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コラム

ウェブテスト代行手続に関する刑事責任について

簡単に言うと…
  • 替え玉受験について、文書偽造の罪が成立する旨を判示した最高裁判所の判例が存在する。
  • ウェブテストについては文書偽造の罪は成立しないものの、電磁的記録不正作出の罪が成立するものと思われる。
  • 単独で犯行に及ぶことが考え難く、関係者が多数存在することから被疑者が逮捕されるケースが多いものと考えられ、早期の相談が不可欠である。
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 つい先日、企業の採用活動の際に用いられるウェブテストの替え玉受験に関する報道がなされていました。入社を希望している学生らの代わりに、ウェブテストを受験し、その対価を得ていたことを理由に、私電磁的記録不正作出・同供用の容疑で被疑者が逮捕され、被疑者も容疑を認めているとのことです。
 大企業等を中心に、採用活動に際してウェブテストが用いられる機会は増えており、コロナ禍も一つの要因となり、ウェブテストが用いられる機会は今後も増えていくのではないかと考えられます。
 一方で、実際に会場に赴かないことから、替え玉受験を行うことについての心理的ハードルも低く、ウェブテストを行う企業側としても、受験生の本人確認を徹底することが困難な状況にあることから、ウェブテストの替え玉受験は従前から横行していたようです。
 報道によると、今回逮捕された被疑者は300名以上もの受験者の依頼を受けて、ウェブテストを受験生の代わりに受けていたようですし、SNSでは受験代行に関するアカウントが散見されます。
 このようにウェブテストに関する替え玉受験については、今回逮捕された被疑者だけの問題ではなく、一種の社会問題にもなっているものといえます。
 その背景としては、替え玉受験が犯罪となるかどうかが分かりにくく、替え玉受験を依頼する側も受諾する側も心理的ハードルが低かったことがあるように思いますし、今回逮捕された被疑者も、ウェブテストの替え玉受験を理由に刑事責任が科された前例の有無を調査した上で、犯罪にはあたらないとして、同様の行為を繰り返していた旨を供述しているようです。
 そこで、今回は替え玉受験に関する刑事責任について解説したいと思います。

1.替え玉受験に関する判例


(1)私文書偽造の罪

 ウェブテスト自体は歴史が深い訳ではありませんが、「替え玉受験」という単語自体は、昔から時折話題にあがることがあったように思います。そして、「替え玉受験」については、刑事責任を認めた裁判例がいくつか存在します。
 どのような罪が成立するのかについて、考え方の相違はあり得ますが、最高裁判所は私文書偽造罪の成立を認めていますので、まずは、有印私文書偽造罪の条文を確認しましょう。

刑法

(私文書偽造等)
第159条1項
 行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

 以上のとおり、私文書偽造の罪は、「行使の目的」で「事実証明に関する文書」を「偽造」したと認められる場合に成立することになります。
 この点について、明治大学替え玉入試事件についての最判平成6年11月29日(刑集48巻7号453頁)は、「入学選抜試験の答案は…志願者が正解と判断した内容を所定の用紙の解答欄に記載する文書であり…それが採点されて、その結果が志願者学力を示す資料となり…志願者の学力の証明に関するものであって、『社会生活に交渉を有する事項』を証明する文書」であると判示し、答案が「事実証明に関する文書」であるとして、私文書偽造の罪の成立を認めています。

(2)偽造の定義

 上記判例は、答案が「事実証明に関する文書」にあたる旨しか説示していませんが、このような替え玉受験の事案に関する私文書偽造の罪の成否については、最高裁判所の考え方とは異なる見解も有力に唱えられていました。それは、替え玉受験は「偽造」にあたらないとする考え方です。
 一般的に、「偽造」とは、文書の名義人と実際の作成者が違うにもかかわらず、同一であるかのように装って文書を作成することをいいます。替え玉受験の場合、答案には実際に受験した人間の名前ではなく、替え玉受験を依頼した人間の名前を署名することになるはずですから、この意味では「偽造」にあたるといえそうです。
 それでも、「偽造」にあたらないとする見解が唱えられていたのは、実際に受験して答案を作成した替え玉は、本人の承諾を受けた上で本人の名前を署名しているという点が重視されたからです。
 契約書等の書面に関して、契約当事者となる本人の承諾を得て代筆したような事案について、私文書偽造の罪が成立するのはおかしいと考える方が多いように思いますし、実際にそのような場合には、私文書偽造の罪は成立しません。
 しかしながら、最高裁判所は、書面を作成した作成者自身の名義が記載される書面との関係では、名義人の承諾があった場合であっても「偽造」に該当すると判断しています。
 この点については、交通事故を起こした者が、友人が事故を起こしたものと偽装するために、供述書に友人の名前を署名したという事件において、友人の許可があったとしても「偽造」にあたると最高裁判所は判示しています(最決昭和56年4月8日 刑集35巻3号57頁)。

2.私電磁的記録不正作出・同供用の罪


(1)条文の内容

 大学入試の替え玉受験について、私文書偽造の罪が成立するのであれば、企業の採用手続における試験との関係でも、私文書偽造の罪は成立するはずです。
 しかし、ウェブテストの替え玉受験との関係では、インターネットを介した手続であり、「書面」が問題とならないことから、「書面」の「偽造」を問題とする私文書偽造の罪は成立しません。
 そこで、本件で問題となる私電磁的記録不正作出の罪が問題となるのです。まずは条文を確認してみましょう。

刑法

(電磁的記録不正作出及び供用)
第161条の2
 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 私文書偽造の罪と似たような内容となっており、電磁的記録不正作出の罪の成立を認めるためには、「人の事務処理を誤らせる目的」で、「事実証明に関する電磁的記録」を、「不正に作った」と認められる必要があります。
 この内、「事実証明に関する電磁的記録」にあたるかどうかは、上記明治大学替え玉入試事件の判例と同様に考えることができそうです。
 また、「人の事務処理を誤らせる目的」という点についても、実際にウェブテストを受験した替え玉の能力と、実際の名義人の能力を見誤らせる目的で替え玉受験が行われていることから認められることになりそうです。

(2)「不正に作った」といえるか

 文書の偽造に関する罪については、「偽造」という文言が用いられていました。そして、「偽造」は名義人と文書の作成者を誤認させるような行為を意味するものとされ、名義人と文書の作成者が同一で、作成者が権限を濫用して不正な内容の書面を作成した場合には、文書が公文書の場合とは異なり、私文書偽造の罪は成立しないものと考えられています。
 では、「不正に作った」という文言についてはどのように理解するべきでしょうか。この点については、「不正に作った」という文言についても「偽造」と同様に解釈してしまうと、公電磁的記録との関係でも権限濫用のケースを処罰できないこととなるため、権限が濫用された場合であっても、「不正に作った」と認められるものと解釈されています。
 いずれにしても、ウェブテストの場合であっても、答案作成者の名前欄には、実際に回答を入力した者の名義を入力する必要があることに変わりありませんから、ウェブテストの替え玉受験に関しては、不正な内容の記録を作ったとして、電磁的記録不正作出の罪の成立は認められることになるでしょう。
3.替え玉受験を依頼した側の責任
 では、替え玉受験を依頼した側には何らかの刑事責任が追及されることになるのでしょうか。紹介した明治大学替え玉入試事件の被告人は、親から報酬を得た上で替え玉受験であることを隠匿しようとしていた学校関係者であり、替え玉受験によって入学を試みようとした人間は被告人となっていません。
 また、替え玉として実際に答案を作成した人間との間では「共謀」があった旨が認定されていますが、入学を試みようとした親やその保護者との間で「共謀」があったとは認定されていません。
 とはいえ、替え玉受験を依頼した側に刑事責任が一切認められないという訳ではありません。明治大学替え玉入試事件においては、学校関係者が替え玉受験を主導していたという特徴があるために、替え玉受験を依頼した側の人間が一緒に起訴されなかったに過ぎないように思われます。
 今回のように、採用手続を行っている会社関係者の関与が窺われないケースにおいては、替え玉受験の依頼がなければ、被疑者が不正な電磁的記録を作ることはなかったといえますから、替え玉受験を依頼した側にも共犯者としての責任は認められるはずです。

4.私電磁的記録不正作出の罪に関する弁護活動

 
 報道されているケースについても被疑者は逮捕されているようですし、替え玉受験に関する刑事事件についての過去の報道を見てみても、多くの事件において被疑者が逮捕されていることが窺われます。
 これは、替え玉受験については、依頼者の存在が窺われるため、単独犯での犯行ということが考え難く、試験を主催している側の関係者も多数存在することが窺われるため、そのような関係者らに接触することによる罪証隠滅が疑われるからだと考えられます。
 一方で、不正に作出された記録自体は客観的な証拠として保全されているように思われますし、依頼者と替え玉として受験した者との間のやり取りも、記録として残されている場合はあり得ます。
 そうだとすると、替え玉受験であることが露見し、警察官による捜査が始められた段階においては、証拠隠滅を図ることが現実的に不可能な状況にある場合も想定できます。
 したがって、証拠関係や事案の特質を踏まえて、被疑者をできる限り早く釈放できるように、勾留を争うことが考えられます。
 また、過去に前科前歴がないにもかかわらず、直ちに刑務所への服役を命じられるレベルに重大な犯罪とは解されていませんから、起訴されることがないように不起訴処分を目的とする弁護活動も求められるでしょう。

5.まとめ

 
 文書偽造の罪は、文言の解釈やそれぞれの文言の関係性等が複雑で、学生時代に非常に苦労した覚えがあります。法律について勉強したことがない方との関係では、より一層理解の難しい犯罪だと思われます。
 ですから、文書ではなく電磁的記録を問題とする電磁的記録不正作出の罪については、より一層理解が困難な犯罪となっているように思います。
 とはいえ、替え玉受験については、刑事責任を追及することができる旨を判示する最高裁判所の判例が確立しており、ウェブテストとの関係においても、同様に扱われる可能性が極めて高いことについては御理解いただけたと思います。
 現段階においては、安易な気持ちでウェブテストの代行サービスの利用を検討してしまう方が少なくないと思いますが、もしこのような件で捜査機関による呼び出しを受けているなどの状況にあるようでしたら、まずは気軽に御相談いただければと思います。

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