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コラム

アルコール噴射による暴行罪の成否

簡単に言うと…
  • アルコール消毒液を他人に噴射したことで、暴行の疑いで被疑者を逮捕した旨の報道が為された。
  • 「暴行」の概念は条文によって異なり、暴行罪における「暴行」の概念は、幅広い行為を包含するもので、アルコール消毒液を噴射する行為も、「暴行」と評価されることはあり得る。
  • 同一の行為であっても、その行為が行われた状況次第で、暴行罪の成否を異にすることが考えられ、一律に判断することはできない。
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まん延防止等重点措置が全面的に解除されました。2か月半ぶりのことになります。年度末や年明けに自粛していた友人らとの会合も今後は再開することができそうです。
とはいえ、これまでも感染者数のリバウンドは何度も経験してきましたから、引続き、コロナウイルスの蔓延を防ぐ意識は高く持っていきたいと思います。
そのような中で、先日、すれ違いざまに、他人の顔面にアルコール消毒液を吹き付けた容疑で、被疑者を逮捕した旨の報道がなされていました。
報道によると、被疑者は、新型コロナウイルスへの感染を予防するためにした行為であって、故意にかけたわけではないとして容疑を否認しているようです。
個人的には、被疑者を逮捕する必要まであったのか疑問を感じておりますが、今回は、逮捕という点ではなく、このような行為がどのような罪になるのかについて解説したいと思います。

暴行罪

刑法上の定め

報道によると、捜査機関は被疑者を暴行の容疑で逮捕したとのことです。そこで、刑法が暴行罪についてどのように定めているのかについて確認してみましょう。

刑法

(暴行)
第208条
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

「傷害するに至らなかったとき」と定められているのは、人の身体を傷害した場合には、刑法204条の傷害罪が成立するからです。
そうすると、結局、刑法は「暴行を加えた」場合に暴行罪が成立するとしか定めておらず、どのような行為が「暴行」にあたるのかについては、「暴行」という文言の解釈に委ねられているものといえます。
そして、「暴行」という文言の解釈は、刑法という法律を学ぶにあたって、なかなか厄介な問題を孕んでいます。それは、「暴行」という文言は、暴行罪だけでなく、様々な犯罪に用いられているからです。

刑法

(公務執行妨害及び職務強要)
第95条1項
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
(強制性交等)
第177条
 13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。13歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

他にも、236条が定める強盗罪等において、「暴行」という単語が用いられているのですが、犯罪によって「暴行」という文言の解釈を異にするのです。
例えば、177条が定める強制性交等の罪の成立に必要な「暴行」とは、その暴行に対して抵抗することが極めて難しいような激しいものでなければ、「暴行」にはあたらないと解釈されているのです。

暴行罪における暴行とは

抵抗することが困難とは言えない程度の強度であっても、他人から殴られたにもかかわらず、「暴行」にあたらないため犯罪にならないという結論がおかしいことは分かると思います。
ですから、暴行罪における暴行は、強制性交等の罪において求められる「暴行」のように重大なものでなくてもよく、「人の身体に対する有形力の行使」であれば、「暴行」に当たると解釈されているのです。
「有形力の行使」というと小難しく聞こえますが、相手の身体に接触するような行為のことだと理解していただければと思います。殴る、蹴る、押す、掴む等の行為は、全て暴行罪における暴行と理解することができるのです。
また、傷害を生じさせそうな行為である必要もありません。ですから、馬乗りになるような行為、口をふさぐような行為も、暴行罪が成立することになります。
当然ですが、相手に接触するものが自分の身体である必要はありません。金属バットで他人を殴った場合に、自身の身体は相手の身体に接触していませんが、金属バットが相手の身体に接触している訳ですから、当然に暴行にあたることになるのです。

接触を伴わない暴行

裁判例

では、他人の身体に何かが接触していなければ、暴行にはあたらないということになるのでしょうか。実は、他人の体への接触も必須の要件ではありません。
例えば、石を他人に向けて投げつけた場合に、その石が他人にあたらなくても暴行罪は成立することになります。石を投げるという行為が暴行ですから、その石が他人にあたろうとあたるまいと暴行罪は成立するのです。未遂ではなく既遂の罪が成立することに注意してください。
古い裁判例ばかりですが、人の近くに投石した事例として東京高裁昭和25年6月10日判決、驚かせるために椅子を投げつけた事例として仙台高裁昭和30年12月8日判決、日本刀の抜き身を他人の近くで振り回した事例として最高裁昭和39年1月28日決定等があります。

限界事例

では、石を投げたら全て暴行罪になるのでしょうか。
暴行罪は他人に向けられた有形力の行使を問題としている訳ですから、石を投げる行為の全てが暴行になる訳ではありません。子供の頃に川辺で水切り遊びをした経験がある方は多いように思いますが、石を投げる先に人がいなければ、投石行為が暴行になる訳ではないのです。
そうすると、投げた石の近くに人が存在するかどうかが問題となることになります。どれだけ離れていれば暴行にあたらなくなるかは、ケースバイケースではあります。また、投石の強度も問題となります。車内の人に対して石を投げつける行為について、東京高裁昭和30年4月9日判決は暴行に該当する旨を判示していますが、その際に投石によって窓ガラスが破壊されている事実も認定しています。窓ガラスが破損するような強度の投石でなければ、車内の人に石がぶつかる可能性はない訳ですから、投石の強度が弱ければ暴行として認定されなかった可能性が残ります。
ですから、暴行にあたるかどうかは極めて難しい判断となります。

本件における暴行罪の成否

塩を振りかけた裁判例

他人の身体に向けられていれば、接触は絶対的な要件でもなく、そのような行為によって傷害が生じる可能性も必要ではないとすれば、刑法208条の定める「暴行」とは、思った以上に幅の広い概念だということができそうです。
それでも、他人の顔面にアルコール消毒液を噴射する行為について、暴行罪を成立させることに躊躇を感じるのは、典型的な殴打等の暴行と大きくその態様を異にするからなのだと思います。
ちなみに、食塩を他人の顔に振りかける行為について、福岡高裁昭和46年10月11日判決は、暴行罪の成立を認めていますが、その理由について次のように説明しています。
まず、「相手方において受忍すべきいわれのない、単に不快嫌悪の情を催させる行為といえどもこれに該当するものと解すべきである」と判示した上で、塩を振りかけられることによって、不快嫌悪の情は生じ得るし、これを受忍すべきいわれがないことも明らかであるとしています。
そして、「ふりかけられた食塩の…一部は頭髪内や着衣の内側等に残留し、そのため多少の肉体的生理的苦痛、ならびに少なからぬ不快嫌悪等の心理的苦痛を受けたこと」が認められると説明しています。
最後に、「『お清め』の慣習があることは公知の事実であろうが…腹立ちまぎれに塩をふりかけたものである以上、もはや慣習に従ったものとも、あるいは暴行の犯意がなかったものともいうことができない」として暴行罪の成立を認めています。

アルコール消毒液の噴射

アルコール消毒液による消毒行為は、コロナウイルスが蔓延している社会情勢下に鑑みれば、必要性が一切認められない行為とは言えなさそうです。
そこで、何らかの施設の入り口において、他人の手指に対して噴射する行為であれば、相手方の同意なくして噴射した場合であっても、暴行にはあたらないように思います(それでも、許可なく突然アルコール消毒液を噴射させるべきでないことは明らかでしょう)。
しかし、本件では、路上で通行人に対してすれちがいざまに噴射したということですから、不快嫌悪の感情を生じさせるでしょうし、アルコール消毒液の噴射を受忍すべき状況でもないことは明らかです。
塩と違って、噴射後は揮発等によって後に残ることはなさそうですが、そのことによって不快嫌悪の感情が生じないということではないでしょうから、暴行にあたらないとするのは難しいように思います。
報道によると、被害者に対してではなく、被害者と自分の間の空間に噴射したというようですが、被害者に消毒液がかかっている以上、暴行が成立することになりそうです。逆に、被害者との間に大きな距離があった場合には、暴行と評価することは困難になるでしょう。

典型的な暴力行為ではない暴行罪における弁護活動

 他人を殴ったり蹴ったりすれば暴行罪が成立することは当然ですし、その結果として、被害者が傷害を負った場合には、傷害罪が成立します。しかし、上述したとおり、そのような典型的な暴行ではなくても犯罪が成立してしまう可能性はあるのです。  
 そして、今回報道されている事案についても、被害者の方に大けがを負わせるような可能性が高い行為ではないように思えますが、被疑者の方は逮捕されているようです。勾留されている可能性も高いものと思われます。  
 通常の暴行事案の場合、何の理由もなく他人に暴行を加えることは考えられませんから、経緯が問題となります。暴行罪という罪も、逮捕、勾留される可能性のある罪ですが、その目的如何によっては強盗未遂や強制性交等未遂など、より重い犯罪が成立する可能性があり、そのような事態を防ぐためにも、刑事事件の弁護士は不起訴処分等、できる限り軽い処分を求めて活動を行うにあたって、暴行に及んだ経緯について理解する必要があります。  
 そして、今回のような典型的な暴行ではない暴行罪については、暴行罪自体の成否を争うことも考えられます。投石の事案を参考に、限界事例について簡単に説明させていただきましたが、基本的には傷害の生じる可能性のある行為を暴行として捉えていますから、傷害の生じる可能性が一切ないことや、正当な目的の下の行為であったことなどの主張が考えられますし、アルコール剤の噴射のように本質的には暴行ではない行為については、その故意等も問題にすることが考えられます。

まとめ

今回のコラムでは、アルコール消毒液を他人に噴射させる行為に暴行罪を成立させることができるかについて解説しました。
「暴行」とは幅の広い概念ですから、一律に暴行罪の成否について結論を出すことは難しく、そのような行為が行われた状況を詳細に認定する必要があります。同様の事例で警察官から取調べを受けることになるような方は多くないようにも思いますが、単純な事案であっても、法的には様々な事情を考慮して検討する必要がある場合もありますので、お悩みの方は専門家への相談を強くお勧めいたします。

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