最高裁における手続について。上告審は無駄なのか
- 上告審については、上告理由が厳格に定められている。
- 上告審において原判決が破棄される可能性は非常に小さい。
- 原判決を破棄する最高裁判所の判決は存在するため、安易に諦めるのではなく、一度第一審や第二審を担当した弁護人以外の弁護士にも相談するべき。

弁護士
岡本 裕明
私達が、日々刑事事件についての相談を受ける中で、最も多いのは、これから警察署に赴いて取調べを受けなくてはいけない段階や、御家族が逮捕されてしまったことに伴う対応に関する内容になります。
ですから、既に起訴されてしまった事件の相談については、起訴される前に御相談いただくケースと比較すると少なくなります。起訴された後は、御自身で弁護人を選任しなくとも、既に国選弁護人等が選任されていることが多いので、そのような弁護人の先生に相談することができているのではないかと思います。
他方で、起訴された後、判決まで宣告された後の段階で御相談いただくケースは少なくありません。或いは、判決宣告直前の段階で、判決が宣告された後のことを御相談いただくこともあります。
日本では三審制が採用されていますので、地方裁判所や簡易裁判所での心理や判決に納得がいかなかった場合、その判決に不服を申し立てることができますから、そのような不服申立の方法等について御相談いただくことになります。
この場合も、地方裁判所や簡易裁判所で行われている、第一審の弁護人は選任されているはずですから、そのような弁護人の先生に相談すればいいはずではあるのですが、第一審の手続や結果に不服がある以上、第一審に関与した弁護士以外の弁護士の意見を聞いてみたいと考えるのは自然でしょう。
このような、第一審における判決後のことについての相談として特徴的だと感じているのが、第一審判決前の段階で御相談いただく場合と比較すると、「このタイミングで依頼しても無駄ですよね?何も変わりませんよね?」という弱気な態度を示される機会が多いということです。
第一審の判決が宣告される前後で御相談される場合にも、このようなお話をされる機会は多いのですが、特に、第二審である高等裁判所での審理や結果に不服があると御相談いただく場合に、非常に顕著だと感じています。
2回も審理をした上で、こちらの言い分が受け入れられなかったことで、半ば諦めてしまう気持ちは十分に理解できますが、実際にはどうなのでしょうか?
今回は、最高裁判所に対する上告の手続について考えてみたいと思います。
目次
1.上告審とは

弁護士
岡本 裕明
まずは、最高裁判所に上告するという手続について、法律がどのように定めているのか確認してみましょう。当然、裁判には刑事事件だけでなく、民事事件等が存在しますが、私達は刑事事件についての弁護士として活動していますので、今回のコラムでは刑事事件についての上告についてのみ解説させていただきます。そこで、刑事訴訟法の条文を確認してみましょう。
刑事訴訟法
第405条
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
1号 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
2号 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
第408条
上告裁判所は、上告趣意書その他の書類によって、上告の申立の理由がないことが明らかであると認めるときは、弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができる。
第410条
1項 上告裁判所は、第405条各号に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。但し、判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合は、この限りでない。
第411条
上告裁判所は、第405条各号に規定する事由がない場合であっても、左の事由があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
1号 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
2号 刑の量定が甚しく不当であること。
3号 判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
4号 再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
重要な部分についても、今回の解説の対象ではない部分については、適宜省略してありますので、気になる方は法律の原文を御確認ください。
最高裁判所は、上告の申立の理由がないことが明らかな場合、弁論を経ないで上告を棄却することができる旨を定めています(細かいので省略しますが、判決ではなく決定で棄却することができます。刑事訴訟法第386条1項3号が同法414条によって準用されるからです)。このような場合、上告を申し立てたとしても、第一審や第二審のように法廷で審理される機会はなく、棄却する旨の通知が書面で送付されることになります。
そのようなことがないように、上告に際しては、上告理由を正確に記載する必要があるのですが、適法な上告理由として認められているのは、憲法や過去の最高裁判所の判例に違反する場合に限られています。
第一審や第二審の審理内容や結果に不服がある場合であっても、明らかに過去の先例や憲法に違反していると断言できるようなケースは少ないのではないでしょうか。
ここだけを見てしまうと、確かに、第一審や第二審で受け入れられなかった主張を、上告した上で最高裁判所に伝えても、結局棄却されるだけで無駄なのではないかという気持ちになってしまいそうです。
2.上告理由

弁護士
岡本 裕明
もっとも、刑事訴訟法第411条は、憲法や過去の最高裁の判例に違反する内容がなかったとしても、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するような法令違反や、量刑不当、事実誤認が認められる場合には、原判決を破棄することができる旨を定めています。
事実誤認や量刑不当の主張は、それぞれの事案に即して判断されるものですから、第一審や第二審の判決の内容が著しく不当であっても、憲法や過去の最高裁判所の判例に違反することにはならないでしょう。しかし、そのように著しく誤った判決を是正する機会がないとされてしまうと、誤った判決によって不当に刑を科される方が出てきてしまいます。
第411条は、そのような方々を救済できるように定められたものです。
ですから、法令違反や事実誤認の問題を含む第一審や第二審の判決に対して上告する場合、そのような誤りが、「著しく正義に反する」程度のものである旨を主張することになるのです。
上告趣意書をどのように起案するかは各弁護人の判断によるものと思いますが、主張したい内容が憲法や過去の最高裁判所の判例とは関連性が薄い場合、無理に第405条に列挙されている内容についての論述に紙幅を割かなくても、、第411条に列挙されている内容を適切に主張する方が、説得力のある内容になるのではないかと個人的には考えています。
実際に、裁判所の提供する裁判例検索で、最高裁判所の判例検索をしてみても、「実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない」としつつも、第411条の事由の有無を検討しているものは珍しくないのです。
3.統計

弁護士
岡本 裕明
とはいえ、第一審や第二審で認められなかった主張を、最高裁判所に認めてもらうためのハードルが極めて高いことは否定できません。
司法統計年報を確認してみましょう。
令和5年度に最高裁判所が受理した上告件数は1978件で、その内、1591件が同年度中に処理されているのですが、判決が破棄されたのは、その内の3件だけです。我が国における起訴された事件の有罪率として用いられることの多い、99.9%という数字以上に、棄却される可能性が高いということができるのです。
このような数値となってしまう原因はいろいろあり得ます。そもそも、最高裁がこれまでの結論を簡単にひっくり返すこと自体が、法的安定性との関係で好ましくないという点はあると思いますし、上告理由が極めて厳格に限定されているという点もあるでしょう。411条との関係でも、単に正義に反しているだけでは足りず、著しく正義に反している必要がある訳です。
更に、特に上告審の段階から依頼を受ける場合に困るのが、第一審や第二審において、被告人の主張したい内容が主張されていないケースです。
憲法や過去の最高裁判所の判断と矛盾する内容が含まれていると感じたとしても、第一審や第二審の段階において、そのような主張がなされていない場合には、「原審で何ら主張、判断を経ていない事項に関する違憲の主張である」として、その内容について判断されることなく棄却されてしまうことが多いのです。
4.上告審における弁護活動

弁護士
岡本 裕明
以上のように統計上の数値を見てしまうと、「最高裁判所に上告しても無駄でしょう」という気持ちになってしまうことが不合理とはいえない状況にあることが分かるかと思います。
特に、弁護士費用以外に、上告することのデメリットがない場合には、それでも最高裁判所が真摯に上告趣意書と向き合ってくれることに賭けて、上告を申し立てることに躊躇する必要はないように思います。
しかし、上告することによって、刑の執行が遅れ、社会への復帰時期が遅れることも懸念されると思います。弁護人とは異なり、不服があるようであれば、どのような判決に対しても上告すべきだという発想にはならないでしょう。
弁護人としても、上告によって原判決が破棄されるケースが極めて限られていることは理解しているはずですから、率直に上告すべきかどうかについてアドバイスを求めてみていただければと思います。
もし、その結果として上告を申し立てる方向が定まったのであれば、第一審及び第二審が抱えている問題点について、どのような問題点を指摘することが、最も上告理由を構成し易くなるかという取捨選択に加えて、理論的に整理された上告趣意書の起案に弁護人は努めることになります。
また、新たな証拠の提出等については、控訴審と同様に厳格に制限されており、何でも提出できる訳ではありませんが、最後の機会になりますので、その証拠が重要であることを上告趣意書の中で示しつつ、取調べを求めていくことになろうと思います。
上告審といっても、どのような主張かによって、その内容は大きく異なりますので、一律にどのような弁護活動が適切なのかを説明することは困難です。
最後の機会になる訳ですから、どの弁護人に選任するのかについて、十分に吟味される必要があると思います。控訴審においても同じなのですが、判決が宣告されてから上訴するまでの期間は厳格に定められており、その期間を経過してしまうと、原判決が確定してしまいます。
上訴の可能性がある場合には、控訴や上告の申立について、原審の弁護人に依頼して起き、期間が経過しても大丈夫な状況にした上で、どの弁護人を選任するかどうかについて検討していただければと思います。
5 まとめ

弁護士
岡本 裕明
以上のとおり、最高裁判所に原判決を破棄してもらうためには、相当に高いハードルが課せられています。個別の上告理由について触れることはできませんでしたが、量刑不当の主張に関しては、原判決の量刑が著しき正義に反すると判断されるケースは、ほとんどないようにも感じているところです。
一方で、再考裁判所が原判決を破棄する判決を宣告するケースは、実際に存在します。私達は、上告審についても多くの事件を手掛けておりますので、もしお悩みがあるようでしたら、御気軽にご相談ください。
上告審のハードルが高いことも理解した上で、御相談者様に悔いが残らないように適切にアドバイスをさせていただきます。
