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コラム

話題となっている検察庁法改正。いったい何が問題なのか。

 現在、Twitter等のSNSにおいて、「#検察庁法改正案に抗議します」というタグが付された投稿が目立ってきています。これまで政治的な発言が目立たなかった著名人の中にも、検察庁法改正について講義する内容の投稿をされる方が散見されており、多くの国民がこの問題に関心を抱いております。
 一方で、この問題については、三権分立という学生時代に勉強した基本的概念に加えて、黒川弘務検事正の定年延長の問題等も混在しており、問題の本質が極めて分かり難いものとなっています。
 私は、個人的にも今回の検察庁法改正案には賛成できません。代案の有無にかかわらず、悪いものについては反対の声をあげるべきだとは思いますから、今回のように多くの方が声を上げたことは嬉しく思っております。
 一方で、検察庁法等を含む検察官の人事に関する制度について、現在の制度が理想的かというと、必ずしもそういう訳ではありません。

そこで、これを機会に改めて多くの皆様に検察官の人事等の問題について理解していただくために、今回の検察庁法改正の内容等を中心に解説させていただこうと思います。

1.黒川弘務検事正の定年延長の問題

(1)原則として63歳で退官となること

 検察庁法改正の内容に踏み込む前に、今回の騒動の中では、黒川弘務検事正の定年延長の問題についても問題視されています。しかし、この問題は、今年の1月31日に閣議決定されており、既に黒川氏の定年は延長されているのです。
 黒川氏の定年延長については、法律を改正することなく行われているのです。
 まず、検察官の定年についての法律の定めを確認します。

国家公務員法

第81条の2  1項 職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の3月31日又は第55条第1項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日(以下「定年退職日」という。)に退職する。 2項 前項の定年は、年齢60年とする。ただし、次の各号に掲げる職員の定年は、当該各号に定める年齢とする。 1号 病院、療養所、診療所等で人事院規則で定めるものに勤務する医師及び歯科医師:年齢65年 3号 前2号に掲げる職員のほか、その職務と責任に特殊性があること又は欠員の補充が困難であることにより定年を年齢60年とすることが著しく不適当と認められる官職を占める職員で人事院規則で定めるもの:60年を超え、65年を超えない範囲内で人事院規則で定める年齢 附則第13条  一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則(人事院の所掌する事項以外の事項については、政令)を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第1条の精神に反するものであつてはならない。

検察庁法

第22条  検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。 第32条の2  この法律…第22…の規定は、国家公務員法附則第13条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。

 まず、国家公務員法は、国家公務員の定年を原則として60歳と定めています。そして例外的に、特例を要する場合には他の法律によって個別に定年を定めることを可能とする旨が規定されており、検察庁法は、その定めに基づいて、検察官の定年について、通常の国家公務員よりも高い63歳という年齢を定めているのです。

 黒川氏は、63歳の誕生日の前日である2020年2月7日に退官が予定されていたのです。

(2)国家公務員法81条の3に基づく勤務継続

 しかし、黒川氏の定年は延長されました。法律を改正することなく定年延長をすることができたのは、次の規定を用いたためと説明されています。

国家公務員法

第81条の3 1項 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。 2項 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、1年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して3年を超えることができない。

 このように、退職によって大きな影響がある場合には、例外的に定年を超えて勤務させることができる規定が存在するのです。黒川氏は、この規程によって、半年間勤務が延長されることになりました。

 このように考えると、法律に沿って(国家公務員法81条の3によって)勤務が延長されたに過ぎず、何も問題ないように聞こえるかもしれませんが、検察庁法の改正が問題となる前から、黒川氏の定年延長についても、非常に問題視されていました。
 それは、国家公務員法81条の3については、検察官に適用してはならない規定だと考えられていたからです。過去に政府自体もそのように理解していたこともあり、安倍首相は「国家公務員法の解釈を変更した」として、この矛盾を解決しようとしたのです。

(3)国家公務員法81条の3に基づく勤務継続

 政府が法解釈を変更して、このような手続をとること自体も問題ですが、それ以上に問題があったのは、安倍首相のいう国家公務員法の解釈が、法解釈として受け入れ難いものであったからです。

簡単に説明します。

国家公務員法81条の3は、「定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」の勤務の延長を認める規定です。つまり、国家公務員法81条の2によって、60歳となった後に迎える3月31日に退職することが見込まれている場合に適用されることが予定されているのです。
 しかしながら、黒川氏は60歳を超えています。黒川氏の定年は、国家公務員法81条の2によって定められたものではなく、検察庁法22条によって定められたものなのです。
 条文の文言上、「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」と明示されているにもかかわらず、他の法律によって退職すべきこととなる場合にも、当該規定を適用しようというのは、安倍首相の言うような法解釈の変更では不可能です。

2.検察庁法改正の問題

(1)黒川氏に対して行ったことを適法に行えるようにするもの

 以上のとおり、黒川氏の定年延長については、非常に大きな問題をはらむものでした。しかしながら、この問題については、既に法解釈を変更することで解決されており、政府としては新たに検察庁法を改正する必要はありません。

では、今回の検察庁法改正はどのようなものなのでしょうか。案文を確認してみましょう。

検察庁法改正案

第22条 1項 検察官は、年齢が65年に達した時に退官する。 4項 法務大臣は、次長検事及び検事長が年齢63年に達したときは、年齢が63年に達した日の翌日に検事に任命するものとする。 5項 内閣は、前項の規定にかかわらず、年齢が63年に達した次長検事又は検事長について、当該次長検事又は検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事又は検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事又は検事長が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事又は検事長に、当該検事長又は検事長が年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる。

 まず、これまで63歳だった検察官の定年を65歳と定めています。民間企業においても定年が引き上げられている状況を鑑みれば、この点については合理的な改正だと考えられます。
 そして、検事長等については63歳を定年として定め、63歳から65歳までの間は、平検事として勤務を続けられることになりました。
 問題は5項です。長い条文なので簡潔に説明すると、従前、国家公務員法81条の3で定めていた内容を、検察官にも適用できるように、同様の内容を検察庁法にも追加する内容となっているのです。
 したがって、今回の改正案が成立した場合、安倍首相が法律の解釈を変更することによって行った黒川氏の定年延長と同様の扱いを、法律に沿って適法に行えるようになるのです。
 もっとも注意していただきたいのは、黒川氏自身の定年延長は、今回の法改正とは無関係に行われており、今回の法改正が行われるかどうかに関わらず、既になされてしまっているという点です。

(2)検察官の独立性が弱められる

 不自然な法解釈を根拠として行われるよりも、適法に定年延長等が行われた方が好ましいことは明らかです。しっかりと法律で定めること自体は悪いことではないはずなのですが、何故ここまで問題となっているのでしょうか。
 語弊を恐れずに言うのであれば、検察官の定年延長についても、他の国家公務員と同様に取り扱おうというものです。検察官を特別扱いするというものではありません。

それでも、この点が問題となっているのは、検察官は、他の国家公務員とは異なる特殊な業務に従事しているため、特別扱いをする必要があると考えられているからです。
 検察官は首相を含む政治家等の刑事責任を問うことのできる唯一の期間です。警察官が如何にしっかり捜査を行ったとしても、検察官が起訴しなければ刑事裁判を受けることはありません。ですから、検察庁という組織が時の政権に阿るようなことがあれば、汚職等が蔓延ることになりかねません。
 ですから、他の国家公務員よりも強固に政府等からの独立性が担保されていなければならないのです。

この点について、これまでの検察庁法は、国家公務員法で定めているような定年延長の規定を設けず、一律に定年退官とすることによって、政権との癒着を防ぐことができていました。今回の改正案は、延長を認める事由についても「内閣が定める事由」とされており、安易な延長が認められる余地もあるのです。
 これらのことから、多くの方は、単なる国家公務員の定年延長に過ぎないものではないとして、「#検察庁法改正案に抗議」しているのです。

3.今後の問題点

 以上のとおり、今回の法改正は、黒川氏自身の定年延長に関する問題ではないものの、黒川氏の定年を延長した時と同様の問題を孕むものでした。

多くの方は、今回の法改正によって、政府による検察官人事への介入を懸念しています。実際に、黒川氏に対するものと同じような定年延長が安易になされるようなことがあれば、検察官が政府に忖度した上で勤務するような事態が現実のものになる危険性はあります。

一方で、延長の問題とは別に、そもそもの任命の問題も別個に存在します。

検察庁法

第15条 検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。

 つまり、現行法においても、検事総長等の任免は内閣が行うこととされているのです。一方で、実際の任命にあたっては、検察庁が作成した人事案を内閣が追認して行うことが慣例とされているようです。

定年延長によって、検察庁が考える人事が滞る可能性がありますから、今回の法改正は検察庁の独自の人事権を否定する効力も有しているものと言えます。
 一方で、このような重要な人事が慣例によって行われることについても大きな問題があるように思います。慣例のような不確かなものによるよりは、内閣に行わせた方がいいのではないかという考え方もあり得そうです。むしろ、国民が選挙によって選んだ議員からなる国会は、内閣に対して不信任決議によって退陣を求めることができるのであって、そのような内閣に人事権を与える方が、三権分立の趣旨に沿うとも言えるかもしれません。
 私自身は、内閣に人事権を完全に与えるべきだとは思いません。それは、既に述べた通り、検察官の独立性を維持することが困難となるからです。ではどのようにすべきなのかについて今は明確な考えに至っていません。
 今回の件は、多くの人が検察官の人事という、これまで注目されてこなかったトピックを考えるきっかけとなりました。より一層議論が深まることにつながることに期待しています。

4.まとめ

 今回は、黒川氏の定年延長と、それに続く検察庁法改正の内容について解説させていただきました。理想的な解決策については、私個人の考えとしてすら示すことができておりませんが、国民全体で議論する契機になればいいと思っております。
 しかしながら、今回の法改正については、国民の中で十分に議論がなされたとは到底思えません。特に、コロナウイルスによる混乱のさ中であり、最優先して議論すべき事項でもないように思います。
 安易な法改正がなされることのないように望む次第です。

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