ディープフェイクポルノに関する犯罪行為について
- 「ディープフェイクポルノ」の生成自体を処罰する法律はない。
- 場合によって、児童ポルノ処罰法や名誉毀損罪が成立する。
- 新しい問題であり犯罪の成否等の判断が困難なことが多い。
弁護士岡本 裕明
最近、生成AIの進化には目を見張るものがあります。指一本で美しいイラストが描けたり、自然な文章が生成できたりと便利な反面、その技術が悪用されるケースも後を絶ちません。その最たる例が「ディープフェイクポルノ」です。
被害者が実際には関与していないにもかかわらず、あたかも性的な行為を行っているかのように見せかける画像や映像のことを、「ディープフェイクポルノ」といいます。
このような画像については、AIが進化する前からも、「アイドルコラージュ」として、社会的に問題視されてきました。「アイドルコラージュ」とは、著名なアイドルの顔写真をヌード写真等の顔部分に上手く貼り付けることで、著名なアイドルが裸になっているかのような画像等を作成する行為を指します。
「アイドルコラージュ」の問題は、20年以上前から社会的に問題となっていましたが、改めて同様の問題が生じているのは、生成によって、誰でも簡単にそのような画像・動画が作成できてしまうようになったからです。
実際に、著名なアイドルのような方だけでなく、「ディープフェイクポルノ」の被害者となる一般の方も増えてきています。
では、このような「ディープフェイクポルノ」について、どのように刑罰が科されることになるのでしょうか。確認してみましょう。
目次
1.児童ポルノについて
弁護士岡本 裕明
性的な画像や動画を作成するなどすることで成立する犯罪として、まず最初に思い浮かぶのは、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反(以下、「児童ポルノ処罰法違反」といいます)ではないでしょうか。
まずは、児童ポルノ処罰法の規定を確認してみましょう。
児童ポルノ規制法
第2条1項
この法律において「児童」とは、十八歳に満たない者をいう。
第2条3項
この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録…に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
第2条3項各号において、どのような写真等が児童ポルノに該当するのかが定められている訳ですから、本来はその点が大切なのでしょうが、今回の解説では省略しますので、気になる方は法律の原文を御確認ください。
「ディープフェイクポルノ」との関係で問題となるのは、実際の「児童」の姿態を撮影した訳ではなく、生成AIによって生成された画像等も、「児童ポルノ」に該当するかどうかという点です。
この点について、最高裁判所令和2年1月27日決定は、「『児童ポルノ』とは…実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである。」と判示しています。
ですから、生成AIによって架空の児童の性的な画像・映像が作成されたとしても、基本的には児童ポルノ処罰法違反は成立しません。
しかしながら、実在の児童の画像等が用いられているものについては、その児童が誰なのか特定できていない場合であっても、児童ポルノ処罰法違反は成立することになりますから、AIが生成の際に実在の児童の画像を利用してしまった場合には、犯罪が成立することになるのです。
2.刑法の適用
弁護士岡本 裕明
以上のとおり、生成AIで児童ポルノを生成してしまった場合には、児童ポルノ処罰法違反が成立する可能性があります。もっとも、当然ですが児童ポルノ処罰法は児童ポルノにしか適用されませんので、被写体となっている方が18歳以上である場合には成立しません。
では、18歳以上の方が被写体となっている「ディープフェイクポルノ」に関しては、何らかの罪が成立するのでしょうか。刑法を確認してみましょう。
刑法
(わいせつ物頒布等)
第175条
1項 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の拘禁刑若しくは250万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は拘禁刑及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2項 有償で頒布する目的、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
(名誉毀損)
第230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。
まず、頭に思い浮かぶのは、わいせつ物頒布等の罪なのではないかと思います。わいせつな画像等をアップロードするような行為だけでなく、有償で頒布する目的があった場合には、そのようなデータを持っているだけで処罰される可能性があるのです。
とはいえ、この規程は単純にわいせつ物に対して適用されるもので、「ディープフェイクポルノ」を作成する行為を処罰するものではありません。フェイクかどうかは問題にしていませんし、フェイクであったとしても、その内容がわいせつ物に該当しなければ適用されることはないのです。
残念ながら、「ディープフェイクポルノ」を作成する行為を直接処罰する法律は存在しません。したがって、そのような行為に対して、刑法で定められている罰条を適用しようと考えると、名誉毀損罪を適用することくらいしか考えられないのです。
3.名誉毀損罪の成立
弁護士岡本 裕明
刑法は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に名誉毀損の罪の成立を認めています。そして、人の社会的評価を低下させる行為があった場合に、「人の名誉」が「毀損」されたと解されています。
「ディープフェイクポルノ」にあてはめて考えてみましょう。「ディープフェイクポルノ」の場合、被害者が性的な姿態をとっていないにもかかわらず、そのような姿態をとったかのような事実が摘示されています。そして、通常の場合には、そのような性的な姿態を人前でとるような人物であるとの評価は、社会的評価を低下させることになるでしょう。
「そのような性的な姿態を人前でとるような人物である」と思われることが問題となっている訳ですから、実際の被害者よりもスタイルがよく見える画像になっている等の事情は、当然ですが名誉毀損の成立を否定する事情にはなりません。
このような「ディープフェイクポルノ」と名誉毀損の問題に関する裁判例として、東京地方裁判所令和2年12月18日判決があります。
同判決は、アダルトビデオの出演女優の顔部分に女性芸能人の顔を合成加工し、あたかも同人がアダルトビデオに出演したように見える動画データをインターネットにアップロードした行為について「女性芸能人の側から見れば、タレントとしてのイメージとその名誉を毀損し、不快感等の精神的苦痛を及ぼすと同時に、芸能活動への支障によって多大な経済的損害を及ぼしかねない非常に悪質な行為である」として名誉毀損罪の成立を認めています。
4.他の犯罪の成立
弁護士岡本 裕明
名誉毀損との関係では、基本的に被害者となるのは顔等を利用された被写体の方であって、身体等を利用された被写体の方ではありません。それは、顔面等で人物を特定することが多く、身体だけを見ても誰の身体かは分からないからです。顔をマスク等で覆った上で、裸体等で活動されている方を想定した場合において、適当な顔をすげかえた画像や動画等を生成した場合、身体等を利用された方を被害者とする名誉毀損罪が成立する余地はあるかもしれませんが、そのような事案を想定することは難しそうです。
もっとも、アダルトビデオが悪用された場合には著作権法違反が成立する可能性はあります。先程の裁判例は、アダルトビデオの制作会社に著作権が認められる映像に、別人の女性の顔を合成加工した動画を作成してアップロードした行為について、著作権法違反の成立を認めています。
「ディープフェイクポルノ」に用いられた身体の被写体となっている方を保護するものではありませんが、このような犯罪が成立する可能性もあるのです。
5.ディープフェイクポルノと弁護活動
弁護士岡本 裕明
これまで説明をさせていただきました通り、「児童ポルノ」とは実在の児童の存在が前提となっていますし、刑法で成立し得る犯罪である名誉毀損も、実在の人物の名誉を毀損した場合に成立する犯罪です。
ですから、「ディープフェイクポルノ」を生成した場合に犯罪が成立し得るのは、生成された画像・動画が実在の人物を描写していると評価される場合に限られることになります。
生成された画像・動画が特定の人物に似ていた場合であっても、まずは実在の人物を描写したものといえるかどうかについて、慎重に検討する必要があるでしょう。この際には、入力したプロンプト等も参考にした上で、実在の人物を描写する画像・動画を生成する故意があったのかという点も検討する必要があるでしょう。
また、「児童ポルノ」との関係では、その画像・動画が「ディープフェイクポルノ」であることが明らかであったとしても、実在の児童が描写されていると評価できる場合には、児童ポルノ処罰法違反が成立することになります。
一方で、名誉毀損罪の場合、生成された動画や画像が「ディープフェイクポルノ」であり、その画像・動画が「フェイク」であることが明らかといえる場合には、被写体となっている方の名誉が侵害されたとは言えませんから、犯罪の成立を否定できる可能性があります。
弁護人としては、上述したような点を踏まえて、犯罪の成否について十分に検討する必要があるでしょう。
6.まとめ
弁護士岡本 裕明
以上のとおり、「ディープフェイクポルノ」については社会的に大きな問題となっているにもかかわらず、そのような画像・動画を生成する行為を処罰するための立法が追い付いていない状態ということができます。
とはいえ、既存の法律によって処罰される可能性も十分にある訳ですし、被害者に対して大きな精神的苦痛を与える行為ですから、厳に慎む必要があります。
また、偽物であることが明らかといえる場合には、名誉棄損罪の成立が否定される場合がある旨を御説明させていただきました。
では、「この画像・動画はディープフェイクポルノです」と注意書きしておけば、常に名誉毀損の成立が否定されることになるのでしょうか?
生成AIの技術の進化によって、私達の目だけでは、偽物かどうかを見抜くことが困難となってきていますから、上述のような注意書きを付したからといって、常に犯罪の成立が否定されるとは限りません。
技術の進化に伴い、新たに問題となっている事象ということができますので、しっかりとした経験や知識を有した弁護人によるアドバイスが不可欠といえるでしょう。









