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コラム

前回の法改正で新設された性犯罪「監護者性交」とは何か。

 平成29年7月13日に改正刑法が施行され性犯罪に関して110年振りとなる抜本的な改正が行われました。過去のコラムにおいて、性犯罪に関する規定の改正の際に議論された、「暴行・脅迫」の要件について解説させていただきましたので(こちらを御確認ください。)、今回は異なる点について解説させていただきます。
 性犯罪の改正に向けた動きが強まった一つの背景事情として性犯罪に関する裁判において無罪判決が続いたことがありましたが、令和2年4月23日に大阪高等裁判所は、また一つ性犯罪に関して無罪判決を宣告しました。 
 この判決は、交際相手の長女(当時11歳)に対する性的暴行に関する罪で、懲役5年の実刑判決を宣告されていた男性について、被害者である長女の証言の信用性を否定し、被告人に無罪を言い渡したもので、その事案の特殊性も相まって、大きく報道されました。 
 家庭内での性犯罪は大きな問題です。法務省内に設置された、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループが発表した、とりまとめ報告書の中でも、家庭内での性犯罪が大きな問題となっていることが指摘されています。 
 前回の法改正において監護性交の罪を新設した背景には、このような家族内での性犯罪に対応する目的があったものと理解されています。 
 今回の判決によって、家庭内での性犯罪についての捜査や裁判が非常に複雑な問題を有することが改めて確認されました。そこで、今回は、「監護者性交の罪」を中心に、家庭内での性犯罪について解説させていただきます。

監護者性交

条文の内容

 刑法179条は「監護者わいせつ及び監護者性交等」の罪について、強制性交等の罪と同じ刑を科す旨を定めています。具体的には、どのような行為を処罰しているのでしょうか。刑法は、次のように定めています。

刑法

第179条 1項 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第176条の例による。 2項 18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による。 第177条 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

 したがって、被害者を「現に監護する者」が、被害者と性交に及んだ場合、その性交が、「監護する者であることによる影響力があることに乗じて」行われたものである時は、監護者性交等の罪として処罰されることになるのです。 
 そして、監護者性交の罪は、177条の強制性交等の罪と同列に扱われる旨が定められています。つまり、上述したような態様で性行為に及ぶことは、「暴行又は脅迫」を用いて性交を無理強いするような行為と同等の悪質さを有しているものと評価しているものと言えます。

監護者性交の罪が新設された背景

 監護者性交の罪の条文の中には、被害者に対して暴行や脅迫に及ぶことが要件として定められていません。にもかかわらず、被害者に暴行を加えた上で性行為に及ぶような強制性交等の罪と同じ刑罰を科しているのは、監護者としての影響力に乗じるような場合も、暴行を加えられた場合と同程度に、被害者が加害者である監護者に対して反抗することが困難であるものと解されているからです。 
 名古屋地裁岡崎支判平成31年26も、家庭内での性交について無罪判決を宣告して大きな話題になりました。この事件が発生した当時は、監護者性交等の罪が設けられておりませんでしたので、現段階において同様の犯行が行われた場合には、監護者性交等の罪が適用されることになろうかと思います(岡崎支部の事件は、被害者の方の年齢との関係で、現行法においても監護者性交の罪は成立せず、この点についても現行法でも不十分なのではないかと議論はあります)。
 加害者が同居の監護者の場合、被害者は加害者に経済的に依存している場合が多く、将来的なことを考えた時に、暴行や脅迫行為が存在しなくても、心理的に抵抗が困難となることが想定されるのです。 

現に監護する者の影響力とは

現に監護する者 

 暴行又は脅迫が要件とならないため、行為自体は通常の性交と変わらない場合であっても、監護者性交の罪は成立し得ることになります。そこで、「現に監護する者」が、どのような者を意味しているのかが大きな問題となります。 この点について立法者は親子関係と同視し得る程度に居住場所生活費用人格形成等の生活全般にわたって依存・被依存の関係ないし保護・被保護の関係が認められかつその関係に継続性が認められることと解しています。
 そして、監護自体は法律上のものでなくても構わないとしているため、実際の親子関係がない場合であっても、同居した上で養育しているような環境にあれば、「現に監護する者」に該当することになります。ですから、交際相手の長女であっても、同居したうえで生活費を支出している等の事情が認められる場合には、監護者性交が成立する余地がわる訳です。
 逆に言うと、法律上の親子関係が認められる場合であっても、同居しておらず、実際に養育しているような関係にない場合には、「現に監護する者」にはあたらないことになります。

影響力

 次に、「影響力があることに乗じて」とは、どのような行為を指しているのでしょうか。 
 この点について立法者は、「現に監護する者」と認められる場合には、被害者に対する影響力が一般的には認められるため、そのような被害者と性交に及んだ場合には、影響力を示すような積極的な行為がなくても、「影響力があることに乗じて」行われた性交と認められるものと解しています。 
 したがって、この要件の持つ意味合いは大きなものではありません。 刑法は、18歳未満の者を「現に監護する者」に対して、被監護者と性交をしないように求めていると言っても過言ではないのです。 

被害者の同意

同意があっても監護者性交は成立する?

 強制性交等の罪は、被害者に対して暴行又は脅迫に及んだうえで性交等を行う罪です。暴行や脅迫をした上で性交等に応じるように迫る訳ですから、被害者が同意をする余地はないようにも思えますが、被害者の同意があった場合には、強制性交等の罪は生じません。強制性交等の罪が成立しない例として、SMプレイ等が考えられます。
 したがって、監護者性交においても、被害者の同意があれば、監護者性交の罪も成立しないと解する余地もあります。
 しかしながら、監護者性交の場合、被害者が監護者との性交等に応じることに同意していたとしても、それは監護者による影響力の下での同意であって、本当に性交等を望んでいたことを意味するものではありません。
 監護者との関係を維持するために仕方なく性交等を受け入れることも想定され、そのような態度を、「同意」として捉えて監護者性交等の罪の成立を否定したのでは、監護者性交等の罪を新設した意味がありません。
 したがって、監護者性交等の罪との関係では、性交等についての同意が認められたとしても、犯罪は成立するものと解されています。
 もっとも、監護者性交等の罪は、監護者がその影響力に乗じて性交等に及んだ場合に性交した場合に成立する罪です。そこで、被害者が、監護者の性交等を受け入れるだけでなく、積極的に好意を抱いており、交際関係にあること等がうかがわれる場合には、性交等が違法とならない余地はあります。
 しかしながら、家族内において、監護者と被監護者との間に恋愛感情が生じることは通常想定し難く、そのような主張によって無罪を得ることは極めて限られたケースになるものといえるでしょう。 

和姦の錯誤の主張が困難になる

 また、これまでの強制性交等の罪との関係においては、客観的には暴行又は脅迫による性交等と認められる場合であっても、加害者が和姦だと誤信していた場合には、強制性交等についての故意がないものとして、犯罪の成立が否定されてきました。
 この点についても、実際に被害者は強制性交等の被害にあっているにもかかわらず、加害者を罰せないという点で批判されてきました。
 しかしながら、上述したとおり、監護者性交との関係においては、被害者の同意があったとしても、直ちに監護者性交の罪の成立は否定されません。したがって、被害者が性交等について同意していたと加害者が誤信していたとしても、そのことによって直ちに加害者の故意が否定されることもなくなります。
 和姦だと誤信していたとの主張は、強制性交等の被疑者・被告人を弁護するにあたって、無罪主張の核となるケースが極めて多く、この主張が封じられることによって、無罪主張が極めて困難となるケースも多く想定されます。

監護者性交の事案についての弁護活動

 以上のとおり、監護者性交は強制性交等の罪や強制わいせつの事案と異なり、被害者に対する暴行や脅迫が認められない場合でも成立する犯罪です。性的な行為に及んでいない場合には、当然のことですが、性的な行為に及んでいないことを適切に主張する必要があります。この場合、被害者とされる方の供述と真っ向から相反することになりますから、その供述内容が不合理・不自然であることを示唆できる客観的な事実を、できる限り積み重ねる必要があるものと思われます。  
 一方で、「監護者」の範囲については、新設された条文でもあることから、実務上明確に定まっている訳ではありません。そして、性犯罪の規定については、現時点においても改正に向けて法務省内で議論がなされており、その範囲が拡大される可能性もあります。  
 法的に「監護者」に該当するかどうかはともかく、事実上、監護しているような関係性が認められる場合には、性行為に及ぶべきでないということは当然ですが、一種の閉ざされた社会の中で発生する犯罪であることから、冤罪であるにもかかわらず被害申告がなされた場合、無罪を勝ち取るハードルは通常よりも高いものとなることが予想されます。  
 逮捕・勾留された場合に、保釈を請求する際にどこで生活させることとするのか等についても、DV事件と同様に問題となり得ますし、家族に準じた関係性にあることが想像されることから、示談交渉についても、通常の事件とは異なる配慮が求められます。  
 以上のとおり、暴行や脅迫を伴う犯罪とは異なる検討事項が多く認められることから、その違いを十分に把握した上で弁護活動を行える刑事事件の弁護士が必要となります。

 

まとめ

 今回は監護者性交等の罪について解説させていただきました。監護者性交等の罪は、これまでの強制性交等の罪だけでは、適切に処罰することができなかった類型の性行為等に対応するために設けられたものです。 
 したがって、監護者性交等の罪によって訴追された方の弁護を行う場合には、強制性交等の罪と同じような弁護活動をしていたのでは、適切な弁護活動とならないケースが多くなるものと言えます。 
 新設された条文ですから、上述したような解説の内容について、最高裁判所の裁判例が確立している訳ではありません弁護人としては法解釈の部分を含めて十分な主張を行う必要があります。 弊所では、性犯罪改正についても研究を重ねており、その解釈論等についても事務所内部でも議論してきました。 
 監護者性交等の罪で捜査を受けている方等、お悩みの方は、是非、一度、私達に御相談いただければと思います。 

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