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コラム

選挙に関する犯罪。公職選挙法違反とは。

簡単に言うと…
  • 公職選挙法違反の中で、最も数が多いとされているのは、買収及び利害誘導の罪。
  • 選挙犯罪の特徴として強い党派性が認められるとされ、買収等が行われた場合には、立候補者も関与していたのではないかと疑われることが多い。
  • 金銭の支払いが絶対的に禁じられている訳ではないものの、その許容範囲については詳細に定められており、正確な理解が求められる。
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 先日、参議院選挙が行われました。私も投票をして参りました。私達有権者の声が少しでも反映されるように、今回の選挙で当選された議員の先生方には頑張っていただきたいと思います。
 選挙が行われると、しばらく経った後に、不正があったのではないかという報道がなされることがあり、選挙犯罪に注目が集まることがあります。ですから、今回は選挙犯罪について解説させていただこうと思っておりました。
 しかし、今回の記事を執筆中に、安倍元首相が銃撃されるという衝撃的な事件が起きました。被疑者は殺人未遂の罪で現行犯逮捕されたということです。
 本来解説させていただこうとしていた内容とは大きく異なるものの、選挙運動中の事件ですし、被疑者の動機がどのようなものであっても、民主主義に対する大きな挑戦であるという側面は否定できないように思います。
 まずは、何より、安倍元首相のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
 一方で、この事件については、インターネットの反応の中に極めて残念に思う内容が多く見受けられました。どのような政治的思考や信条を抱いていたとしても、一個人の生命が奪われたことを喜ぶような感性は信じられませんし、そのような蛮行の責任が対立政党の政治家にあると決めつけ、あたかも殺人犯であるかのような書き込みを行う感性も同様に信じられません。
 暴力に支配されるのではなく、それぞれの国民の意見がしっかり反映される政治を通して、我が国が美しい国となれるように、私達国民一人一人が国や社会の在り方を考えていかなくてはならないと改めて感じました。

1.公職選挙法違反

 安倍元首相は今回の参議院選挙に立候補していたわけではありませんが、立候補者の応援演説の最中に銃撃されました。ですから、今回の事件を選挙犯罪だと評価することも可能です。
 とはいえ、選挙犯罪と聞いてまず思い浮かべるのは、投票への不正な関与ではないでしょうか。
 例えば、一昨年に行われたアメリカ合衆国の大統領選挙において、不正投票があったのではないかという疑惑が大きく報道されました。また、日本国内においても、元法務大臣が加重買収などの罪で実刑判決を宣告されるという事件がありました。この事件については、被告人が控訴を取り下げ、有罪・実刑が確定しています。
 選挙は、有権者の判断を正しく反映したものにならなければなりませんから、投票の結果を意図的に変更したり、お金を渡すような行為で有権者の判断を歪めるような行為は許されません。
 そこで、民主主義の下で適切な選挙を行うことができるように、公職選挙法という法律が定められており、第1条で、「選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする」と定められているのです。
 政治家や官僚が関与する犯罪の中には、刑法第25章が定めている各汚職の罪なども存在しますし、政治資金規正法違反の罪についても大きな問題となります。
 とはいえ、その全てを解説しようとすると、今回のコラムには収まらなくなってしまいます。そこで、今回は、選挙犯罪の中でも、公職選挙法違反に限って解説をさせていただこうと思います。

2.買収及び利害誘導罪

(1)法律の定め

 しかし、公職選挙法に限定したとしても、公職選挙法には数多くの罰則規定が定められています。
 そこで、平成29年版犯罪白書を見てみると、平成28年に発生した選挙関係犯罪の中で、最も送致された人員が多いのは、「買収、利害誘導」の罪と「選挙の自由妨害」の罪で、2つの罪を合わせると65%程度の割合を占めているようです。まずはこの2つの罪について内容を確認してみましょう。

公職選挙法

(買収及び利害誘導罪)
第221条1項
 次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
 1号 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。
 2号 当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもって選挙人又は選挙運動者に対しその者又はその者と関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の直接利害関係を利用して誘導をしたとき。
 3号 投票をし若しくはしないこと、選挙運動をし若しくはやめたこと又 はその周旋勧誘をしたことの報酬とする目的をもって選挙人又は選挙運動者に対し第1号に掲げる行為をしたとき。
 5号 第1号から第3号までに掲げる行為をさせる目的をもって選挙運動者に対し金銭若しくは物品の交付、交付の申込み若しくは約束をし又は選挙運動者がその交付を受け、その交付を要求し若しくはその申込みを承諾したとき。
 6号 前各号に掲げる行為に関し周旋又は勧誘をしたとき。
(選挙の自由妨害罪)
第225条
 選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、4年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。
 1号 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。
 2号 交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもって選挙の自由を妨害したとき。
 3号 選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者若しくは当選人又はその関係のある社寺、学校、会社、組合、市町村等に対する用水、小作、債権、寄附その他特殊の利害関係を利用して選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人を威迫したとき。

 選挙の自由妨害罪は、暴行や威迫などの行為を処罰するものですから、選挙と無関係に同様の行為が行われた場合であっても、選挙の自由妨害罪は成立しなくても、他の刑法犯が成立しそうな内容となっています。
 今回の安倍元首相も、応援演説という選挙運動を行っている際に銃撃されていますから、選挙運動者に対する暴行だと言えますので、殺人罪と共に選挙の自由妨害罪についても成立することになります。
 とはいえ、選挙犯罪の特徴は、選挙運動に関連して行われることから、関係者間において強い党派性が認められる点にあるものと考えられています。
 安倍元首相の銃撃についての事件については、まだ明らかとなっていないことが多くあるように思われますが、少なくとも現時点においては、被疑者の背後に何らかの組織があったとは考えられていません。
 つまり、選挙の自由妨害罪については、組織的な背景が認められない場合においても行われることが多くあり得る類型だといえます。
 そこで、ここからは、選挙犯罪としての特徴が強く認められる、買収及び利害誘導罪に限って解説をさせていただこうと思います。

(2)内容

 買収及び利害誘導罪についても罪名から何となくどのような犯罪なのか想像することは可能なように思います。
 お金や何らかの利益を供与することによって、特定の立候補者に対する投票を打診するような行為に対して、成立する犯罪だと考えられそうです。
 具体的に、どのような行為が問題となるのか考えてみると、買収や利害誘導については、大都市において行われる選挙と地方で行われる選挙で、その方法を異にすることが多いようです。
 地方における選挙に関しては、公共工事等によって直接地方自治体等と契約関係にある事業者が多く、選挙の帰趨が自身の営む事業の経営に直結する可能性が高いことに加え、有権者の中に、そのような事業者の関係者が多く、血縁関係の結びつきも強いことから、関係者に対して直接買収や利害誘導が行われることが多いようです。
 一方で、大都市においては有権者が極めて多いことから、関係者に対して直接買収や利害誘導を行っても、その影響力は地方と比較すると極めて小さいものとなり、当選に必要な得票に結び付けることが非常に困難です。
そこで、大都市においては、文書の配布や個別訪問等を大々的に行うにあたって、そのような運動を行うための組織に対して買収や利害誘導を行うことが多いようです。

(3)主体が限定されていない

 他の特徴として、買収及び利害誘導の罪は、立候補者や選挙責任者である総括主宰者に限られず、誰にでも成立する犯罪として規定されています。
 したがって、実際に買収等を行っていた人間が、買収等のために用いる金銭等を処分する権限がなかったとしても、買収及び利害誘導の罪は成立すると考えられているのです(最判昭和23年6月3日 刑集2巻7号629頁)。
 党派性の強さを特徴とする犯罪であることを併せて考慮すると、実際に買収及び利害誘導が行われていたことについて、立候補者とは無関係に買収等の行為が行われていたと裁判所に認定させるのは極めて困難であり、立候補者が買収等の行為を十分に認識できていない場合であっても、共犯者として扱われる可能性が十分に認められます。
 立候補者としては選挙に当選することを最優先に考える必要がありますし、そのためには自身の政策を広く有権者に訴えかける必要があります。ですから、その他の事務作業等についてサポートのできる人間が必要になる訳ですし、各作業の内容や担当者を詳細に把握することは、選挙の規模が大きければ大きいほど困難になります。
 それでも、不正な方法を使ってでも選挙に勝とうとする者のサポートを受けてしまうと、その者が選挙運動における責任者ではなかったとしても、上述したような事態になりかねないのです。

3.許される報酬

 さて。選挙運動者に対して金銭等を支払った場合には、買収罪になるということを説明いたしましたが、実際に選挙運動をしている方々は全員ボランティアなのでしょうか。
 そういう訳ではなく、車上運動員や単なる事務作業を行う選挙事務員に対しては報酬を支払うことが可能で、この点については公職選挙法197条の2に定められています。
 しかし、この条文自体、極めて長く細かいものとなっていますし、報酬についての基準等については、政令や選挙管理委員会の定めによって決められる旨が定められていますから、これらの規定について十分に理解できている人間のサポートを受ける必要があります。
 報酬を支払ってはいけない協力者に報酬を支払ってはならないのはもちろんのこと、報酬を支払ってもいい方に対する支払いであっても、法律が許容する金額を超えて支払った場合には選挙犯罪に該当してしまうのです。

4.連座制

 選挙犯罪が明らかとなった場合、懲役刑等の刑罰が科されることになりますが、その選挙に当否に影響はあるのでしょうか。
 公職選挙法251条は、当選人が選挙犯罪について刑罰を科された場合には、当選を無効とする旨を定めています。
 また、同法251条の2は、総括主催者等の選挙運動の責任者が、特定の選挙犯罪を理由に刑罰を科された場合も、当選を無効とする旨を定めています。
 つまり、立候補者自身が選挙犯罪に及んだわけではなくても、当選が無効となる可能性があるのです。
 さらに、当選を無効とするだけでなく、5年間、立候補が許されない旨も定められており、このような規定の適用を受けることは、政治家としての人生に致命的な影響を及ぼすことになるのです。

5.選挙犯罪と刑事事件の弁護士

 今回は限られた類型の選挙犯罪についてのみ取り上げていますが、選挙犯罪には色々な類型のものがあります。また、どのような立場で関与したのかによっても、逮捕、勾留される可能性や、起訴され得る可能性の大小も大きく変わります。  
 また、選挙犯罪に関しては、関係者が多く存在することから、通常の場合は、捜査機関が捜査に着手していることについて、被疑者が事前に察知することは難しいのですが、選挙犯罪の場合は察知できる場合があります。  
 そこで、関係者との間で口裏合わせを行うようなことがあれば、罪証隠滅に及んだという事で、逮捕、勾留の可能性がありますし、起訴された後も、保釈が許可されない可能性すらでてきてしまうのです。  
 口裏合わせというよりも、早期の段階で刑事事件の弁護士に相談することを考えてみてください。特に、選挙犯罪成否については難しい問題がありますし、故意の問題等もありますから、一部の関係者については犯罪が成立しないということも考えられるからです。  
 選挙犯罪の成立が争えない場合には、できる限り軽い処分を求めるような弁護活動を考えることになりますが、大々的に報道されているケースにおいても、全ての被疑者が逮捕、勾留されている訳ではないことは分かると思います。不起訴処分で前科が付されずに終わっているケースもあります。  
 諦めることなく、まずは御相談いただければと思います。

6.まとめ

 本当に簡単な内容となってしまいましたが、参議院選挙を機に、改めて選挙犯罪について解説させていただきました。
 選挙犯罪に関しては、議員の先生方を対象に解説したページ もございますのでご確認いただければと思います。

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