結局合法なの?違法なの?大麻関連製品の取扱い(令和5年11月時点)
- 「大麻」に関する成分は、大麻取締法だけでなく麻薬及び向精神薬取締法によっても規制されている。
- 薬機法の「指定薬物」として新たに指定された成分もある。
- CBDオイル等、合法なものとして販売されているものにも違法な成分が含まれていることがあり、安易に購入することは控える必要がある。
私達は、日々御電話で刑事事件に関するお問い合わせをいただいております。その中には、実際に犯罪として捜査を受けていないものもありますが、既に御家族が逮捕されていたり、将来的に逮捕される可能性が高いと思われたりするような、緊急性の高い御相談も多くあります。
そして、緊急性の高い御相談の中で、極めて多いのが薬物に関する犯罪です。
薬物犯罪は、一般的には被害者のいない犯罪だと考えられているため、犯罪に及ぶことを躊躇しにくい側面があるように思いますし、被害を申告するような立場の方がいらっしゃらないため、犯罪が露見し難いのではないかという発想もあり、これまで犯罪と一切関係のない方であっても、安易に一線を踏み越えてしまい易いのだと思います。また、薬物に依存してしまうと、如何に深く反省をしていても、同じ過ちを犯し易いという側面も認められます。
以上のように、薬物犯罪の御相談を多く承っているのですが、そのほとんどが覚醒剤取締法で規制されている覚醒剤、麻薬及び向精神薬取締法で規制されている麻薬や向精神薬、大麻取締法で規制されている大麻になります。
昔は、あへんやシンナーを使う方も多かったようなのですが、私が弁護士として仕事を始めた10年程前には、既に上記3つの薬物が薬物犯罪の中心になっていたように思います。
数年前、「危険ドラッグ」や「脱法ハーブ」といった言葉を報道で目にする機会が非常に多い時機がありました。これは、既に麻薬等に指定されており、違法とされている薬物の化学構造を多少変化させることで、上述したような法律に規制されないようにした薬物を指す言葉です。
「危険ドラッグ」という言葉を、その当時ほど聞かなくなったのは、化学構造を多少変化させただけでは、規制を免れることができなくなるように、国が包括的に薬物を規制するようになったことに起因しています。
一方で、最近は、「合法大麻」というように、大麻由来の薬物でありながら、大麻取締法では規制することができない薬品が販売されているのをよく目にするようになりました。
その結果として、「合法な製品だと思っていたのに、警察の求めに応じて尿を提出したところ、違法な成分が検出されてしまった」という御相談をよくお受けするようになりましたし、このような状況を改善するために、大麻取締法で規制できないのであれば、他の法律で取り締まろうという法改正も行われております。
現在、大麻については、覚醒剤や麻薬等と異なり、使用罪が定められていないため、大麻を使用する行為にも刑罰を科そうという法改正の動きもみられます。
つまり、大麻の取扱いについての法律が大きく変わりつつあるのです。
今回は、大麻に関する法律について解説をさせていただこうと思います。
目次
1.大麻取締法の定め
まずは、基本となる大麻取締法の内容を確認してみましょう。
大麻取締法
第1条
この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。
これまで大麻に興味を抱くきっかけがなかった方からすると意外かもしれませんが、大麻取締法は「大麻」そのものを全体的に規制している訳ではありません。
第1条が定めているように茎や種子については大麻取締法上の「大麻」には該当しないものとされていますし、茎や種子から作られた薬品も「大麻」には該当しないこととされているのです。
したがって根や花穂や葉のみが規制対象とされているのです。茎については、成熟しているかどうかで規制対象となるかどうかが変わる訳ですから、一般の方からすれば極めて判別のし難い規制の仕方になっていると言えるでしょう。
2.大麻の主成分
なぜ、大麻取締法は、上述したような大麻草の部位によって規制しているのでしょうか。それは、身体に有毒だと考えられている成分が、葉等の部位に集中しており、規制対象外とされている部位からはほとんど検出されないことが一つの理由と理解されています。
その規制対象とされている成分をTHCといいます。THCはテトラヒドロカンナビノールの略称です。
皆様は「CBDオイル」といった名前を聞いたことがありますでしょうか。このCBDはカンナビジオールという成分の略称になります。
「大麻オイル」ではなく「CBDオイル」と呼称されているのは、CBDを内容とするものであって、THCが含まれておらず、合法であることをアピールするためだと考えられます。
3.麻薬及び向精神薬取締法の定め
もし、大麻草全体ではなく、THCを規制したいのであれば、THCを違法な成分として規制した方が直截なのではないかと思われたのではないでしょうか?
私もそう思います。そして、実際にTHCは違法な成分として、麻薬及び向精神薬取締法で規制されているのです。
麻薬及び向精神薬取締法
(用語の定義)
第2条
この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1号 麻薬 別表第1に掲げる物をいう。
別表第1(第2条関係)
75号 前各号に掲げる物と同種の濫用のおそれがあり、かつ、同種の有害作用がある物であって、政令で定めるもの。麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令
(麻薬)
第1条
麻薬及び向精神薬取締法(以下「法」という。)別表第1第75号の規定に基づき、次に掲げる物を麻薬に指定する。
67号 …別名デルタ9テトラヒドロカンナビノール…(分解反応以外の化学反応(大麻取締法…第1条に規定する大麻草…及びその製品に含有されている…を精製するために必要なものを除く。)を起こさせることにより得られるものに限る。)及びその塩類
68号 …別名デルタ8テトラヒドロカンナビノール…及びその塩類
別名デルタ9テトラヒドロカンナビノール等と指定されているのが、上述したTHCになります。化学構造について定められているのですが、その部分については省略させていただきました。詳細な内容についてお知りになりたい場合には、法律や政令を直接御確認いただければと思います。
4.「麻薬」なのか「大麻」なのか
既にこの段階で一般人からすれば、内容を一目で理解できるような内容ではないことは御理解いただけると思います。
麻薬及び向精神薬取締法において「麻薬」と定められているものが、別表の中でも75以上ある訳ですし、政令でも「麻薬」として定めることが可能で、その中の67号と68号で「麻薬」として定められているものの、「麻薬」とされているのは、デルタ9やデルタ8と頭につくものだけということになります。
また、「麻薬」とされるTHCの成分の内、大麻取締法で規制されているものは、「麻薬」ではなく「大麻」として扱う旨も定められています(一部省略してしまっているので、上述の引用文からは分かり難いですが…)。
そうすると、大麻取締法で「大麻」と定められていない、成熟した茎や種子に由来する製品だと謳われていても、もし上述したような成分が検出されてしまった場合には、「麻薬」を所持したとして扱われる可能性がある訳です。
5.「指定薬物」に該当する可能性
更にこの問題を複雑にしているのが、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」といいます。)の存在です。
まずは内容を御確認ください。
薬機法
(定義)
第2条15項
この法律で「指定薬物」とは、中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用…を有する蓋然性が高く、かつ、人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある物…として、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものをいう。(製造等の禁止)
第76条の4
指定薬物は…医療等の用途…以外の用途に供するために製造し、輸入し、販売し、授与し、所持し、購入し、若しくは譲り受け、又は医療等の用途以外の用途に使用してはならない。第83条の9
第76条の4の規定に違反して、業として、指定薬物を製造し、輸入し、販売し、若しくは授与した者又は指定薬物を所持した者(販売又は授与の目的で貯蔵し、又は陳列した者に限る。)は、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。第84条
次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
28号 第76条の4の規定に違反した者(前条に該当する者を除く。)
このように、「麻薬」や「大麻」に該当しない薬物であっても、薬機法で「指定薬物」に指定されているものについては、医療等の用途以外で所持・使用することが禁止されているのです。
そして、細かすぎるので引用はしませんが、薬機法第2条第15項に規定する指定薬物を定める省令が改正され、新たにTHCH(テトラヒドロカンナビヘキソール)が「指定薬物」として指定されることになったのです。
6.CBDオイルへの影響
ここまでくると、大麻に関連する成分で、何が違法で何が適法なのかを把握するだけで大変です。
また、THCを含まないことを理由に、合法な大麻として販売されていたCBDオイル等の「CBD○○」と称する製品も、違法な成分を含んでいる可能性が生じており、製品の破棄を求める販売先などもあるようです。
元々、薬機法によってTHCHが指定薬物として指定される前から、「CBD○○」と称しているにもかかわらず、当該薬物を使用した方の尿から、THCの成分が検出されてしまうという事件は存在していました。
更に、今回の、薬機法による「指定薬物」としての指定によって、合法なものとして販売されていた製品が、薬機法違反になる可能性が生じたとして、一部製品の廃棄をHP等で注意喚起がなされているものも存在します。
違法になってしまった製品を所持し続けることによって、将来的に薬機法違反の被疑者として扱われる可能性も生じてしまっているのです。
7.大麻に関する弁護活動
個人的には、大麻に関する法規制を厳格化する現在の法改正の動きにはあまり賛成できません。特に、末端の単純使用者に対して、刑罰という制裁を加える程の違法性が認められるかというと、そうではないと感じているからです。
一方で、法改正がなされた上で、改正法が施行されている以上、国が違法と定めた成分になる訳ですから、当該成分を含む薬品を所持・使用した場合には、逮捕される可能性がある訳です。
上述したように、大麻に関連する薬品を規制する法律は大麻取締法だけではなく、様々な法律で規制されております。そして、CBDと謳われている製品に含まれている成分も対象となっている以上、「違法なものとは思わなかった」という主張によって、故意を否定することができるかどうかについても、ケースバイケースで事案毎の対応が必要になりそうです。
8.まとめ
以上のとおり、大麻に関する規制は元々複雑な側面があったことに加え、薬機法による「指定薬物」に該当する可能性が生じたことによって、一層複雑なものとなっています。
合法なものとして販売されている製品であっても、本当に違法とされる成分が含まれていないのかについて、一般の方が検査することはほぼ不可能といえるのではないでしょうか。
現時点においても、法律上規制されている違法な成分を含まない製品は存在するはずではありますが、「合法なものだと思っていた」との相談を多くいただく立場としては、合法であることが謳われている製品であっても、安易に購入することなく、御自身の体調を改善したいとお考えの方につきましては、専門家に処方された薬品を使用されることをお勧めさせていただきます。