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贈収賄の罪について

1.贈収賄の罪とは

 贈収賄とは賄賂に関する罪です。賄賂を受け取ったり要求したりした場合には、収賄の罪が成立することになります。刑法197条に規定されており、5年以下の懲役に処されます。
 逆に、賄賂を渡したり賄賂を渡すことを申し込んだりした場合には、贈賄の罪が成立することになります。刑法198条に定められており、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処されます。
 刑法の条文を確認していただくと分かるように、贈収賄の罪は賄賂を公務員が受け取る等した場合にのみ成立するものです。つまり、極めて大きな力を持っている大企業の代表取締役に、何らかの不適切な目的をもって金銭等を支払ったとしても、贈収賄の罪が成立することはありません。
 それは、贈収賄の罪は、公務の円滑で公正な遂行を保護するために規定されたものであって、民間企業の健全な経営を確保しようとするものではないからです。
 贈収賄の罪の内、収賄罪については、刑法第197条1項前段が定める単純収賄罪だけでなく、同項後段が定める受託収賄罪(賄賂を受け取る代わりに、公務員に対して職務行為を行うことを依頼する(これを「請託」といいます。)場合に成立する罪です)や同法第197条の3が定める加重収賄罪(公務員が賄賂を受け取ったことを理由に、実際に不適切な公務を行った場合に成立する罪です)等、複数の形態の収賄罪が定められています。
 賄賂を受け取ることに加えて、何らかの不適切な公務の依頼を受けていた場合や、その依頼を実際に遂行してしまった場合には、更に重い罪を犯したものとして、厳しい刑罰が科されることになるのです。
他にも、賄賂を受け取った段階では公務員ではなかった者や、賄賂を受け取った時には公務員を辞めていた者に対して、賄賂を渡した場合であっても、事前収賄罪(刑法第197条2項)や事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)が成立する場合があり、賄賂を受け取った段階で公務員でなければ犯罪が成立する訳ではないのです。
以上のことを考えれば、公務員に対して金銭等を渡す行為は、贈収賄の罪が成立してしまう可能性が高いと考えていただいた方がいいでしょう。
 贈収賄の罪と聞くと、政治家や官僚に対して金銭を支払う見返りに、自身に有利な政策や契約をしてもらうように頼むようなイメージが強いように思います。ですから、定型的な職務に従事しており、お金を受け取ったところで手心を加えられない市役所の窓口に勤務しているような公務員との関係で、贈収賄が問題となることはイメージしにくいかもしれませんが、大昔の判例においては、手心を加える余地のない職務であっても収賄罪が成立するとされているのです(大判昭和11年5月14日 刑集15巻626頁)。

 皆様が思っている以上に、贈収賄の罪は、身近なシチュエーションでも成立し得る犯罪で、政治家や一部の権力者間でのみ問題となる犯罪という訳ではないのです。

2.贈収賄の罪の成立要件

 上述したように、収賄の罪に関しては、いくつかの形態が定められていますので、それぞれに成立要件が異なることになります。
 そこで、中心となる成立要件を検討したいと思います。
贈収賄の罪の成立要件は、何と言っても「賄賂」です。しかしながら、何を渡せば「賄賂」になるのかということは、「賄賂」という言葉だけからはハッキリしません。
 この点について、大判明治43年12月19日(刑録16号2239頁)は、有形無形を問わず、人の需要や欲望を満たし得る一切の利益を意味すると判断しています。
 つまり、基本的には何でも「賄賂」に該当し得るのです。それは、お金や物でなくても構いません。お酒や食べ物を伴う接待も「賄賂」になりますし、性的な行為等についても「賄賂」にあたるとされています(最決昭和36年1月13日 集15巻1号113頁)。
このように考えると、公務員には何も渡せなくなりますし、贈収賄の罪が成立してしまうことを気にして、安易に接することさえできなくなってしまいそうです。
 しかし、当然ですが、何にでも贈収賄の罪が成立する訳ではなく、社交儀礼の範囲内であれば「賄賂」にはあたらないと理解されています。
 とはいえ、どのような内容であれば社交儀礼の範囲内といえるのかについても、明確な線引きは困難です。現在とは貨幣価値が異なりますが、現金500円を渡したことが、社交儀礼の範囲を超えると判断した最高裁判例も存在するのです(最判昭和26年9月6日 裁判集52巻113頁)。
「賄賂」にあたるかどうかを判断する際には、公務員に提供しようとしている物やサービスの内容だけを考えればいい訳ではありません。その物が公務員の職務に関して受け取られたかどうかを考える必要があるのです。
 例えば、公務員である友人から漫画を借りたお礼に、1000円を支払った場合に、贈収賄の罪が成立するのは不合理です。この1000円は漫画を貸したことについての対価であって、公務とは無関係のものだからです。
とはいえ、この「職務」という成立要件についても、狭く解釈されている訳ではありません。「職務」そのものといえない内容であっても、職務に一定の関係性が認められる場合には、「賄賂」だと判断されることがあるのです。例えば、国立芸大に通う生徒は、自身が利用する楽器を自身で選択することができる訳ですから、学生に特定の楽器を購入させる権限は教授にはなく、楽器を購入させること自体は教授の職務ではありませんが、学生に対して特定の楽器を購入するように薦めてもらう目的で教授に金銭等を支払った行為について、贈収賄の罪の成立を認めた裁判例があります(東京地判昭和60年4月8日判時1171号16頁)。

3.関連する犯罪

(1)単純収賄罪(刑法第197条1項前段)

 収賄の罪の中で最も基本的な犯罪類型になります。賄賂を受け取ったり、要求したりした場合に成立します。刑法第197条1項前段に規定され、5年以下の懲役に処されます。
 賄賂を要求した場合、実際に賄賂を受け取ることがなかった場合でも、単純収賄罪は成立することになりますが、賄賂を要求した後に受け取った場合であっても、2つの収賄罪が成立する訳ではなく、全体の行為を捉えて一つの罪として扱われることとなります。
なお、収賄罪の成立を認めるためには、「賄賂」だと認識している必要があります。したがって、寄付金だと誤解して受領していた場合には、収賄罪の成立は否定されることになるのです。

(2)受託収賄罪(刑法第197条1項後段)

 受託収賄罪は、賄賂を受け取ったり、賄賂を要求したりする際に、何らかの公務を依頼されていた場合(このような行為を「請託」といいます。)に成立する罪で、刑法第197条1項後段に規定されています。単純収賄罪よりも重い法定刑が定められており、7年以下の懲役に処されます。
何らの見返りもなくお金を渡すような場合には、ほとんど寄付金と変わりませんから、「賄賂」として何らかの利益を公務員に提供する場合、基本的には何らかの目論見があり、その中身を公務員側に伝えなければ、「賄賂」を渡す目的が達成できません。
 ですから、受託収賄罪が収賄の罪の基本的な形態であって、受託収賄罪の成立が認められない単純収賄罪の事案の方が例外的なように思われるかもしれませんが、受託収賄罪の立件数は単純収賄罪と比較すると極めて少ないものとなっています。

(3)事前収賄罪(刑法第197条2項)

 公務員が公務員となる前に、賄賂を要求したり、受け取ったりしていた場合に成立する罪で、刑法第197条2項に規定されており、5年以下の懲役に処されます。
まだ公務員となる前の行為を捉えるものではあるのですが、請託が要件となっていますので、単純収賄罪というよりも受託収賄罪と同列の内容となっておりますが、現役の公務員による収賄の場合よりも、法定刑は軽いものと定められています。
公務員となる予定が全くない状態で賄賂を受け取り、その後に公務員となった場合には成立しませんが(そのような人間に賄賂を渡すことは考えられませんが)、立候補届出以前であっても、公務員となることが予定されている場合には、事前収賄罪が成立することになります。
 公務員となる前に賄賂の要求などをしていた場合であっても、公務員となった後に賄賂を受け取った場合には、この罪ではなく通常の収賄の罪が成立することになります。

(4)第三者供賄罪(刑法第197条の2)

 公務員自身ではなく、その他の人が「賄賂」を受け取った場合に成立する罪で、刑法第197条の2に規定されており、5年以下の懲役に処されます。
 例えば、公務員ではなく、公務員の妻や子供に賄賂を与えることで、贈収賄の罪の成立を免れることができるようであれば、贈収賄の罪の規定から逃れることは容易にできてしまうことになります。
 そのような事態を防ぐための規定となります。
 「第三者」は公務員の親族である必要はなく、誰であっても、公務員の意向に沿って賄賂が渡された場合には、第三者供賄罪は成立することになります。あくまでも、公務員について成立する罪ですから、実際に賄賂を受け取った人が、受け取ったものが賄賂だと認識できていなくても、第三者供賄罪は成立することになります。

(5)加重収賄罪(刑法第197条の3第1項、第2項)

 加重収賄罪は、他の収賄の罪を犯したことを前提に、賄賂の対価として不適切な公務が行われた場合に成立する罪で、刑法第197条の3に規定されており、1年以上の懲役に処されます。
 賄賂を受け取っただけでなく、実際に不正な職務を行った場合には、より重い罪を犯したものとして、重い刑罰を科そうとするものです。
先程、受託収賄罪が収賄の罪の基本形態のように考えられそうであるにも関わらず、単純収賄罪として立件される数の方が多いという説明をさせていただきましたが、加重収賄罪については単純収賄罪と同程度に送検されております。
当然ですが、賄賂を受け取ったことを理由に何らかの公務を行った場合にも成立しますし、本来行うべきであった公務を、賄賂を受け取ったことを理由に行わなかった場合にも成立します。

(6)事後収賄罪(刑法第197条の3第3項)

 公務員が公務員を退任した後に、賄賂を受け取った場合に成立する罪で、刑法第197条の3第3項に規定されており、5年以下の懲役に処されます。
もっとも、実際に賄賂が渡されたのが退任後であっても、公務員である間に賄賂を要求していた場合には、通常の収賄罪が成立することになります。一方で、既に公務員の立場を失っている人に賄賂を渡す理由は薄いため、事後収賄罪の成立は珍しいものと考えられます。

(7)あっせん収賄罪(刑法第197条の4)

 公務員が自ら賄賂を受け取るのではなく、賄賂を受け取る公務員を紹介した場合に成立する罪で、刑法第197条の4で規定されており、5年以下の懲役に処されます。
 あっせんするだけではこの罪は成立せず、あっせんすることについての賄賂を受け取っていた場合等にのみ成立する犯罪です。贈賄する側が求める内容の公務を行えないために、当該公務を行える公務員をあっせんし、そのあっせんの対価として賄賂を受け取るようなケースにおいて成立します。
また、あっせんの仕方についても、公務員の立場を利用してあっせんした場合に限られ、親族等の関係性を理由にあっせんした場合には、この罪は成立しないものと解されています。
 したがって、この罪もあまり多く成立するものではないのです。

(8)贈賄罪(刑法第198条)

 これまで説明した犯罪は全て収賄に関する罪でした。逆に贈賄に関する罪は、刑法第198条のみに規定されており、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処されます。
 収賄側にどのような罪が成立する場合であっても、贈賄側に対する罪としては1つしか定められておりませんし、罰金刑が法定されているように、収賄罪と比較するとかなり罰の内容が軽減されています。
 これは、贈収賄の罪が公務の公正性等を確保するために定められている以上、その公正さを直接失わせる公務員側(つまり収賄側)の方が悪質であると考えられているためといえます。

4.よく逮捕・起訴されている行為(具体的態様)

(1)単純収賄罪

 上述したとおり、贈収賄の罪の内、贈賄の罪については1つの罪しか定められておりませんから、贈賄の罪が最も取扱い数が多いものといえます。そして、収賄の罪の中で最も数が多いのが単純収賄の罪です。
 収賄の罪の中で、犯罪の成立に必要な構成要件が最も少ないことから、有罪を最も立証し易いために、数が多くなっているものと考えられます。
 単純収賄の罪に関する最近の裁判例として、東京高判平成27年2月26日(高検速報(平成27年)号91頁)があります。
 この事件は国立大学法人大学院教授が、研究機器等の販売納入業者から金銭的利益の提供を受けていたという事案でした。具体的には自由に使えるクレジットカードの提供を受けていたようです。
このように、過去の裁判例の中には、賄賂の内容として性的な関係等が問題になっておりましたが、近年においては、そのような内容や現金そのものではなく、様々な利益供与の方法が問題となってきているのです。

(2)加重収賄罪

 単純収賄罪と同程度に収賄側の罪として成立する件数が多いのが、加重収賄罪です。受託収賄罪の取扱い数が少ないにも関わらず、加重収賄罪の取扱いが多いのは、加重収賄罪の場合、賄賂の対価としての公務が実際に行われていることが前提となるため、単なる請託のみが問題となる受託収賄罪よりも、証明がし易い点にあるのではないかと考えられます。
 また、実際に請託が行われていた場合に、請託とおりの公務が行われた場合には、加重収賄罪の成立が認められるため、そのような意味でも取扱い数が多いのだと解されます。

公刊されている裁判例等で紹介されている事案の多くは、銀行や被害者宅に侵入した上で財物を強取するために、共犯者間で事前に綿密に計画を立てて犯行に及ぶことが多く認められます。
 一方で、御相談いただく強盗の事案の中には、複数の共犯者らと一緒に綿密に計画立てられたような事案だけではなく、突発的に強盗に及んでしまうケースもみられます。
 例えば、家出中の青年が、お金がなくなってしまったことを契機に、精神的に追い詰められ、所持していたカッターナイフを持って、コンビニの店員を脅して、レジ内の金銭を強取したというような事案についても御相談いただいたことがあります。
 強盗というと、反社会的勢力の組員による犯罪行為を想定しがちですが、上述したように、突発的に強盗行為に及んでしまうこともあり得ます。
 身近な犯罪類型であるというように認識していただければと思います。

5.贈収賄の罪の弁護方針

(1)犯罪事実を認める場合

ア 弁護方針

 贈収賄の罪における特色の一つに、「賄賂」を受け取る側も渡す側も双方が罪を犯しているという点が認められます。1人の被害者に対して複数の加害者が犯罪行為に及ぶような、一般的な共犯事件の場合、共犯者毎に犯罪への関与の度合いは異なるとしても、同じ犯罪結果を目指して行動することになります。
 しかし、贈収賄の罪の場合、収賄側は賄賂を受け取ることが目的で、贈賄側は賄賂を渡すことが目的となりますので、目指す方向性が異なることになります。このような形式の共犯関係を対向犯といいます。
 贈収賄の罪の場合、一方が公務員であることから共犯者間で置かれた立場が違うことがほとんどですし、対向犯の場合、犯罪に至る経緯がそれぞれ全く異なることが多いです。
 ここで問題となるのは、共犯者毎に思惑が大きく異なることが多く、捜査機関の取調べにどのように対応するのかという点も、共犯者間で全く異なることが珍しくないということです。
 もし、証拠関係が十分に揃えられていることなどから、犯罪の成否を争うことが困難であることに加え、情状弁護に徹することによって、執行猶予付きの判決等、比較的軽微な刑罰にとどめることに期待できる場合には、弁護方針として早期に犯罪事実を認めることが合理的なケースも考えられます。
 早期に捜査機関に対して事実を自供し、捜査の進捗を早めることで、刑事手続の早期解決を見込めるかもしれませんし、逮捕・勾留されていた場合には、保釈請求等の方法によって、早期の身柄解放を見込めるかもしれません。
 しかしながら、贈収賄の相手方が事実を否認していた場合、捜査機関としては、いずれの関係者が正しい供述をしているのかについて十分に捜査を尽くす必要があり、積極的に捜査機関による取調べに応じていたにもかかわらず、逮捕・勾留の回避や不起訴等、期待した結果が得られない可能性は十分にあるのです。 
 ですから、事実を認める方向での弁護方針をとる場合であっても、必要以上に悪質な事案だと捜査機関に判断されることがないように、安易に必要以上の内容を供述することがないようにする必要があるのです。

イ 被害者への被害弁償

 贈収賄の罪は、被害者のいない犯罪ということができます。収賄側としても、贈賄側はあくまでも共犯者にすぎず被害者ではありませんから、受け取った金額を返金したとしても、賠償がなされたと評価されることはありませんし、そのことが量刑上大きく考慮されることもありません。示談交渉という手段がとり得ないのです。
 更に、刑法第197条の5が賄賂を没収又は同等の金額を追徴できる旨を定めていますから、有罪判決を宣告された場合には、賄賂に相当する金額が没収又は追徴される可能性があります。
 例えば、最判平成16年11月8日(刑集58巻8号905頁)は、7500万円という高額の追徴を命じた第一審の判決を支持しています。
没収や追徴は収賄によって被告人が得た利益を吐き出させるための制度です。したがって、大きな制裁であることは明らかではあるものの、本来受け取るべきではなかった利益を吐き出すだけであり、減刑を求める弁護活動を行う場合には、贖罪寄付等によって更なる事実上の経済的制裁を受けていることを主張することなどが考えられます。
しかしながら、そのような贖罪寄付によって、追徴額が支払えなくなる事態は避ける必要があります。このような微妙なバランスを考えた上で弁護方針を定める必要があるため、専門的知見のある刑事事件の弁護士によるサポートが極めて重要となるのです。

ウ 再犯防止策

 収賄の罪を犯した側は、職を失うことが通常だと思います。その意味では、同種の犯罪を繰り返すことは事実上不可能です。したがって、収賄の罪との関係において再犯防止策を強調することは、適切な弁護方針とはいえません。
 一方で、これまでの職を失う訳ですから、生活環境を改めて整備する必要が生じます。再犯防止という観点からではなく、もう少し広い観点から更生環境を整備することが求められるのです。
 逆に贈賄側は、自身で事業を営んでいるケースも多く、贈賄の罪を犯したことを理由に、事業の継続が必ず困難となる訳ではないかもしれません。それでも、再発防止環境が調整されていることを裁判所に理解してもらうために、例えば顧問弁護士に委託することによって違法な業務を未然に防ぐなどを検討することは有用でしょう。
 いずれにしても贈収賄の罪は再犯可能性が高い犯罪だとは考えられていません。そうすると、更生環境等の一般情状を理由に大幅な減刑を期待することはできません。
 したがって、どの犯罪についても同様の事がいえるのですが、特に贈収賄の罪との関係では、犯罪事実に関する内容について(犯情について)の弁護活動が極めて重要になるということがいえるでしょう。
 すなわち、罪を認める場合であっても、必要以上に不当な疑いについても認めるべきではありませんし、犯情が悪質ではないことを主張するため、犯罪に至った経緯等について、十分な弁護活動が求められることになります。

(2)犯罪事実を認めない場合

 まずは客観的に賄賂にあたらないという点を主張できないかどうかについて検討する必要があります。既に述べたとおり、社会儀礼の範囲内の利益供与に過ぎないという観点からの主張と、職務との関連性が認められないという観点からの主張が成り立てば、贈収賄の罪の成立を否定するにあたって、非常に強力な理論的な武器となり得ます。
上記観点から犯罪事実を争う場合に加えて、そもそも賄賂とされている利益を供与されていないという主張との関係でも、どのような事実関係が背景として認められるのかという点が極めて重要になります。
 そして、この点も既に述べましたが、贈収賄の罪は対向犯と呼ばれるもので、他の共犯事件と異なり、共犯者同士の立場が大きく異なるという特徴があるため、共犯者間の思惑が同じ方向に向かい難く、共犯者との供述に齟齬が生じやすい犯罪類型といえます。
 したがって、犯罪が成立しないことを裁判官に理解させるにあたっては、共犯者供述が信用できないことを強調する必要性が高いものといえます。共犯者供述の信用性を弾劾するために、共犯者に対して反対尋問を行う事が予想されますが、贈収賄の罪は突発的に行われることはなく、犯罪に至るまでの間に長期間に渡って関係性が構築されていることが多いため、共犯者の供述を弾劾するにあたっては、幅広い事実関係の内、どの部分を核として弾劾するのかについて緻密な戦略が必要となってきます。刑事事件の経験が豊富な弁護士のサポートが極めて重要になると言えるでしょう。
また、賄賂を賄賂として認識できていなければ、贈収賄の罪は成立しません。したがって、贈収賄についての故意がなかったという理由で、無罪を争うことは考えられます。
 基本的には賄賂にあたらないことや、職務に関連しないことに関する主張が主軸となることが多いように思われますが、客観的には賄賂に該当すると判断せざるを得ない場合であっても、その利益の程度が大きくない場合には、故意を否定することによって無罪が言い渡されることも考えられます。
 争点を無駄に増やすべきではありませんが、故意を否定することができないかについても、十分に検討する必要があるでしょう。

6.法定刑一覧(参考条文)

①刑法第197条(単純収賄、受託収賄、事前収賄)
1 公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。この場合において、請託を受けたときは、7年以下の懲役に処する。
2 公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関し、請託を受けて、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、公務員となった場合において、5年以下の懲役に処する。

②刑法第197条の2(第三者供賄)
公務員が、その職務に関し、請託を受けて、第三者に賄賂を供与させ、又はその供与の要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。

③刑法第197条の3(加重収賄、事後収賄)
1 公務員が前二条の罪を犯し、よって不正な行為をし、又は相当の行為をしなかったときは、1年以上の有期懲役に処する。
2 公務員が、その職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、若しくはその要求若しくは約束をし、又は第三者にこれを供与させ、若しくはその供与の要求若しくは約束をしたときも、前項と同様とする。
3 公務員であった者が、その在職中に請託を受けて職務上不正な行為をしたこと又は相当の行為をしなかったことに関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。

④刑法第197条の4(あっせん収賄)
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、又は相当の行為をさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、5年以下の懲役に処する。

⑤刑法第197条の5(没収及び追徴)
犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。その全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴する。

⑥刑法第198(贈賄)
第197条から第197条の4までに規定する賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした者は、3年以下の懲役又は250万円以下の罰金に処する。

<強盗事件に関する法定刑一覧>
犯罪の種類 法定刑

単純収賄罪

5年以下の有期懲役

受託収賄罪

7年以下の有期懲役

事前収賄罪

5年以下の有期懲役

第三者供賄罪

5年以下の有期懲役

加重収賄罪

1年以上の有期懲役

事後収賄罪

5年以下の有期懲役

あっせん収賄罪

5年以下の有期懲役

贈賄罪

3年以下の有期懲役又は250万円以下の罰金

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