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コラム

裁判員に接触することは犯罪になり得る。では、そのような接触を受けた裁判員による裁判をやり直す必要はないのか。

 令和2年4月22日にショッキングな判決が東京高等裁判所で宣告されました。この判決は、現住建造物等放火の罪で実刑判決を宣告されていた被告人の事件について、弁護人の控訴を棄却し、第一審判決の判断を支持したものです。
 判決文を確認できていないので、弁護人の控訴趣意の全容は分からないのですが、この事件が大きく報道されたのは、第一審である裁判員裁判において、傍聴人が裁判員に接触していたことが明らかになったためです。報道によると、この傍聴人は、起訴されている事実以外にも被告人が火をつけた建物は存在しており、自分の家にも放火されたという旨を裁判員数名に対して伝えたようです。
 東京高等裁判所は、傍聴人が裁判員に接触した事実は認めつつも、第一審の判決に影響はなかったとして、弁護人の控訴を棄却しました。私としては、このような接触があった以上、その裁判員の判断に影響を与えた可能性は否定できず、第一審に差し戻すべきだと考えています。そこで、今回は、裁判員への接触について、解説していきたいと思います。

裁判員法の規定

 裁判員への接触が禁止されている理由を解説するにあたって、まずは法律がどのように定められているのかについて確認してみましょう。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律

第102条
1項
 何人も、被告事件に関し、当該被告事件を取り扱う裁判所に選任され、又は選定された裁判員若しくは補充裁判員又は選任予定裁判員に接触してはならない。
2項  何人も、裁判員又は補充裁判員が職務上知り得た秘密を知る目的で、裁判員又は補充裁判員の職にあった者に接触してはならない。
 第106条
1項 法令の定める手続により行う場合を除き、裁判員又は補充裁判員に対し、その職務に関し、請託をした者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
2項 法令の定める手続により行う場合を除き、被告事件の審判に影響を及ぼす目的で、裁判員又は補充裁判員に対し、事実の認定、刑の量定その他の裁判員として行う判断について意見を述べ又はこれについての情報を提供した者も、前項と同様とする。
3項 選任予定裁判員に対し、裁判員又は補充裁判員として行うべき職務に関し、請託をした者も、第一項と同様とする。
4項 被告事件の審判に影響を及ぼす目的で、選任予定裁判員に対し、事実の認定その他の裁判員として行うべき判断について意見を述べ又はこれについての情報を提供した者も、第1項と同様とする。

 以上のとおり、裁判員法は、裁判員として選任された方に対する接触を、「何人」に対しても禁止しているのです。これは、裁判員裁判によって適切な審理を行い、被告人に対する刑事責任の有無や軽重を適切に判断させるための規定と言えるでしょう。
 そして、そのような適切な判断を歪めさせるような目的で裁判員に情報を提供した者に対しては、罰則まで定められているのです。
 冒頭で紹介した事件の傍聴人も、悪気があった訳ではなかったのかもしれませんし、実際に放火の被害に遭っていたのであれば、犯人と思われる人間の裁判について物を申したくなる気持ちも分からないではありません。
 しかし、このような行為は、被告人の刑について、起訴されていない事件についての責任も含めて判断させる行為に他なりませんから、裁判員法によって刑罰を科される行為といえます。

 

裁判員の保護が主眼

 

 しかしながら、これらの規定は、第一次的には、裁判員の保護を主眼としているものと言えます。裁判員法の他の規定も確認してみましょう。

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律

第107条
1項 被告事件に関し、当該被告事件の審判に係る職務を行う裁判員若しくは補充裁判員若しくはこれらの職にあった者又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。
2項 被告事件に関し、当該被告事件の審判に係る職務を行う裁判員若しくは補充裁判員の選任のために選定された裁判員候補者若しくは当該裁判員若しくは補充裁判員の職務を行うべき選任予定裁判員又はその親族に対し、面会、文書の送付、電話をかけることその他のいかなる方法をもってするかを問わず、威迫の行為をした者も、前項と同様とする

 このように、裁判員法は、裁判員に対する威迫行為についての刑罰も定めています。実際に、反社会的勢力の構成員が被告人となっていた事件について、同反社会的勢力の他の構成員が裁判員に接触したことも、数年前に大きく報道されています。この事件では、実際に選任されていた裁判員の半数が裁判員を辞任する事態にまでなりました。
 裁判員として反社会的勢力に属する被告人の事件を裁いたことで、その被告人や被告人の所属する反社会的勢力から逆恨みされたのでは、適切にその事件を審理することはできません。
 裁判員法に、裁判員を守るための規定が準備されているのも当然のことといえます。

適切な審理の確保

適切な判断を下せないおそれのある裁判員の除外

 上述した例は、被告人と同じ反社会的勢力に属する仲間による事件でした。しかしながら、裁判員への接触が、刑事裁判において被告人に常に有利に作用する訳ではありません。今回報道された事件のように、被害者側の人間から接触を受けた場合には、被告人に対する不利な影響が懸念されることになります。
 そこで、裁判員法は、不適切な判断をするおそれのある人間が裁判員になることがないような手続を定めていますし、裁判員に選任された後で、その者が不適切な判断をする可能性が生じた場合には、裁判員を解任することもできるのです

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律

第17条
次の各号のいずれかに該当する者は、当該事件について裁判員となることができない。
 1号 被告人又は被害者
 2号 被告人又は被害者の親族又は親族であった者
 4号 被告人又は被害者の同居人又は被用者
第18条
 前条のほか、裁判所がこの法律の定めるところにより不公平な裁判をするおそれがあると認めた者は、当該事件について裁判員となることができない。
第41条
 検察官、被告人又は弁護人は、裁判所に対し、次の各号のいずれかに該当することを理由として裁判員又は補充裁判員の解任を請求することができる。
 1号 裁判員又は補充裁判員が、第39条第2項の宣誓をしないとき。
 6号 裁判員又は補充裁判員が…第17条各号(これらの規定を第19条において準用する場合を含む。)に掲げる者に該当するとき。
 7号 裁判員又は補充裁判員が、不公平な裁判をするおそれがあるとき

 このように、裁判員法は、不公平な裁判をするおそれがある人間を裁判員に選任することがないように定めていますし、裁判員が選任された後の段階でも、弁護人は裁判員が不公平な裁判をするおそれがあるときは、裁判員の解任を請求することができるのです。

不適切な裁判をするおそれのある者による裁判

 では、裁判員法の規定があるにもかかわらず、実際には裁判員に選任されるべきではない或いは裁判員を解任されるべきだった裁判員によって判決が宣告された場合、どうずればいいでしょうか。
 刑事訴訟法には次のような定めがあります。

刑事訴訟法

第377条
 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
 1号 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
 2号 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
 3号 審判の公開に関する規定に違反したこと。
第397条  第377条乃至第382条及び第383条に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。

 裁判員として選任されるべきでなかった人間を裁判員として裁判を行った場合、「法律に従って判決裁判所を構成しなかった」と言えますから、この点のみを理由に、原判決は破棄されるべきものと考えられるのです。
 東京高等裁判所は、傍聴人による情報提供は、裁判官及び裁判員内での評議に影響を及ぼさなかったと判断したようですが、そのような接触を受けた裁判員が評議の場で何も発言しなかったとしても、他の裁判員や裁判官の意見に賛成する際に、当該接触による影響を受けていたことへの影響を否定することはできないように思います。

裁判員裁判における弁護人の役割

 今回のコラムは裁判員裁判自体の手続や通常の裁判官による裁判との異同について解説させていただいたものではありませんから、裁判員裁判において求められる刑事事件の弁護士の弁護活動についての解説は別の機会に譲らせていただければと思います。  
 今回のコラムは、裁判員として被告人を裁くべきではない方が存在し得るという内容を説明させていただきました。そして、そのような人が裁判員に選任された場合に、解任を請求できるという手続も解説させていただきました。  
 しかし、このような事態は頻繁に起こる訳ではありませんから、そのような非常事態が生じた場合であっても、適切に対応ができるように、手続について十分に把握しておくことが刑事事件の弁護士には求められます。  
 また、法律上、裁判員として選任することが不適切であるとまでは認められない場合であっても、裁判員として選任された場合に、被告人に不利益そうな裁判をするのではないかと懸念されるケースはあります。とはいえ、女性の裁判員の方が、女性を被害者とする性犯罪の被告人に対して、厳罰を求める傾向にあるかというと、そのような傾向にあるとまでは考えられていません。被告人と同じような属性(年齢、性別等)の裁判員の方が、被告人に同情的に判断してもらえるかというと、この点についてもそうとまでは言えません。  
 したがって、刑事事件の弁護士としては、どのようなバックグラウンドを持つ裁判員であっても理解していただけるような弁護方針を策定し、裁判員裁判に臨む必要があるのですが、裁判員の選任の前に、特に理由がなくとも、特定の候補を裁判員の選任手続から除外することを請求することも可能です。  
 裁判員裁判が始まる前から、刑事事件の弁護士としては様々なことを考えて、弁護活動にあたる必要があるのです。

まとめ

 裁判員裁判は、職業裁判官ではなく、一般市民を司法手続に関与させることによって、被告人に対して刑罰を科するかどうか又その刑罰の内容について、より適切な判断をくだすことができるように行われているものです。
 裁判員裁判自体についても色々と意見はあるところではありますが、職業裁判官とは異なり、それまで司法手続とは無関係であった方々を裁判員に選任して被告人を裁かせる訳ですから、裁判員の方が適切な判断を下せるような環境を整備する必要があります。
 職業裁判官であっても、証拠以外の事実から心証を形成してしまう危険性は否定できない訳ですから、それまで司法手続に関与していない裁判員との関係では、より一層証拠以外の事実から心証を形成することがないように、すなわち誤判に導きかねない事実と接触することがないような環境を整備する必要があります。
 今回の東京高等裁判所の判断は、最高裁判所において覆されるべきだと強く考えますが、上告するかどうかについても被告人の利益を一番に考える必要がありますから、弁護人が上告しない選択をしたとしても責められるものではありません。
 いずれにしろ、裁判員裁判は、通常の裁判官による裁判とはその手続を大きく異にしますし、裁判員裁判において被告人の主張を認めさせるためには、裁判員に対するしっかりとしたアピールが必要になります。
 弊所では裁判員裁判の経験も十分に積んでおりますので、是非、御相談いただければと思います。

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