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コラム

インターネットの書き込み等によって成立する犯罪

簡単に言うと…
  • インターネット上で誹謗・中傷に関する事件を契機として、侮辱罪の法定刑を引き上げる議論がなされている。
  • 今回の法改正は、名誉毀損・侮辱の罪の成立範囲を拡大するものとはなっていないが、手軽に意見表明をできることから、インターネットを用いた名誉毀損・侮辱に関する事件は今後も増加することが見込まれる。
  • 自分自身が発信した情報に名誉を毀損する内容が含まれていない場合や、インターネット上での調査によって真実だと誤信していた場合であっても、犯罪が成立する可能性はあり、ネットリテラシーを十分に意識した上での書き込み・投稿が望まれる。
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 侮辱罪の法定刑を引き上げる刑法改正案が、現在国会において審議されております。刑法第231条は、侮辱した場合の法定刑として、「拘留又は科料」に処する旨を定めているのですが、拘留とは30日未満の期間、刑事施設に拘置する刑罰で、科料とは1万円未満の金額を支払わせる刑罰です。
 単純にその法定刑を引き上げるだけで十分なのかという点に疑問は残りますが、何らかの対処が必要であることは間違いないと思います。
 とはいえ、侮辱行為に対する刑罰について、どのような条文を定めるのが適切なのかという点は、非常に複雑な問題を孕みますので、別の機会に解説させていただければと思っております。
 今回は、インターネット上の掲示板における書き込みだけでなく、SNSの投稿等も活発に行われており、自身の意見として何かを書き込む場合だけでなく、Twitterにおけるリツイート機能のように、他人の意見を引用・紹介するような書き込み・投稿等も増えてきていることから、どのような場合に、そのような書き込み・投稿に対して刑事罰が科され得るのかについて、解説させていただきます。
 侮辱罪が改正された場合に、どのような内容になるのかについて、まだ確定的な結論は出ておりませんが、現時点で審議されている改正案は、法定刑を引き上げることのみを内容とするもので、侮辱罪の構成要件の変更等は含まれていませんから、仮にその要綱の内容と同じ内容の改正が行われた場合には、今回解説させていただく内容は、改正後の刑法でも妥当するはずです。

1.刑法上の定め

(1)名誉毀損と侮辱の共通点

 まず、名誉毀損の罪と侮辱罪がどのような罪とされているのか、法律の定めを確認してみたいと思います。

刑法

(名誉毀損)
第230条1項
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
(公共の利害に関する場合の特例)
第230条の2
1項 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2項 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
3項 前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
(侮辱)
第231条
 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

 やや表現を異にしますが、いずれの罪も、人の名誉を保護するために定められたものですから、その名誉を侵害するような行為があった場合に刑罰が科されることとなります。
 そして、「名誉」の内容に制限はなく(経済的な信用性に関する問題については、信用毀損の罪が別個に定められていますから、名誉毀損とは別の罪が成立することになります)、人の社会的評価を低下させるような内容であれば、そのような評価を低下させる行為に対して、刑罰を科し得ることになるのです。

(2)名誉毀損と侮辱の相違点

 2つの罪が大きく異なるのは、名誉毀損の罪を成立させるためには、「事実の摘示」が必要であるという点です。
 例えば、とある人物に対して、「あいつはバカだ」との投稿を行った場合、人がバカかどうかは、その人物に対する評価に過ぎず、何らかの事実を摘示した訳ではありませんから、名誉毀損の罪は成立せず、侮辱罪の成否のみが問題となります。
 逆に、「あいつは裏口入学で大学に入学したバカだ」との投稿を行った場合には、正規の試験を受験せずに大学に入学したという事実を摘示しているので、名誉毀損の罪の成立も問題になることになります。
 このように名誉毀損の罪の成立には、事実の摘示が絶対に必要になりますが、その事実が公共の利害に関する真実であったなどの要件を満たす場合には(今回のコラムの主題と離れてしまいますので、細かい要件については省略します。真実であれば罪とならないというように誤解しないようにしてください。)、その結果、名誉が侵害された場合であっても犯罪は成立しない旨が、刑法第230条の2に定められています。
 侮辱罪の場合には事実を摘示さない訳ですから、真実かどうかが問題となる余地はなく、名誉毀損のように犯罪の成立を否定する刑法第230条の2のような条文は設けられていないのです。

2.インターネット上の名誉毀損が何故問題となっているのか

 冒頭でお伝えしたように、昨今ではインターネットによる名誉毀損や侮辱行為が問題となることが多くなっているように思えます。実際に、今回、侮辱罪の法定刑の引き上げが検討されることとなった契機も、木村花さんに対するインターネット上の誹謗・中傷に関する事件だといわれています。
 インターネットにおいては匿名で気軽に自身の考えを表現することができます。誰かに憤りを感じた際に、その人の名誉を侵害するような張り紙を町中に貼り付けようとか、近隣住民のポストに名誉を侵害する内容のビラを投函しようとかいう発想は、あまり抱かれないように思いますが、気軽に書き込み・投稿が可能であることから、軽い気持ちでインターネット上の掲示板に書き込みを行ったり、SNSに投稿をしたりしてしまう方が少なくありません。
 しかし、インターネット上の表現だからといって、行き過ぎた表現が許されるかという訳ではありません。むしろ全世界中から閲覧可能な場所で名誉を侵害することになる訳ですから、その被害の規模は極めて大きいものになります。
 大きな損害が生じる行為であるにもかかわらず、安易に名誉毀損や侮辱行為に及んでしまいやすいといった点が、インターネットによる名誉毀損や侮辱行為を大きな社会問題とする要因になっているのです。

3.インターネットによる名誉毀損の特徴

(1)自身の投稿に名誉を侵害する記載が含まれていなくても成立する

 インターネット上における名誉毀損や侮辱についての特徴として、自身の投稿内容には名誉を毀損する内容が含まれていなかったとしても、他人による名誉毀損や侮辱行為に続けて投稿や書き込みを行うことによって、名誉毀損や侮辱の罪を犯してしまう可能性があることが挙げられます。
 最高裁判所が最近判断を下した事案として、最高裁判所令和3年9月6日決定の事案があります。最高裁は詳細な判断を行っておりませんから、下級審である福岡高等裁判所令和3年5月26日判決(令和3年(う)第7号)を確認してみたいと思います。
 この事案は、あおり運転によって生じた死傷事件に関する書き込みが行われていた掲示板の中で、その事件の被告人の勤務先が話題となり、「これ?違うかな」という文章と共に、ある特定の会社のHPのURLを投稿した行為が問題となった事案でした。
 投稿者が投稿したのは、「これ?違うかな」という文章と会社のURLだけですから、その投稿内容だけからすれば、その会社の名誉を侵害するような内容は含まれていません。
 しかし、この投稿の前に、あおり運転の事件の被告人の勤務先を問題とする書き込み行われていることから、掲示板の書き込みを連続して読めば、URLが投稿された会社に被告人が勤務していたかのように読むことができます。
 この事案において、投稿者自身は、会社の名誉を侵害するような表現は一切用いていなかったものの、名誉毀損行為に及んだとして有罪判決を宣告されることになってしまったのです。

(2)調査義務は軽減されないこと

 上述した事件では、投稿者による書き込みに先行して、あおり運転の事件に関する被告人の勤務先が、会社を守る為に被告人を降格させた等の書き込みが行われていました。名誉が侵害されるような内容は、投稿者による書き込みの前に既に書き込まれていた訳ですが、具体的な会社名等に関する記載はありませんでしたので、投稿者による会社のHPのURLの投稿によって、初めて会社の名誉が毀損されたと評価することができた事案でした。
 では、このような一連の書き込みを見た別の人間が、当該会社のURLと共に、「この会社で被告人が勤務していた」との書き込みを行った場合を考えてみましょう。
 先ほどの判例を前提とすれば、客観的には名誉毀損の罪の成立が認められることになるように思います。そこで、弁護人としては、その投稿の内容が、公共の利害に関する真実であったことなどを理由に、名誉毀損の罪が成立しないことを主張しようと考えることになります。
 また、投稿の内容が真実ではなかった場合であっても、その内容が真実であると誤解したことについて相当な理由があると認められる場合、名誉毀損の罪の成立は否定されますから、実際に相当の調査をした上で投稿を行ったのだということを主張することを考えることになります。
 この点について、投稿者はインターネット上の情報を前提としてインターネット上で書き込み・投稿を行ったに過ぎません。また、インターネット上の情報には、正確ではないものが多く含まれていることは、皆様もお感じになっているように思います。
 インターネット上の情報が、そのように眉唾ものとして扱われるのであれば、インターネット上で情報発信をする際に、既にインターネット上に存在する情報を前提に書き込み・投稿をしたのであれば、十分に調査した上で情報発信をしたものと考えることも可能そうです。つまり、手軽に情報発信ができるというインターネットの特徴を考えれば、その他の場合と比較して、名誉毀損の罪の成立を否定するにあたって、情報発信前に綿密な調査は不要なのではないかと考えられないかということです。
 しかしながら、最高裁判所平成22年3月15日決定(刑集64巻2号1頁)は、「インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって、より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない」と判示しました。
 ですから、手軽に書き込み・投稿ができるとはいえ、実際にその内容については十分な調査をした上で、書き込み・投稿を行う必要があるのです。

4.インターネットの書き込み等に関する弁護活動

 インターネットを用いた犯罪の特徴としては、捜査機関が自力で捜査できる範囲が大きくなく、証拠の根本部分については、SNSを提供している会社等、民間の企業の協力が必要となる点にあります。  
 このことから、被疑者に捜査機関が接触を図るタイミングは、犯罪の成立し得る書き込みを行ってからしばらく経ってからのことが多くなるものといえます。  
 さらに、現実社会よりも匿名性が認められることから、安易な気持ちで激しい内容が投稿されることが多く、捜査機関から接触を受けた時には、その内容や投稿の経緯について十分に記憶していないことも多いのです。  
 一方で、被疑者自身が十分に記憶していないにもかかわらず、捜査機関としては十分に捜査をした上で被疑者への取調べを行っていますし、証拠を保全していることが多いので、通常の事件以上に情報の格差が認められ易い類型ともいえます。  
 刑事事件の弁護士としては、逮捕、勾留を避け、不起訴処分等のできるだけ軽微な処分を勝ち取るために活動するにあたって、事件に関する情報を十分に吟味する必要があるのですが、その情報源が極めて限られてしまうことになる訳です。  
 そのような限られた情報源の中で、捜査機関に対してどのように対応し、どのような主張ができるのかについては、捜査機関との折衝の方法等、弁護活動において様々な工夫が必要となります。

5.まとめ

 侮辱罪の改正案を検討するにあたって、法制審議会においては、法定刑を引き上げることのみが議論され、名誉毀損や侮辱行為として取り締まるべき対象を拡大するような内容は議論されておりませんでした。
 しかしながら、名誉毀損や侮辱の罪の成立範囲の拡大が認められずとも、インターネットの益々の発展によって、安易に他人の名誉を侵害してしまう土壌が作られてしまっており、名誉毀損や侮辱の罪に関する事件の数は増加していくことが想定されます。
 インターネットでの書き込み・投稿は、自身の意見を表明する手軽なツールであり極めて有益なものであることは否定できませんが、軽い気持ちで罪を犯してしまうことがないように、十分に留意していただければと思います。

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