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コラム

一般人による盗撮犯の取締り?改めて私人逮捕の問題について

簡単に言うと…
  • 盗撮犯等を私人逮捕する様子を撮影した動画が多く投稿されている。
  • 逮捕できないケースにおける誤認逮捕の可能性や、逮捕者が逆に被疑者となってしまう危険性がある。
  • 犯罪を現認した場合に私人逮捕を試みること自体は構わないものの、一般人が犯罪を取締るような行為に及ぶことは控えるべき。
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 テレビ離れが叫ばれている昨今ではありますが、私もYoutubeを視聴する機会が非常に増えてきました。その中で、最近「世直し系Youtuber」という単語をはじめて耳にしました。
 「世直し系Youtuber」に定義はないでしょうし、特に自称されている訳でもないのかもしれませんが、それらしき内容をいくつか視聴することができました。投稿されていた動画の概要は、犯罪行為を現認した後で、犯行に及んだ者に声をかけ、警察官に引き渡すまでが撮影された内容でした。
 動画そのものは非常にスリリングな内容で、多くの視聴者を獲得できている理由も理解できるものではありました。
 しかし、投稿された動画の中には、撮影者が被疑者と思われる者を抑え付けるなど、過度な暴行に及んでいると思われるようなものもありました。
 私は、過去に捜査機関以外の一般人でも、犯人を逮捕することが可能であることについて解説する記事を書いたことがあります(こちら を御確認ください)。
 この記事は、ビラを配布していた高校生を学校の先生が逮捕したという報道を契機に作成されたものでしたから、逮捕者がその様子を動画投稿していたような事案とは異なります。
 動画を投稿する目的は、多くの視聴者に閲覧してもらうことにあるでしょうから、動画として見ごたえのある内容にしなければなりません。見ごたえを重視し過ぎた結果として、私人逮捕として正当化できないような行為に至ってしまう危険性が懸念されるのです。
 そこで、このような私人逮捕について、どのような問題があり得るのかについて、改めて解説させていただこうと思います。

1.私人逮捕の条文

 
 犯罪行為を現認した場合であっても、犯罪行為を目撃した方が犯罪捜査を行える訳ではありません。犯罪行為を現認した後、犯人を問い詰めた上で、事件解決のために示談金等を支払うように求めてしまうと、逆にそのような行為に及んだ側が、恐喝罪(刑法第249条1項)の容疑をかけられてしまいかねません。所謂「盗撮ハンター」と呼ばれる行為で、実際に恐喝の容疑で逮捕された事案なども報道されています。
 つまり、捜査は捜査機関にしか許されておらず、捜査機関以外の一般人は、犯罪行為を現認した場合、犯人を逮捕することのみが許されている訳です。

刑事訴訟法

第212条1項
現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
第213条
現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

 法律は、「何人でも」現行犯人であれば逮捕できると定めることによって、捜査機関以外の一般人にも、犯人を逮捕することを認めているのです。

2.逮捕の対象

 
 条文においても明らかなように、捜査機関以外の一般人でも逮捕することが許されているのは、「現行犯人」に限られます。
 これは、「現行犯人」であれば、捜査のプロである捜査機関以外の一般人で逮捕させることを許しても、何らかの犯罪行為に及んだ人間であることは明らかであることから、誤認逮捕を犯してしまう危険性が低いであろうことや、犯行現場から犯人を逃がしてしまった場合、犯人を特定することが困難となる可能性があることなどを理由とするものです。
 どのような場合に、犯人は「現行犯人」といえるのでしょうか。

刑事訴訟法

第212条2項
左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
1号 犯人として追呼されているとき。
2号 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
3号 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
4号 誰何されて逃走しようとするとき。

 犯罪行為を目撃されていた場合に、犯人が「現行犯人」にあたることはイメージしやすいと思います。そのような場合に加えて、犯罪が行われた直後に、その人が犯人であることが明白であるような、第212条2項各号に該当するような事情が認められる場合も、「現行犯人」に準じて扱うこととされているのです(準現行犯人と呼ばれています)。
 例えば、傷害事件が発生した直後に、被害者を怪我させたであろう凶器を所持している人物や、被害者の返り血に染まった服を着ている人物などが、準現行犯として扱われることになるでしょう。

3.私人逮捕の対象とされる罪名

 
 刑事訴訟法は、私人逮捕が可能な罪名を制限していません。ですから、「現行犯人」だと認められさえすれば、どのような犯罪でも私人逮捕することは可能になります。
 とは言え、「現行犯人」として認められ易い犯罪や、認められ難い犯罪はあります。
 Youtubeに投稿されている動画を確認すると、圧倒的に盗撮に及んだ犯人が対象となっているようです。盗撮犯は、公の場所で犯罪行為に及ぶ訳ですし、盗撮に及ぶ際にはスマートフォン等の機器を、被写体となる被害者の方の下着付近に差し向けることになる訳ですから、犯罪行為を現認し易い類型といえそうです。同様に、万引き犯等についても、商品の代金を支払うことなく建物の外に出た場合には、犯罪行為を現認することになるでしょうから、「現行犯人」として逮捕し易い類型といえるでしょう。
 逆に、不同意性交等のように密室で行われることが多い犯罪については、「現行犯人」として逮捕できる機会がほとんどないように思われますし、文書偽造等のように、一見して明らかに文書を偽造しているのか判別できず、犯罪行為なのか判断し難い事案についても、「現行犯人」として逮捕することは難しいといえるでしょう。

4.現行犯逮捕が可能かどうかの判断の難しさ

  
 では、盗撮犯のように、犯罪行為に及んでいることを現認できる犯罪であれば、私人逮捕することに問題はないのでしょうか。
 一つの問題点として、プロの捜査官であればともかく、一般の方が正確に盗撮行為に及んでいるかどうかを判別できるのかという点があります。盗撮の方法にもよるのかもしれませんが、駅の構内や階段・エスカレーター等において、スマートフォンを操作しながら移動している方は珍しくありません。移動の過程で、携帯電話が偶々被害者の方のスカート等の近くに向けられてしまう可能性も否定できない訳ですから、誤認逮捕の可能性は残ってしまうのです。
 また、逮捕の必要性という点もあります。
 捜査機関による捜査によって、犯罪行為に及んでいたことが明らかとなった場合においても、そのような犯罪行為に及んだ人間を、捜査機関が必ず逮捕する訳ではありません。

刑事訴訟規則

(明らかに逮捕の必要がない場合)

第143条の3
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

 上述の規則は、裁判官が逮捕状を発するかどうかに関する規則ですが、現行犯逮捕の場合においては、逮捕の必要がない場合でも逮捕することができると考えるのは不自然ですから、現行犯逮捕の場合でも、逮捕の必要性がなければ、逮捕することは許されないと解されています。
 現行犯逮捕の場合、その場で逮捕しなければ、被疑者が逃走してしまう危険性もあることから、原則的に逮捕の必要性はあるものと理解されているところではありますが、例外的に逮捕の必要性が否定される事案かどうかについて、一般の方が判断することは極めて困難でしょう。

5.逮捕者が犯罪者になってしまう可能性

 
 積極的に「現行犯人」を探し出し、私人逮捕等の一連の様子を動画として投稿する行為には、犯罪者の逃げ得を防ぎ、犯罪を抑止するという効果も一定程度認められると思います。
 しかし、私は積極的にそのような行為を支持することができません。
 その理由の一つが、これまで御説明させていただいた誤認逮捕の危険性です。
 そして、もう一つの理由が、そもそも「逮捕」という行為は犯罪行為であるという点です。

刑法

(逮捕及び監禁)

第220条
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

 犯人を逮捕するために行われる行為は「不法」なものではありません。とはいえ、「不法」な逮捕も「不法」ではない逮捕も、言動としては同じ内容です。そして、「不法」かどうかの判断は簡単なものではないのです。
 例えば、東京高等裁判所昭和51年11月8日判決は、市議会議員であった被告人が、立川市役所に押掛けた学生が立看板を破壊したことから、同人を逮捕しようとした際に暴行を加えてしまったという事案において、被告人の行為を適法な現行犯逮捕の行為と認め、無罪を言い渡した事案です。
 しかしながら、同裁判の第一審である東京地方裁判所八王子支部昭和50年6月2日判決は、「立看板破壊行為に憤激し、これに報復すべく本件争闘行為にでたものと認むべく、現行犯人逮捕行為または正当防衛行為とは認め難(い)」と判示して、被告人を有罪としているのです。
 犯人を逮捕しようとする場合、逃亡を試みる犯人との間で揉み合いになることは十分に考えられます。その際に、一切の暴力的行為が許されない訳ではありません。しかし、そのような行為が、現行犯逮捕に伴う行為であったのか、憤激したことに伴う報復的な行為であったのかを区別することは非常に困難です。
 社会正義の実現のために、犯罪者を逮捕しようとしていたにもかかわらず、逆に自分が犯罪者になってしまう可能性が十分にある行為なのです。

6.私人逮捕と弁護活動

 
 刑事事件の弁護士が、私人逮捕が問題となる事件に関わる場合、そのかかわり方は2通りあるように思われます。
 まずは、私人逮捕されてしまった被疑者の弁護を行う場合です。このような場合、捜査機関が逮捕した場合と比較して、一般人が被疑者を逮捕している訳ですから、逮捕の要件が満たされているのかについて、十分に精査する必要があります。逮捕の要件が充足されていないおそれがある場合には、そのことを見逃すことなく早期の釈放を求める必要がある訳です。
 逆に、私人逮捕に及ぼうとした結果、逮捕者が逆に逮捕、暴行、傷害等の容疑で被疑者となってしまう場合も考えられます。そのような場合には、現行犯逮捕に伴う行為であって、不法な行為ではないということを具体的に主張することになるでしょう。
 いずれのケースにおいても、どのような活動が求められるかはケースバイケースです。具体的な弁護方針を早期に定めるためにも、できる限り早い段階で刑事事件の弁護士に御相談いただきたいと思います。

7.まとめ

 
 以上のとおり、私人逮捕に伴う一連の流れを迫力のある映像で視聴できる動画に一定の魅力があることは否定できませんが、個人的にはこのような動画は流行すべきではないと感じています。
 それは、弊所が刑事弁護の事務所であり、逮捕される側を弁護する活動を行っているからという側面があることも否定できません。
 とはいえ、それだけではなく、上述したとおり、逮捕者側が犯罪者として扱われる可能性も十分に認められるからということも一つの理由です。
 犯罪を目撃した場合に、捜査機関の到着を待っていたのでは犯人が逃げてしまうという局面において、私人逮捕等の犯人をとり逃さないような措置をとること自体は好ましいことだと思います。しかし、捜査機関以外の方が犯罪の取り締まりを目的として活動することは差し控えるべきだと思っております。

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