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コラム

池袋暴走事故から刑事責任について考える

簡単に言うと…
  • 池袋暴走事故の裁判が終結し、禁錮5年の刑が確定した。
  • 禁錮5年という刑罰は決して軽いものではないものの、軽すぎるとの意見も理解できる。
  • 刑を厳罰化するのではなく、被害者をより手厚くサポートすることのできる制度を確立する必要がある。
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先日、池袋暴走事故の件についての判決が宣告され、被告人には禁錮5年の刑が言い渡されたようです。この事件については、裁判が始まる前から、被告人が逮捕されなかったことや、被告人の弁解内容について、多くの方が注目し、様々な意見が述べられています。 被告人は控訴をしなかったようで、禁錮5年の刑を言い渡した判決は確定したようです。個人的には、禁錮5年の刑罰が軽いとは思いませんが、刑罰を軽いと感じる方も多いようですし、そのような意見も理解できます。 今回の事件を振り返り、犯罪者に刑罰を科すということの意味を考えてみたいと思います。

適用された罪名について

自動車運転処罰法

今回の事件は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転処罰法)違反の罪が問題となっていました。まずは、この法律の条文を確認してみましょう。

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

(危険運転致死傷)
第2条
次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は15年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処する。 1号 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為 2号 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為 3号 その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為 4号 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に進入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
第3条
1項 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は12年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は15年以下の懲役に処する。 2項 自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
(過失運転致死傷)
第5条
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

自動車運転処罰法は、第2条と第3条で危険運転致死傷の罪を定めています。類型的に極めて危険だと考えられている運転行為に及んだ結果、他人を傷つけた場合には、同条が適用され、極めて重い刑罰が科されることになります。 今回の事件は、第5条が適用されていることから、法律上は、その運転態様自体に高度な危険性がなかったことを前提としています。 実際に、第2条が列挙している危険運転の態様は飲酒運転やあおり運転など、危険性が極めて高いものとなります。そのような態様と比較すると、ブレーキペダルとアクセルペダルの踏み間違いに起因して生じたとされる本件については、第2条ではなく第5条の適用が考えられることになるのです。

過失運転致死傷

危険運転によって人の命が奪われてしまった場合、被告人に科される刑罰の上限は、第2条が適用された場合には懲役20年、第3条が適用された場合でも懲役15年となります。 一方で、過失運転致死傷の罪については、その刑罰の上限は7年以下と定められています。 被害者の命が失われるような著しく大きな損害が生じているという点は共通しているにもかかわらず、法定刑にこのような大きな差があるのは、危険運転致死傷罪の場合には、人の命を奪うことを意図して行ったものではなくても、人の命を奪い得る危険な行為だと分かった上で、そのような危険な行為に及んでいるということに、犯罪行為としての悪質性が認められるからです。

本件における刑罰の妥当性

刑罰を科する意味

犯罪者に対して刑罰を科す目的については、こちらのページで解説をさせていただきました。 そこでは、「教育刑」と「応報刑」という2つの考え方について簡単に解説させていただいております。 本件では、被告人は高齢ですし、刑罰を科さずとも、二度と自動車を運転することもないように思われます。刑務所に服役させることで教育的な効果を与えることは困難なのではないでしょうか。 では、「応報刑」として考えた時に、禁錮5年という刑罰は不十分でしょうか。今回の事件について禁錮5年の刑を軽いと感じる方の多くは、法律上の上限である7年という期間であっても軽いと感じるのだと思います。 それは、何の落ち度も認められない親子の命が奪われてしまったという結果の重大性に着目しているからなのだと思います。 とは言え、本件に対する刑罰としての禁錮5年という刑罰が軽いとお感じになる方も、だからといって、本件を契機に車を運転する際に十分な注意を払わずに自動車を運転する方が増えることを懸念されてはいないように思います。 そういった意味で、禁錮5年という刑罰が軽すぎて失当だという批判はあたらないように思うのです。

他の裁判例との比較

これまでの過失運転致傷罪の裁判例について確認してみると、大阪高等裁判所平成30年10月4日判決(判例時報2392号83頁)は、高速道路において大型貨物自動車を運転する際に、スマートフォンを操作していたことに起因して前方の車両に追突し、1名が死亡、4名が傷害を負ったという事案において、禁錮2年8月の刑を言い渡しております。 また、宮崎地方裁判所平成30年1月19日(判例時報2401号114頁)は、医師から「脳血管性認知症」と診断されていたため、家族から自動車の運転を控えるように注意され、自動車の鍵を隠されていたにもかかわらず、隠してあった自動車の鍵を見付け出して自動車を運転し、歩道に自動車を侵入させるなどした結果、2名が死亡し、5名が傷害を負った事案において、懲役6年の刑を言い渡しています。 被告人に対する刑罰は、様々な事情を総合的に考慮して決められるものですから、結論だけを比較することに無理があるかもしれませんが、本件において極めて軽い刑罰が言い渡されたのではないということはいえるように思います。

被害者救済

それでも素朴な感情として、本件についての刑罰が軽すぎるという感覚を抱く方は多いように思います。何の落ち度もない被害者の方が命を奪われていることを考えれば、そのように感じるのも自然なことのように思います。 しかし、被告人を長期間の懲役刑や禁錮刑に処したところで、被害者の方や御遺族の支えに直接繋がるものではありません。それよりも、犯罪の被害に遭った方に対するサポートを手厚くする必要があると感じています。 犯罪の被害に遭った方の扱われ方については、犯罪事件が起きた際の報道の在り方との関係でも議論があったかと思います。加害者(特に加害者が少年だった場合)の氏名は秘匿されているにもかかわらず、被害者の氏名が実名で報道される等、アンバランスさがありました。 また、加害者が服役することとなった場合、加害者に対して損害賠償請求権を有していたとしても、加害者に財産がなく、服役してしまった場合には、実際に金銭の支払いを得られる可能性はほぼなくなってしまいます。 北欧においては、犯罪被害者の救済を扱う被害者庁といえる省庁が創設されている国が散見されます。例えば、ノルウェーにおいては暴力犯罪保障庁という省庁が、被害者が被った損害を補償した上で、加害者に対してその金額の求償を求める手続を行っているようです。 一方、我が国においては、犯罪被害給付制度等が設けられておりますが、その給付額は十分なものでなく、被害者の被った損害を補填できているとは到底評価することはできません。

自動車事故事案における弁護活動

 今回の事件は社会的耳目を大きく集めました。一方で、残念なことに同種の犯罪行為に関する報道を目にする機会も増えてきたように思います。  
 外部から見ると、信じられないような危険な運転行為や大きなミスによって交通事故が生じ、その結果として被害者の生命が奪われてしまうケースは非常に多くなってきていると感じています。  
 このような事案における被疑者・被告人は、交通ルールに違反してでも、自分勝手な運転に拘ったという訳ではなく、自分自身では真っ当な運転行為をしているつもりでいる中で起きてしまった事件です。したがって、犯罪だと分かった上で軽い気持ちで犯行に及んでしまった事案などと異なり、反省を深めさせることによって再犯を防ぐことに直結するわけではありません。  
 今回の事件のように大きな問題となってしまえば、事実上、再度運転することはないかもしれませんが、もう少し規模の小さい事件の場合には、自動車の運転が法律上は許容される可能性もあります。  
 刑事事件の弁護士としては、被疑者・被告人の処分をできる限り減軽させるにあたって、運転免許証の返納手続等を薦めることが考えられますが、安易に運転免許証を返納させたことによって、無免許運転で将来的に捕まってしまうことも懸念されますし、実際にそのような御相談をいただいたこともございます。  
 単に、運転免許証について返上させるだけでなく、自動車を運転することなく生活できる環境や、家族のサポートを整備しなければ、別の犯罪を犯してしまう可能性にも繋がりかねないのです。このような可能性をできる限りなくしていくことについても、刑事事件の弁護士の役割の一つといえるでしょう。

まとめ

今回は、池袋暴走事故について振り返り、その刑罰が妥当かどうかについて検討し、その刑罰は軽すぎるとは言えないものの、犯罪被害者の方のサポートが不十分であることなどについて解説させていただきました。 私は、刑事事件の被疑者や被告人の弁護人として選任されることが多く、被疑者・被告人の人権が不当に制約されていると日々感じていますし、諸外国から人質司法と揶揄されている我が国の刑事司法について、被疑者・被告人をより手厚く保護する方向で改善していかなければならないと考えています。 一方で、犯罪被害者に対して十分なサポートがなされていないにもかかわらず、加害者である被疑者・被告人だけを保護しようというのではバランスを欠きますし、何らの落ち度もなく被害に遭うこととなった被害者をより手厚く保護すべきだという考えは極めて真っ当なものといえます。 我が国の刑事司法を改善していくにあたっても、被害者の保護をより手厚く考える必要があることは明白なものといえるでしょう。

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