々を支援する方法を探っていただくことをお勧めします。

 

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