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コラム

少年法は何故存在するのか。

簡単に言うと…
  • 少年法は少年の健全育成を目的としており、罪を犯した少年にする応報として刑罰を科そうとするものではない。
  • 一方で、少年に対する保護処分(特に少年院送致)には、少年に対する制裁としての意味合いがあることも否定できない。
  • 少年法が適用されることによって、不当に少年を甘く取り扱うという事態が招かれることはなく、少年に対する適切な処遇のためにも、少年法は必要である。
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 改正少年法が施行されて数カ月が経過しました。多くの弁護士が改正に反対しておりましたが、18歳及び19歳の少年については特定少年として扱われることとなり、これまでと比較すると成年と同様の刑事裁判を受け、刑罰が科される可能性が高まったということができると思います。
 もっとも、民法と同様に単純に成人年齢を引き下げるという改正ではなく、少年と成年の間に特定少年という中間項を創設するという内容でしたから、少年法の理念は18歳及び19歳の少年にも及ぶはずです。この特定少年が実務上どのように扱われていくのかに関する事案の集積を待って、改めて今回の少年法の改正については検討したいと思います。
 今回は、特定少年という新たな枠組みが創設されたことから、事件を起こした時には17歳だった少年が、取調べ等の捜査を受けている過程で18歳になった場合の扱いについて解説させていただこうと思ったのですが、まずはその前に、少年法が適用されるということが、どのような意味を持つのかについて改めて解説させていただこうと思います。
 というのも、今回の少年法改正は、民法の成人年齢引き下げなどに伴うものであって、罪を犯した少年に対する制裁が軽すぎるという理由に基づくものではないものと理解していますが、それでも未だに少年法という法律の存在によって、罪を犯した少年への制裁が甘すぎて、少年による犯罪を抑止できていないという理解が広まりすぎているという懸念があるからです。
 年齢超過の問題を議論する際には、少年法を適用する必要性を御理解いただくことが前提になろうと思いますから、まずは少年法というものについて簡単に改めて解説させていただきたいと思います。

1.少年法の存在意義

(1)少年法の性質

 まず、少年法が何故制定されているのかについて、少年法自体が定めていますので確認してみたいと思います。

少年法

(この法律の目的)
第1条
 この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

刑事訴訟法

第1条
 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。

 少年法は、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする旨が定められていますので、どのような行為を「刑事事件」として扱うのかを定めるものではありません。したがって、少年法は刑事手続について定めた内容で、成人であれば犯罪となるような行為を非犯罪化したり、成人であれば犯罪とならないような行為を犯罪として定めたりするようなものではありません。  
 そこで、対比されるべきは刑法ではなく、刑事事件についての手続を定めた刑事訴訟法ということになります。
 刑事訴訟法と比較した時に、刑事訴訟法は刑罰法令を適用実現することが目的となっている一方で、少年法は、性格の矯正や環境の調整に関する保護処分を行うことが目的となっている点が、大きく違いそうだということが分かります。  
 罪を犯してしまった成人に対して刑罰を科す目的の一つとして、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律30条が、「受刑者の処遇は…改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行う」と定めているとおり、その方の更生ということが定められていますから、この点については少年法と共通する部分が認められそうです。  
 しかし、刑罰は罪に対する応報として加えられるものであるという側面もあり、更生のみを目的とするものではありませんから(この点についてはこちらの記事を御確認ください。)、この点で少年法とは目的を異にするということになります。  
 つまり、少年法は、少年が犯罪行為に及んだとしても、当該行為に対する応報として何らかの制裁を加えようとはしていないということになる訳です。

(2)成人に対する扱いとの相違点

 理念としての違いは御理解いただけたかと思いますが、少年法が適用された場合には、具体的にどのように扱いが変わるのでしょうか?  
 推知報道の禁止(少年法61条)や勾留請求の要件の厳格化(少年法43条3項 もっとも、実際上は少年に対しても比較的簡単に勾留が認められてしまっているのが実情です)など、成人と異なる取扱いを定めた規定はあるのですが、少年法の適用によって少年に対して十分な制裁が与えられていないと理解されている最大の根拠は次の条文ではないかと感じています。

少年法

(死刑と無期刑の緩和)
第51条
1項 罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する。
2項 罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、無期刑をもって処断すべきときであっても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、10年以上20年以下において言い渡す。
(不定期刑)
第52条
1項 少年に対して有期の懲役又は禁錮をもって処断すべきときは、処断すべき刑の範囲内において、長期を定めるとともに、長期の2分の1…を下回らない範囲内において短期を定めて、これを言い渡す。…

 つまり、成人であれば死刑が宣告される場合でも少年には無期懲役が科されることとなり、1ランク下の刑罰が選択されることになります。また、成人の事件においては定められていない「不定期刑」という刑が適用されることとなりますから、その刑期の短期が定められることで、成人に対して科される懲役の期間よりも短い期間が科されているかのように感じられるのではないかと思います。

2.少年法の適用によって少年に対する制裁は軽くなるのか

(1)「制裁」としての意味合い

 冒頭でお伝えしたとおり、少年法においては、罪を犯した少年に対する応報として刑罰を科そうという発想はありません。とはいえ、そのことから、少年法が少年を甘く扱っているということにはつながりません。  
 いかに性格の矯正等を目的とする保護処分であって、少年院に送致することは懲役と異なり刑罰ではないとは言っても、社会や家族から隔離され、身体を拘束されることには変わりありません。ですから、罪を犯したことに対する「制裁」としての意味合いは否定できません。  
 また、先程条文を確認したとおり、少年に対して死刑を宣告することはできませんし、成人であれば無期懲役が妥当だと考えられるケースにおいても、有期懲役刑を宣告しばければいけませんから、このような事案においては、成人よりも少年の方が明確に甘い制裁が科されることになります。  
 しかし、死刑や無期懲役を宣告すべき事案は極めて例外的な事案です。例えば複数人を殺害するような重大な事件を起こす際に、少年法によって死刑にならないことを奇貨として、少年だから人を殺害しようという発想になることは考えられません。むしろ、死刑によって自身の人生を終わらせることを動機として、重大な犯罪に及ぶような事案の方が散見されます。

(2)環境の調整

 では、このような極めて例外的な重大事件以外の場合において、少年は成人よりも軽い制裁しか受けていないと言えるのでしょうか。  
 少年院に送致されることと刑務所に服役することを同列に扱うことはできませんし、被告人に対する量刑や非行少年に対する保護処分の程度は、問題となっている犯罪行為だけでなく、個別の事案に応じて様々な事情を総合して決められているものですから、少年に対する制裁の方が成人に対するものよりも重い・軽いということを統計で明らかにすることはできないと思っています。  
 そもそも、保護処分ですから、制裁としての「甘さ」「厳しさ」を問題とすることは適切ではないようにも思います。  
 しかし、少なくとも、制裁としての「甘さ」「厳しさ」という観点で考えたとしても、少年法の存在によって、少年に対する制裁が不当に軽くなっているとは思えません。
 まず、少年法には虞犯という概念が存在します。少年法3条は、家庭裁判所の審判に付すべき少年として、罪を犯した少年(1号)に加えて、「その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年」 (3号)も列挙しています。  
 ですから、少年法は罪を未だに犯していない少年であったとしても、家庭裁判所が少年院で矯正を図るべきだと判断した場合には、社会から隔離して身体を拘束することを可能としているのです。これは成人であればあり得ないことです。  
 また、実際に罪を犯した場合についても、成人であれば前科がなければ不起訴処分や略式起訴等、裁判を受けることなく刑事手続が終了する場合であっても、少年法が適用された結果、家庭裁判所の審判を受けることとなることは多く認められますし、その結果として少年院に送られるケースも考えられます。  
 それは、成人が罪を犯した場合には、その罪の大きさによって応報として科されるべき刑罰の内容も決まることになりますが、少年の場合は、犯した罪が比較的小さい場合であっても、その生活環境や交友関係が、健全な育成に好ましくないと判断される場合には、そのような環境の調整のために、少年院送致という極めて重い制裁を受けることがあるからです。

3.少年法の必要性

 少年法が少年に対してこのような扱いをしているのは、少年が周囲の環境の影響を強く受ける存在であるという理由からです。  
 成人が罪を犯す場合においても、周囲の影響を強く受けていることは多いのですが、自ら自立して生活することのできる能力を有していた場合、そのような環境において生活を続けてきたとしても、自己責任の問題として扱うことが可能なことが多いです。  
 一方で、少年の場合には、自立して生活するための基盤を有していませんから、犯罪行為に近い環境で生活をしてきた場合、そこから自力で抜けだすことが極めて困難ですし、何が悪かったのかは人それぞれですから、問題を特定することは簡単ではありません。  
 成人と同じ刑事裁判で少年の事件を扱おうとした場合、あくまでも刑事裁判は有罪か無罪かという点を前提に、被告人の犯した罪に対する責任の大きさを決める手続ですから、その背景を詳細に調査して確認するような手続とはなっていません。
 だからこそ、家庭裁判所における調査官による調査等、罪を犯すに至った背景をしっかりと調査を行うことのできる少年法の手続は必要になる訳ですし、決して少年に対する処遇が甘くなるばかりだという訳ではないのです。

4.少年事件に強い弁護士とは

 成人の事件における刑事事件の弁護士のことを弁護人と呼ぶのですが、少年事件においては付添人と呼びます。呼称だけでなく弁護士に求められる活動内容は大きく変わることになるのです。  
 この点、犯罪の成立を否定するようなケースにおいては、無罪を主張するという点は同じですが、争い方は大きく異なります。成人の事件においては、検察官が提出する証拠について、刑事事件の弁護士はその証拠を取り調べたいという検察官の請求に不同意意見を述べることによって、検察官が裁判所に証拠を提出する事を防ぐことができるのですが、少年事件の場合には全ての証拠が家庭裁判所の手元にある状況で、無罪を主張しなくてはなりません。  
 ですから、刑事事件の経験があったとしても、必ず少年事件の手続にも精通しているという訳ではないのです。  
 更に、少年事件は一般的に成人の事件よりも早い段階で審判の日程が設定され、早期に手続きが終了することになるので、少年との信頼関係を早期に構築する必要があります。  
 信頼を勝ち取るためには、専門家として知識や経験だけでは不十分で、少年と同じ目線で話をすることに加えて、少年に付添人弁護士が味方であるという事をしっかりと理解させる必要がありますし、逆に自身にとって便利な存在だというように軽視されてもいけません。まさに刑事事件の弁護士の人間力が試される事件といえます。

5.まとめ

 本当は、年齢超過の問題について取り扱おうと考えていました。それは、急いで捜査をすれば少年法を適用して手続を進めることができたというケースにおいて、捜査機関のミスで捜査が遅れてしまった場合であっても、基本的には少年法を適用することなく、成人と同様の手続で裁判を行うこととしている現在の実務に疑問を有していたことや、捜査の遅延によって特定少年となる年齢に達してしまった場合についての取扱いについて解説させていただきたかったからです。  
 しかし、このような話をするにあたっては、できる限り少年法を適用すべきだという理解が前提になければ、「どっちの手続を使ってもいいじゃん。変わらないでしょ。」という結論にしかならないように思いましたので、改めて少年法の必要性について解説させていただきました。
 次回のコラムでは年齢超過の問題を扱おうと思います。

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