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執行猶予付きの判決を取りたい

1 執行猶予とは(令和7年6月の法改正後)

 執行猶予とは、有罪判決で言い渡された刑の執行を一定期間猶予し、その期間を問題なく過ごせば刑の言渡しの効力を失わせる制度です。3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金を言い渡す場合に、1年以上5年以下の期間を定めて付すことができます(刑法25条1項)。
 つまり、判決においては、「被告人を拘禁刑3年に処する。この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。」といった形で宣告されます。この判決の場合、5年の間、執行猶予が取り消されるような行為に及ばなければ、拘禁刑3年の刑は消滅することになるのです。
 ですから、執行猶予が付されると、判決が確定しても刑務所に収容されることはなく、社会生活を続けながら更生を目指すことができます。
 令和7年6月1日に施行された刑法改正によって、懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されるとともに、執行猶予制度についても、①再度の執行猶予の要件の緩和、②保護観察付き執行猶予中の再犯への対応、③猶予期間の経過後も執行猶予を取り消せる仕組みの新設、という3つの改正が行われました。
 法改正前の執行猶予制度の解説は、こちらに掲載 しております。

2 執行猶予を付すことができる場合の要件

 刑の全部の執行猶予は、①3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けること、②前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないこと(又は刑の執行を終えてから5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられていないこと)、③情状により執行を猶予するのが相当であること、の3つを満たす場合に付すことができます。刑法の定めは下記のとおりです。

刑法

(刑の全部の執行猶予)

第25条
1項 次に掲げる者が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
1号 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
2号 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
2項 前に拘禁刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が2年以下の拘禁刑の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、この項本文の規定により刑の全部の執行を猶予されて、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

 ポイントとしては、
・執行猶予を付すことができるのは、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の場合に限られます。したがって、3年6月の拘禁刑等、3年以上の拘禁刑が言い渡された場合には、執行猶予が付くことはなく、刑務所に拘禁されてしまうことになります。このように執行猶予が付かない刑のことを実刑といいます。
・執行猶予の期間は、裁判が確定した日から1年以上5年以下の範囲で、裁判所が定めます。したがって、6年の執行猶予期間が付されることはありません。また、1年の執行猶予期間が定められることも極めて珍しく、基本的には2年以上の期間が定められることが多いものといえます。また、執行猶予期間中の生活態度が良好であることを理由に、執行猶予期間が短縮することはありません。判決で言い渡された期間が経過しなければ、宣告された刑が消滅することはないのです。
・執行猶予の期間中に保護観察に付されることもあります(刑法25条の2)。執行猶予期間が短縮されることはありませんが、保護観察については、生活態度が良好であることを理由に仮解除されることもあり得ます。保護観察は、保護司や保護観察官との面会を中心とするものになりますので、そのような面会の機会が減ることなどは十分にあり得るのです。
・過去の懲役・禁錮の前科も、執行猶予の要件を判断する際には「拘禁刑」として扱われます。
・罰金刑に対しても執行猶予が付されることはあります。しかし、罰金刑に執行猶予が付された実例は非常に少なく、存在するものも極めて古いものになりますので、実際上は罰金刑に執行猶予がつくことはほとんどないと理解していただいていいかと思います。

3 令和7年6月の改正で変わった点

(1) 再度の執行猶予の要件の緩和

 再度の執行猶予とは、執行猶予の期間中に新たな罪を犯した者に、もう一度執行猶予を付す制度で、改正によって、言い渡す刑が「1年以下」から「2年以下」の拘禁刑に広げられました(刑法25条2項)。
 再度の執行猶予を付すには、引き続き「情状に特に酌量すべきものがある」ことが必要です。改正前は要件が厳しく、実際に再度の執行猶予が付される事案はごくわずかでしたが、改正によって、その可能性は広がりました。
 とはいえ、前科と同種の犯罪行為に及んでしまった場合には、原則として実刑判決が宣告されることになります。また、前科とは異種の犯罪行為であったとしても、意図的に犯罪行為に及んだと評価されるようなケースにおいても、再度の執行猶予が付されることは極めて限られたケースになります。
 再度の執行猶予を付されることが多いのは、前科とは全く違う形の過失犯(過失運転致死傷等)の罪を犯してしまった場合です。一方で、窃盗犯においてクレプトマニアによる影響で再犯に及んでしまった場合など、再度の執行猶予が付されるケースはありますので、諦めることなく、専門家のアドバイスを求めるべきといえるでしょう。

(2) 保護観察付き執行猶予中の再犯

 改正前は、保護観察付きの執行猶予の期間中に再び罪を犯した場合、再度の執行猶予を付すことはできませんでしたが、改正後は、最初の執行猶予に保護観察が付されていた場合でも、再度の執行猶予を付すことが可能になりました。
 もっとも、再度の執行猶予によって保護観察に付された期間中に、さらに罪を犯した場合には、3度目の執行猶予を付すことはできません。
 保護観察付きの執行猶予期間中に再犯に及んだ場合、法律的には再度の執行猶予を得ることができるようになりましたが、事実上、再度の執行猶予が得られるケースというのは極めて限られたケースになりそうです。
 むしろ、保護観察期間中の再犯であっても法律的には執行猶予を付けることが可能になったことから、初犯者に対しても単なる執行猶予付きの判決ではなく保護観察付きの執行猶予を付することが過度に重い刑罰を科すものであると評価されない傾向にあります。
 したがって、初犯者の裁判において、罪を認めている場合であっても、不必要な保護観察が付されることがないように、適切な弁護が求められることになるでしょう。

(3) 猶予期間の経過後も執行猶予を取り消せる仕組み

 改正後は、執行猶予の期間中に犯した罪について猶予期間内に起訴されていれば、判決の確定前に猶予期間が経過しても、前の執行猶予を取り消すことができるようになりました(刑法27条2項以下)。
 改正前は、執行猶予の期間中に新たな罪を犯しても、その判決が確定する前に猶予期間が満了すれば、前の刑の言渡しは効力を失い、執行猶予が取り消されることはありませんでした。改正によって、裁判を長引かせて猶予期間の満了を待つということはできなくなりました。
 いわゆる「弁当切り」と呼ばれる弁護方針が採用できなくなったことを意味します。執行猶予期間を徒過させることだけを目的に裁判を引き延ばす戦略が適当であるのか疑義を持つ方も多かったので、この法改正は妥当なものと考えられます。
 他方で、この仕組みは、法改正後に言い渡された執行猶予についてのみ妥当します。そこで、2025年5月31日以前に宣告された執行猶予については、当該執行猶予期間中に起訴されていても、当該事件についての判決が宣告される前に執行猶予期間が経過すれば、前刑は執行猶予期間の経過を理由に消滅することになります。この点には注意が必要です。

4 執行猶予が取り消される場合

 執行猶予は、猶予期間中に更に罪を犯して拘禁刑の実刑判決を受けた場合には必ず取り消され(刑法26条)、罰金刑を受けた場合や保護観察中の遵守事項に違反した場合などには、取り消されることがあります(刑法26条の2)。
 執行猶予が取り消されると、猶予されていた刑と新たに言い渡された刑の両方を受けることとなり、刑務所に収容される期間が長くなります。執行猶予の期間中に事件を起こしてしまった場合には、直ちに弁護士に御相談いただければと思います。
 上述したとおり、執行猶予中の再犯について起訴されてしまった場合でも、再度の執行猶予付きの判決を得ることは法律上可能です。一方で、再度の執行猶予付きの判決が宣告されるケースが極めて限られていることからすれば、捜査段階において略式命令による罰金刑や不起訴処分を狙って弁護活動を行うことが極めて重要になるのです。

5 刑の一部の執行猶予

 刑の一部の執行猶予とは、3年以下の拘禁刑を言い渡す場合に、刑の一部を実際に執行した上で、残りの期間の執行を猶予する制度です(刑法27条の2)。薬物事件では、前に拘禁刑に処せられたことがある場合でも付すことができます。
 具体的には、「被告人を拘禁刑3年に処する。その刑の一部である拘禁刑1年の執行を2年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。」という形で宣告されます。この場合、まず拘禁刑の内の2年の刑が執行されることになりますので、一度は刑務所で拘禁されることになります。しかし、2年を経過した後に釈放され、その時点から残りの刑期である拘禁刑1年が、2年間にわたって猶予されることになります。そして、この2年の間、執行猶予が取り消されることがなかった場合、1年間の拘禁刑については消滅することになるのです。
 通常の執行猶予付きの判決と異なり、執行猶予期間のスタートが判決確定時ではなく、刑務所から釈放された時点からスタートすることになります。この意味で、執行猶予期間の終期が、通常よりも遅くなる点に注意が必要です。
 一部執行猶予の解説は、こちらに掲載 しております。

6 執行猶予を目指す弁護活動

(1) 初めて起訴された場合

 初めて起訴された事件で、法定刑の範囲内で3年以下の刑が見込まれる場合には、被害者の方との示談、再犯防止のための具体的な取り組み、家族などによる監督体制を示し、執行猶予付きの判決を目指します。
 まず、3年を超える拘禁刑が相当であると裁判官に判断されてしまった場合には、執行猶予付きの判決を得ることができませんので、犯罪行為自体がそこまで悪質ではなく、3年を超えるような刑罰が相当する刑事責任は生じていないことを主張する必要があります。
 また、3年以下の拘禁刑が相当であると判断された場合であっても、社会内で更生する環境が整備されていないと評価された場合、執行猶予を付すのではなく、刑務所内での更生が適切であると判断される可能性があります。そこで、家族や仕事等、更生資源が十分に整備されていることを裁判所に対して適切に主張する必要があるでしょう。

(2) 執行猶予の期間中に事件を起こしてしまった場合

 執行猶予の期間中に新たな事件を起こした場合、改正後は2年以下の拘禁刑であれば再度の執行猶予の可能性がありますが、「情状に特に酌量すべきもの」があると認められる必要があり、ハードルは高いといえます。
 事件の内容が軽微であることや、被害者の方との示談の成立、依存症の治療など、前の判決の時点とは異なる具体的な事情を丁寧に積み上げることが重要です。起訴されるかどうか、起訴された場合に前の執行猶予が取り消されるかどうかにも影響しますので、早期の弁護活動が不可欠です。
 特に、過去に執行猶予付きの判決が宣告された以上、裁判所からすると、一度チャンスを与えたにもかかわらず、そのチャンスを活かすことなく再度犯罪行為に及んだとの評価を受けてしまいます。したがって、前刑と今回とでは、犯罪に至った経緯が異なることなど、前刑に際して与えられたチャンスを無駄にしたわけではないことを主張する必要があります。
 このような主張をする前提として、前刑の執行猶予付き判決を宣告された後、更生に努めており、一定程度の更生の成果が認められることなどを主張することになります。

7 執行猶予に関する主な規定の一覧

 刑の全部の執行猶予は3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金で付すことができ、再度の執行猶予は2年以下の拘禁刑で付すことができます。

<執行猶予に関する主な規定(令和7年6月1日以降)>
項目内容

刑の全部の執行猶予(刑法25条1項)

3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金を言い渡す場合に、1年以上5年以下の期間

再度の執行猶予(刑法25条2項)

2年以下の拘禁刑を言い渡す場合で、情状に特に酌量すべきものがあるとき(改正前は1年以下)

保護観察(刑法25条の2)

初度の執行猶予では裁判所の裁量、再度の執行猶予では必ず付される

執行猶予の取消し(刑法26条・26条の2)

猶予期間中の再犯で拘禁刑の実刑となった場合などは必要的取消し、罰金刑や遵守事項違反などは裁量的取消し

猶予期間経過の効果(刑法27条)

猶予期間内に起訴されていれば、期間経過後も一定の間は効力が継続し、取り消すことができる

刑の一部の執行猶予(刑法27条の2)

3年以下の拘禁刑を言い渡す場合に、刑の一部の執行を1年以上5年以下の期間猶予

※令和7年5月31日以前に言い渡された懲役・禁錮の前科も、上記の規定の適用においては拘禁刑として扱われます。

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