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コラム

軽い気持ちで犯行予告を書き込んだ者の行く末

簡単に言うと…
  • 1.インターネット掲示板に芸能人の殺害予告の書込みをした者が、警察の捜査の対象となっているとの報道がされた。
  • 2.インターネット掲示板に殺害予告の書込みをすると、脅迫罪や業務妨害罪等に問われ得る。
  • 3. インターネット掲示板は、気軽に匿名で書込みができるからこそ、利用に注意しなければ、民事責任、刑事責任に問われることがある。
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 数か月おきに見掛ける内容の報道で、芸能人に対する加害予告に警察が動いているというものがあります。このコラムの執筆当時は、ある芸人やその家族を殺害する旨のインターネットでの書込みに対し、警察が捜査をしているという報道がなされていました 。

昔と違い、今は、芸能人に対する批評をSNSやインターネットの掲示板等で『気軽に』『匿名で』書き込むことができます。「あのコンビのネタは面白かった」、「あのツッコミは秀逸だった」などの賞賛する書込みもできる一方、ネタとは全く関係のない個人そのものを批判するような心無い書込みもできてしまいます。心無い書込みには、事実のものから虚偽のものまで様々です。そして、度を越した書込みをすると、民事上の法的措置にとどまらず、犯罪にも問われることがあるというのが、今回のテーマです。

1.脅迫罪

刑法

第222条(脅迫罪)
1項 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
2項 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

 インターネット掲示板に個人やその親族を加害する旨の書込みをした場合、脅迫罪に問われます。先ほどの芸人及びその家族への殺害予告を例に検討してみましょう。以下では、その芸人をVと呼称することにします。

「脅迫した」といえるためには、人を畏怖させる程度の害悪を告知する必要があります。一般的には、その判断基準は、脅迫された人が実際に畏怖したかどうかで判断されるのではなく、一般人からみて自分が同じ立場だったら畏怖してしまうかどうかで判断されます。

例えば、Aが、インターネット掲示板に「令和3年4月1日、Vの家に火薬2キログラムを搭載した爆弾を設置して、Vの家族共々殺してやる!」などと書き込み、Vがこの書込みを見たとします。Vがこの書込みを見て実際に畏怖したか否かが、「脅迫した」といえるかどうかの判断の基準になるわけではありません。この書込みが一般人からみて自分が同じ立場なら畏怖してしまう書込みといえるか否かで、「脅迫した」といえるかどうかの判断をします。この書込みは、一般人からみて自分が同じ立場なら畏怖してしまうと考えられます。そのため、「脅迫した」といえるでしょう。

また、この書込みは、V及びVの家族の生命、身体、財産への加害を内容としています。Aがわざわざインターネット掲示板に書込みをしているということは、自身の書込みでVを畏怖させることを分かった上でやっているといえそうです。

したがって、Aの書込みは脅迫罪に当たると考えられます。

2.業務妨害罪

刑法

第233条(信用毀損及び業務妨害)
・・・・・・偽計を用いて、・・・・・・その業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
第244条(威力業務妨害)
威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

 例えば、Aが、実際にはやるつもりはないのに、「Vの令和3年4月1日午後7時開始のライブをめちゃくちゃにしてやる。俺のナイフで血祭りにあげて、会場を笑いから絶望に変えてやる。」などとインターネットに書き込んだために、Vがお笑いライブを中止せざるを得ないと判断して会場の提供者に中止を申し入れたり、お笑いライブの開場時間を遅らせなければならなくなったりすると、Vが騙されたり、勘違いに陥ったりして(「偽計を用い」られ)業務を妨害されたと判断され、偽計業務妨害罪(刑法233条後段)に問われます。

Aの上記の書込みが現実味を帯びるものであり、会場を提供する者が警察の出動や警備員の増強などを行ったということになってくると、書込みによってVの意思が制圧され(「威力を用い」られ)業務を妨害されたと判断され、威力業務妨害罪(刑法234条)に問われます。

 

3.実際の事案

 裁判例(東京高判平成20年5月19日)では、とある評論家が講座を開催することになっていたところ、犯人が会場である教室に灯油を撒いて火を点ける旨の犯行予告をインターネット掲示板に書き込んだ結果、評論家がこれを閲覧して講座の中止を決定し、この旨会場に申し入れ、会場を提供するはずだった者も中止を決定し、会場となるはずの場所では警察官や警備員による警戒態勢の強化がなされたという事案について、書込みをした犯人に脅迫罪及び威力業務妨害罪が成立し、懲役1年(執行猶予4年)の刑を言い渡された事案があります。

 また、別の裁判例(東京高判平成21年3月12日)には、インターネット掲示板に、本当はやるつもりがないのに駅での無差別殺人予告を書き込み、警察官が出動したという事案について、この書込みをした者に偽計業務妨害罪が成立すると判断されています。この事案では、本来ならば出動する必要のなかった警察がインターネット掲示板のやるつもりもない書込みによって出動せざるを得なくなり、警察の本来的業務(捜査や取締りなど)を妨害したと判断されています。

 これらの事案からすれば、インターネット掲示板での書込みが与える影響は、書込みをされた者だけではなく、この者に関係する者(例えば、会場を提供するはずであった事業者)や警察にも及ぶことが分かります。

4.名誉毀損罪、侮辱罪

刑法

第230条(名誉毀損)
1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
第231条(侮辱)
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
第232条(親告罪)
1項 この章の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 脅迫罪や偽計業務妨害罪に当たる内容とはいえなくとも、書込内容によっては、別の罪に問われることがあります。

例えば、「Vは、妻帯者なのに複数人の女性と関係を持っている。」などと書き込み、Vの世間一般の評判が下がったと評価された場合、Vの捜査機関への被害申告があれば、名誉毀損罪(刑法230条1項、同232条1項)に問われます。そこまでの内容とはいえない場合でも、この書込みの内容が事実であるときは、侮辱罪(刑法231条、同232条1項)に問われることがあります。

名誉毀損罪や侮辱罪が成立するかどうかには様々な議論があるところですが、ここでは割愛致します。

5.犯罪予告事案における弁護活動

 以上のとおり、何らかの犯罪を予告した場合に成立する罪は、その内容等によって様々です。予告した内容通りの罪が成立すると決まっている訳でもないのです。  
 特に、名誉毀損や侮辱の罪との関係では、侮辱罪についての法改正がなされたばかりであり、その内容が大幅に変わったわけではないものの、捜査機関による運用が厳格化することは考えられ、安易に行った書き込みによって、逮捕、勾留されることになりかねませんし、懲役刑が科されることも考えられるのです。  
 匿名であることを前提に行ってきた活動が露見することによって、社会的な信用を失うことにもなりかねません。  
 したがって、この手の犯罪類型についての弁護活動については、速やかに行う必要があります。また、被害者と加害者との間で人間関係が存在しないケースが多い事も、犯罪予告に関する罪の特徴で、警察官による介入の前に、被害者との示談交渉を自力で成立させるということも困難です。そのためには、自らの犯行を被害者に自白した上で、自身の個人情報等も伝える必要があるからです。  
 このような活動を先行させるべきか、捜査機関への自首を先行させるべきか、初動についても事案毎の特性を考えて検討する必要があります。逮捕、勾留やその後の起訴等の手続を踏まえて、できる限り傷を浅くできるように、刑事事件の弁護士による弁護活動が求められることになります。

6.まとめ

 今回は、インターネット上で個人を加害する旨の書込みをすることが犯罪に繋がってしまうことを主としたコラムでした。

注目されたい、報復したい、興味本位だなど、書込みの動機は様々です。ただ、筆者は、自分の貴重な時間を掛けてまで他人を加害する旨の書込みをすることに何の意味があるのだろうかと思っています。今回は、加害予告を中心としていますが、同様のことは、冒頭にも述べた他人を誹謗中傷することにも言えます。人は心に傷を負いやすく、心に負った傷というのはなかなか消えるものではありません。何事も節度を持った利用を心掛けて欲しいものです。

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