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コラム

逆転無罪だけじゃない!最高裁で逆転有罪判決を言い渡されるケースとは

 令和2年1月23日に新たな最高裁判所の判断が示されました。争点は、一審で無罪判決が宣告された被告人に対して検察官が控訴した場合において、控訴審が被告人に対して逆転有罪判決を宣告する場合に、新たな証拠調べが必要かどうかという点です。  この点については、過去にも最高裁が逆転有罪判決を言い渡すためには、被告人の権利を守るためにも、新たな証拠調べが必要であるという判断をしていたのですが、古い判例でしたので、その判例の考え方が変更されるかどうかが注目されていました。今回の判決では、最高裁が、従前の最高裁の考え方を維持し、被告人に対して逆転有罪判決を宣告するにあたって、必ず新たな証拠調べが必要であるとの判断を示しました。  多くの方にとって刑事裁判は縁遠い存在でしょうし、刑事裁判の控訴審となると、更に考える機会のない手続であろうと思います。  しかしながら、長い歳月をかけて裁判を行い、ようやく冤罪を晴らすことができたにもかかわらず、安易に控訴審において有罪の判決が宣告されてしまうと、被告人や御家族の負担は耐え難いものとなってしまいます。  今回のコラムでは、令和2年1月23日の最高裁判所の判断との関係で、控訴審の手続について解説させていただきたいと思います。

控訴審における証拠調べ

原則として新たな証拠調べは行われない

 刑事裁判の控訴審は「事後審」であると理解されています。「事後審」とは、第一審に誤りが認められるかどうかを、第一審で用いられた証拠に基づいて事後的に審査する方法です。  ですから、裁判を最初からやり直す(このような方法を「覆審」と言います。)訳ではありませんし、民事裁判における控訴審のように、第一審を引き継いで更に審理を行う(このような方法を「続審」と言います。)訳でもありません。  したがって、刑事裁判の控訴審は、基本的に新たな証拠を予定しておらず、第一審で提出された証拠を前提に審理することとなっています。

刑事訴訟法

第382条 …控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であって明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。 第382条の2 1項 やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠によって証明することのできる事実であって前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であっても、控訴趣意書にこれを援用することができる。 3項 …第一項の場合には、やむを得ない事由によってその証拠の取調を請求することができなかつた旨を疎明する資料をも添附しなければならない。 第392条 1項 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。 2項 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であっても…職権で調査をすることができる。 第393条 1項 控訴裁判所は、前条の調査をするについて必要があるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる。但し、第382条の2の疎明があったものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取り調べなければならない。

例外的に証拠調べが行われる場合

 つまり、刑事訴訟法によると、控訴審において、第一審では提出していなかった証拠を提出する場合には、第一審でその証拠を提出できなくても、やむを得なかったことを疎明しなければならないのです。  この「やむを得ない事由」については、物理的に第一審で提出することが不可能な場合に限られる訳ではありませんが、単に第一審では提出する必要がないと思っていたというだけでは足りず、控訴審は「やむを得ない事由」について極めて厳格に解釈しているというのが個人的な印象です。  なお、「やむを得ない事由」が認められない場合であっても、控訴審裁判所が必要だと感じたものについては、職権で調査することが可能なのですが、この点については後でお話しさせていただきます。

逆転有罪判決の場合に求められる証拠調べ

新たに証拠調べが必要とされていた理由

 まず、逆転有罪判決を宣告する場合、刑事訴訟法の次の条文が問題となります。

刑事訴訟法

第400条  前二条に規定する理由以外の理由によって原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。

 但し書きによると、新たな証拠調べをしなくても、既に第一審で提出されている証拠によって判決を宣告できる場合には、第一審に再度裁判をやり直させるのではなく、控訴裁判所が判決をすることができるように定められています。  しかしながら、昭和31年の判例では、

最大判昭和31年7月18日(刑集10巻7号1147頁)

事件が控訴審に係属しても被告人等は、憲法31条、37等の保障する権利は有しており、その審判は第一審の場合と同様の公判廷における直接審理主義、口頭弁論主義の原則の適用を受ける…従って被告人等は公開の法廷において、その面前で、適法な証拠調の手続が行われ、被告人等がこれに対する意見弁解を述べる機会を与えられた上でなければ、犯罪事実を確定され有罪の判決を言渡されることのない権利を保有する

 と判示しました。  つまり、第一審で無罪判決を宣告されているにもかかわらず、控訴審において書面審査だけで逆転有罪判決を宣告すると、そのような被告人の権利が侵害されてしまうという風に考えられていたのです。

新たな証拠調べなしで逆転有罪判決を宣告した理由

 今回の最高裁は、控訴審である東京高等裁判所(東京高判平成29年11月17日(平成29年(う)))が、新たな証拠調べなしで逆転有罪判決を宣告したために、検察官及び弁護人双方から上告が申し立てられて開かれたものでした。  では、東京高裁は、どのような理由で従前の最高裁と異なる判断を下したのでしょうか。この裁判例は、検察官から請求のあった新たな証拠について証拠調べを行うこととした場合、

必要性も第一審の弁論終結前に取調べを請求することができなかったやむを得ない事由も認められない証拠を採用するという不合理なことになる。…検察官の請求する上記証拠を直接に取り調べることによって、被告人の権利、利益の保護につながるとは考えられない。

 と判示しました。  そして、第一審に差し戻すことについても、「手続を遅延させることにしかならないものと考えられる。」とした上で、過去の最高裁の判断については、

控訴審が直接に事実の取調べを行わないままに自判をしたとしても、実質的にみて、被告人の権利、利益の保護において問題を生ずるものとは考えられない…。起訴前国選弁護制度、公判前整理手続、裁判員裁判制度が導入され、取調べの録音録画が行われている現在…一律に控訴審において自らの事実の取調べを行う必要があるとする解釈を維持することは…今日においては、その正当性に疑問がある

 と判示したのです。  要するに無駄な証拠調べをしたところで被告人の権利保護にはつながらないため、既に取調べ済の証拠のみによって有罪判決を宣告できる場合には、新たな証拠調べを行わずに逆転有罪判決を言い渡すことも可能である旨を判示したのです。

今回の最高裁判所の判断を踏まえた上での弁護活動

不要な証拠調べを行わせないこと

 今回の最高裁判所の判断は、逆転有罪判決を宣告するにあたっての、新たな証拠調べというハードルを残したものと理解できますから、一見、被告人や弁護人に有利な判断のようにも見えます。  しかしながら、上述の東京高等裁判所が判示したような、無駄な証拠調べを行うことによって、有罪判決を宣告できるのであれば、被告人や弁護人にとって有利な判決とは到底言えません。  上述したとおり、やむを得ない事由が認められない場合であっても、裁判所が必要と判断した場合には、新たな証拠を調べることができます。個人的には、弁護側から請求した証拠について「やむを得ない事由」が認められない場合、裁判所がその証拠を取り調べる必要性を認めて、証拠調べを行う例は限られているのに対して、検察官が請求した証拠について「やむを得ない事由」が認められない場合には、証拠調べを行うことが珍しくない印象です。  今回の最高裁判所の判断によって、検察官から請求される証拠を緩やかに採用するような運用とならないように、弁護人としては、不必要な検察官請求証拠の採用に対して毅然とした態度をとる必要があります。

弁護側の証拠調べ請求

 一方で、我が国の有罪率の高さは諸外国からも非難される程度に異常に高いものとなっていますから、刑事裁判の控訴審の多くは、検事による控訴申立てによって逆転有罪判決を阻止するようなものではなく、逆転無罪判決を獲得するための場となっております。  逆転無罪判決の場合、新たな証拠調べを経ることなく宣告しても被告人の権利が侵害される訳ではありませんが、やはり新たな証拠がなければ、控訴審において、第一審の有罪判決を覆すことは困難です。  「やむを得ない事由」をどのように疎明するのかについての工夫が必要であることに加えて、裁判所に対してその新しい証拠を取り調べる必要性が高度に認められることについて、創意工夫をした弁護活動が求められることになるでしょう。

まとめ

 今回は、最近の最高裁判所の判断を踏まえて、逆転有罪判決を宣告する際の証拠調べの要否を中心に解説をさせていただきました。  民事の裁判における控訴審は、第一審の続きというイメージがありますので、裁判の手続が大きく変わるという訳ではありません。  しかしながら、刑事の控訴審は、刑事の第一審とはその手続や性質が大きく異なります。第一審と同じような準備をしていたのでは、弁護側として提出したい証拠が何一つ採用されずに、あっという間に書面だけのやりとりで手続が終わってしまいかねません。  弊所では、控訴審においての御相談も数多くいただいております。また、勝手に第一審の弁護人に連絡をとったりするようなことは致しませんので、まずは御電話やメール等で御相談ください。

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