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コラム

耳なじみのない上訴審での「差し戻し」。珍しい判決である「差し戻し」って何?

 2017年6月5日に発生した東名高速道路あおり運転に関する事件は、社会的耳目を集め、その判決の内容についても大々的に報道されてきましたが、令和元年12月6日に、東京高等裁判所は、被告人を懲役16年に処する旨を言い渡した一審判決を破棄し、再度地方裁判所に差し戻す判決を言い渡しました。
 控訴を「棄却」又は「却下」する判決は、細かい法律上の問題はさており、一審の判決の内容が維持されるという意味で、一般の方にもわかりやすい内容だと思います。しかし、「差し戻し」という判決が、一体何を意味するのかについては、なかなか正確に理解できない方が多いのではないでしょうか。
 そこで、今回のコラムでは、今回の「差し戻し」判決の内容を、他の判決の内容と比較しながら解説させていただくことにします。

一審の判決

 刑事事件の裁判は、検察官が被告人を起訴することで始まります。そして、裁判においては、検察官が作成した起訴状に記載されている事実が真実かどうかが争われることになります。
 裁判官は、起訴状に記載されている事実が十分に証明されていないと判断した場合には、被告人に対して無罪判決を言い渡すことになります。
 逆に、事実が十分に証明されていると判断した場合には「被告人を懲役3年に処する」などとして、刑罰の内容を言い渡すことになります。
 したがって、ほとんどの場合、一審の判決は、一目でその内容が分かるようなものが多いものといえます。
 ややわかりにくいものとして、「免訴」や「公訴棄却」という内容の判決が宣告されることがありますが、これらの判決は、次のような特別な事情が認められる場合に、被告人が犯罪行為に及んだことについての証明の有無とは無関係に、裁判を終わらせるものです。
 機会がありましたら、これらの規定についてもご説明差し上げたいと思いますが、今回は条文だけご確認いただければと思います。

刑事訴訟法

第337条
 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
 1号 確定判決を経たとき。
 2号 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
 3号 大赦があったとき。
 4号 時効が完成したとき。
第338条
 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
 1号 被告人に対して裁判権を有しないとき。
 2号 第340条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
 3号 公訴の提起があった事件について、更に同一裁判所に公訴が提起さ
    れたとき。
 4号 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
第339条
 左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
 1号 第271条第2項の規定により公訴の提起がその効力を失ったとき。
 2号 起訴状に記載された事実が真実であっても、何らの罪となるべき事
    実を包含していないとき。
 3号 公訴が取り消されたとき。
 4号 被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなったとき。
 5号 第10条又は第11条の規定により審判してはならないとき。

上訴審の判決

棄却、却下

 上訴審の判決が、一審の判決と比較して分かり難い内容となるのは、上訴審においては、検察官が作成した起訴状に記載されている事実が証明されているかどうかを判断するのではなく、一審の判決に対して弁護人や検察官が申し立てた不服の内容が正当かどうかを判断する手続だからです。
 ですから、一審の判決ように、有罪か無罪かどうか又は刑罰の内容を言い渡すのではなく、弁護人や検察官の不服申し立てに対する判断を言い渡すことになるのです。
 弁護人や検察官の上訴申し立てを「棄却」する場合、弁護人や検察官の不服の内容を退けることになる訳ですから、一審の判決は変更されることはなく維持されることになります。
 この点は、分かりやすいのではないでしょうか。

認容(原判決の破棄)

 逆に、裁判所が、弁護人や検察官の不服申し立ての内容が正当であると判断した場合には、その申し立てを認容することになりますが、単に認容するという判決を下すことはありません。
 弁護人や検察官の不服申し立ての内容が正当であるということは、一審判決を何らかの理由で変更する必要があるということですから、一審判決を破棄することになります。
 破棄しただけでは、被告人に対する判断がなくなってしまいますから、上訴審の裁判所は、改めて被告人に対する判決を宣告することになります。
 一審判決が有罪判決を言い渡していたものの、十分に被告人による犯罪行為が証明されていないと判断した場合には、「原判決を破棄する。被告人は無罪。」などとして、改めて判決を言い渡すのです。

差し戻し

 では、「差し戻し」とは、どのような判決で、どのような場合に言い渡されるのでしょうか。刑事訴訟法は、「差し戻し」について、次のように定めています。

刑事訴訟法

第400条
…原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

 つまり、「差し戻し」は、原判決を破棄する場合に問題となります。原判決が維持されるのであれば、改めて事件について審理する必要がない訳ですから、ここまでは当然のことかもしれません。
そして、上訴審が改めて判決を自ら言い渡すことができる場合には、上訴審の裁判所が判決を言い渡すことになります。「差し戻し」は、原判決には何らかの問題があり、維持することはできないものの、上訴審が自ら判決を言い渡すこともできないため、再度、一審の裁判所に審理をやり直させる」ことを命じる」判決だということです。
 では、上訴審が自ら判決を言い渡すことができないというのはどのような場合なのでしょうか。それは、一審の段階で十分に審理が行われておらず、上訴審が自ら判決を言い渡すには、材料が不足しているようなケースが想定されます。
 詳細については、別の機会に解説させていただきますが、上訴審においては、弁護人や検察官は自由に証拠を提出することができません。それは、上訴審はあくまでも、弁護人や検察官の不服申し立ての内容が正しいかどうかを判断する手続だからです。弁護人や検察官の不服申し立ての内容は、一審の判決が誤っていることを内容とするものです。新しい証拠が提出された場合であっても、一審の裁判所はその証拠を見ずに判決を下しているわけですから、その証拠によって一審の判決が誤っているかどうかを判断することはできません。あくまでも、一審の裁判所が用いた証拠を前提に、一審の判決が誤っているかどうかを判断する手続なのです。
 ですから、上訴審が原判決を破棄することを決めた後、新たに判決を言い渡すために、独自に証拠を積極的に収集することはあまり想定されていないのです。そのようなケースにおいて、裁判所は一審の裁判所に事件を差し戻すことになります。

差し戻し判決の効力

差し戻し判決に対する上訴

 差し戻し判決が言い渡された場合であっても、直ちにその事件が一審の裁判所に差し戻される訳ではありません。差し戻し判決も判決の一種ですから、差し戻すことに不満がある場合には、差し戻し判決に対しても、上訴することが可能です。
 最高裁判所が、今回の差し戻し判決を維持する判断をした場合には、今回の判決が確定することになりますので、その時にはじめて、今回の事件は一審の裁判所に差し戻され、一審の裁判所で再度審理を行うことになります。
 逆に、最高裁判所が、今回の差し戻し判決を破棄した場合には、差し戻されることはありません。最高裁判所が一審の判決が妥当だと判断する場合には、一審の判決が維持されることになりますし、一審の判決を破棄する場合であっても、現在裁判所に提出されている証拠のみで十分に判決を言い直すことができると判断した場合には、裁判をやり直させることなく、新たな判決を宣告することとなります。

差し戻された後

 では、実際に、一審の裁判所に事件が差し戻された後、一審の裁判所は裁判を完全にやり直すことになるのでしょうか。
 裁判所法第4条は、「上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。」と定めていますから、完全に自由にやり直せるのではなく、一審判決が破棄された直接の理由となっている部分については、その判断に反する判断をすることができません。
 今回は、危険運転の罪について十分に一審で議論されていなかった点を理由に、差し戻されている訳ですから、差し戻された一審の裁判所は、危険運転の罪について十分に議論させる必要があり、主要な争点ではないとして審理の対象から外すことはできない訳です。
 他方で、危険運転の罪を成立させるかどうかという点についてまで否定したわけではありませんから、十分に議論させた結果、危険運転の罪が成立すると判断した場合には、同じ判決を再度言い渡すことは可能なのです。

まとめ

今回は、「差し戻し」判決について簡単に解説させていただきました。
 「差し戻し」判決は、被告人が適切な手続によって裁判を受ける機会を保障するために、重要な意味を持っています。しかしながら、再度、裁判をやり直すことになりますから、被告人にとっても被害者によっても、大きな負担を伴うものとなります。ですから、原判決の破棄を主張する場合であっても、「差し戻し」判決を求めるかどうかについては、慎重な判断が求められることになります。
 我々も、「差し戻し」判決自体を経験したことはありませんし、珍しい判決であることに違いありません。

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