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コラム

知らない間に罪を犯してしまった…法律を知らなかったと言い訳することは可能か

 先日、聞き馴染みのない法律に違反したとして書類送検されているニュースを目にしました。
 県知事に届け出ることなく、インターネット上で肥料を販売したとして、肥料取締法違反で7名の方が書類送検されたという事案です。
 報道によると、書類送検された全員の方が、「罪になるとは思わなかった」と供述しているようです。
 7名の方が販売していた肥料の内容について具体的なことは分かりませんが、報道された記事を読む中では、木材等を燃やした際に生じた草木灰等を販売していたようです。
 草木灰はカリウム成分等を多く含んでいることが多く、肥料として重宝されているようです。他方で、特に作物を育てるようなことをしていない方の場合、草木灰は木材等を焼却処分した後に残るゴミでしかありません。草木灰を肥料として利用することを望んでいる方に対して譲渡できた方が、資源の有効活用に繋がるものといえます。
 正直、弁護士として10年近く勤務している私でさえ、この肥料取締法という法律は知りませんでしたし、その法律が草木灰の売却を規制していることも知りませんでしたから、この法律の存在や内容を知らなかった方も多いように思います。
 殺人や強姦等の犯罪行為については、刑法を学んだことがない方であっても、その行為を行えば刑罰を科されることとなるということは理解できるはずです。一方で、今回のケースのような場合、法律を知らなければ、草木灰を売却する行為が犯罪であると理解することは困難なはずです。
 そこで、今回のコラムでは、本件のような事案において、法律の存在や内容を知らなかったことを理由に、犯罪の成否を争うことができるのかについて解説したいと思います。

目次

  • 肥料取締法違反について
  • 法の不知はこれを許さず
  • 違法性の認識
  • 法律を十分に認識できていなかった事案における弁護活動
  • まとめ

肥料取締法違反について

 今回の事案を確認するために、肥料取締法の内容を簡単に確認したいと思います。
 肥料取締法は、下記のように、肥料を業として販売する者は「販売業者」にあたり、都道府県知事への届出を求めています。そして、そのような届出を行わずに、肥料の販売業を営んだ場合には、1年以下の懲役刑等を科すこととしているのです。

肥料取締法

第1条  この法律は、肥料の品質等を保全し、その公正な取引と安全な施用を確保するため、肥料の規格及び施用基準の公定、登録、検査等を行い、もつて農業生産力の維持増進に寄与するとともに、国民の健康の保護に資することを目的とする。
第2条 1項 この法律において「肥料」とは、植物の栄養に供すること又は植物の栽培に資するため土じょうに化学的変化をもたらすことを目的として土地にほどこされる物及び植物の栄養に供することを目的として植物にほどこされる物をいう。
2項 この法律において「特殊肥料」とは、農林水産大臣の指定する米ぬか、たヽ いヽ肥その他の肥料をいい、「普通肥料」とは、特殊肥料以外の肥料をいう。
3項 この法律において「保証成分量」とは、生産業者、輸入業者又は販売業者が、その生産し、輸入し、又は販売する普通肥料につき、それが含有しているものとして保証する主成分(肥料の種別ごとに政令で定める主要な成分をいう。以下同じ。)の最小量を百分比で表わしたものをいう。
4項 この法律において「生産業者」とは、肥料の生産(配合、加工及び採取を含む。以下同じ。)を業とする者をいい、「輸入業者」とは、肥料の輸入を業とする者をいい、「販売業者」とは、肥料の販売を業とする者であつて生産業者及び輸入業者以外のものをいう。
第23条 1項 生産業者、輸入業者又は販売業者は、販売業務を行う事業場ごとに、当該事業場において販売業務を開始した後2週間以内に、次に掲げる事項をその所在地を管轄する都道府県知事に届け出なければならない。
第37条  次の各号のいずれかに該当する者は、1年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
1号 …第23条…の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者

法の不知はこれを許さず

 今回、書類送検された方の多くは、この法律自体を知らなかった方が多いように思います。ですから、自分自身の行っていることが、犯罪行為だと理解した上で、敢えて草木灰を販売して違法な利益をあげようという考えではなかったのではないでしょうか。つまり、肥料取締法の存在やその内容について理解しており、自身の行為が犯罪行為であると理解していれば、草木灰を販売するようなことはしていなかったのではないかと考えられます。
 自覚なく犯罪行為に及んでしまった方に対して刑罰を科すのは酷な気もしますが、この場合に無罪を主張することは可能なのでしょうか。
 この点については、有名な格言として、「法の不知はこれを許さず」というものがあります。また、我が国の刑法もその旨を条文として定めています。

刑法

第38条
1項 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
3項 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

違法性の認識

 したがって、肥料取締法の存在を知らなかったという主張は、今回の件で書類送検された方々の罪を否定するような主張にはならないこととなります。
 例えば、刑法を一切勉強したことのない被告人との関係で、法律についての知識がなかったことを理由に、「人を殺したら犯罪となるとは知らなかった」との言い訳が通用し、無罪となってしまうのは極めて不当です。法律の存在を知らなくても、悪いことをしていることについては十分に認識できているはずですから、一般的には「法の不知はこれを許さず」という原則は妥当なものとして理解されています。
 しかしながら、本件のような行政犯については、法律についての知識がなければ、悪いことをしているという認識がありません。このような認識がないような方に対して、刑罰という重大な制裁を科することは果たして妥当なのでしょうか。
 この点についても、やはり原則としては「法の不知はこれを許さず」という原則が妥当することになります。何らかの行為に出る以上、犯罪行為に及ぶことがないように、自分自身の行為に責任をもつ態度が求められるからです。
 一方で、自身の行為が犯罪行為ではないと考えることについて、何らかの真っ当な根拠がある場合にまで、刑罰を科してしまうと、国民の自由な活動が委縮してしまうことになります。ですから、犯罪行為に該当しないと考えることについて、強い理由がある場合には、例外的に犯罪の成立は否定されることになります。このような理由で犯罪の成立を否定する場合、「違法性の意識の可能性」がなかったと評価されます。
 しかしながら、「違法性の意識の可能性」が否定されるのは極めて限定的です。例えば、公的な機関の意見を信頼した場合(東京高判昭和55年9月26日)や、弁護士の意見を信頼した場合(大判昭和9年9月28日)については、いずれも裁判例によって、無罪の主張が排斥されているのです。

法律を十分に認識できていなかった事案における弁護活動

 以上のとおり、法律の不知は、犯罪の成立を否定する理由になりません。
 殺人や放火等について、法律で禁止されているとは知らなかったと主張する方はほとんど想定されません。一方で、国外で生活されてきた方の中には、大麻が違法だという認識をお持ちでない方はいらっしゃるかもしれません。しかし、日本での行動が問題となっている以上、大麻であることを正確に認識して大麻を所持していたのであれば、日本の法律を知らなくても、日本の法律によって刑罰が科されてしまうことになるのです。
 一方で、犯罪の成立を否定できない場合であっても、法律に違反することを十分に認識した上で、その法律に違反する行為に及ぶ場合と、法律を正確に認識できていない場合とでは、その悪質性に差があるように思われます。
 とはいえ、例えば行政からの許可を受けた上で何らかの業務に従事している人間が、十分に把握しているはずの業法を正確に認識できていなかったと主張する場合、問題となっている一つの行為だけでなく、常習的に法律に違反する形で業務に従事していたことを認めることになりますから、常に法律を知らなかったという言い分が罪を軽くすることにもならない訳です。
 特に、常習的に法律に違反しているとの疑いをかけられた場合、その分だけ逮捕の回数が増え、勾留期間が延びてしまう可能性すらあるのです。  
 そして、このような違反回数の問題は、起訴するかどうかや、最終的な判決の重さにも直接影響が及ぶ可能性が高く認められます。  
 したがって、十分に法律を把握できていなかった場合であっても、そのような主張を正面からするべきか、部分的にでも正確に把握していた事実を強調すべきかについては、刑事事件について十分な経験と知見を有する弁護士のアドバイスが必要となります。

まとめ

 以上のとおり、肥料取締法という極めてマイナーで、これまで話題になることが多くなかった法律であっても、その法律の存在や内容を知らずに活動してしまうと、刑事罰を科される可能性があるのです。何か新しいビジネス等を開始するにあたって、弁護士等の専門家のアドバイスが必要不可欠であることを御理解いただけたのではないかと思います。特に、そのアドバイスの内容が適切でなければ、弁護士の指導に従ったとしても、そのことは無罪を基礎づける事情とはならないことが多い訳ですから、弁護士のアドバイスを鵜呑みにするのではなく、疑問があれば何度も弁護士に質問して、納得のいく回答を得る必要があるでしょう。
 今回解説させていただいたようなテーマについては、犯罪行為を犯すつもりがなくても、いつの間にか犯罪行為に及んでしまっている可能性があるという点が非常に重要です。しかしながら、今回報道のあったケースについても、被疑者の方はいずれも逮捕されていないようですし、犯罪の成立を否定することができなくても、前科を付けないような弁護活動は十分に可能です。
 知らない内に犯罪行為に該当するような行為に及ぶことがないように、事前に御相談いただくのがベストではありますが、問題が発覚した後であっても、弁護士に相談するのに遅すぎるという事はありませんので、御気軽にご相談いただければと思います。

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