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コラム

過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪とは?

簡単に言うと…
  • 飲酒運転によって死傷事故を起こした場合にしか、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は成立しない。
  • 現場から立ち去るだけでも過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は成立し得る。
  • あてはめが難しい要件が多く、専門家によるアドバイスが強く求められる犯罪といえる。
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弁護士
岡本 裕明
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪とはどのような場合に成立する罪になるのでしょうか。考えてみましょう。

 令和8年7月21日に改正自動車運転致死傷処罰法が施行されました。

 自動車事故に伴って相手方を傷つけてしまった場合の刑罰に関しては、これまで何度も重罰化の方向で法改正が重ねられています。

 従前は、刑法の業務上過失致死傷罪(刑法第211条)として処罰されてきましたが、危険運転致死傷罪(刑法208条の2)が新設され、その後に自動車運転致死傷処罰法として、特別法が新設されるに至りました。

 このように重罰化が重ねられてきた背景には、悪質な運転行為によって死傷者が生じる事件が続き、悪質な運転行為に対して、重い刑罰を科すべきだという意見が社会的に強まっていたことが認められます。

 重罰が求められてきた典型例が酒酔い運転による死傷事故です。とはいえ、今回の改正前の自動車運転致死傷処罰法も、酒酔い運転による死傷事故に対して、人を死亡させた場合には1年以上の有期拘禁刑(上限20年)を科せるものとされていましたから、量刑という意味では、十分に重い刑罰を科すことができるものとなっていました。

 しかし、改正前の法律は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」として、処罰対象を抽象的に定めていたため、どのような場合に重罰を科すことができるのかが曖昧である点が問題視されていました。

 今回の改正は、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」であるかどうかを判断する基準として、呼気や血液中のアルコール保有量を定めることで、危険運転致死傷罪の適用範囲を明確化することが一つの主眼とされています。

 しかし、呼気や血液中のアルコール保有量を適切に調査できなければ、このような基準を定めたとしても、危険運転致死傷罪を適用することができません。重罰が科されてしまうことを避けようと考える運転手は、当該調査を免れようとするでしょう。

 過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪とは、このような逃げ得を防ぐ目的を有しているものといえます。今回は、この内容について解説していきたいと思います。

1.条文の定め


弁護士
岡本 裕明
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪とは、どのように定められているのか確認してみましょう。

 まずは、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪という犯罪が、どのように定められているのかを確認してみましょう。

自動車運転致死傷処罰法

(過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱)
第4条
アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者が、運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた場合において、その運転の時のアルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的で、更にアルコール又は薬物を摂取すること、その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させることその他その影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為をしたときは、12年以下の拘禁刑に処する。

 まず、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は、「アルコール又は薬物の影響によりその走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で自動車を運転した者」を対象とします。

 ですから、単に警察官からの検査を拒んだだけでは過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が成立することはなく、実際にお酒を飲んだ上で車を運転して、死傷事故を起こした場合にのみ問題となるのです。

 もっとも、お酒を飲んでいなければ、警察官からの検査を自由に拒めるという訳ではありません。

 道路交通法67条3項は、飲酒運転の可能性があると判断される場合において、警察官による運転手に対する呼気検査が可能である旨を定めています。そして、同法第118条の2は、警察官による検査を拒んだ場合に、3月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する旨を定めています。

 ですから、実際にお酒を飲んでいたわけではなくても、警察官から呼気検査を求められた場合に、呼気検査を拒絶した場合には、同法が定める飲酒検知拒否の罪が成立することになるのです。

2.正常な運転に支障が生じるおそれがある状態


弁護士
岡本 裕明
本罪の対象となる「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とはどのような状態をいうのでしょうか。

 上述したとおり、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は、飲酒運転の結果として死傷事故を起こした人物についてのみ成立する犯罪です。

 そして、単に飲酒をした上で運転しただけではなく、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」で自動車を運転したと認められる場合でなければ、犯罪が成立することはありません。

 では、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」とはどのような状態を意味するのでしょうか。

 似たような内容として、今回法改正がなされた、自動車運転致死傷処罰法第2条の危険運転致死傷罪は、「アルコール影響正常運転困難状態(身体に血液1mlにつき1.0mg以上又は呼気1lにつき0.5mg以上のアルコールを保有する状態その他アルコールの影響により正常な運転が困難な状態をいう)」で運転した場合に適用されるものとなっています。

 単に「アルコールの影響により正常な運転が困難な状態」と定めるのではなく、具体的な数値を示すことで、危険運転致死傷罪の成否を判断しやすくするために改正されたものです。

 文言を比較すると、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を適用する際に求められる「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」は、「正常な運転が困難な状態」よりも、お酒による影響が小さい場合にでも認められそうであることがわかるかと思います。

 どのような場合に、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」といえるかどうかについてはケースバイケースではありますが、自動車を運転する際の注意力が、通常の状態と比較して相当程度減退している場合を指すものと理解されており、酒酔い状態と認められなくても、酒気帯び状態と認められれば、「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」といえると理解されています。

3.アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的


弁護士
岡本 裕明
アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的とは、どのような目的なのでしょうか。

 次に、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立には、「アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」が求められます。

 実際に、事故発生後に呼気検査を受けることなくその場を立ち去るような行為があっても、飲酒運転の発覚を防ぐ目的以外の目的によるものであった場合には、犯罪の成立が否定されることになります。

 とはいえ、既に飲酒運転の上で事故を起こしてしまった後に呼気検査を求められている訳ですから、この目的がないことを理由に、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立が否定されるケースは限られることになるでしょう。

 例えば、事故を起こしたことで、同乗者も深刻な怪我を負ってしまい、同乗者の救命のために病院に向かうような行為については、結果的にその場を離れていることで、呼気検査を行うことができなかったとしても、「アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」がないものとして、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立は否定されることになるでしょう。

 一方で、死傷事故を起こしてしまった結果、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪を犯す意思がなかったとしても、気が動転した結果として、その場を立ち去ってしまうことはあり得ると思います。このような場合、積極的に呼気検査を拒もうとする意思がなかったとしても、その場を離れる行為から、罪を免れようとする意思が推認されてしまうことによって、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立が認められてしまうことが多いでしょう。

4.アルコールの影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為


弁護士
岡本 裕明
どのような行為が、「アルコールの影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」にあたるのでしょうか。

 先ほど、事故を起こした後に気が動転してその場を立ち去ってしまったような場合でも、「アルコール又は薬物の影響の有無又は程度が発覚することを免れる目的」は認められてしまう可能性がある旨をお伝えしました。

 しかし、事故を起こした直後であれば、警察官が現場に臨場している訳ではありませんから、そもそも呼気検査等を求められている訳ではありません。ただ単に現場から立ち去るだけでも、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の対象となる「アルコールの影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」として刑罰が科されてしまうのでしょうか。

 「アルコールの影響の有無又は程度が発覚することを免れるべき行為」の一つとして、法律上明確にされている行為が、「更にアルコールを摂取すること」です。事故を起こした後に、飲酒運転の発覚を防ぐために、その場で更にアルコールを摂取した場合には、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が成立することになります。

 一方で、「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」については、「その場を離れ」た場合に常に成立するわけではありません。その場を離れて、数分で現場に戻ってきた場合、アルコールの濃度が減少することは考え難いですから、「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」にはあたりません。

 しかし、呼気検査を求められている状況でなくても、事故を起こした「その場から離れ」た場合において、アルコールの濃度が減少し得るような長期間戻ってこなかった場合には、ただ単に立ち去ったにすぎない場合でも、「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」にあたることになるのです。

5.過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪と弁護活動


弁護士
岡本 裕明
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の容疑がかけられた場合、どのような弁護活動が可能なのでしょうか。

 上述したとおり、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪については、死傷事故を起こした後で、その場を立ち去るだけでも成立し得る犯罪です。

 一方で、できるだけ分かりやすい解説とするために、それぞれの要件についての解釈について、単純な内容で説明させていただきましたが、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立に必要な各要件は抽象的な形で定められていることもご理解いただけたかと思います。

 つまり、それだけ実際に問題となっている行為が、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪にあたるかどうかの判断は難しいものといえるのです。

 したがって、まずは実際に過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪にあたり得る行為に及んでしまっているのかについて、十分な検討が必要となるでしょう。

 「正常な運転に支障が生じるおそれがある状態」にあたるのかどうかという点も、大きな問題となりますが、危険運転致死傷罪との関係でも問題となり得る内容ですから、ここでは過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪との関係でのみ問題となる「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」にあたるかどうかについて考えてみたいと思います。

 上述したとおり、事故現場から立ち去るだけでも、「その場を離れて身体に保有するアルコール又は薬物の濃度を減少させること」に該当する可能性はあります。実際に、札幌地方裁判所小樽支部平成28年9月28日判決は、死傷事故を起こした後、捜査機関等に事故の報告を行わずに、その場を立ち去り、約半日後に警察署に出頭した事案で、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立を認めています。

 他方で、同裁判例においては、事故から6時間経過した後に飲酒した行為について、既に事故前の飲酒による血中アルコール濃度は0になっていた可能性があるとして、「更にアルコールを摂取すること」にあたらないと判断しています。

 客観的には、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成立が認められそうな行為があったとしても、本当に犯罪行為に該当するかどうかを検討することが求められるといえるでしょう。

6.まとめ


弁護士
岡本 裕明
過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の内容について御理解いただけたでしょうか。

 以上のとおり、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は、飲酒運転により死傷事故を起こしてしまった方を対象に成立する犯罪です。そもそも、飲酒運転に及んでいたかどうかにかかわらず、死傷事故を起こしてしまっている以上、救護義務や通報義務が課されている訳ですし、適切な活動があれば、被害者の方の死亡結果を避けることができるかもしれない訳ですから、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の成否を検討するのではなく、直ちに救急や警察に通報することが求められます。

 他方で、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪は、相当程度重い刑罰が科されることが予定されています。したがって、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪が成立しないにもかかわらず、同罪の容疑がかけられている場合、適切な弁護活動が求められることになります。

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