1.職場への連絡との違い
少年事件において、少年が犯罪行為に及んだことを学校に連絡されてしまうと、退学処分等が下される可能性が高まってしまいます。特に、卒業間近な場合等においては、退学処分等が下されることによって、家庭裁判所から厳格な処分を下されなかった場合であっても、少年の将来設計が大きく狂ってしまいます。
そこで、学校への連絡を回避することが極めて重要になります。
成年事件の場合における職場への連絡の回避と問題は似ていますが、弁護士が行うべき活動は大きく異なってきます。それは、成年事件の場合、被疑者の勤務先に警察官が何の理由もなく、事件の内容を通知することはありません。警察官が被疑者に連絡するのは、職場に事件の証拠が残されている可能性がある場合等、捜査に必要な場合に基本的には限られます。そこで、証拠を任意に提出すること等によって、職場への連絡を回避することは可能なのです。
しかし、少年事件の場合、捜査に特別な必要性がない場合であっても、学校への連絡がなされる場合があります。その一つの理由が犯罪捜査規範の次の定めです。
犯罪捜査規範
第205条少年事件の捜査を行うに当たっては、犯罪の原因及び動機並びに当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の状況、交友関係等を詳細に調査しておかなければならない。
第206条少年事件の捜査を行うに当たって必要があるときは、家庭裁判所、児童相談所、学校その他の関係機関との連絡を密にしなければならない。
このように少年事件においては、少年の更生にあたって、教育程度やその環境等についての捜査も不可欠であり、その事実関係を確認するために、学校等との連絡を密にするように定められているのです。
2.警察・学校相互連絡制度の存在
上述した犯罪捜査規範の定めに加えて、警察官が学校に事件の存在を通知するもう一つの理由として、警察・学校相互連絡制度の存在があります。
この制度は、各地方自治体によって、その内容が微妙に異なりますが、基本的な内容は共通しています。例えば、千葉県においては、次のような内容が定められています。
児童生徒の健全育成に関する学校と警察との相互連絡制度の協定書(千葉県)
千葉県教育委員会(以下「甲」という。)及び千葉県警察本部(以下「乙」という。)は…相互の連携に関し、次のとおり協定する。
第1条この協定書は、児童生徒の健全育成のために、学校と警察署が、児童生徒の問題行動等に関し、それぞれが自らの役割を果たしつつ、その役割を相互に理解し、密接な連携の下で効果的な対応を図ることを目的とする。
第4条連携を行う関係機関の役割は、次の各号に掲げるものとする。
第5条
1号 学校と警察署は、個々の問題行動等に関し、必要な情報の連絡を行うものとする。
2号 学校と警察署は、個々の問題行動等に関し、必要に応じて協議を行い、協力して当該事案に係る具体的な対策を講ずるものとする。相互連絡の対象は、次の事案とする。
1号 警察署から学校への連絡対象事案
ア 逮捕事案
イ 逮捕事案以外の事案において、次の事由により、関係機関が連携し、継続的に対応することが必要と認められる事案
(ア)触法事案
(イ)ぐ犯事案
(ウ)児童生徒の犯罪被害に係る事案
(エ)その他、児童生徒の問題行動等に関する事案
このように、警察署と都道府県の教育委員会との間で締結された協定に基づき、警察から学校への連絡がなされてしまうことになります。
上記協定の内容によると、逮捕事案に関しては、警察官が学校にその内容を通知することとされていますが、過去に学校への連絡がなされなかった事案も多数存在します。上記協定は、法律とは異なりますので、警察署の運用によって幅があることが認められます。
また、逮捕事案以外の事案が連絡対象となるかどうかについては、極めて抽象的な定めしか置かれておりません。したがって、学校に通知するかどうかについて、担当の警察官の裁量が広く認められているのです。
そこで、弁護人としては、問題となっている事件が連絡対象として定められているかどうかにかかわらず、警察官に対して学校への通知が、少年の更生を阻害する可能性があることや、犯罪行為自体の悪質性の低さ等を強調して、学校への連絡を行わないように折衝することとなるのです。
3.少年事件の経験
このような制度を認識しているかどうかによって、初動の弁護活動の内容は大きく変わります。また、学校に連絡がされているかどうかによって、今後の少年の生活環境も大きく変わることとなります。
さらに、学校への通知を行う可能性があるのは、警察署だけではありません。家庭裁判所も、少年の教育環境等を精査するために、学校に対して通知を行う可能性があります。
弁護人(この段階では付添人)は、警察官による連絡を回避できたことに安心することなく、家庭裁判所に対しても学校への連絡を控えるように働きかける必要性があります。
こういった弁護活動は、成年事件においては必要とならないものです、少年事件についての経験がなければ、適切な弁護活動は行えません。
弊所には、数多くの少年事件を取り扱ってきた弁護士が在籍しておりますので、早い段階で御相談いただければと思います。