目次
1.事実を認めている場合の弁護活動
盗撮に刑罰を定めている各都道府県の迷惑行為防止条例には、公共の場所の秩序を守るという狙いもありますが、撮影された方という直接の被害者が存在する犯罪でもあります。また、新設された性的姿態等撮影罪については、被害者の方の性的な自由を保護するための犯罪と理解されています。そこで、盗撮の事実を争わない事案では、心からの反省と被害の回復に向けた活動を積み重ね、不起訴処分を勝ち取ることを目標に据えて弁護活動を進めることになります。
被害者のいる犯罪においては、示談が成立しているという事実が、被疑者の処分の内容を左右する極めて大きな要素となります。とりわけ性犯罪の類型では、示談をまとめることができれば、不起訴処分を大きく手元に引き寄せられることになります。
示談交渉の進め方については、関連記事:「盗撮事件における示談交渉」で詳しく取り上げておりますので、そちらを御覧ください。
もっとも、盗撮の罪は親告罪とされていません。そのため、示談が調ったとしても、検察官が起訴を見送るのは相当でないと判断すれば、不起訴処分に至らない事案も現に存在します。とりわけ、押収された機器から多数の余罪をうかがわせるデータが出てきた場合や、同じ罪で処分を受けた経歴がある場合には、示談を成立させてもなお何らかの刑罰が科されることがあるのです。
したがって、事実を認めている事案であっても、示談交渉と並行して、同じ行為を繰り返す危険が低いことを検察官に納得してもらう活動が欠かせないのです。
例えば、盗撮に及んだ方については、性的な嗜好の偏りや依存的な傾向が背景に潜んでいることも珍しくありません(性嗜好障害等)。このような場合には、専門の医療機関につながり、治療を継続していくことが重要な意味を持ちます。
これに対し、治療を要するような精神疾患が見当たらない場合には、なぜ撮影に及んでしまったのかを掘り下げ、その原因を取り除く手立てを講じることが求められます。「もう二度としません」と述べるだけでは、到底信用してもらえませんから、御家族の協力を仰いだ上で、撮影に使える機器の管理を含めて、立ち直りを支える環境が整っていることを示すために、嘆願書等の資料を用意しておく必要があるのです。
なお、店舗のお手洗いや更衣室にカメラを設置したような事案では、建造物侵入の罪が併せて成立し得ます。この場合には、撮影された方だけでなく、建物を管理している事業者との間でも示談を進めなければならない点に注意が必要です。
建物を管理している事業者との間では、当該建物に立ち入らないことを誓約する必要もあるかもしれません。また、勤務先や通学先の学校で盗撮が行われてしまった場合には、退社・退学等も検討する必要があるかもしれません。示談を成立させるにあたって、どこまで被害者の方々の希望に沿うことができるのかについて、弁護士と十分な協議が求められることになるでしょう。
2.事実を争う場合の弁護活動
撮影の事実を認めていない事案では、嫌疑不十分による不起訴処分を得ることが目標となります。犯行に及んでいないことが出発点ですから、再犯を防ぐ手立てについて述べても意味はありません。
まず何よりも大切なのは、取調べの場で事実に反する自白をしてしまわないことです。どの犯罪でも起こり得ることですが、「認めて反省すれば早く出られる」といった働きかけに耐えきれず、撮影などしていないのに認めてしまう例は後を絶ちません。外の世界から切り離され、味方が一人もいない環境で、自らの言い分を貫き通すのは想像以上に困難なのです。盗撮の場合、人混みの中で携帯電話を手にしていただけの方が、「あの角度では盗撮しようとしていたと認められても仕方ないのではないか」と自分を疑い始めてしまうことさえあります。
次に、被害を申告した方や目撃者の供述の信用性を検討するための準備が必要となります。近年は、盗撮を現認したと称して声を掛け、口止め料を要求するいわゆる盗撮ハンターの存在も知られています。そのような申告に基づく供述であれば、徹底して争うべきでしょう。
他方で、痴漢等と異なり、撮った人物を取り違えるという事態が多いわけではありません。それは、痴漢のように触られたことによって犯罪の被害に遭ったことを認識されることがなく、被疑者として疑われている方の行動が視認されることによって、盗撮という犯罪が行われているとの疑いが生じるケースがほとんどだからです。
そこで、人違いというよりは、単に携帯電話を操作していただけでカメラを起動させていないことや、靴紐を結んでいただけで、スカートの中等を覗き見ようとしていたわけではないことなどを主張するケースが多いように思われます。盗撮という罪が日常的に行われている旨は、社会的にも認識されていますから、携帯電話を手に怪しい行動に及んでいる人物が盗撮犯だと思い込んでしまうのは、やむを得ない面があります。
とはいえ、身に覚えのない罪で処罰されることを受け入れる訳にはいきません。申告者や目撃者が立っていた位置から、撮影の様子が実際に見て取れる状況だったのか、携帯電話の向きや持ち方から、撮影が可能な状態といえるのか、押収された機器に該当する画像や動画が保存されていたのかといった点について、公判になった場合を見据えて、現場を確かめながら検証していく必要があるでしょう。
このような検討は、撮影罪ではなく条例違反にとどまると主張する場合や、建造物侵入の点だけを争う場合など、被疑事実の一部のみを争う事案においても、同じように求められます。また、被害者の姿態を隠れて撮影するすべての行為が、性的姿態等撮影罪を構成するわけではありません。弁護士のアドバイスに沿って、罪を争うべきであるのかどうかについて、判断する必要があるものといえるでしょう。
3.事実を争いながら示談交渉を行う場合
最後に、盗撮の事実を認めていない事案において、示談交渉に取り組む必要があるのかという点に触れておきます。
撮影する意図はなかったものの、結果として被害を訴えている方が写り込んでしまったというような事案であれば、その方に不快な思いをさせたこと自体は否定できませんので、被疑事実を争いながら示談を申し入れることに、それほど不自然さはないと考えられます。。
これに対し、そもそも撮影行為自体をしていないという主張であれば、その方に対して何もしていない訳ですし、仮にその方が盗撮の被害に遭っていたとしても、それは別の人物の行為な訳ですから、被疑者が示談金を負担すべき理由はないはずです。
しかし、被疑事実を否認し、嫌疑不十分による不起訴処分だけを狙う方針には、捜査の段階で弁護人が証拠を見られないという事情が重くのしかかります。つまり、中身を確認できないままで、被疑者が犯人であることを示す証拠は足りていないと主張しなければならない訳です。盗撮の事案では、押収された機器の解析結果が結論を大きく左右するにもかかわらず、その解析がどこまで進み、何が出てきたのかを、弁護人が把握できないまま手続が進んでいくことになります。
この心許ない状態のまま嫌疑不十分だけを目指すのではなく、示談を成立させる道筋から不起訴処分に近づくという方針は、理屈の上では割り切れないところが残るとしても、選択肢として十分に理にかなっています。事実を認めている場合と同じく、示談が調えば必ず不起訴処分になる訳ではないものの、その可能性が確実に高まるからです。
このようにお伝えすると、盗撮などしていないのに示談を進めれば、撮影を認めたことになってしまうのではないかと尋ねられることがあります。しかし、示談交渉に着手することと、盗撮に及んだと認めることは、全く別の事柄です。
この場合、被害を申告した方には、被疑者に対する刑事事件をこれ以上進めないため、すなわち起訴という結論を避けるために、示談金を受け取っていただくことになります。
やっていないにもかかわらず金銭を支払うことに抵抗を覚えるのは当然のことだと思いますが、起訴された場合の有罪率が突出して高い現状を踏まえれば、事実を争いながら示談交渉に着手することは、決して筋の通らない弁護方針ではないのです。
他方で、示談の成立は、不起訴処分に直結するわけではありません。盗撮行為に及んでいないにもかかわらず、不起訴処分を得るために示談金を支払ったのに、結局起訴されてしまうというケースは十分に考えられるのです。
示談交渉に着手するべきかどうかという点も、経験のある弁護士と相談の上で判断すべき事柄ということができるでしょう。