ご家族・ご友人が逮捕・起訴されてしまったら、すぐにお電話ください!

0120-845-018

受付時間:7時~23時(土・日・祝日も受付)

初回電話
相談無料
守秘義務
厳守
東京 埼玉 神奈川 千葉

コラム

事件が終われば返してもらえる?押収品の還付について

簡単に言うと…
  • 押収された証拠物の還付を求めることは可能である。
  • 捜査機関が還付しない場合に、裁判所に対して不服申立を行うことも可能である。
  • 法定されていない部分もあり、弁護士への相談が求められる。
詳しくみる

 刑事事件の弁護士として、刑事事件についての相談を受けた場合、その事件における手続の進捗具合によりますが、初動の段階で相談を受けることができた場合には、まず逮捕・勾留を回避することを考えることになります。
 逮捕・勾留を避けることができれば、捜査に多少の時間がかかる場合であっても、被疑者は通学・通勤などを行うことができ、日常生活を送れるからです。
 しかし、逮捕・勾留を避けることができた場合であっても、生活に支障をきたす場合があります。それは、捜査に必要だという理由で、証拠品となるものを押収されることがあるからです。
 薬物事件において、薬物が押収されてしまうのは当然ですし、そのことによって日常的な不利益が生じることは考えられません。この場合に、違法な薬物を返して欲しいと考える方はいらっしゃらないと思います。
 一方で、携帯電話が押収されてしまう場合はどうでしょうか。スマートフォンの進化に伴い、様々な機能をスマートフォンが有するようになり、日常生活のあらゆる局面において、スマートフォンを利用する機会が増えました。
 スマートフォンを押収されることによって、サービスの利用代金を支払うことができなくなってしまうことはあるでしょうし、人によっては通勤や通学のための定期券を買い直す必要が生じるかもしれません。
 また、電話番号やメールアドレスで連絡をしていた時代とは異なり、現在はSNSを用いて連絡を取り合うことが多く、携帯電話を押収されてしまうと、社内での業務連絡を受け取ることも困難になってしまうかもしれません。
 では、問題となっている事件が終わるまで、押収された物は返されないのでしょうか?
 一方で、事件が終わればどのような物でも必ず返してもらえるものなのでしょうか?
 今回はこれらの点について解説させていただこうと思います。

1.刑事訴訟法の条文

 
 この点について、刑事訴訟法は押収された物品の還付に関する条文を設けておりますので、最初に確認してみましょう。

刑事訴訟法

第123条
1項 押収物で留置の必要がないものは、被告事件の終結を待たないで、決定でこれを還付しなければならない。
2項 押収物は、所有者、所持者、保管者又は差出人の請求により、決定で仮にこれを還付することができる。
3項 押収物が第110条の2の規定により電磁的記録を移転し、又は移転させた上差し押さえた記録媒体で留置の必要がないものである場合において、差押えを受けた者と当該記録媒体の所有者、所持者又は保管者とが異なるときは、被告事件の終結を待たないで、決定で、当該差押えを受けた者に対し、当該記録媒体を交付し、又は当該電磁的記録の複写を許さなければならない。
第124条
1項 押収した贓物で留置の必要がないものは、被害者に還付すべき理由が明らかなときに限り、被告事件の終結を待たないで、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、決定でこれを被害者に還付しなければならない。
2項 前項の規定は、民事訴訟の手続に従い、利害関係人がその権利を主張することを妨げない。
第222条
 …第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が…する押収又は捜索について…これを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。

 このように、刑事訴訟法は、押収した物の留置を続ける必要がなくなった場合には、終結を待つことなく還付しなければならない旨を定めています。
 押収物は、捜査機関によって押収されている場合がほとんどですが、刑事訴訟法第222条が還付しなければならない旨を定めた第123条を準用していますので、捜査機関によって押収された物についても還付を求めることができるのです。
 次に問題となるのは、どのような場合に「留置の必要がない」として還付してもらえるのかという点です。

2.留置の必要

 
 捜査機関や裁判所が押収物を留置するのは、その物が将来的に証拠として用いられる可能性がある場合や、証拠としての価値がなくても没収刑の対象となる可能性があるからです。
 したがって、没収の対象とならず、証拠としての価値もない場合には、「留置の必要がない」と判断されることとなります。
 この点について、事件が起訴されている場合には、事件の争点が明確になっていることが多く、検察官がその物を証拠として請求するかどうかが明らかとなっていることも多いため、「留置の必要」を判断し易い状況にあるものといえます。
 一方で、捜査段階の場合、捜査機関としては、どのような事実をどのような証拠によって立証するのか明らかとなっていないため、「留置の必要」があるとして、還付を否定することが多く見られます。
 特に、弁護人としては、捜査段階においては事件の全容を把握できない場合もありますし、捜査機関の手持ち証拠を確認することもできませんから、「留置の必要」がないことを主張することに苦戦することが多いのです。

3.還付を求める方法

 
 では、弁護人が、捜査機関に対して押収物の還付を求めたにも関わらず、捜査機関から還付を拒絶された場合、取り得る手段はないのでしょうか。
 この点も刑事訴訟法を確認してみましょう。

刑事訴訟法

第430条
1項 検察官又は検察事務官のした…押収若しくは押収物の還付に関する処分に不服がある者は、その検察官又は検察事務官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
2項 司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。

 刑事訴訟法第430条は準抗告について定めた規定です。準抗告というと、同第429条が定めているものが有名かと思います。勾留を決定する裁判や保釈請求を却下する裁判があった場合に、その判断を覆すために準抗告を請求することになります。
 押収物の還付については、還付しなくて構わないという裁判所の裁判が先行している訳ではありませんから、弁護人による還付請求を拒んだ捜査機関の判断に対して不服を申し立てることになるのです。

4.還付が許されない場合

 
 還付について、令和4年7月27日に新しい最高裁判例が生まれました。この事案では、女性の承諾を得ずに撮影されたわいせつ行為が記録されている動画データなどが記録された携帯電話の還付が問題となっていました。
 還付を求めた被告人は、被写体となっている女性を被害者とする事件との関係では起訴されておらず、別の事件で有罪判決を宣告されており、このデータが記録されている携帯電話は、自らの潔白を示すために還付してもらう必要があると主張していました。
 しかし、最高裁は、「これらが流布された場合には…(被写体の)名誉、人格等を著しく害し…(被写体に)多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性がある。」として、「検察官が…データの消去に応ずるのであれば還付する旨申し出たのに対し、申立人は…申立人の犯罪行為がなかったことを立証するために必要であるなどと主張しているが、同各データを含めた本件各不還付物件の還付を受けられないことにより申立人に著しい不利益が生じていることはうかがわれない。」と判示し、「本件各不還付物件の還付を請求することは、権利の濫用として許されない」と結論付けました。
 つまり、起訴されていない以上、「留置の必要」はないことを前提にしつつ、「権利の濫用」であることを理由に、還付を否定したのです。

5.データの削除

 
 最高裁判所が「権利の濫用」を理由に還付を否定したのは初めてのことになります。では、このような局面が問題になることが少なかったかというと、そのようなことはありません。
 所謂盗撮罪の場合、携帯電話の中に盗撮に関するデータが残されていることが多く、捜査を終えた後に携帯電話をそのまま還付してしまうと、被害者の下着等が映った画像や動画のデータを、そのまま撮影者に返してしまうことになります。このような場合、捜査機関は携帯電話を還付するに際して、被疑者の面前でデータを被疑者自身に削除させているのです。
 データの削除を強制するような捜査手段はありませんし、盗撮事案の多くは、前科がなければ、不起訴処分や罰金刑の宣告によって事件が終結していることが多く、刑罰としてデータの削除を強制することもできません。
 そのような動画等のデータが残されたまま携帯電話を還付することは不合理です。ですので、現在この点についても、強制的に削除することができるように法改正の準備が進められています。
 最高裁の事案においても、捜査機関は、問題となっているデータを削除すれば還付する旨を伝えていたようで、削除前の状態での還付を否定した一つの事情となっています。

6.還付と弁護人の活動

 
 以上のとおり、捜査機関が還付を拒むことに正当な理由がある場合があり、そのような事案における最高裁判所の判断についても御紹介させていただきました。このような事案においては、必要な範囲でデータの削除に応じた上で、早急に還付を求めることになるでしょう。
 しかしながら、昨今においては携帯電話に様々な機能が付されており、携帯電話の証拠価値が高くなっていることから、携帯電話の中に犯罪事実に関連する証拠となるデータが含まれていないことが明らかな場合においても、携帯電話が押収され、なかなか還付されないケースも散見されます。
 このような場合には、上述した準抗告等の手続によって、早急に還付を求める必要があります。

7.まとめ

 
 以上のとおり、還付を求めることについても、刑事訴訟法上の定めがありますし、法律が十分に機能していない部分も残されています。
 事件の最終的な処分や逮捕・勾留等の身体拘束と比較すると、その重要性が軽視されがちではありますが、携帯電話が還付されないと、日常生活に大きな不利益が生じることも看過できません。
 経験のある刑事事件の弁護士によるサポートは重要だといえるでしょう。

Tweet

関連する記事