目次
1 保釈制度の改正とは
令和5年5月に成立した改正刑事訴訟法によって、保釈中の被告人の逃亡を防ぐための制度が整備されました。主な内容は、①公判期日への不出頭罪などの罰則の新設(いずれも2年以下の拘禁刑)、②裁判所による報告命令制度の創設、③監督者制度の創設、④GPS端末による位置情報の取得制度の創設、⑤逃走罪の対象の拡大と法定刑の引上げです。
改正前は、保釈された被告人が公判期日に出頭しなくても、保釈が取り消されて保釈保証金が没取されるだけで、出頭しないこと自体は犯罪になりませんでした。保釈中の被告人の逃亡事件が相次いだことを受けて、逃亡を防止し、裁判への出頭を確保するための改正が行われました。
改正法は順次施行されており、GPS端末による位置情報の取得制度は、公布の日から5年以内(令和10年5月まで)に施行されることとされています。
保釈請求に向けた弁護活動の解説は、こちらに掲載 しております。
2 新設された罰則
保釈中の被告人が、正当な理由なく公判期日に出頭しなかった場合は、2年以下の拘禁刑が科されます(刑事訴訟法278条の2)。刑事訴訟法の定めは下記のとおりです。
刑事訴訟法
(公判期日への不出頭)
第278条の2
保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、2年以下の拘禁刑に処する。
ポイントとしては、
・公判期日への不出頭罪は、保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受けたのに正当な理由なく公判期日に出頭しない場合に成立します(刑事訴訟法278条の2)。
・このほか、同じく2年以下の拘禁刑が定められた罰則として、制限住居離脱罪が新設されました。「裁判所の許可を受けないで指定された期間を超えて制限住居を離れてはならない」という条件を付されて保釈された被告人が、正当な理由なく、その期間を超えて制限住居に帰着しない場合などに成立します(刑事訴訟法95条の3)。
・保釈が取り消された後、検察官から出頭を命じられたのに正当な理由なく出頭しない場合も処罰されます(刑事訴訟法98条の2、98条の3)。
・期間を指定されて勾留の執行停止をされた被告人が、期間の満了時に指定された場所に出頭しない場合や、刑の執行のための呼出しに応じない場合も処罰の対象となりました(刑事訴訟法95条の2、484条の2)。
3 報告命令制度
裁判所は、保釈中の被告人に対し、住居、仕事、通学の状況など、逃亡のおそれの判断に影響する事項について、裁判所が指定する時期に、又は変更があったときに速やかに報告するよう命じることができるようになりました(刑事訴訟法95条の4)。
報告命令に違反した場合には、保釈が取り消され、保釈保証金が没取される可能性があります。
4 監督者制度
監督者制度とは、裁判所が、保釈中の被告人の逃亡を防止し、公判期日への出頭を確保するために、親族などの適当な者を、その同意を得て監督者に選任する制度です(刑事訴訟法98条の4)。
監督者は、被告人と共に公判期日に出頭することや、被告人の生活状況を裁判所に報告することなどの責務を負います。監督者を選任する場合には、監督者にも監督保証金を納付させ、監督者が責務を果たさなかったときは、監督保証金が没取されることがあります。
従来も、保釈請求の際には家族などの身柄引受人を立てることが一般的でしたが、監督者制度は、その責務と責任を法律上明確にしたものといえます。監督者を選任することで、保釈が認められやすくなる事案もあると考えられます。
もっとも、令和8年10月の段階では、監督者制度を用いて保釈が許可された例は多くありません。その背景には、監督者と身柄引受人が同一人物となることが多く、保釈保証金も身柄引受人が立て替えていることが多いため、別に監督保証金を定める意味がないケースが多いことがあるように思われます。
他方で、同居のご親族のように、監督者として選任されなくても裁判官の信用を得られる関係であればともかく、友人や遠縁のご親族を身柄引受人として保釈を請求する場合には、監督者として選任してもらうことで、保釈の許可が得られやすくなることも考えられます。
身柄引受人として同居の上で監督を誓約していただける方がいらっしゃらない場合や、保釈請求が何度か却下されており、改めて保釈を請求しなければならない場合など、監督者制度の利用を検討すべきケースは考えられます。
5 GPS端末による位置情報の取得制度
裁判所は、国外への逃亡を防止するために必要と認めるときは、保釈中の被告人に位置測定端末(GPS端末)の装着を命じ、空港などの所在禁止区域に立ち入った場合などに位置情報を取得できるようになります。端末を取り外したり、所在禁止区域に立ち入ったりした場合には、処罰の対象となります。
この制度は、公布の日から5年以内に施行されることとされており、施行時期は今後定められます。
もっとも、保釈の許可を得るためにGPS端末を活用することは、現段階でも行われています。法改正によって施行が予定されている制度は、裁判所がGPS端末を通じて位置情報を管理するものです。ですから、施行前の現段階(令和8年10月)では、裁判所がGPS端末を管理することを条件として保釈の許可を求めても、認められることは難しいでしょう。
他方で、身柄引受人や弁護人がGPS端末を管理することで、逃亡や罪証隠滅のおそれを解消する仕組みを構築することは可能です。そして、その実効性を裁判所に説明することで、保釈が許可されることは考えられるのです。
GPS端末を利用するといっても、その管理の仕方には様々な方法が考えられます。立入禁止区域を設定することも考えられますし、逆に移動可能な範囲を特定の地域に制限することも考えられます。身柄引受人と一定の距離を保つような設定もあり得るでしょう。
どのような用い方が最も保釈の許可につながるかはケースバイケースですから、早期に専門家にご相談いただければと思います。
6 逃走罪の改正
逃走罪は、対象が「法令により拘禁された者」に拡大され、法定刑も1年以下から3年以下の拘禁刑に引き上げられました(刑法97条)。逮捕された被疑者が、留置される前に逃走した場合なども処罰の対象となります。
7 弁護活動への影響
改正によって、保釈中の被告人が守らなければならない事項が増え、違反した場合の制裁も重くなりました。保釈が認められた後も、公判期日への出頭や制限住居の遵守、裁判所への報告を確実に行う必要があります。
一方で、監督者制度などを活用することで、逃亡のおそれがないことを具体的に示し、保釈を認めてもらいやすくなる場面もあります。保釈請求を検討する際には、どのような条件であれば保釈が認められるかについて、弁護士と十分に検討することが重要です。
8 新設された罰則の一覧
保釈に関して新設された罰則の法定刑は、いずれも2年以下の拘禁刑です。また、逃走罪の法定刑は3年以下の拘禁刑に引き上げられました。
<保釈に関して新設された主な罰則>
| 犯罪の種類 | 法定刑 |
|---|---|
公判期日への不出頭罪(刑事訴訟法278条の2) | 2年以下の拘禁刑 |
制限住居離脱罪(刑事訴訟法95条の3) | 2年以下の拘禁刑 |
保釈等の取消し後の出頭命令違反の罪(刑事訴訟法98条の3) | 2年以下の拘禁刑 |
勾留の執行停止の期間満了後の不出頭罪(刑事訴訟法95条の2) | 2年以下の拘禁刑 |
刑の執行のための呼出しを受けた者の不出頭罪(刑事訴訟法484条の2) | 2年以下の拘禁刑 |
逃走罪(刑法97条) | 3年以下の拘禁刑(改正前は1年以下) |
※各制度の施行日は、法務省のホームページ等でご確認ください。
