1.まずは捜査が行われた場所の検察庁や裁判所が対応する
少年事件においても、成年事件と同じように、警察官が捜査した内容については、原則として検察庁に送致されることとなります。そして、検察庁は少年事件について、原則として家庭裁判所に送致する必要がある旨も解説させていただきました。
少年事件では、全件送致主義により、全ての事件が家庭裁判所に送致されます。検察官は「嫌疑なし」と認められる場合を除き、事件を家庭裁判所に送致しなければなりません。弁護人は、嫌疑を晴らすために積極的な主張が求められます。
そして、担当する検察庁や家庭裁判所も、成年事件と基本的には同様です。どの裁判所に管轄が認められるかについて、法律は次のような定めを置いております。
刑事訴訟法
第2条1項 裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による。
2項 国外に在る日本船舶内で犯した罪については、前項に規定する地の外、その船舶の船籍の所在地又は犯罪後その船舶の寄泊した地による。
3項 国外に在る日本航空機内で犯した罪については、第一項に規定する地の外、犯罪後その航空機の着陸(着水を含む。)した地による。少年法
第5条1項 保護事件の管轄は、少年の行為地、住所、居所又は現在地による。
2項 家庭裁判所は、保護の適正を期するため特に必要があると認めるときは、決定をもって、事件を他の管轄家庭裁判所に移送することができる。
3項 家庭裁判所は、事件がその管轄に属しないと認めるときは、決定をもって、これを管轄家庭裁判所に移送しなければならない。
用いられている文言は異なりますが、基本的には、「犯罪地」(刑事訴訟法)や「少年の行為地」(少年法)がある場所の裁判所が担当することになります。
犯罪が行われた場所の裁判所が担当することが多いのは、犯罪が行われた場所に証拠が多く存在する可能性が高いことに考慮されているものと解されます。
ですから、東京都内で発生した事件については、警視庁の警察官が捜査を担当することになることがほとんどです。そして、警視庁の警察官は、捜査した事件を東京地方検察庁(又は東京区検察庁)に送致し、東京の検察官が、終局処分の判断を行うことになるでしょう。さらに、東京地方検察庁の検察官は、東京家庭裁判所に事件を送致することになる訳です。
2.少年の住所を管轄する裁判所に移行されることが多い
成年事件の場合、東京地方裁判所に起訴された被告人の事件が、事後的に他の土地の裁判所に移送されることはほとんどありません。仮に、被告人が九州に在住している人間であり、保釈が許可されたことによって、九州で生活をしつつ裁判を待つことになったとしても、九州の裁判所に事件を移送することは原則としてありません。
一方で、少年事件の場合には、犯罪が行われた場所の家庭裁判所に送致をされた場合であっても、少年の住所地が異なる場所にある場合、その土地を管轄する家庭裁判所に移送されるケースがほとんどです。
これは、少年事件においては、少年の更生に重きをおいているため、犯罪が行われた場所よりも、少年が更生を図る場所の方が重要であることが理由となっています。
したがって、九州で生活していた少年が、旅行先の東京で事件を起こした場合、家庭裁判所に送致されるまでは東京の捜査機関が担当し、東京の家庭裁判所に送致された後に、東京の家庭裁判所から、九州の家庭裁判所に移送されることが予想されます。
そうすると、捜査段階においては東京都内で勤務している弁護士を選任する必要がありますが、家庭裁判所に移送された後は、九州で活動できる弁護士を確保する必要があることになります。
3.更生計画の内容によって係属裁判所は異なり得る
では、東京で一人暮らしをしている少年が、九州にある実家に帰省中に罪を犯して、家庭裁判所に送致されることとなった場合、いずれの裁判所で審判が行われることになるでしょうか。「行為地」は九州で、「住所」が東京の場合です。
付添人としては、「行為地」である九州で審判を行うことを望むことが多いように思います。それは、捜査段階と同一の付添人による継続的なサポートを行えるという点もありますし、御実家も行為地に近いようであれば、御両親等によるサポートも受け易いからです。
もっとも、少年が東京での一人暮らしを継続させることを望んだ場合には、九州で更生を図ることはできませんから、住所地である東京で審判を行う可能性もあります。
後述するとおり、家庭裁判所では、審判を行うまでの間に、調査官による調査を行います。そして、審判終了後に少年がどこで生活するのかによって、少年の更生に有用な資源等も変わってきますし、調査の対象も変わってきます。ですから、裁判所としては早い段階で、審判を行う裁判所を決めてしまいます。
したがって、どちらかの裁判所で審判を行いたいという希望がある場合には、家庭裁判所に送致されて直ぐの段階で、どちらの裁判所に係属させるべきかについて、付添人から説得的な意見を主張する必要があります。
そのためにも、捜査段階において、今後の少年の生活をどうするのかについて、少年及び少年の保護者と共に、十分な打ち合わせを行う必要があるのです。