「盗撮罪」は存在しない!?再犯率の高い盗撮事件について詳しく解説!
※こちらの記事は令和5年の刑法改正前の罪名について解説したものになります。
スマートフォンや小型カメラが普及した後、盗撮事件は数多く発生しており、弊所でも多くのご相談をいただいております。 盗撮事犯が数多く発生していることを示す現象として、数年程前から、盗撮犯に対して、被害者とは無関係な第三者が被害者の知人を装い、捜査機関に告発しないことを条件に、慰謝料名目の金額(又は口止め料)を脅し取るという、所謂「盗撮ハンター」の存在も社会問題となりました。 盗撮と聞くと、特殊な性癖を持つ人間による犯罪だとの印象を抱くかもしれませんが、性的な欲求だけではなく、撮影行為時のスリルを感じることを目的とするなど、様々な動機に基づいて行われる可能性があり、決して異常者による特殊な犯罪ではありません。 また、スマートフォンさえあれば、犯行に及ぶことが可能です。一瞬の気の迷いで犯行に及んでしまうかもしれませんし、通勤中に携帯電話等を利用されている方には、冤罪として降りかかる可能性もあります。身近に存在する犯罪行為と言えるのです。 今回のコラムでは、盗撮行為について解説させていただきます。
目次
盗撮はどのような法律で規制されているのか
「盗撮罪」という罪はない
一般的に「盗撮」とは、被写体となった人物や、被写体となった物の所有者等の了承を得ることなく、密かに撮影することを意味します。ですが、我が国において、「盗撮」行為を一般的に規制している法律はありません。ですから、「盗撮」行為の全てが罪となるわけではないのです。 例えば、近所の方が飼っている犬を、飼い主の許可なく写真撮影した場合も、「盗撮」であることに変わりありませんが、このような行為に対して刑罰が科されることはありません。 どのような「盗撮」行為が、如何なる法律によって処罰されているのかを把握するには、「盗撮」行為を処罰している法律を、個別に検討する必要があります。 「盗撮」行為は、主として、軽犯罪法及び都道府県の迷惑行為防止条例が問題となりますので、これらの内容を確認してみましょう。
軽犯罪法
軽犯罪法第1条は、「左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。」として、同条23号において、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」と定めています。 したがって、「他人が通常衣服をつけないでいるような場所」を「のぞき見」る行為を、軽犯罪法は処罰していることとなります。 しかしながら、「拘留」は30日未満(刑法第16条)、「科料」は1万円未満(同法第17条)の刑罰ですから、軽犯罪法は非常に軽い刑罰を定めているものといえます。ちなみに、一般的な他の犯罪については、より長期間の身体拘束や金銭の支払いを科すために、「懲役刑」か「罰金刑」を定めています(道路交通法違反等、一部の犯罪については「禁固刑」も規定されております。これらの罪種については、別の機会に解説することにします)。 軽犯罪法が、極めて軽い刑罰を科している理由として、その行為態様が「のぞき見」という行為であり、スマートフォンやカメラなどを用いて映像や画像を記録することを想定していないことが挙げられます。被写体を撮影する行為は、当該映像や画像が残ってしまいますし、事後的にその画像や映像が流出する可能性もありますから、単に「のぞき見」る行為よりも、被写体に与える損害が大きいのです。 また、軽犯罪法自体が極めて古い法律であることも、刑罰が極めて軽いものとなっていることの原因として考えられます。
都道府県迷惑行為防止条例
上述したとおり、軽犯罪法は、「盗撮」行為ではなく、「のぞき見」を処罰する法律です。一般の方が、「盗撮」と聞いた時に想像する、 『駅等のエスカレーターや階段で、被害者の足元にスマートフォン等を差し 入れて、映像や画像を撮影する』といった典型的な「盗撮」行為は、軽犯罪法ではなく、都道府県の迷惑行為防止条例違反で処罰されています。 にもかかわらず、「盗撮」行為を処罰する法律として、軽犯罪法が列挙されていたのは、数年前まで、都道府県の迷惑行為防止条例の守備範囲が、極めて狭かったことが原因です。 数年前まで、多くの都道府県における迷惑行為防止条例は、「公共の場所・公共の乗物、公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室、公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所」で行われた行為にしか適用することができませんでした。 ですから、人の住居や、民間の施設内のトイレ等で行われた「盗撮」行為に対しては、「公共の場所」で行われたものではないことから、迷惑行為防止条例を適用することができなかったのです。 しかしながら、数年前に、多くの都道府県で、迷惑行為防止条例が改正され、公共の場所以外であっても、「住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所」で行われた「盗撮」であれば、当該条例を適用することができるようになりました。 迷惑行為防止条例は、都道府県によってその内容は微妙に異なりますが、多くの都道府県においては、「盗撮」行為に対して、「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」という刑罰を定めております。したがって、軽犯罪法と比較すると、重い刑罰が科されているものと言えます。 なお、埼玉県や神奈川県は、迷惑行為防止条例という名称ですが、東京都や千葉県は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例という名称が定められており、この点も、各都道府県において違いがみられます。
建造物侵入
上述した、都道府県の迷惑行為防止条例の改正に伴い、公共の場所以外の場所で行われた「盗撮」行為についても、迷惑行為防止条例を適用することができるようになりました。 しかし、改正前は、公共の場所以外で行われた「盗撮」行為に、当該条例を適用することができず、軽犯罪法も極めて軽い刑罰しか定めておりませんでしたので、公共の場所以外での「盗撮」行為を、建造物侵入として取り扱う例が散見されました。 建造物侵入は、刑法第130条で、3年以下の懲役または10万円以下の罰金という刑罰が科されておりますので、軽犯罪法よりも重い刑罰を科すことができます。 不法に建造物に侵入したことについての刑罰ですから、「盗撮」行為そのものに対する刑罰ではありませんが、商業施設や職場の更衣施設や便所にカメラを設置するような態様での「盗撮」行為には、不法に当該場所に侵入する行為も伴いますから、建造物侵入の罪にも問える訳です。 上述した迷惑行為防条令の改正後は、「盗撮」犯に対して建造物侵入の罪を適用するケースは見られなくなりましたが、「盗撮」行為自体を証明する証拠が存在しない場合等において、建造物侵入の罪が適用される余地は残されているものといえるでしょう。
盗撮事案における刑事手続
逮捕の可能性もある
一般的に「盗撮」事犯においては、在宅捜査によることが多く、被疑者を逮捕するケースは多くありません。それは、同種前科が多数認められるようなケースでなければ、直ちに刑務所に服役しなければならない程に重い刑罰が科されることは少なく、そのような刑罰を免れるために逃亡を図ることは考えにくいということに加え、痴漢と異なり、撮影に用いた器具等から、被疑者による犯行を証明することが容易であり、事後的に証拠隠滅を図ることが困難であるなどの理由があります。 しかしながら、例えば、勤務先の更衣施設等に小型カメラを設置するような態様での「盗撮」行為の場合、被疑者と被害者が同じ職場で勤務していることが想定され、被疑者が容易に被害者に接触可能であることなどを理由に、逮捕されるケースもあります。 「盗撮撮」で逮捕されることはないと軽信するべきではないのです。
明確な証拠が存在する
「盗撮」行為の際には、スマートフォンや小型カメラを用いて、被害者の下着等を撮影することになりますから、スマートフォン等の中に、その映像や画像が記録されている場合がほとんどです。 そのような記録が残されていた場合に、携帯電話のカメラ機能の誤作動によって、偶然、被害者の下着が撮影されてしまったと弁解するのは非常に困難です。 被害者の下着が映っていなかったとしても、太もも付近が映されていたり、地面が映されていたりした場合には、「盗撮」に及ぼうとしていたことを証明する明確な証拠となります。 一方で、そのような証拠がない場合であっても、被害者や目撃者の証言から、「盗撮」行為に及んでいたことが証明されてしまうケースもありますが、多くの場合は、撮影器具の中のデータをもとに、「盗撮犯」であることが証明されることになります。そして、そのような場合、無罪であることを主張することは非常に難しいものと言えます。
余罪が多く露見する
盗撮事犯が発覚する場合、被害者や目撃者に見つかった後、そのまま警察署に連行されるケースが多いです。そして、そのようなケースにおいては、そのまま携帯電話等、撮影の際に用いた機器も、押収されることになります。したがって、その日に撮影した他の映像や、別の日に撮影された記録が残されていた場合、それらについても、立件される可能性があります。 また、盗撮犯の中には、撮影した映像や画像を保存するために、携帯電話等からPCにデータを送るケースが多く見られます。そこで、PC等の提出を求められるケースも多いです。 そのような捜査によって、別の被害者が特定された場合、当該被害者との関係でも、示談が必要になります。
盗撮事案における弁護
示談
盗撮事犯においても、罪を認めている場合には、まずは被写体となった方との示談交渉が求められます。発覚した余罪の数等にもよりますが、前科等が認められない場合、示談を成立させることができれば、不起訴処分となることが多く、示談の成否は捜査段階の弁護活動において非常に重要になります。 示談交渉にあたっては、誰と示談交渉を行うのかという点も、検討する必要があります。というのも、例えば、検察官が、建造物侵入の罪で、被疑者の取調べを行っている場合、「盗撮」行為の被害者は被写体となった方でも、建造物侵入の被害者は、当該建造物の管理者になりますから、被写体の方と示談をまとめることができても、形式的には被害者との示談をまとめたことにはなりません。 通常の場合、建造物侵入の罪で取調べを受けている場合であっても、盗撮目的での侵入であり、被写体となった方が特定されているのであれば、その被写体の方が被害者であり、その方と示談をまとめることによって、不起訴処分を目指すことになります。 一方で、被写体となった方から、示談交渉を拒絶された場合には、建造物の管理者との間で示談交渉を行うことによっても、被害者との間で円満に示談が成立したとの評価は可能です。 事案毎に、建造物の管理者との示談交渉の必要性を検討する必要があるでしょう。
量刑
盗撮事犯の場合、初犯であり、かつ被害者の方と示談が成立すれば、不起訴処分を得られる可能性が高いです。もっとも、撮影の際に用いたスマートフォン等から、多数の余罪が発見され、その罪についても立件された場合には、初犯であっても略式罰金処分となることも多く認められます。 したがって、示談が成立した場合でも、不起訴処分になるものと甘く見ることはできません。 後述するように、盗撮事犯は、再犯率の極めて高い犯罪ですので、再犯可能性が小さいことについても、検察官に対してアピールする必要があります。 初犯でない場合には、前科の数や、前刑が科されてから再犯に至るまでの期間の短さや、余罪の数によって、公判請求がなされることもあります。 ですから、大犯罪とまでは評価できませんが、軽い刑罰しか科されないと考えるのは誤りです。
再犯防止
弁護人は、あくまでも依頼を受けた件について、できる限り軽い刑罰を求めることについて依頼を受けていますから、再犯防止については、一時的には被疑者本人やそのご家族によって、検討されるべき課題となります。 一方で、「盗撮」は痴漢と同様に、再犯率が極めて高い犯罪類型と言えます。個人的にも、盗撮行為のみで服役された方が、奥様に支えながら出所し、出所後、奥様と2人で順調に生活していたにもかかわらず、再度、盗撮行為に及び、再び刑務所に服役することになった事案を経験しました。 このようなケースの場合、被疑者の反省の情等が問題となっている訳ではなく、盗撮行為に依存してしまっているものと言えます。 すべての盗撮犯が盗撮行為に依存している訳ではありませんが、繰り返し盗撮行為を行ってしまう前に、盗撮行為に及んだ原因を究明して、依存している可能性がある場合には、性嗜好障害の専門家による治療等も含めて、専門家によるサポートを受けることも念頭において、サポートを続けるべきでしょう。 弁護人の関与の仕方として、例えば、一定の金額の預託を受け、カウンセリングを怠った場合には、その一部を贖罪寄付する等の形式をとり、通院を確保する方法等が考えられます。
まとめ
「盗撮」について、どの法律が適用されるのか。そして、その法律が適用された場合の法定刑等について解説させていただきました。 「盗撮」は、痴漢と同様に、御相談いただく回数が極めて多い犯罪類型になります。特に、性犯罪としての特質も有しており、そのような趣味・嗜好を有していることを家族に伝えることは考えにくく、御家族からご相談いただく際には、ほとんど全員が、「そのような事をするとは全く思っていなかった。」とお話されます。 「盗撮」は、異常な性癖を有する方のみが犯す犯罪ではなく、身近な犯罪であるという認識を持っていただければと思います。 また、初犯の場合には、示談の成否次第で、前科をつけることなく解決できる可能性があります。一方で、再犯率が極めて高い犯罪ですから、初犯時に、弁護人や家族が協力して、再に同じ過ちを犯すことのないように、指導・監督・サポートを行うことが極めて重要なものと言えます。 私達は、数多くの盗撮事犯について弁護活動を行ってきました。「盗撮」で御家族が逮捕されてしまった方、ひとりで悩まず、まずは御相談いただければと思います。
