1.保釈の効力
第一審の判決に不服がある場合、第一審の判決を破棄させることを目的に弁護人として活動することとなります。しかしながら、捜査段階や第一審の公判段階でも問題となったように、まずは被告人の身体拘束の問題を解決する必要があります。
もし、被告人が起訴される前の段階で釈放されていた場合、実刑判決を宣告されたことによって、直ちに被告人の身体が拘束され刑務所に連行される訳ではありません。
また、改めて勾留の手続をとられることもありませんので、身体拘束をされる懸念は不要です。控訴申立及び控訴趣意書についての御解説を御確認ください。
一方で、第一審の際に、起訴後に保釈を請求し、保釈の許可を得ていた被告人との関係では、実刑判決を宣告されてしまうと、その時点で保釈の効力が消えてしまいます。
刑事訴訟法
343条
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第98条の規定を準用する。
第98条1項
保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定があつたとき、又は勾留の執行停止の期間が満了したときは、検察事務官、司法警察職員又は刑事施設職員は、検察官の指揮により、勾留状の謄本及び保釈若しくは勾留の執行停止を取り消す決定の謄本又は期間を指定した勾留の執行停止の決定の謄本を被告人に示してこれを刑事施設に収容しなければならない。
そして、上述した条文に定められているように、直ちに身体を拘束されてしまいます。ですから、第一審において保釈の許可を受けていた被告人が実刑判決を宣告されてしまった場合、法廷の外に出ることすら許されず、そのまま身体を拘束されてしまうことになるのです。
2.再保釈の請求のタイミング
しかしながら、判決宣告直後に保釈の請求をすれば、その日の内に保釈請求の判断がなされ、保釈の請求が認められれば、直ちに釈放してもらうことができます。判決を宣告された法廷の場において、検察官や書記官等に対して、直ちに再保釈の請求をする予定があることを伝えておけば、検察官は、再度保釈が許可された場合に、直ちに被告人を釈放することができるように、拘置所等に被告人を護送させることなく、裁判所の近くにある検察庁の建物等において、被告人を待機させておいてくれます。
ですから、実刑判決を宣告される可能性がある場合には、再保釈の請求の準備をした上で、判決日を迎える必要があります。
保釈金の積み増しも必要ですし、既に納付している保釈金を流用する場合には、保釈金を納付している者の承諾書が必要となります。また、身柄引受書についても改めて作成する必要がありますから、判決が宣告された後に、あわてて準備をしても遅いのです。
特に、実刑判決を宣告された直後に保釈の請求を行う場合、その保釈請求の判断を行うのは、実刑判決を宣告した裁判所が行うことになります。その裁判官が、保釈の請求を許可した裁判官である場合には、同様に保釈を許可する判断をしてもらえる可能性が高いものといえます。また、過去に保釈を許可した裁判官とは異なる場合であっても、裁判を担当した裁判官からすれば、被告人が実際に逃亡を図ることなく裁判に出廷していることを目の当たりにしていることから、逃亡や罪証隠滅のおそれがない旨の判断をしてくれることに期待することもできます。
そこで、保釈請求について否定的な考えを抱いていることが明らかな場合等、例外的な場合を除いて、再保釈請求については、判決直後に行う必要があります。
では、第一審を担当していた裁判官が、保釈について否定的な考えを持っている場合等において、異なる裁判官に保釈請求を判断してもらうことは可能なのでしょうか。
刑事訴訟法
第97条
1項 上訴の提起期間内の事件でまだ上訴の提起がないものについて、勾留の期間を更新し、勾留を取り消し、又は保釈若しくは勾留の執行停止をし、若しくはこれを取り消すべき場合には、原裁判所が、その決定をしなければならない。
2項 上訴中の事件で訴訟記録が上訴裁判所に到達していないものについて前項の決定をすべき裁判所は、裁判所の規則の定めるところによる。
刑事訴訟規則
第92条
1項 上訴の提起期間内の事件でまだ上訴の提起がないものについて勾留の期間を 更新すべき場合には、原裁判所が、その決定をしなければならない。
2項 上訴中の事件で訴訟記録が上訴裁判所に到達していないものについて、勾留の期間を 更新し、勾留を取り消し、又は保釈若しくは勾留の執行停止をし、若しくはこれを取り消すべき場合にも、前項と同様である。
上述のとおり、原裁判所が保釈についての判断を行うのは、訴訟記録が高等裁判所に到達するまでの間ということになります。ですから、訴訟記録が高等裁判所等の控訴審の係属する裁判所に到達した後は、異なる裁判官によって保釈が判断されることになるのです。
3.再保釈請求の内容
再保釈請求を行う際の注意点として、権利保釈の条文が適用されないことと、これまで裁判所に預託していた保釈保証金を流用するための書面も必要になることが挙げられます。
まずは、保釈請求の根拠条文についてです。
刑事訴訟法
第89条
保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
1号 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
2号 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
3号 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
4号 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
5号 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
6号 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
第90条
裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
第344条
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第60条第2項但書及び第89条の規定は、これを適用しない。
上述のとおり、保釈を請求する際には、刑事訴訟法第89条と90条を根拠に行う事になるのですが、刑事訴訟法第344条は、判決宣告後は同法第89条を適用しない旨を定めています。ですから、罪証隠滅を疑う相当な理由がないことをのみを主張したのでは不十分であり、同法第90条に列挙されている内容についても、十分に強調した内容で保釈請求書を作成する必要があります。
他のページで御説明させていただきますとおり、控訴審の手続は書面手続が中心となっていますが、控訴趣意書の作成期間や、控訴趣意書を裁判所が確認するための期間等を併せて考えると、短くても約4か月の期間が必要となります。
もし、再保釈が認められない場合には、そのような長期間、身体を拘束されてしまうことになりますから、再保釈を認めさせる弁護活動は不可欠なものといえるのです。