1.審判の手続は法律によって厳格に定められていない
少年審判は、成年の刑事事件の裁判と大きな違いがあります。しかしながら、その手続については、詳細な規定が置かれておりません。大きな違いとして、検察官の参加は原則として予定されていません。したがって、裁判所が検察官と弁護人に立証活動を行わせ、対立する当事者に訴訟を進行させるような手続とは異なり、裁判所が手続を主導することになります。このような手続は、特に無罪を主張する事件(少年事件においては非行事実を争う事件と呼びます)において問題が生じるのですが、ここでは罪を認めている少年に対する審判の流れについて確認していきます。
否認事件については、以下の関連記事を御確認ください。
少年事件における否認事件とは、少年が罪を否認する場合の事件を指します。否認事件では、家庭裁判所が少年の主張を慎重に審査し、証拠の評価を行います。弁護士は、少年の主張を裏付ける証拠を収集し、適切な法的アドバイスを提供することが求められます。
少年法
第22条1項 審判は、懇切を旨として、和やかに行うとともに、非行のある少年に対し自己の非行について内省を促すものとしなければならない。
2項 審判は、これを公開しない。
3項 審判の指揮は、裁判長が行う。少年審判規則
第25条1項 審判をするには、裁判長が、審判期日を定める。
第27条
2項 審判期日には、少年及び保護者を呼び出さなければならない。審判は、裁判所外においても行うことができる。
少年法は、少年事件における審判の手続について、「懇切を旨として、和やかに行う」ことに加えて、「自己の非行について内省を促す」といった抽象的な定めしかおいておりません。
検察官が原則として参加しない旨はお伝えしましたが、検察官が参加しなくても手続を進捗させられるのは、成年事件の刑事事件と異なり、検察官による立証活動が予定されていない点にあります。つまり、検察官は家庭裁判所に事件を送致する際に、少年事件についての捜査資料を全て送っており、裁判官もその内容を確認した上で少年審判に臨んでいるのです。したがって、裁判官は、少年や少年の保護者の供述内容も含めて、事件の内容を捜査機関から送致された書面で把握しているものと言えます。
2.実際の手続の流れ
少年審判においても、成年事件と同様に、最初に人定確認を行います。そこでは、氏名・生年月日・職業・住所の他に、本籍も確認されます。自身の本籍を把握している少年は多くありません。冒頭の手続でつまずいてしまうと、その後の手続における精神的な余裕が失われてしまうことになりますので、本籍については事前に確認しておくといいでしょう。
その後、裁判官から、どのような事実について審判を行うことになるのかについての説明がなされ、少年及び付添人弁護士が応答することになります。検察官による起訴状朗読がないこと以外は、ここまでの手続は成年事件とほぼ同様です。
この後の手続が成年事件とは大きく異なることになります。裁判官による少年に対する質問にそのまま移行することになるのです。事案によっては、付添人からの質問を先行してくれるケースはありますが、多くの場合、裁判官からの質問が先行することになります。弁護人の質問からスタートできる成年事件においては、質問の内容や回答案について事前に準備することができますが、少年事件の場合には、裁判官による質問内容を事前に想定しておく必要があるのです。
ですから、どれだけ準備しても、少年の性格等が原因で、裁判官の質問に対してうまく回答することが見込めない場合には、事前に審判の進行方法について、付添人を通して裁判官に折衝しておくことが求められます。裁判官は、少年に対する質問を終えた後、少年の保護者等、審判の参加者に対して質問をすることになります。少年の保護者に対する質問について、確認程度しか行わない裁判官も存在しますが、成年事件以上に、少年事件においては、少年の保護者による少年に対する指導力の有無が、最終的な処分の内容に直結することになります。少年審判は、少年の教育に必要な処分を定める手続であって、少年の刑事責任の重さを判断する手続ではないため、御両親等の保護者の指導能力の有無や程度という事情は、公的な機関による指導・監督の必要性に直結する要素なのです。したがって、少年の保護者との関係においても、裁判官からの質問を想定しておき、予め、その質問に対する回答を準備しておくことが必要になります。
裁判官による質問を想定しておくということは、簡単ではありません。しかしながら、裁判官は捜査機関から送致された記録に加えて、裁判所調査官からの報告を受けて、少年や少年の保護者に対する質問事項を考えています。特に、調査官は、少年や少年の保護者等の養育環境の問題点について、相当に詳細な内容を意見にして報告しておりますから、調査官と事前に問題点について意識を共通にしておけば、裁判官が直接確認を求めたい事項についても、ある程度想像することが可能です。
この意味でも、調査官による調査への対応は重要なのです。
裁判官からの質問が終わった後に、付添人弁護士から少年や少年の保護者に対する質問を行います。そして、付添人弁護士からの質問を終えた後、家庭裁判所の調査官等も、少年や少年の保護者に対する質問が可能となります。
少年事件において、少年審判に手慣れている少年はほとんどいませんし、そのことは少年の保護者も同様です。裁判官から聞かれた内容について、十分に吟味してきたにもかかわらず、正確に話すことができないということはあり得ます。付添人弁護士としては、これまで少年と少年の保護者が十分に話し合ってきた内容を裁判官に伝えることができるように、時には誘導するような質問を挟みつつ、少年及び少年の保護者をサポートすることが求められます。
また、調査官は、少年や少年の保護者との面談の際に、審判までに考えてくるようにと宿題を課すケースも多くみられます。少なくとも、その宿題の内容については、調査官がそのような宿題を課した趣旨も踏まえつつ、具体的な考えを示す必要があるでしょう。
3.裁判の場所や時間等
通常の場合、少年審判は1時間以内に終わることが多いです。この点も、成年の刑事事件と同様です。しかしながら、成年の刑事事件における裁判については、他の裁判のスケジュール等の問題もあり、1時間を超えそうになった場合には、一度その段階で裁判を終わらせた上で、次回期日を定めることが多い一方で、少年事件においては、多少時間を超過してでも、最後まで手続をやりきることが多い印象です。
ですから、裁判官の質問に答えにくい点があっても、黙っていれば次の質問に移行してくれるほど甘くはなく、たっぷりと時間を使って質問されるケースが多いです。
個人的には、1時間程度と言われていた審判で、2時間を超えて審判が行われたケースも経験しました。
次に、審判は、「公開しない」と定められているとおり、成年事件における裁判のように、傍聴席のある公開の法廷では行われません。家庭裁判所内にある審判廷で行われるのが通常です。一方で、少年審判規則においては、「裁判外」でも審判を行える旨が規定されております。
場所については、裁判所から指定されますので、あまり間違うことを心配する必要はありませんが、家庭裁判所外で審判を行うケースとして、少年鑑別所内の一室で審判を行うことも珍しくありません。当日、勘違いで別の場所に出廷することがないように、十分に注意していただければと思います。
4.手続への関与者
少年審判の場合、検察官は原則として参加しないことは、先ほどお話しさしあげました。では、どのような人間が少年審判においては参加するのでしょうか。少年法や少年審判規則は、次のように定めています。なお、例外的に検察官が参加する手続については、否認事件の解説の際に御説明させていただきます(関連記事:「否認事件について」を御確認ください)。
少年法
第2条1項 この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。
2項 この法律で「保護者」とは、少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者をいう。少年審判規則
第25条1項 審判をするには、裁判長が、審判期日を定める。
第28条
2項 審判期日には、少年及び保護者を呼び出さなければならない。1項 審判の席には、裁判官及び裁判所書記官が、列席する。
第29条
2項 家庭裁判所調査官は、裁判長の許可を得た場合を除き、審判の席に出席しなければならない裁判長は、審判の席に、少年の親族、教員その他相当と認める者の在席を許すことができる。
少年審判規則においては、少年の保護者を呼び出す旨と、付添人が審判に出席できる旨が定められています。そして、少年の保護者とは、少年に対して法律上監護教育の義務のある者及び少年を現に監護する者と定められていますので、実際に同居して少年を監護していない保護者であっても、親権者であれば、少年審判に参加することはできることになります。
また、少年審判規則においては、原則として調査官の出席を求めています。しかしながら、調査官が出席する少年審判の方が多いかと言うと決してそうではありません。裁判所による処分がある程度見えている事件においては、調査官が出席しない少年審判の方が多いのが現状といえるように思います。
このような方々に加え、少年審判規則第29条においては、審判を行うにあたって相当と認める者の在席が許可されるケースがあります。保護司が既に選任されている場合の保護司や、学校の教員等が在籍するケースが多いようです。実際に、審判に呼び出される関係者は、今後の少年の更生環境のキーとなる方が呼ばれるケースが多く、審判に出席することを聞いた場合には、当該関係者との間でも、今後の少年の更生環境の整備方法について、十分に話し合いを行っておく必要があるでしょう。