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コラム

警察官による犯罪にはどのようなものがあるの

簡単に言うと…
  • 警察官による職務中の暴行については、特別公務員暴行陵虐致死傷罪が成立し得る。
  • 業務上過失致死傷罪の成立が認められる場合もあり、特別公務員暴行陵虐致死傷罪が成立するケースと、明確に区別することは困難である。
  • 警察官による行き過ぎた暴力に対しては、国家賠償を求めることに加えて、違法捜査であることを主張して、当該捜査で得られた証拠の証拠能力を否定することが考えられる。
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 警察官や元警察官が犯罪行為に及んで逮捕されたという旨の報道を目にする機会は珍しいものではありません。犯罪に及ぶきっかけは様々であって、犯罪を捜査する仕事をしているからといって、罪を犯す可能性が少ないという訳ではないのです。
 もっとも、先日、警察官が職務中に警棒を接触させたことで被害者を失明させたという事件において、警察官に対して業務上過失傷害罪を理由とする裁判が行われたという報道がなされましたが、このような警察官の職務の最中の行為が犯罪となってしまったという事案は珍しいように思います。
 同様に、先日、警察署の留置場内において被疑者が亡くなってしまった事案について、留置管理業務に従事していた警察官数名が、業務上過失致死罪等を理由に送検されたという事案も報道されていました。
 警察官は職務を執行するにあたって、一定の有形力を行使することは許容されています。そうでなければ、逃亡を図る被疑者等を逮捕することができません。捜査中ではなく、留置場で暴れる方を取り押さえるためにも、一定程度の有形力の行使は許容されることでしょう。
 では、どのような場合に犯罪が成立してしまうことになるでしょうか。
 この点について、今回は解説をさせていただこうと思います。

1.刑法の定め

 
 この点についての刑法の定めを確認してみましょう。

刑法

(特別公務員職権濫用)

第194条
 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者がその職権を濫用して、人を逮捕し、又は監禁したときは、6月以上10年以下の懲役又は禁錮に処する。
(特別公務員暴行陵虐)
第195条
1項 裁判、検察若しくは警察の職務を行う者又はこれらの職務を補助する者が、その職務を行うに当たり、被告人、被疑者その他の者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときは、7年以下の懲役又は禁錮に処する。
2項 法令により拘禁された者を看守し又は護送する者がその拘禁された者に対して暴行又は陵辱若しくは加虐の行為をしたときも、前項と同様とする。
(特別公務員職権濫用等致死傷)
第196条
 前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
(傷害)
第204条
 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(業務上過失致死傷等)
第211条
 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 このように、刑法は警察官が職務を行う際に、「暴行」などの行為に及んだ場合に、特別公務員職権濫用等の罪として、特別な規定を設けています。
 ここでいう「暴行」とは意図的に行われたものを意味します。ですから、暴行についての故意がない場合には、特別公務員職権濫用等の罪は成立しません。
 警察官以外の職業に関する業務に従事していた際に怪我をさせてしまった事案と同様に、業務上過失致死傷の罪が成立することになります。
 冒頭で紹介させていただいた警棒によって被害者を失明させてしまった事案との関係においても、意図的な行為ではなく故意がなかったとして、特別公務員職権濫用等の罪ではなく、業務上過失致傷の罪で起訴されたという事情があったようです。

2.特別公務員職権濫用等

 
 さて、警察官が職務を行う際に「暴行」などの行為に及んだ場合に、特別公務員職権濫用等の罪が成立すると説明させていただきましたが、冒頭で、警察官が職務を執行するにあたっては、一定程度の有形力を用いることがあり得るとも説明させていただきました。
 逃亡を図る被疑者を押さえ付けようとする行為について、全て特別公務員職権濫用等の罪が成立するとしてしまった場合、警察官が被疑者を逮捕することが極めて困難になってしまいかねません。
 では、どのような場合に、特別公務員職権濫用等の罪が成立することになるのでしょうか。この点について、刑法はその詳細を定めていません。しかし、捜査との関係で必要な限度にとどまる有形力の行使については、正当行為として扱われることになります。
 裁判例をみてみましょう。
 東京高等裁判所平成23年12月27日判決は、公務執行妨害の現行犯人として逮捕する職務を行うにあたり、篠竹を振り下ろすなどして抵抗していた被害者に対して、けん銃を発射して死亡させたという事案において、発砲行為は正当行為に該当するとして、警察官に対して無罪判決を宣告しています。
 けん銃を発射するという極めて危険な行為であるにもかかわらず、正当行為と認定された背景には、発砲前に被害者がけん銃を奪おうと試みたり、被告人を地面に引き倒したりするなどした後、威嚇のために発砲したにもかかわらず、凶器を振り上げて間合いを詰めてきたため、自身の生命・身体を守るためにも発砲したというような、正当防衛的な側面があったからだと解されます。
 逆に最高裁判所平成11年2月17日決定は、同じように公務執行妨害罪の被疑者であった被害者に対する発砲行為が問題となった事案において、被害者が積極的に加害行為に及ぶような状況ではなかったことなどを理由に、特別公務員暴行陵虐致死傷罪の成立を認めています。
 発砲行為のような危険性の極めて高い事案以外の裁判例として、金沢地方裁判所平成11年3月24日判決は、交通指導取締り等の職務に従事していた警察官である被告人が、酒に酔った被害者を制止するため、腹部を数回膝蹴りする暴行を加えて死亡させた事案について、特別公務員暴行陵虐致死傷罪の成立を認めています。

3.業務上過失致死傷

 
 以上のとおり、警察官が職務として行っている行為であるにもかかわらず、特別公務員職権濫用等の罪の成立が認められるのは、警察官による正当行為として認めるには行き過ぎた行為に限られることになります。
 現場では何が起きるのか分かりませんし、被疑者等が暴れているのに対して、その被疑者を制止するために必要最小限の有形力の程度を正確に見定めるのは困難ですから、発砲行為のような危険性の極めて高い行為を除けば、制止のための行為は正当行為として認定され易いものといえるでしょう。逆に、金沢地裁のような事案においては、そもそも制止するための行為として、腹部を膝蹴りする必要性が認められなかったことが、有罪判決となった大きな要素といえそうです。
 そうだとすると、正当行為とは認められないものの、故意の暴行とは認められず、業務上過失致死傷の罪が認められるケースというのは、どのようなケースになるのでしょうか。
 今回報道された事件の詳細は報道されている範囲でしか知ることができませんので分かりませんが、走行中のバイクを制止するためにバイクの前に警棒を差し出した結果、被害者の目に警棒が接触してしまったという事案のようです。
 バイクを制止するためにバイクの進行方向に警棒を差し出している訳ですから、警棒が目に当たるかどうかはともかく、被害者の身体に接触する可能性は認識できていたのではないかと思われます。
 だとすれば、暴行についての故意がなかったとは言えず、特別公務員暴行陵虐致傷罪の成立を認めるべきように思いますし、警察官の行為が相当な行為だと考えるのであれば、警察官の行為は正当行為として業務上過失傷害罪の成立も否定されるべきように感じてしまいます。
 神戸地裁姫路支部昭和33年10月31日判決のように、被害者に命中させるつもりはなく、威嚇のために発砲した銃弾が被害者に命中してしまったという事案において、同様に業務上過失致死罪を認めた裁判例もあるのですが、個人的には違和感を覚えてしまいます。

4.弁護活動

 
 以上のとおり、警察官による行き過ぎた実力行使については、、特別公務員暴行陵虐致死傷罪の他、業務上過失致死傷罪が成立する余地があり、本来的には故意の有無で区別されるべきものではあるものの、その分水嶺は不明確なものとなっているものといえます。
 したがって、もし警察官の方で上述したような嫌疑がかけられている場合には、特別公務員暴行陵虐致死傷罪が成立しないことを中心に弁護していくことが考えられると思います。
 とはいえ、そのような状況に置かれている方は多くないように思います。むしろ、捜査の過程で行き過ぎた実力行使を受けたことについて不満を抱いている方の方が多いのではないでしょうか。
 今回のテーマとはズレてしまいますので、詳細について解説させていただくのは別の機会にさせていただければと思いますが、特別公務員暴行陵虐致傷の罪が成立するような捜査は当然に違法な捜査といえるかと思います。
 そのような被害を受けた方を救済するためには、国家賠償を求める手段もあると思いますし、刑事事件との関係では、そのような違法な捜査で収集した証拠は違法収集証拠であり、証拠として用いることができないと主張することが考えられます。
 違法捜査というと極めて例外的にしか発生しないかのような印象を受けると思いますが、特に薬物事案との関係では、捜査機関による捜査の違法性が認められるケースは散見されます。
 一方で、違法な捜査によって収集された証拠の証拠能力が否定されたとしても、その後の適法な捜査によって得られた証拠に基づいて、犯罪事実を立証できると判断された場合、違法捜査だという主張が功を奏さないこともあり得ます。刑事事件に詳しい弁護士に早期に御相談いただければと思います。

5.まとめ

 
 今回は、警察官等が職務執行中に行った行為に対して成立する罪について解説をさせていただきました。
 事例として決して多い訳ではありませんし、業務上過失致死傷罪と特別公務員暴行陵虐致死傷罪の区別等については、運用や法解釈が確立しているとはいえない状況にあるように思われます。
 また、今回のテーマとはズレるものの、そのような行為の被害に遭った場合に、どのような主張ができるのかという点についても、一律に決められるものではありません。
 今回のテーマに関連する事項でお悩みの方がいらっしゃいましたら、御気軽に弊所まで御相談いただければと思います。

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