いつまで少年なの?少年法の適用範囲。
- 犯罪に及んだ時点ではなく、現在時点で20歳未満である方が、少年法上の「少年」として扱われる。
- 死刑を宣告できるかどうかなど、犯罪に及んだ時点で年齢を問題とする条文も存在する。
- 18歳以上20歳未満の「特定少年」についての取扱いがどこまで変わるのかについては、今後も運用を見守る必要がある。

岡本 裕明
成年年齢を20歳と定めていた民法が改正され、2022年の4月1日から18歳以上の方が成年として扱われることになりました。一方で、20歳になるまで飲酒や喫煙は禁止されたままですし、競馬等の公営競技との関係でも馬券の購入は20歳まで許されていません。
ですから、これまで20歳が基準となっていたものの全てが、18歳に引き下げられたという訳ではなく、各法律によって年齢制限が定められている状況にあります。
少年法についても、民法等と同じように、18歳以上には適用しないように改正することの可否が議論されましたが、結局20歳未満を少年として扱うこととなっています(もっとも、18歳と19歳については、18歳未満の少年とは異なり、「特定少年」として扱われることになりました。「特定少年」については、「特定少年について 」の記事を御確認ください。)。
では、この「20歳」という年齢は、いつの段階の年齢を意味するのでしょうか?問題となっている犯罪行為に及んだ際の年齢を意味するのでしょうか?或いは、少年事件の手続を、20歳を超えるまでに全て終わらせる必要があるという趣旨なのでしょうか?
冒頭で、年齢制限については、各法律によって個別に定められている旨を説明させていただきましたが、少年法の中でも、どの段階の年齢を問題にしているのかについては、条文毎に違いがあり、一般の方には分かり難い定めとなっています。
今回は、少年法の適用される範囲について、年齢という点に着目して解説していきたいと思います。
目次
1.処分時の年齢

岡本 裕明
まず、少年法が年齢についてどのように定めているか確認してみましょう。
少年法
(定義)
第2条1項
この法律において「少年」とは、20歳に満たない者をいう。
まず、少年法では「少年」は「20歳に満たない者」とされていますので、18歳や19歳も「少年」であることは明らかです。しかし、この定義規定からは、いつの時点で「20歳に満たない」場合に、「少年」として扱われるのかについて、明確に定められていません。
少年法
(審判を開始しない旨の決定)
第19条
1項 家庭裁判所は、調査の結果、審判に付することができず、又は審判に付するのが相当でないと認めるときは、審判を開始しない旨の決定をしなければならない。
2項 家庭裁判所は、調査の結果、本人が20歳以上であることが判明したときは、前項の規定にかかわらず、決定をもって、事件を管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。
しかしながら、少年法第19条2項は、少年が「20歳以上」であることが判明した場合、家庭裁判所で少年審判を行うのではなく、検察官に送致する旨を定めています。つまり、検察官によって、起訴するか不起訴にするかを判断させることになりますので、通常の成年事件と同じように扱うことになるのです。このような手続のことを、年齢超過による逆送手続といいます。
したがって、家庭裁判所での少年審判によって、少年院送致や保護観察処分等の処遇を決められるのは、当該手続が行われているその時点で「20歳未満」であることが求められ、犯罪行為に及んだ歳に「20歳未満」であったとしても、捜査中に「20歳以上」になってしまった場合や、捜査を開始する前に「20歳以上」になってしまった場合には、通常の成年に対する手続と同じように扱われることになるのです。
2.20歳を超えても少年として扱われる場合

岡本 裕明
ですから、捜査の最初の段階では少年法上の少年として扱われていたとしても、途中で誕生日を迎えてしまった場合には、検察官に逆送され、成年と同じ刑事処分が科されることになってしまいます。
しかし、「20歳以上」になった方との関係で、少年法が一切適用されないという訳ではありません。
一つの例外が、「抗告」との関係です。成年事件との関係で、裁判所が宣告した判決に不服がある場合には、高等裁判所等に対して控訴を申し立てることが可能です。少年審判で裁判官に言い渡された決定に不服がある場合には、「控訴」ではなく「抗告」を申し立てることができます。
では、「抗告」を申し立てた後に、20歳の誕生日を迎えてしまった場合、常に少年審判で言い渡された内容が覆され、検察官に送致されるのでしょうか。
もし、「抗告」が認容された場合、家庭裁判所の判断は取り消されることになります。そして、この点が成年事件における「控訴」と大きく違うのですが、抗告審においては、家庭裁判所の判断を取り消すべきだと判断した場合であっても、抗告審が適切だと思う処分を自ら決定することができません。必ず、家庭裁判所に差し戻す必要があると少年法第33条2項で定められています。
そうすると、差し戻された家庭裁判所において、新たに何らかの判断を下す必要があるのですが、その段階ですでに「20歳以上」になってしまっている場合には、少年として扱うことができませんから、検察庁に逆送されます。
逆に、「抗告」が棄却されてしまった場合には、家庭裁判所の判断が維持されることになります。成年事件の場合には、「控訴」が棄却され、「上告」がされなかった場合、控訴期間が経過した後に、第一審の裁判が確定することになります。ですから、「控訴」と同じように、「抗告」の場合も、「抗告」が棄却された後に、家庭裁判所の判断が確定すると考えると、「抗告」中に「20歳以上」となってしまった場合、「20歳以上」である少年ではない者に対して、家庭裁判所の判断した内容を確定させるかのように思えてしまいます。
この点、「控訴」と「抗告」の性質が違うのは、「抗告」したとしても、家庭裁判所の判断の確定を延期させる効力はないということです。つまり、服役を命じる判決に「控訴」した場合には、その判決に沿って直ちに刑務所に服役されることはありませんが、少年事件においては、少年院送致を命じる処分に「抗告」したとしても、少年院にはそのまま送致されてしまうのです。
したがって、少年院に送致するといった処分は、「20歳未満」に言い渡されている以上、抗告審中に「20歳以上」になっていたとしても、有効だと考えられているのです。
3.行為時の年齢が問題となるケース

岡本 裕明
以上のとおり、少年法は、最終的に少年心配の段階で、「20歳未満」である者を少年として扱うことを原則としていますが、例外的に、何らかの犯罪に及んでしまった段階での年齢が問題となるケースもあります。
代表的なものをいくつか確認してみましょう。
少年法
(死刑と無期刑の緩和)
第51条
1項 罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する。
2項 罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、無期刑をもつて処断すべきときであっても、有期の懲役又は禁錮を科することができる。この場合において、その刑は、10年以上20年以下において言い渡す。
(記事等の掲載の禁止)
第61条
家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない。
(記事等の掲載の禁止の特例)
第68条
第61条の規定は、特定少年のとき犯した罪により公訴を提起された場合における同条の記事又は写真については、適用しない…。
第51条は、「罪を犯すとき」と定めており、第61条は「少年のとき犯した罪」、第68条は「特定少年のとき犯した罪」と定めており、犯罪時の年齢を基準に判断する旨を定めています。
ですから、判決が宣告される際に、既に18歳を超えていたとしても、問題となっている犯行時に18歳未満であった場合には死刑を宣告することができません。また、無期懲役が相当だと判断される場合には、10年から20年の有期懲役までの刑罰しか宣告することができないのです。
また、第61条及び第68条は、推知報道の禁止について、報道する際の年齢ではなく、犯行に及んだ時に18歳未満と認められる場合に適用されることになるのです。
4.少年の年齢と弁護活動

岡本 裕明
上述したとおり、少年が「20歳以上」になってしまうと、適用される法律が大きく変わることになります。そして、少年法は、「少年の健全な育成」を期することを目的とした法律であり(同法第1条)、「刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現すること」を目的とする刑事訴訟法(同法第1条)と比較すると、少年のことを考えた処分を下してくれ易いといえるでしょう。
少年の更生のためには、親元を離れて少年院で生活させることが相当であると判断されるようなケースの中には、成年として刑事裁判を受けていれば、刑務所に服役させるレベルの重い刑事責任が問われることはないのではないかと感じるケースがあることは否定できません。とはいえ、基本的に、少年法によって処分された方が、少年にとって有利ということはできそうです。
ですから、20歳の誕生日を迎えた後に、成年として処罰を受けることを意図して、手続の遅延を狙うべき事案は、あまり想定できません。親子関係や生活環境等から、少年審判を受けた場合には少年院送致が相当と判断されそうだという状況であっても、成年として刑事罰を受ける方向で弁護するというよりは、少年審判において、社会内で更生を図れると判断してもらえるように弁護活動を行うべきだといえるでしょう。
そもそも、家庭裁判所としても、少年事件として送致された事件の少年が、20歳の誕生日を間近に控えている場合、切迫少年としてできる限り早期に手続を進捗できるように配慮してくれますし、付添人弁護士の活動によって、その手続を遅延させるということは困難なように思います。
他方で、捜査機関が、家庭裁判所に送致する前の段階で、20歳の誕生日を間近に控えているという事情を考慮してくれないというケースは、稀に接することがあります。弁護人の権限で、捜査を早期に終結させることを求めるような手段が法定されている訳ではありませんが、早期に家庭裁判所に送致できるように、執拗に求めていくことは必要でしょう。
また、20歳の誕生日を迎える前に手続を全て終わらせることができない可能性がある場合には、成年事件として扱われることを見越した弁護活動が求められることになります。
5.まとめ

岡本 裕明
以上のとおり、少年法の適用範囲について解説をさせていただきました。
少年法については、冒頭で御説明差し上げた通り、18歳や19歳も適用対象とされています。しかし、18歳と19歳の少年については、特定少年として扱われることになり、18歳未満の少年と同じ扱いではなくなりました。抽象的な説明で恐縮ですが、少年と成年と間のような取扱いとされています。
18歳や19歳の特定少年に対する取扱いが、18歳未満の少年とどれだけ変わってくるのかについては、まだまだ事案の集積が少なく、判然としない内容が多く残っています。
私達は、少年事件について、数多く御相談をお受けしております。お気軽にご連絡ください。
