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コラム

子供が衰弱死してしまった悲惨な事件。どのような罪が成立するのか。

 悲しいニュースが報道されていました。長女を餓死させたとして、母親が保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕されたとのことです。定期的にこのようなニュースを耳にするようになってしまい、珍しい事件ではなくなってきてしまった印象さえあります。昨今では、児童相談所強化プランが策定される等、児童虐待の事案について、最悪の結果が生じる前に未然に防ぐための方策も整備されているのですが、なかなか虐待事案は少なくなりません。それは、児童虐待の事案等、家族間で生じる事件については(親密圏内事案とも呼称されます)、目撃者も存在しないケースが多く、事態が深刻になるまで捜査機関が捜査に着手する端緒が得られにくいからです。
 また、親密圏内事案においては、隣人等が子供の様子の異変に気付いたとしても、なかなか児童相談所や警察署に通報することは困難だということも指摘されています。都市群においては、近隣の付き合いが希薄になっていることが多く、逆恨みなどを懸念して通報を差し控えるようなことも珍しくないと考えられているからです。
 虐待事案の内、子供に対して何らかの暴行等を加え、怪我をさせたり死亡させたりした場合には、傷害罪や殺人罪が適用されることに問題はありません。しかしながら、今回のように子供を餓死させるようなケースの場合、暴力行為等の積極的な犯罪行為は行われていません(餓死させてしまうケースにおいては、暴行等も加えられているケースがほとんどかと思いますが、その暴行等は直接の死因になっていませんから、ここではおいておきます)。では、どのような犯罪が成立するのでしょうか。
 今回は、保護責任者遺棄致死という罪名で逮捕されているようです。この罪は、人を「遺棄」して死亡させた場合に成立することになるのですが、「遺棄」がどのような行為を意味するのかについて、その言葉だけからはイメージするのが難しいところです。
 また、保護責任者遺棄致死罪ではなく、殺人罪が適用されることも考えられます。実際に、我が子が餓死するまで食べ物を与えなかったような事案において、殺人罪が適用されることに違和感を抱く方は少ないように思います。しかしながら、典型的な殺人の事案のように、刃物で人体の枢要部を刺す等の殺人行為が行われていないにもかかわらず、殺人罪が成立するのはなぜなのでしょうか。
 今回のコラムでは、最近耳にすることが多くなった、虐待事案において成立する犯罪について解説したいと思います。

保護責任者遺棄について

 まずは、今回報道のあった事案において適用された、保護責任者遺棄致死の罪について確認したいと思います。保護責任者遺棄致死の罪は、刑法の「遺棄の罪」の中に定められています。

刑法

第217条
老年、幼年、身体障害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する。
第218条
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。
第219条
前2条の罪を犯し、よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。

 引用した条文の内、保護責任者遺棄の罪は、第218条に定められています。そして、条文に定められているように、この犯罪の客体となるのは、「老年者」や「幼年者」、「病者」等、保護が求められる方に限られます。健常者を「遺棄」しても、保護責任者遺棄の罪は成立しないのです。それは、保護が求められる方でなければ、「遺棄」しただけでは、その方の身体や生命に具体的な危険は生じないからと言えます。
 また、第218条は、「遺棄」した場合の他に、「生存に必要な保護をしなかったとき」にも、保護責任者遺棄致死の罪が成立する旨を定めています。この2つの概念はどのように違うのでしょうか。
 「遺棄」とは、保護が必要な方を保護のない状況に置くことと理解されています。極端な事例でいうと、病院における治療が必要な方を、病院から連れ去ってしまうようなケースが考えられます。また、被害者を移動させるようなケースだけではなく、被害者を置き去りにするようなケースも含まれます。幼い子供を残して長期間の旅行に行った結果、残された子供が衰弱死してしまったようなケースも「遺棄」にあたることになるのです。
 一方で、「生存に必要な保護をしなかった」とは、保護者と被保護者が同じ場所にいることを前提に、必要な保護を行わないような行為をいいます。報道された事件の詳細は把握できていませんが、もし一緒に住む中で子供が衰弱死していった場合には、こちらに該当することになるでしょう。

遺棄等の結果として人が亡くなった場合、殺人罪は成立しないのか

不作為の殺人罪も成立し得る

 さて、「遺棄」や「保護をしない」といった条文の文言の解釈は説明させていただきました。しかしながら、条文を確認していただくと、第219条は、保護責任者が保護を要する者を遺棄するなどした結果、その方が亡くなってしまった場合であっても、「傷害罪の罪と比較して、重い刑により処断する。」と定めています。
 つまり、自分の子供を「遺棄」した結果、子供が亡くなってしまった場合でも、そのような罪に対する刑罰の内容が「傷害罪」との比較になってしまうのです。人が亡くなっているにもかかわらず、「傷害罪の罪と比較」というのは刑罰が軽い印象があるように思いますが如何でしょうか。
 また、保護責任者遺棄致死の罪の法定刑は、3月以上5年以下の懲役と定められているところ、窃盗罪(第235条)の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですから、窃盗罪よりも軽い法定刑になっていると言えますし、傷害罪(刑法第204条)の法定刑は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」ですから、15年以上の懲役刑を宣告することはできません。
 この点、殺人罪(刑法第199条)は、「死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」を法定刑として定めていますし、傷害致死の罪(刑法第205条)は、「3年以上の有期懲役」として、有期懲役の上限を個別に限定していません(もっとも、刑法は第12条において有期懲役の上限を20年と定めています)。
 家庭内において、両親等の保護者が被疑者となっており、被害者の子供が亡くなってしまった保護責任者遺棄致死の事案と聞いた時、皆様は、どのような事案を想像するでしょうか。衰弱していく我が子を目の当たりにしつつも、何らの手当をすることなく放置し、結果として子供が衰弱死してしまうような凄惨な事案を想像するのではないかと思います。
 このような事案を想定した時、結果として人が亡くなっているにもかかわらず、殺人罪が適用されず、更に傷害致死の罪すらも適用されず、傷害罪と同程度の法定刑しか定められていない罪で処断されるのは不当だと思われるのではないでしょうか。
 この点、我が国の刑法は、そのような凄惨な事案の場合に、保護責任者遺棄致死にとどまらず、殺人罪を適用する余地を残しているのです。

不作為の殺人罪の成立要件

 しかしながら、殺人罪の条文には、保護責任者遺棄致死罪のように、「遺棄」や「生存に必要な保護をしなかったとき」等といった文言は定められていません。単に、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」(刑法第199条)と定められているに過ぎません。
 とはいえ、包丁で人の心臓を突き刺して殺害した場合であっても、衰弱していく我が子を放置して亡くならせる場合であっても、「人を殺した」と評価できる点は同じように思えますから、殺人罪を適用することは文言上可能そうです。
 一方で、子供を遺棄するようなケースの場合、その御両親は、子供が死んでしまうような暴行等に及んだわけではありませんから、殺人行為を行った訳ではありません。むしろ、必要な行為をしなかったことが問題となっている訳です。しかしながら、必要なことをしなかったことを理由に犯罪を成立させ、殺人罪を適用することとしてしまうと、亡くなってしまった方を助ける機会があった全ての方に殺人罪が成立することになってしまいます。
 そこで、そのように不当に処罰範囲が拡大することがないように、我が国においては、必要なことをしなかったことによって成立させる犯罪(不作為犯といいます)の成立範囲は限定して解釈されているのです。
 具体的には、必要なことをする義務が認められるような人が、その義務に違反したような場合にのみ、不作為犯は成立するものと考えられています。そして、そのような義務は、他に被害者となる方を助けることができる人がいないような場合で、被害者の方が保護を必要とする状況に陥ったことについて何らかの責任が認められる場合に発生するものと考えられています。
 例えば、家の中で育てられている子どもとの関係においては、両親以外にその子供を助けられる人間はいない訳ですし、親としての責任も認められます。また、全く異なる事例としては、他に通行人が通りかからないような時間帯や田舎道において、通行人を自動車で引いてしまった場合に、被害者の方がそのような怪我を負ったことについての責任もある訳ですから、その方を助けなければならない義務が認められることになる訳です。

保護責任者遺棄致死と不作為の殺人犯の区別

 以上のとおり、保護責任者遺棄致死の罪と、不作為の殺人罪は、極めて似た犯罪行為ということができます。
 先ほどの話を前提にすると、家の中で餓死しそうな子どもに何らの食物を与えずに衰弱死させてしまった場合に、保護責任者遺棄致死の罪が成立することに問題はないように思いますし、他に助けられる人もおらず、親としての責任がある以上、必要な義務を果たさなかったことを理由に、不作為の殺人罪も成立しそうです。
 そして、殺人罪が適用されるのか、保護責任者遺棄致死の罪が適用されるのかによって、刑罰の重さは大きく違いますから、いずれの犯罪が成立するのかについて、明確に区別されなければなりません。
 この点については、被害者となった子供が死んでしまうことについて、両親がどの程度認識していたかによって区別されています。子供が死んでしまうほど衰弱していると認識できていなかった場合には、保護責任者遺棄致死罪の成立にとどまりますし、子供が死んでしまうことを認識し、それでもかまわないと考えて放置していた場合には殺人罪が成立することになるのです。
 なかなか当人の立場にならないと理解しにくい心情なのかもしれませんが、同種の事案においては、そのように必要な保護を一切することなく、子供が亡くなってしまったにもかかわらず、亡くなってしまったことが分かった後、必死に延命措置をとったり、救急車を呼ぶ等しているケースが多く見られます。このような活動をしていた場合に殺人が一切認められなくなるわけではありませんが、それでも子供が死んでしまうことを十分に認識していなかったことを示唆する事実ではありますので、報道で知らされる事実だけをみると酷い親であるかのように見える事件においても、殺人罪ではなく保護責任者遺棄致死の罪で逮捕・起訴されるケースが多いのです。

まとめ

 今回は、子供が衰弱死してしまったという悲惨なニュースをもとに、不作為の殺人罪と保護責任者遺棄致死の罪について解説させていただきました。弁護人としては、このような事件を受任した場合には、そのような行為に至った背景を明らかにした上で、殺人罪ではなく保護責任者遺棄致死の罪が成立するにとどまることを主張することになるのだと思いますし、被告人が単に冷酷な人間であるというのではなく、子供を死なせてしまうに至った経緯等について裁判官や裁判員に理解させるための活動を行うことになるように思います。
 しかし、幼い命が失われてしまう事件は非常にいたましいものがあります。親密圏内事案については、加害者が周囲に助けを求めることができず、追い込まれてしまった結果、その矛先がさらに弱い立場にある被害者に向けられてしまうケースがほとんどです。
 このような事案をできる限り少なくするために、社会的なサポートの充実が望まれるところです。

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