1.逮捕の要件
少年事件においても、成年事件と同様に、被疑者が逮捕されることはあります。少年事件における逮捕については、次のように定められています。
犯罪捜査規範 第208条
少年の被疑者については、なるべく身柄の拘束を避け、やむを得ず、逮捕、連行又は護送する場合には、その時期及び方法について特に慎重な注意をしなければならない。
したがって、この定めのとおりだとすれば、少年事件においては、「やむを得ない」場合でなければ、被疑者を逮捕できないものといえます。
なお、少年事件においても、被疑者を逮捕する場合の手続については、成年事件と同様に刑事訴訟法が適用されることになりますので、刑事訴訟法も確認する必要があります。
刑事訴訟法
第199条1項検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる…。
刑事訴訟規則
第143条の3逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
以上の条文を確認すると、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が認められ、「被疑者が逃亡する虞」及び「罪証を隠滅する虞」が存在し、逮捕しなければその可能性を否定できないような場合で、更に「やむを得ない」と認められる場合にのみ逮捕することが可能となります。
2.少年事件における逮捕の実情
しかしながら、少年事件において被疑者が逮捕されるケースが少ないかというとそうではありません。むしろ、逮捕されるケースが多いと言っても過言ではありません。
それは、少年事件の場合、単独で犯罪行為に及ぶのではなく、友人らと一緒に犯罪行為に及ぶことが多く、共犯者が存在する事件が多いがため、共犯者らと口裏合わせを行う可能性、つまり、共犯者と接触する方法によって「罪証を隠滅する虞」があるとして、逮捕されてしまうケースが非常に多いのです。
逆に、「逃亡する虞」については否定されるケースが多いものと言えます。それは、少年の場合、経済的に自立しておらず、同居の親族の監督を無視して自立した逃亡生活を行うほどの力がないと考えられるからです。
保護者に少年を監督する能力や意思がないと判断されてしまうと、この「逃亡の虞」についても否定できないことになってしまいますから、弁護人としては、保護者に十分な監督能力及び監督の意思があることを、捜査機関に対して主張する必要があるのです。自分達の子供が被疑者として取り扱われていることに憤りを感じ、警察官に攻撃的な姿勢を示してしまうようなケースや、必要以上に少年との関係性が悪いことを伝えてしまったケースなどにおいては、逮捕される可能性が高まってしまうといえるでしょう。
もっとも、共犯者が存在するとしても、共犯者に接触する虞が否定されれば、逮捕の要件を欠くことになる訳ですから、この点についても対応する必要があります。しかしながら、罪証隠滅の虞がないことを主張するための弁護活動は、事件毎によってケースバイケースです。
弁護人がこれまでの経験から工夫を凝らして活動する必要があるものと言えます。