求刑ってどんな意味があるの?
- 検察官の求刑は単なる検察官の意見に過ぎず、法的に裁判所の判断を拘束しない。
- 検察官は公益の代表者として意見を述べており、不当に重い刑罰を裁判所に求めることは許されない。
- 検察官の求刑を超える判決を宣告するには、具体的な理由が必要。結果的に、検察官の求刑には、裁判所が宣告する判決の上限を制限する効果がある。
弁護士岡本 裕明
刑事裁判を傍聴されたことがある皆様は、訴訟当事者の意見も聞いたことがあるのではないかと思います。
例えば、検察官が「相当法条を適用の上、被告人を拘禁刑5年の刑に処するのを相当と思料します。」というような意見の後、弁護人から「被告人には執行猶予付きの刑が相当である。」というような意見が述べられたりします。
このような意見は、被告人に対してどのような刑罰が相当なのかに関する当事者の考えでしかありません。そして、被告人に対する量刑は、裁判官が法定刑の範囲内で自由に決めることになります。
他方で、被告人の刑罰については、検察官の求刑の8割程度と表現されたり、求刑の2割引きが判決であると表現されたりしています。
実際に、私達が依頼者の方々と契約を締結させていただく際に、執行猶予を付することが難しい事件等では、検察官の求刑を基準として、判決で宣告された刑罰が何割になったかで成功報酬を定めることもあります。そして、求刑の8割の刑罰が宣告された場合、弁護人の意見が採用されたとはいえず、弁護活動が成功したとは考えられないことから、成功報酬をいただくことはありません。
ですから、私達弁護士も、一定程度、検察官の求刑には理由があることを前提に活動している側面もあります。
さて。結局、求刑とはどのような意味がある手続なのでしょうか。改めて解説したいと思います。
目次
1.法律の根拠と性質
弁護士岡本 裕明
まずは、求刑という意見の陳述について、法律はどのように定めているのか確認してみましょう。
刑事訴訟法
第293条
1項 証拠調が終った後、検察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない。
2項 被告人及び弁護人は、意見を陳述することができる。
このように、被告人や弁護人は意見をしてもしなくてもいいような規定になっていますが、検察官は必ず意見をしなくてはいけないかのような規定となっています。刑事裁判においては、罪となるべき事実や、被告人の刑事責任を基礎づける事実等、検察官が責任をもって証明しなくてはいけません。そのような証明活動の結果として、どのような事実が認められることになるのか、最終的に説明する責任が検察官には認められているものといえるでしょう。
もっとも、ここでいうところの説明責任は、いわゆる「論告」といわれるもので、「求刑」自体ではありません。ですから、「求刑」自体を定める法律的な根拠は存在しないのです。
この点について、最高裁判所昭和31年12月21日決定は、「検察官が求刑することは、違法でなく、裁判官は、公判審理において、事実及び法律の適用についてのみならず具体的刑罰の種類及び分量についても当事者双方の忌憚なき意見を聞き、その良心に従い独立して公平に職権を行うもので、当事者一方のみの意見に拘束されるものでない」と改めて判示しています。
当たり前ですが、検察官が「求刑」を行うこと自体が、裁判官に不当な偏見を与えて違法になる訳ではないのです。
2.検察官の求刑の効果について
弁護士岡本 裕明
上述した最高裁決定が指摘しているとおり、検察官の「求刑」は単なる意見にすぎません。しかし、本当に検察官の裁量で自由に「求刑」を述べることができるとした場合、冒頭で述べたような求刑の8掛けが判決であると評されるような関係性は成り立たないはずです。
判決と「求刑」との間には何らの関係もないのでしょうか。
この点について、大阪地方裁判所平成24年7月30日判決は、「被告人や関係者等を直接取り調べた上で本件行為に見合った適切な刑罰を刑事事件のプロの目から検討し、同種事案との公平、均衡などといった視点も経た上でなされる検察官の科刑意見については相応の重みがあり、裁判所がそれを超える量刑をするに当たっては慎重な態度が望まれるというべきである。」と判示した上で、「上記の評議の結果を踏まえると、本件においては検察官の科刑意見は軽きに失すると判断することもやむを得ず、被告人に対しては殺人罪の有期懲役刑の上限で処すべきであるとの判断に至った」として、懲役16年の求刑に対して懲役20年の判決を宣告しています。
また、大阪地方裁判所平成24年3月21日判決は、「検察官の求刑は…本件幼児虐待の悪質性と…被告人両名の態度の問題性を十分に評価したものとは考えられず…本件のような行為責任が重大と考えられる児童虐待事犯に対しては、今まで以上に厳しい罰を科することがそうした法改正や社会情勢に適合すると考えられることから、被告人両名に対しては、傷害致死罪に定められた法定刑の上限に近い主文の刑が相当であるとの結論に至った。」と判示して、懲役10年の求刑に対して、懲役15年の判決が宣告されました。
これらの裁判例は裁判員裁判によるもので、国民の視点や健全な社会常識を量刑に反映させることが求められた事案です。
そして、このように検察官の求刑を超えた判決を宣告することについては、大阪高等裁判所平成25年4月11日判決が「検察官の求刑を大きく上回っているなどの事情があるからといって、これが破棄しなければならないほどに重すぎて不当であるとはいえない。」と判示しており、検察官の求刑を超えているだけでは、量刑が不当に重いと判断される訳ではないとされているのです。
3.求刑が判決に与える影響
弁護士岡本 裕明
ここまでで確認したように、検察官の求刑を超えた刑罰を被告人に科しても、それだけで量刑が不当であるとはいえないことがわかりました。したがって、検察官の求刑は量刑の上限を意味する訳ではありません。
では、検察官の求刑は裁判所の量刑に何の影響も与えないのでしょうか。
実は、上述した平成25年の大阪高裁の判決は最高裁で破棄されています。最高裁判所平成26年7月24日判決は、「指摘された社会情勢等の事情を本件の量刑に強く反映させ、これまでの量刑の傾向から踏み出し、公益の代表者である検察官の懲役10年という求刑を大幅に超える懲役15年という量刑をすることについて、具体的、説得的な根拠が示されているとはいい難い。」と判示して、被告人に懲役10年の判決を宣告しました。
この判例は、裁判員による意見を反映させるにしても、これまでの量刑傾向を踏まえた上で量刑を決めなければ、公平性を欠く刑の量定になってしまうことを示したものと理解されていますが、その中で検察官の求刑が、公益の代表者の意見であるものと示しており、その求刑を大幅に超える判決を宣告する場合には、具体的・積極的な根拠が必要であるとも示しているのです。
そうだとすると、検察官の求刑を超えた判決を宣告できないわけではないものの、検察官の求刑を超えた判決を宣告するためには、相応の根拠が求められることになるといえるでしょう。
4.検察官の求刑と弁護活動
弁護士岡本 裕明
ここまで検察官の求刑と裁判官の判決の関係について解説してきました。では、被告人や弁護人は検察官の求刑とどのように向き合えばいいのでしょうか。
上述したとおり、検察官の求刑は、証拠調が終った後に論告と共に行われることになります。そして、求刑は義務ではないものの、論告自体は、「意見を陳述しなければならない。」と定められており、検察官の義務とされています。
一方で、「被告人及び弁護人は、意見を陳述することができる。」として意見を述べることは義務的とはされていません。とはいえ、弁護人としても、それまでの証拠調べの結果として、どのような被告人の刑事責任が導かれるのかについて、最終的な意見を述べなければ、弁護活動の趣旨が裁判所に伝わり切らない可能性があります。少なくとも、現代の刑事裁判において、弁護人が「意見は特にありません。」として弁論の機会を放棄することは許されないものといえるでしょう。
弁護人の弁論の機会は、検察官の求刑の直後となります。したがって、検察官の意見に対して、具体的に反論することが可能なのです。検察官が、被告人の刑事責任を重くする事情として説明した内容について、具体的・説得的に反論することが求められることになるでしょう。
また、これまでみてきたとおり、検察官の求刑が一定程度、裁判所の判決に影響を及ぼすことを鑑みると、求刑を超える判決を宣告された場合の控訴審においては、検察官の求刑を超える刑罰を宣告できるほどの事情が存在しないことを主張していくことになるでしょう。
特に、もともと検察官の求刑を超える判決は稀でしたが、上述した最高裁判所の判決以降、その数は極めて少なくなっています。
控訴審においては、第一審の判決の誤りを指摘することが第一義的には求められますが、その際に検察官の求刑を参照することも有用となるでしょう。
5 まとめ
弁護士岡本 裕明
以上のとおり、検察官の求刑というのは、検察官の意見にすぎず、裁判所を法的に拘束するものではありません。しかし、検察官は公益の代表者として、被告人の刑事責任を明らかにし、その責任に相応な刑罰を裁判所に求めなければなりません。ですから、軽すぎる刑罰を求めてもいけませんし、重すぎる刑罰を求めることも許されないものといえます。
そして、裁判は当事者主義という原則に基づき、検察官や弁護人が主体となって訴訟活動を行い、裁判所はその結果に基づいて判決を下すことになります。
少し話は変わりますが、被告人がどのような罪を犯した点について裁判を求めるのかについては、検察官が自身の判断で決めることとなります。そして検察官が窃盗罪で起訴しているにもかかわらず、裁判所が強盗罪の判決を宣告することは許されません。
量刑との関係で、求刑超えの判決は違法ではないものの、検察官が10年の懲役刑や拘禁刑が相当であることを裁判所の理解させるために立証活動を行っているにもかかわらず、そのような立証活動の中から、15年の刑事責任が相当であるとする事情を見出すのは、一般的には相当困難なのではないかと思います。
結論として、検察官の求刑は法的に判決で宣告できる刑罰の上限を定めたものではないものの、実質的には判決で宣告できる刑罰の上限を制限しているものと理解できるでしょう。









