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コラム

被災時にデマ情報を広める行為

簡単に言うと…
  • 天災の際に、偽の救助要請を投稿する行為が散見される。
  • 偽計業務妨害の罪の他、軽犯罪法違反の罪が成立し得る。
  • 拡散してしまったに過ぎない場合、故意が否定されるものと解されるが、業務を妨害してしまった点は同じである。
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 新年早々に能登半島で起こった地震によって、多くの方々が被災されました。お亡くなりになった方々のご冥福をお祈りいたします。また、多くの被災された方々に対しても、心よりお見舞い申し上げます。
 地震によって建物が倒壊するなどした場合、救助が必要な状況に追い込まれてしまう方が発生します。他方で、天災発生等を原因とする緊急時においては、救助が必要な方が同時多発的に発生するため、直ちに消防署の職員が急行できないケースが生じます。
 そのような状況下において、救助が必要な状況に追い込まれていることを、多くの人に知らせるツールとして、X等のSNSの利用が考えられます。実際に、今回の地震に際しても、被害に遭った具体的な住所と共に、家族が生き埋めになってしまったなどの投稿が多数なされていました。
 もし、SNSの利用者の中に、救助が必要な方の避難を支援できる方が、当該場所の近くに存在した場合、専門家の救助を待っていれば助からない可能性のある方を救える可能性がある訳ですから、SNSによる投稿が役立つ可能性は否定できません。
 しかしながら、残念なことに、報道によると、救助を求めるSNS上の投稿に、虚偽のものが多数含まれていたことが明らかになったようです。
 ただでさえ、天災への対応で救助隊等が多忙であるにもかかわらず、虚偽の投稿を理由に、偽の被災者の救助活動に時間や労力を割かれてしまうと、本来救助できるはずだった被災者の方々を救うことができない危険性が生じてしまいますから、救助を求める虚偽の投稿は、人命にもかかわる悪質な行為といえます。
 では、このような虚偽の投稿について、どのような刑罰が科され得るのでしょうか。また、このような虚偽の情報を拡散してしまった方には、何らかの刑事責任が生じてしまうのでしょうか。解説していきたいと思います。

1.刑法の定め

 救助を求める虚偽の投稿に対しては、偽計業務妨害の罪が成立し得ることを解説する記事が散見されますので、まずは偽計業務妨害の罪とは、法律上どのように定められているのかについて確認してみましょう。

刑法

(公務執行妨害)
第95条1項
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
(信用毀損及び業務妨害)
第233条
 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(威力業務妨害)
第234条
 威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

 何らかの業務を妨害することによって成立する犯罪として、刑法には上述した条文が定められています。しかし、公務執行妨害と威力業務妨害の罪との関係では、「暴行又は脅迫」や「威力」を用いて、公務や業務を妨害することが求められています。
 虚偽の情報をSNS上に投稿する行為は、「暴行」や「威力」にあたらないため、刑法第233条の定める偽計業務妨害の成否が唯一問題となるのです。
 ちなみに、救助との関係においては、救助を業務としている私人は一般的ではないことから、公務が妨害されることが想定されます。そして、公務執行妨害との関係では、「暴行又は脅迫」によって妨害された場合しか定められていませんが、妨害された対象が公務の場合であっても、刑法第233条の適用は否定されず、公務に対する業務妨害の罪は成立するものと解されています。
 どのような公務に対する妨害が、業務妨害の罪を成立させるのかについては、様々な見解がありますので、ここでは解説を省略させていただき、公務員に対する妨害行為でも業務妨害の罪は成立し得るという点だけ、とりあえずご理解ください。

2.軽犯罪法

 なお、業務妨害の罪以外に、虚偽の要救助情報を投稿した場合に成立し得る罪として、軽犯罪法は「他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者」(同法1条31号)に対して、拘留又は科料に処する旨を定めています。
 ここでいう「悪戯」とは、一時的な戯れに過ぎない行為で、業務を妨害する行為の中で比較的悪質でない行為を指すものと理解されており、業務を妨害する行為の中で、「威力」や「偽計」に該当しないものが「悪戯」となります。
 また、同条16号は、「虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者」も、同様に拘留又は科料に処する旨を定めています。
旭川簡易裁判所昭和50年7月2日判決は、非常ベルのボタンを押した被告人に対して、具体的な事実を公務員に申告した訳ではないので、16号ではなく31号の定める「悪戯」にあたると判示しています。
 31号と16号のいずれに該当するかはともかく、刑法の定める業務妨害の罪が成立する場合には、軽犯罪法は問題となりませんので、「偽計」等、刑法が定める偽計業務妨害の罪の成立要件が何なのかを考える必要があります。
 とはいえ、今回、問題となるSNS上の投稿については、そのような投稿がある限り、救助隊の方々としては、救助要請があった場所に赴く必要が残り続ける訳ですから、「一時的な戯れ」と理解することには違和感が残るように思います。

3.偽計業務妨害の罪の成立要件

 では、偽計業務妨害の罪はどのような場合に成立することになるのでしょうか。具体的には、「虚偽の風説を流布」、「偽計を用いて」、「業務を妨害した」と認められるのは、どのような場合かということが問題となります。特に、「虚偽の風説を流布」とは、「偽計」の一種であると解されていますので、「偽計」の内容が問題となります。
 人を錯誤させたり、人の不知を利用するような行為が「偽計」に該当することは分かりやすいのですが、威力業務妨害において問題となる「威力」には該当しないものの、不正な手段が用いられている場合には「偽計」に該当することを理由に業務妨害の罪を認める裁判例もあり、「偽計」の内容を一律に定義することは困難です。例えば、誰かを騙している訳ではないものの、飲食店に無言電話を執拗に掛け続けた行為について、「社会生活上受容できる限度を越え不当に相手方を困惑させる手段術策に当たる」として、東京高等裁判所昭和48年8月7日は、「偽計」にあたると判示しています。
 結局、「威力」に該当せず、「悪戯」の程度を超える行為を、広く「偽計」と理解していると考えることになりそうです。
 では、「業務を妨害」と認められるには、どれだけ業務に支障をきたせばいいのでしょうか。
 この点については、現実に業務が妨害されていなくても、業務が妨害される危険性のある行為であれば、業務妨害罪の成立が認められると解されています。

4.具体例

 では、実際にどのような行為に対して偽計業務妨害罪の成立が認められているのかみてみましょう。特に公務員に対するものをみてみたいと思います。
 著名な事件として、名古屋高等裁判所金沢支部平成30年10月30日判決があります。この事件は、Youtuberが警察官をドッキリにかける動画を撮影するために、白色結晶粉末の入ったチャック付きポリ袋を落として直ぐに拾う様子を警察官に見せ、覚醒剤取締法に違反する行為があるかのように装ったという事件です。
 裁判所は、「単なる悪ふざけの域を超えて」いるとした上で、被告人の行為がなければ遂行されたはずの警察職員の刑事当直等の業務が妨害されたとして、偽計業務妨害罪の成立を認めました。つまり、「被告人の行為によって、別の犯罪に関する被疑者をとり逃してしまった」というような事実が認められなくても、日常的なルーティーンとしての業務が妨害されている以上、業務妨害の罪が成立することを認めています。
 また、本件のような震災に関する虚偽のSNSの投稿について、裁判に関する情報は見当たらなかったのですが、熊本地震の際に、動物園からライオンが脱走したという虚偽の情報を投稿した者が、偽計業務妨害の容疑で逮捕されたという報道がなされていました。
 ライオンが実際に脱走したという事実はなかったようですが、ライオンが駐車場を闊歩しているかのような画像が添付されていたことから、その投稿を信用してしまい、拡散してしまった方も多くいらっしゃったようです。
 昨今、AIによる画像生成の技術も高まっており、一見すると本当の写真なのではないかと見紛う画像も増えてきています。実際に現在起こっている出来事を撮影したものと誤解してしまう方が多く出てきてしまうのも、一定程度仕方ないと感じてしまいます。

5.弁護活動

 地域全体が大変な事態に見舞われている中で、このような行為に及んでしまう背景には様々なことが考えられますが、虚偽の情報を投稿する行為が正当化されることは考え難いように思われます。
 一方で、上述したように、「偽計」や「悪戯」については、一律に線引きができるものではありません。二度と同種の行為に及ぶことがないように、繰り返し説諭することが求められることは前提としても、弁護人としては「偽計」に該当するのかについて、十分に検討することが求められるでしょう。
 また、実際に虚偽の情報を投稿した本人はともかく、当該投稿を拡散した方との関係ではどうでしょうか。例えば、虚偽の情報の出回り方を事後的に調査すると、SNS上で繋がりが多い著名人が、投稿された情報の真偽を見抜くことができず、虚偽の情報を引用して投稿するなどしたことによって、虚偽の情報が爆発的に広まってしまっていたことが分かる場合があります。
 このような人間にも偽計業務妨害は成立することになるのでしょうか。
「風説を流布」する行為には、既に流布されている内容を更に拡散する行為も該当すると解されていますから、拡散行為は「偽計」にあたってしまう可能性は十分にあることになります。
 しかし、実際に虚偽の情報を書き込んだ人間と異なり、拡散されている方のほとんどは、その情報が真実であることを前提に、善意で当該情報を拡散されているのだと思われます。したがって、「偽計」を用いて業務を妨害する故意がないことを、弁護人としては主張することになるでしょう。

6.まとめ

 今回は、天災等が生じた場合におけるデマ情報の投稿について、どのような犯罪が成立するのかについて解説させていただきました。
 天災が生じた際には、地域の方だけでなく、全国的に支え合っていく必要があり、そのような善意を利用するような行為は厳に慎まれるべきです。

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