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コラム

心神喪失で無罪になるのはなぜか。責任能力について。

簡単に言うと…
  • 責任能力の判断は個別の事案に応じて行われている。
  • 責任能力が否定された結果として刑罰が科されないこととなった場合、被疑者・被告人を強制的に入院させる制度も設けられている。
  • 責任能力制度については刑罰の目的とも絡めて理解する必要がある。
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 つい先日、離婚調停中の妻を殺害した被告人に対して、心神喪失状態にあったことを理由に無罪判決が言い渡された旨の報道がありました。
 心神喪失等を理由に、無罪判決や軽い刑罰が言い渡された旨の報道がなされると、そのような判断に反感を覚える方のコメントが噴出します。
 確かに、裁判の結果として犯人ではなかったことが明らかとなった場合や、正当防衛等の成立が認められた場合などと比較すると、被告人の責任能力が否定されることによって刑罰が科されなくなったり軽くなったりすることに納得できない方の感情は理解できるところではあります。
 では、何故このような制度があるのでしょうか。
 また、責任能力を欠いていたことを理由に、刑罰を科すことができなかった場合などにおいて、そのような被告人に対しては、何らの処分もなされないのでしょうか。
 今回は、この点について改めて解説させていただこうと思います。

1.刑法の定め


(1)責任能力が否定された場合の効果

 まずは法律を確認してみましょう。

刑法

(心神喪失及び心神耗弱)

第39条
1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。
(法律上の減軽の方法)
第68条
法律上刑を減軽すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
1号 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲 役若しくは禁錮とする。
2号 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、7年以上の有期の懲役又は 禁錮とする。
3号 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の 1を減ずる。
4号 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の2分の1を減ずる。

 このように、刑法は心神喪失者の行為は罰しない旨を定めているため、心神喪失状態にあったことが認められた場合には、刑罰を科すことはできません。
 また、心神喪失に至らない場合であっても、心神耗弱状態にあったことが認められた場合には、刑を減刑するものとされています。減刑の仕方について定めているのが刑法第68条になります。
 実際に、心神耗弱が認められた場合に、どの程度の減刑が具体的に認められるのかについては、事案毎によって異なります。
 例えば、東京高等裁判所令和元年12月5日判決は、被告人が3日間で6名を殺害するなどした強盗殺人等の事件について、完全責任能力があることを前提に死刑を宣告した第一審判決を破棄し、心神耗弱状態にあったことを認め、被告人に無期懲役刑を宣告しました。
 一方で、大阪高等裁判所令和元年7月16日判決は、11歳の被害者を刃物で突き刺すなどして殺害したという事件について、心神耗弱状態にあったことを前提に懲役16年を言い渡した第一審判決を破棄した上で、被告人には完全責任能力があることを認めましたが、刑罰の内容については懲役16年を維持しました。
 ですから、「減刑」といっても、心神耗弱状態にあることが、具体的に宣告される刑にどれほど影響するのかについては、ケースバイケースといえるのです。

(2)心神喪失・心神耗弱とは何か

 先ほど、刑法の条文を確認しましたが、刑法は、どのような場合に「心神喪失」と認められ、どのような場合に「心神耗弱」と認められるのかについて詳細を定めている訳ではありません。
 ちなみに、「心神喪失」でも「心神耗弱」でもない場合のことを、完全責任能力があると表現します。
 実際に、裁判の中でも「心神喪失」や「心神耗弱」に該当するかどうかが激しく争われることとなるのは、何らかの事情さえ認められれば一律に「心神喪失」や「心神耗弱」に該当するかどうかが判別できる訳ではなく、被告人が置かれている状況や精神疾患の内容に加えて、被告人がしてしまった行為等も総合的に考慮した上で、ケースごとに判断されることになるからです。
 抽象的な表現になってしまいますが、「心神喪失」とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力がないか、この能力にしたがって行動する能力がない場合を意味し、「心神耗弱」とはそれらの能力が全くないわけではないものの、その能力が著しく欠けている場合を意味するものと理解されています。
 今回は、責任能力という制度自体について解説させていただきたいので、どのような場合に「心神喪失」や「心神耗弱」が認められるのかについて、詳細な説明は省略させていただきます。
 ただし、「心神喪失」が認められるケースでは、統合失調症が問題となるケースが多いです。しかしながら、統合失調症への罹患が認められれば、少なくとも「心神耗弱」が認められる訳ではありませんし、統合失調症以外の精神疾患によって責任能力が否定されることがないわけでもありません。

2.責任能力が求められる理由


 このような責任能力の規定は、何故定められているのでしょうか。
 この点が理解し難いために、責任能力を理由に刑罰を科すことができないと裁判所が判断した際に、裁判所の判断や責任能力がないことを争う弁護人の弁護方針に一般の方からの非難が集中してしまうのではないかと思います。
 責任能力は、刑罰を科すための要件として求められるものですから、刑罰を科すことの意味から遡って考える必要がありますが、刑罰を科すことの意味については、様々な考え方が存在します。そこで、私自身の1つの考え方について説明をさせていただきます。
 過去のコラム で、刑罰の性質は応報であるという旨を解説させていただきました。刑罰を科しても被害者の方の損害が回復する訳ではありませんから、被害者の方を保護するという観点ではなく、社会を維持するために必要な制裁を加えるという目的になります。
 制裁を科されるのは、被告人に自由な意思があり、その意思に従って犯罪行為に及ぶことを回避できたにもかかわらず、犯罪行為に及んだことを非難することができるからです。
 責任能力を欠いている場合には、自由な意思に従って犯罪行為に及ぶことを回避できない(又は回避することが困難だ)からこそ、その被告人を非難することができないこととなり、刑罰を科すことができないという結論になるのです。

3.責任能力が否定された場合の扱い


 先程、被害者の方を保護するという観点で刑罰が科される訳ではないと説明させていただきました。本来的にはお金の問題ではないものの、事後的に加害者から被害者の方に罪を償う方法としては、賠償金をお支払いすることが中心となってしまうと思いますが、今回の解説では民事的な側面については説明を省略させていただきます。
 では、刑事的な側面との関係において、責任能力が否定された被告人に対する扱いはどのようになるのでしょうか。
 この点については、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(以下、「医療観察法」といいます。)に定めがありますので、その内容を確認してみましょう。

医療観察法

(定義)

第2条2項
この法律において「対象者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
1号 公訴を提起しない処分において、対象行為を行ったこと及び刑法第 39条第1項に規定する者(以下「心神喪失者」という。)又は同条第2項に規定する者(以下「心神耗弱者」という。)であることが認められた者
2号 対象行為について、刑法第39条第1項の規定により無罪の確定裁判を受けた者又は同条第2項の規定により刑を減軽する旨の確定裁判…を受けた者
(検察官による申立て)
第33条1項
 検察官は、被疑者が対象行為を行ったこと及び心神喪失者若しくは心神耗弱者であることを認めて公訴を提起しない処分をしたとき、又は第2条第2項第2号に規定する確定裁判があったときは、当該処分をされ、又は当該確定裁判を受けた対象者について…、地方裁判所に対し、第42条第1項の決定をすることを申し立てなければならない…。
(入院等の決定)
第42条1項
 裁判所は、第33条第1項の申立てがあった場合は…次の各号に掲げる区分に従い、当該各号に定める決定をしなければならない。
1号 対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為 を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、入院をさせてこの法律による医療を受けさせる必要があると認める場合:医療を受けさせるために入院をさせる旨の決定
2号 前号の場合を除き、対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合:入院によらない医療を受けさせる旨の決定
3号 前二号の場合に当たらないとき:この法律による医療を行わない旨の決定

 原則的な扱いについて定めた部分のみを残して、他の部分については省略させていただいておりますので、気になる方は法律の原文を御確認いただければと思いますが、検察官は責任能力が否定されたことによって刑罰を科すことができなかった(又は刑が減刑された)被告人に関しては、裁判所に対して当該被告人を入院させる旨の決定等を求める必要があります。
 そして、裁判所は、社会復帰にあたって、同様の行為を行うことがなくなるように、入院治療を受けさせる必要があると判断した場合には、被告人を入院させる必要があります。
 法第42条1項2号は、入院以外による治療(通院による治療)が必要だと判断した場合についても定めていますが、実際に、治療が必要だと判断される場合には、そのほとんどに対して入院決定がなされています。
 では、入院する旨が決定された場合に、どの程度の期間、入院が継続されるのかというと、重度精神疾患標準的治療法確立事業運営委員会が公表している医療観察法統計資料2020年版によると、10年以上前は、3年以上の入院期間が認められたのは全体の約3割程度であったのに対して、2017年度には約4割が3-5年の間、入院していることが認められ、その期間は長期化の傾向があるように感じられます。

4.責任能力が問題となる場合の弁護活動

 
 責任能力が問題となるケースには様々なものがあります。
 例えば、クレプトマニア(病的窃盗癖)に罹患している方による万引きの事案との関係では、クレプトマニアだけでは責任能力に影響を及ぼさないと判断する裁判例が多く散見されるのですが、摂食障害等の精神疾患を併発している場合には、責任能力が否定されることもありますし、責任能力にどれだけ影響を及ぼすのかが、最終的に執行猶予が付されるかどうかの判断を左右するケースが多いように感じています。
 一方で、責任能力という制度自体が大きく非難される契機となる報道については、被害者が複数名いる殺人罪等の事案に関するものが多いように感じています。
 そのような事案の場合、通常な精神状態であれば、そのような犯行に及ぶはずがないという価値判断も先行しますし、被疑者・被告人が「特に精神的には問題なかった」と供述していたとしても、責任能力を欠いているかもしれない方の供述を信用する訳にはいきません。
 弁護人は、基本的には被疑者・被告人の供述を前提に弁護方針を定めることになるのですが、責任能力については、弁護人自身の判断がより一層重要になってくるのです。
 特に、重大事案との関係では、簡単に裁判を終わらせるべきでもありませんから、結果的に弁護人として責任能力を争うという方針をとることが多くなるのだと思います。決して、深く考えることなく、安易に責任能力を問題視しているのではないように思います。

5.まとめ

 
 今回は、責任能力について解説させていただきました。
 その中でも、どのような場合に責任能力が否定されるのかといった内容や、弁護人が責任能力を争うにあたって、どのような主張をするのかといった内容ではなく、制度自体を中心に説明をさせていただきました。
 非常に簡単な内容にさせていただいておりますので、責任能力という深いテーマを網羅的に解説させていただいたものとはなっていないと思いますが、少しでも皆様の御理解を深める役に立てればと思います。

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