ご家族・ご友人が逮捕・起訴されてしまったら、すぐにお電話ください!

0120-845-018

受付時間:7時~23時(土・日・祝日も受付)

初回電話
相談無料
守秘義務
厳守
東京 埼玉 神奈川 千葉

コラム

DNA採取と捜査

簡単に言うと…
  • 多くの事件において、被疑者の承諾を得た上で、DNA型情報を得るための口腔内細胞が採取されている。
  • DNA型情報を採取するには、被疑者の承諾か令状が必要となることに加えて、捜査の必要性が認められなければならない。
  • DNA型の情報の抹消を命じた裁判例や、採取の必要性を慎重に検討することを求める通達が出されており、慎重な運用が求められている。
詳しくみる

弊所では刑事弁護に関する御相談を毎日いただいております。警察官による取調べを受けた後のタイミングで御相談いただくことも多いのですが、その中には、警察官の求めに応じて、口腔内細胞を提供してしまったことなどをお話しいただくことがあります。
 口腔内細胞の採取は被疑者のDNA型に関する情報を取得するために行われております。DNA型の情報が真実を解明するにあたって非常に有益な場合もあり得ますが、単純な万引き犯や盗撮犯等、問題となっている事件を明らかにするにあたって、DNA型の情報を明らかにする必要性が認められないような場合でも、広く行われているようです。
 このような捜査は適法なのでしょうか。断ることはできないのでしょうか。
 今回は、このようなDNA型の情報に対する捜査について、解説させていただきたいと思います。  

任意捜査としての適法性

 多くの場合、口腔内細胞を採取される際に、警察官から口腔内細胞を採取したい旨について説明はあるものの、採取のための令状が示されることはありません。警察官は何を根拠にこのような捜査を行えるのでしょうか。
 まずは、刑事訴訟法の関係しそうな条文を確認してみましょう。

刑事訴訟法

第197条1項
捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

 刑事訴訟法197条1項が捜査機関による任意捜査の根拠条文となっています。「強制の処分」に該当しない場合には、必要な捜査を捜査機関は行えることになりますから、被疑者が口腔内細胞を提供することを承諾している場合には、「強制の処分」に該当するものとはいえず、任意の捜査として行うことが許されると考えられます。
 しかし、被疑者が口腔内細胞の提供を承諾している場合であっても、任意の捜査として許容されるのは、捜査の目的を達成するための必要性がある場合に限られます。被疑者のDNA型の情報を捜査に活かすためには、そのDNA型の情報と他の場所で採取されたDNA型の情報とを照合する必要がありますから、照合対象がないにもかかわらず、口腔内細胞を採取しようとするのは、任意捜査としても違法なものと考えられるはずです。

口腔内細胞の提供を拒絶した場合

令状に基づく場合

 一方で、何らかの理由で捜査のためにDNA型の情報を入手する必要性が認められる場合であっても、被疑者が口腔内細胞の提供を承諾しなかった場合、口腔内の細胞の提供を無理強いすることはできるのでしょうか。

刑事訴訟法

第218条
1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするに
ついて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

3項 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。

 刑事訴訟法218条3項は、身柄の拘束を受けている(逮捕又は勾留されている)被疑者に限定していますが、被疑者を裸にしない限りにおいて、令状がなくても写真撮影等は行える旨が定められています。
 しかし、口腔内細胞の採取については、令状なしに行えるとは定められておりませんから、鑑定処分許可状等の令状が必要となるはずです。
令状があれば何でも許されるという訳ではありませんが、適法に令状が発付されている場合には、強制的に採血や採尿を行うことも許容されていますから、口腔内細胞の採取についても、許容されることになるでしょう。
 したがって、適法に令状が発付されている場合には、捜査の必要性が認められる限り、口腔内細胞の採取は許容されることになるものといえます。

無令状で行えるか

 とはいえ、冒頭でお伝えしたとおり、口腔内細胞の採取にあたって令状が発付されているケースは多くありません。
 それは、被疑者が承諾していなければ、常に「強制の処分」に該当し、令状が必要になる訳ではないという点が原因だと思われます。したがって、被疑者の承諾を得ることなく、口腔内細胞を採取する捜査が、「強制の処分」にあたらないとすれば、令状をなくして行う口腔内細胞の採取に関する捜査も適法だと解される余地があるのです。
 任意捜査として許されるのか、「強制の処分」に該当するために令状が必要となるのかは、非常に難解な論点なので、今は深くは立ち入りませんが、DNA型情報を得るための捜査が「強制の処分」にあたるかどうかについては、次のような裁判例が存在します。
 東京高判平成28年8月23日(高刑69巻1号16頁)は、DNAの採取目的であることを伝えずに、コップにそそいだお茶を飲むよう被告人に勧め、被告人に使用したコップの管理を放棄させて回収し、そこからDNAサンプルを採取したという事案について、「強制力を用いたりしたわけではなかったといっても、DNAを含む唾液を警察官らによってむやみに採取されない利益(個人識別情報であるDNA型をむやみに捜査機関によって認識されない利益)は、強制処分を要求して保護すべき重要な利益であると解するのが相当である。」と判示して、令状を得ることなくDNAサンプルを採取した捜査は違法であることを明らかにしました。
 したがって、被疑者が口腔内細胞の提供を承諾しなかった場合には、捜査機関は令状を得なければ、被疑者の口腔内細胞を強制的に採取することは許されないものといえます。

拒絶することの困難さ

 しかし、警察官から口腔内細胞の提供を求められた際に、被疑者として扱われることに慣れている方であればともかく、そうでない方が警察官の要求を拒むことは極めて困難なように思います。
 それは、疚しいことがないのであれば、DNA型情報を捜査機関に入手されることについて何ら不利益がないようにも思える点だけでなく、捜査機関による強い要求を拒絶するためには、強靭な精神力が要求されるからです。
 日本弁護士連合会等は、口腔内細胞の提供等に関する被疑者等の承諾を得るにあたっては、採取の意味や利用・保存方法などを書面により説明し、書面による承諾を得る必要があることに加えて、被疑者が任意に提供することを明確に拒絶した場合には、それ以上の勧誘や説得を行わないことについて、捜査機関に勧告を行っています。
 もっとも、警察官からの求めを拒否することができず、DNA型の情報を提供してしまったとする相談は、現時点においても数多く受けておりますから、口腔内細胞等が半ば強制的に採取されてしまっているという問題点は現時点においても解消されていないものといえます。

DNA型情報の抹消

 何故、捜査機関が、DNA型の情報の採取を強く望むかというと、DNA型の情報を多く管理することによって、過去の未解決事件や将来の事件の捜査に役立てたいという理由が大きいものといえます。
 しかし、この点について、名古屋地判令和4年1月18日(平成30年(ワ)第3020号等)が画期的な判断を下しています。
 この判決は、DNA型がデータベース化されることにより科学的な捜査が可能となるため、極力多数のデータを収集・蓄積することが望ましいことに加え、DNA型がデータベース化されても、国民が罪を犯すことなく私生活を送る上では、格別の不利益があるともいい難いようにも思われると認めつつも、「(自身のDNA型情報について)みだりに使用されない自由に対する侵害があるといわざるを得ない。」として、問題となっている被告人との関係においては、無罪判決が確定していることなどから、余罪や再犯可能性を認めることができず、DNA型情報を保管する必要性が認められないとして、被告人のDNA型等の情報を抹消するように国に命じました。
 この裁判は、DNA型情報の入手手続を違法としたものではなく、その情報の保管を続けることが許されないと判断したものですが、その情報を採取する必要性の有無についても、適切に検討させる契機となり得るものといえます。

まとめ

 令和4年4月1日に、警察庁は「DNA型鑑定資料の採取等における留意事項について」とする通達(丁鑑発第539号等)を発し、その中で、DNA型鑑定資料を採取する必要性について、「個別具体の事案に即して、組織的に検討を行うこと」を改めて求めています。
 そして、余罪等に関する捜査のための必要性については、「罪種、手口及び態様、当該被疑者の言動、所持品、生活状況及び前歴、関連地域における犯罪の発生状況等を総合的に考慮して、DNA型鑑定を行うことにより当該被疑者の余罪の有無を確認する必要性が認められる場合」と説明しています。
 今後、このような必要性の判断が厳密に行われ、不要な口腔内細胞の採取が行われなくなることを期待したいと思います。
 一方で、必要性が認められない状況下において、口腔内細胞の提供を求められた場合であっても、捜査機関に対して余計な疑惑を与えないように、任意に提供するという選択肢に合理性が認められるケースもおおいに考えられます。
 個別の事案に応じた判断が必要になるものといえるでしょう。

Tweet
関連する記事