国旗損壊罪について
- 国旗損壊罪が新設された。
- 国旗損壊罪の成立範囲は曖昧なものとなっている。
- 犯罪の成否を判断するにあたっては、知識のある弁護士への相談が不可欠。

弁護士
岡本 裕明
令和8年8月13日に、国旗の損壊等の処罰に関する法律が施行されました。私達は以前、「外国国旗はダメで日本国旗はいいの?国旗損壊の話」というコラムを公表させていただきました。この記事は、令和3年2月10日に公開した記事になりますが、当時から議論されていた国旗損壊罪の新設が、今回実現したこととなります。
国旗損壊罪については、外国の国旗を損壊した場合には刑罰が科されるのに、日本の国旗を損壊した場合には刑罰が科されないことについてのアンバランスさなどから、新設されることについて好意的な意見も多く聞かれました。
一方で、表現の自由の規制に直結するような法律を成立させることになりますので、強固に反対意見を述べる方もいらっしゃいました。
しかし、国旗の損壊等の処罰に関する法律は成立し施行もされていますから、この法律に如何に反対であっても、法律に違反する行為に及んだ場合には、刑罰が科される可能性があります。
そこで、今回は、「国旗の損壊等の処罰に関する法律」という法律が、どのような法律で、どのような行為が処罰されるのかについて解説したいと思います。
目次
1.国旗の損壊等の処罰に関する法律

弁護士
岡本 裕明
最初に、今回施行された国旗の損壊等の処罰に関する法律の内容を確認してみましょう。
国旗の損壊等の処罰に関する法律
(定義)
第1条
この法律において「国旗」とは、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物をいう。
(罰則等)
第2条
1項 人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、2年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金に処する。
2項 前項の方法に該当するかどうかの判断は、行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行うものとする。
(適用上の注意)
第3条
この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。
附 則
(検討)
2 この法律の規定については、この法律の施行後3年を目途として、国旗を損壊し、除去し、又は汚損する状況に係る映像に関するインターネット等の利用の状況、損壊され若しくは汚損された国旗を公然と陳列する行為又はこれに類する行為の発生の状況その他この法律の施行状況等を勘案し、国旗を大切に思う国民感情を保護するのに必要かつ十分なものとなっているかどうか等の観点から検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。
国旗の損壊等の処罰に関する法律は全3条からなるシンプルなものです。そして、損壊の対象となる「国旗」の内容については、国旗及び国歌に関する法律に定める国旗としていますから、同法の内容について確認してみると、同法第1条1項は、「国旗は、日章旗とする。」と定めており、同条2項は「日章旗の制式は、別記第1のとおりとする。」として、別記では寸法の割合や、日章の位置、中心の位置、直径等が細かく定められています。
とはいえ、刑罰の対象となるのは、「国旗及び国歌に関する法律に定める国旗として用いられていると社会通念上認められる有体物」とされており、社会通念上日章旗と認められている旗であれば、寸法の割合が不正確なものであっても、損壊した場合には刑罰の対象となる国旗に該当するものといえるでしょう。
一方で、国旗の損壊等の処罰に関する法律は、国旗を「有体物」と定めていますから、テレビゲームなどの中で日章旗を損壊するような行為に及んだとしても、国旗損壊罪は成立しないことになります。
他方で、オンライン上で、損壊された日章旗の画像等をアップロードする行為等も、類似の行為として想定できます。現行法では、そのような行為に刑罰を科すことができませんので、そのような行為を処罰する必要性があるかどうかについて、施行の3年後を目途に議論することが附則第2項で定められているのです。
2.人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法

弁護士
岡本 裕明
国旗損壊罪は、単に国旗を損壊しただけでは成立しません。人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法での損壊でなければ、刑罰が科されることはないのです。
では、どのような方法であれば、人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法と認められてしまうのでしょうか。
この点、法務省は、「一般通常人から見て、ひどく快くないと感じさせ、又は不愉快に感じさせるような方法を指す」と説明していますが、条文を言い換えているだけであって、結局どのような方法が、一般通常人から見てひどく快くないと感じさせ又は不愉快に感じさせるような方法にあたるのかについてはハッキリしません。
では、同じような文言が使われている法律は何かないのでしょうか。
ストーカー行為等の規制等に関する法律
(定義)
第2条
この法律において「つきまとい等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。
6号 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと
このようにストーカー規制法においては、処罰対象となる「ストーカー行為」の前提として「つきまとい等」に該当する行為を定めているのですが、その内の1類型として、「汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物」を送付する行為を定めています。
条文だけから考えると、汚物を送付されるのと同程度に不快感を与える行為に限定されるように思えますが、実務上は、汚物までいかなくとも、藁人形や虫や食べかけの食料品を送付することによっても、「つきまとい等」に該当すると考えられているようです。
ストーカー規制法は、「個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資すること」が目的として定められており(同法第1条)、その目的が国旗損壊罪とは大きく異なりますから、同じ文言であっても、全く同じような解釈がなされるとは限りません。
それでも、同様の文言が使用されている以上は、ストーカー規制法において定められている、汚物等を送付されることによって生じる、「不快又は嫌悪の情」と同レベルの感情を生ぜしめる方法に、国旗損壊罪の成立は限られるものといえるでしょう。
3.行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情

弁護士
岡本 裕明
ストーカー規制法を参考に、刑罰の対象となる「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」がどのような方法なのかについて解説させていただきましたが、結局、そのような方法に該当するかどうかはケースバイケースでしかありません。
そこで、その判断に資するように、第2条2項において「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情」から判断する旨が定められています。
この点について法務省は、「あくまでも、行為それ自体の客観的な態様やこれを取り巻く状況などを考慮して行うものであって、行為者が伝達しようとした表現やメッセージの内容を考慮して判断するものではない」と説明しています。
つまり、仮に国の政策に反対するような趣旨で国旗を損壊した場合であっても、国に反対するための行為であるということは、刑罰を科するかどうかを判断する際の材料にしない旨が定められているのです。
したがって、国旗損壊に及ぶ理由が、多くの方の不快感や嫌悪感を催させるものであっても、損壊の態様や場所等から、多くの人に不快感や嫌悪感を与えるものでなければ、国旗損壊罪が成立することはないのです。
この点は、表現の自由を保護するために設けられたものと解釈することは可能ですが、「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情」から判断する旨が定められたところで、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」といえるかどうかの判断は、極めて困難だといえるでしょう。
結果的に、国旗損壊罪は、どのような行為に刑罰を科する罪なのかハッキリしない罪であると評価せざるを得ず、多くの方々が国旗損壊罪の新設に反対していた一つの理由となっています。
また、ストーカー規制法の場合と異なり、国旗損壊罪は、「国旗を大切に思う国民感情」を保護する罪と考えられています。ストーカー規制法において、「個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止」することを目的としていることと比較すると、保護しようとしているもの自体が極めて抽象的で、どのような方法で国旗を損壊した場合に、「国旗を大切に思う国民感情」が侵害されたといえるのかについて、判断が非常に難しいのです。
4.国旗損壊罪と弁護活動

弁護士
岡本 裕明
国旗損壊罪は成立したばかりの法律で定められたものであり、まだ適用例はありません。したがって、弁護活動を行うにあたっては、その立法経緯や保護法益を意識して弁護活動を行う必要があります。
特に、上述したように、国旗損壊罪の成立範囲がハッキリとしないことから、まずは刑罰を科すべき行為に該当しない可能性を十分に精査したうえで、その旨を適切に主張する必要があるでしょう。
例えば、国旗の損壊等の処罰に関する法律の第3条では、「この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」と定められていますから、当該事件において国旗損壊罪を適用することが、憲法が保障する表現の自由を不当に侵害することにならないかどうかなどについて、十分に検討する必要があります。
5.まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、国旗の損壊等の処罰に関する法律は、問題点の多い法律と言わざるを得ません。捜査機関がどの程度積極的に、国旗を損壊する行為に対して、国旗損壊罪を適用する予定なのかについても未知数です。
他方で、他人が管理・所有する国旗を損壊する行為は、単純に器物損壊罪に該当します。したがって、国旗損壊罪が成立しない場合であっても、他人が管理・所有する旗を損壊する行為は犯罪にあたることになります。
犯罪の成否等について複雑な問題を孕むため、もし国旗損壊罪で取調べを受けるような事態に陥るようでしたら、早急にご相談いただければと思います。









